ゴジラVSガイガン2019   作:マイケル社長

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ー混乱ー

・6月5日 火曜日 14:13 神奈川県横浜市 神奈川県庁庁舎

 

 

『県民にどう説明すっぺって話だぞ!』

 

画面の向こうから、泉崎茨城県知事の怒声がこだまする。相手もスカイプを利用しているというのに、さらに画面を経た八田部にも聞こえるくらいの声で、さきほどからまくし立てている。

 

『うちの百里の基地にも海上保安本部にも聞いたがなあ、ちっとも要領得ねぇこどばーりしゃべんだ!』

 

泉崎はよほど興奮しているのか、地元言葉を隠そうともしなかった。

 

『やはりゴジラは、こちらの探知能力を上回る行動が可能ということ、でしょうか』

 

苦々しげに、画面先の町田が顔を上げた。一時間前にゴジラが茨城に上陸して以降、泉崎を筆頭に『自衛隊は何をやっていたんだ!』と責められ続けていた。

 

『事実上、疑いようがありません』

 

怒気を帯びる空気の中、説明に招かれた尾形は努めて冷静に答えた。

 

『先生なあ、おめぇさんゴジラは夜行性だって論文で発表していねがったか!?』

 

泉崎は怒りの矛先を、尾形に向けてきた。

 

『あれは過去、ゴジラが夜間に出現したケースばかりだったという事実に基づいて対策を講じたに過ぎず、夜行性と断じたわけではありません。今回はゴジラが白昼の日本本土に、初めて上陸したケースです。さらなる研究の余地があります』

 

『ほだごどおめぇ、研究してる間に日本焼かれっちまうべ!』

 

泉崎の剣幕に、尾形はそれ以上反論するのをやめ、目をつむった。

 

しばし画面向こうの騒ぎに注目していた八田部に、清水が寄ってきた。

 

「横須賀からです。準備が整い次第、実行に移すそうです」

 

黙ったまま頷くと、八田部はスカイプに向かって話した。

 

「失礼、たったいま横須賀の海上自衛隊総監部より通達がありました。ゴジラの南下を受け、観音崎から館山までの東京湾上に護衛艦隊を展開、ゴジラの行動を警戒するとのことです」

 

大阪の知事たちが一斉にこちらを向いたのがわかった。

 

「これはゴジラの首都侵入を防衛、警戒のための行動であり、出動及び作戦展開の根拠として、海上警備行動を適用するとのことです」

 

『それじゃ海上封鎖じゃないか』

 

原田が身を乗り出した。

 

『日本経済の生命線がまたひとつ、絶たれたな』

 

対して小林は皮肉っぽく、背もたれたままだった。

 

「残念ながら、すでに絶たれた状況です。東京の海運は事実上不可能、横浜港も今朝から機能を完全に停止しています。従って湾内の航行船舶は存在していません。こちらとしては、なにを今さら、といったところです」

 

『ちょっと待ってください、千葉と木更津は港湾機能を停止したとはきいていませんよ』

 

「会田さん、一度そちらの県庁に問い合わせてごらんなさい。港湾の閉鎖は湾内全域に及んでいるのですよ」

 

それを聞いた会田は、唖然とした表情を浮かべたまま、自身の携帯電話を取り出してどこかへ連絡を取り始めた。

 

会田自身の性格もあるが、やはり中央政府の機能が失われたことによる情報伝達の阻害が影響する部分が大きい。増してや、会田は地元ではなく大阪にいるのだ。

 

『しかし、東京に上陸するとも限らないのでは・・・』

 

侭田が手を挙げて発言する。

 

「たしかに。ですが、現状はどうあれ、自衛隊は平常通り首都防衛を最優先する構えのようです。それに、もしこのまま都内の連絡網が寸断された状態で、ゴジラが東京に上陸した場合、どうなるか・・・」

 

『どうなりますか?・・・あ、いや。これは大変なことだな・・・』

 

『侭田会長、ひとりで納得しないでもらいたい』

 

小林の苦言を受けて、侭田は全員に向き直った。

 

『だって考えてみてください。たとえば台風なんかは、事前にある程度進行方向の予測が可能で、直撃する地域には警報、避難の呼びかけをします。ゴジラについても同様だとして、ゴジラが来るから避難を呼びかけますね。いまの東京で、どうやって・・・』

 

『そんなもの、全国瞬時警報システムがあるじゃないか。なんのために防災無線・・・』

 

全員に視線を向けられた小林が押し黙った。

 

「ゴジラが来るとわからないまま、ゴジラが東京に上陸した場合、避難準備すらできていない都民はどうなりますか?」

 

八田部のダメ押しで、しばし沈黙が訪れた後、『自衛隊は、ゴジラを阻止できるんでしょうか?』と会田がつぶやいた。

 

『あくまで海自の事案なので専門外ですが、横須賀の艦隊をすべて動員し、観音崎から安房までのおよそ10キロの海上に展開したと仮定すると、東京湾の水深から考えても、接近するゴジラを漏らすなどということは考え難いですね』

 

町田が答えた。

 

『レーダーに探知されないんじゃないのか?』

 

すかさず、小林が突っ込む。

 

『たしかに、レーダーには探知されなくとも、ソナーや潜水カメラ等を用いれば、比較的早期に発見が可能だと考えられます』

 

『しかし攻撃ができんのじゃないか?』

 

「それについては、横須賀の方面総監による見解では、災害派遣による武器使用実績に基づいて、必要な行動を起こすことは可能である、とのことです」

 

『どういうことだ?』という小林の言葉通り、知事たちの表情が腑に落ちてない中、『あっ』と町田が声を上げた。

 

『横須賀の総監は、第十雄洋丸のことをおっしゃっているのですね』

 

「えーと・・・そうです。昭和49年、東京湾上で爆発物を搭載したタンカーが炎上した際、延焼を防ぐ目的で海自が艦砲射撃を行ったという事実があるそうです。この前例に則って行動することができる、と」

 

『文民統制の原則はどこへいった?』

 

小林は目をつむり、天を仰いだ。

 

『うーむ、文民統制にこだわりみすみすゴジラを東京に上陸させるか、ここで肚をくくるか・・・』

 

原田も腕組みをしてつぶやく。

 

『国家レベルの判断を、我々が下していいものかどうか、どうでしょうねえ』

 

侭田も腕組みが伝染した。

 

『雁首そろえて!ここでやるしかねえべ!』

 

曖昧な空気を、泉崎が一喝した。

 

『ひとまずですが』と、町田が重苦しい空気を破った。

 

『ゴジラ出現によって混乱はありましたが、第一空挺団による都内降下作戦は15時より開始されます。降下ポイントのうち、千代田区の霞が関、永田町へ降下する隊員が無事降り立ち、総理以下閣僚の生存が確認されれば、国家としての意思を得られたものと判断されると考えられます』

 

「しかし、通信が断絶しているのですよ。どうやって伝達されるのですか?」

 

『都内に降下した部隊は、遅くともまた何があろうとも、19時に練馬の駐屯地ないしは東京湾に設けられた海ほたる臨時指揮所へたどりつき、偵察の結果を報告します』

 

『人力に頼るとはなあ・・・』

 

ため息をつく小林に『第一空挺団なら可能です。そのために訓練を重ねてきたのです』

と町田が食ってかかった。

 

『既に部隊は、習志野の駐屯地からヘリでの移動を終え、入間で離陸待ちの状態です』

 

『それまで、ゴジラが東京にこないことを祈るばかりですが、もし間に合わぬ場合は、やはり攻撃でしょうかなあ』

 

原田が深刻な表情を浮かべた。

 

『やっちまえやっちまえ!』と、泉崎はなおもヒートアップしている。

 

『ところで、みなさん』

 

しばしモニターに見入っていた尾形が声を発した。

 

『さきほどから、茨城に上陸したゴジラの行動を追っていたのですが、行動を見る限り、ゴジラはこの巨大なイカを屠るために上陸したと判断して良いでしょう』

 

『たかだかダイオウイカを追いかけた挙句、とんでもない災難だな』

 

『ひとごとみてぇに言うな!』

 

ぼやく小林に、泉崎が怒鳴った。

 

『あのイカがダイオウイカと判断するのも良いですが、ダイオウイカにしては大きすぎます。それに、危機に瀕していたとはいえ上陸までしている。従来のダイオウイカにすれば不可解なことばかりです。惜しむことにゴジラの白熱光に焼かれてしまいましたが、詳細に研究すべき存在です』

 

『尾形先生、学者としての興味は後回しにしてもらいたい』

 

小林の苦言に『いえ、ゴジラがなぜ茨城に上陸したか。その謎を解く鍵となる存在です。現に、イカを葬ったゴジラは、それ以上内陸に侵攻せず海へと帰っている。少なくとも、ゴジラは巨大イカを攻撃する明確な意思があったことはたしかなのです。64年前のアンギラス戦とも状況が似ています。あのときもゴジラは、大阪城でアンギラスを倒した後、それ以上の町の破壊を行わず海へ戻った。その行動形態を解明するのが・・・』

 

尾形の話に聞き入っていた八田部に、清水が慌てた様子で駆け寄った。

 

「たったいま、東京足立区の区役所から連絡がありました。文京区から北区にかけて、数分前から連絡が途絶えたそうです」

 

 

 

 

・同日 14:46 大阪市中央区城見 大阪ビジネスパーク内 KGI損保本社12階

 

 

隣室で電話が鳴りやまない中、緑川と金崎は急遽作られた応接スペースのデスク上で向こう一週間の海運計画書の山と格闘していた。

 

 

「副部長、とりあえず横浜港の分はまとまりました。それにしても、これ全部補償対象になるんですか?」

 

東京湾内の港が機能を停止したことによる損害額は、横浜へ出入港する船舶の分だけでもかつてない規模に上っていた。

 

「まさか。特約あっても一部補償にとどまるのみ。金崎は当時学生だったんだよね、8年前311のときはうちの東北支社でも似たようなことが起こったの。あたしも手伝いにいったなあ。あのときは3日徹夜しても終わらなかった」

 

じゃあ、今回は何日徹夜ですか、そう言いかけて金崎は唾を呑み込んだ。

 

「でもね、あれ以来ケース別での補償対象有無の判断が理解できるようになったし、イヤってくらい契約書の山に目を通したおかげで、海損判断に役立てられるようになったの。おかげ、なんて言ったら怒られるか」

 

書類に目を通しつつ、緑川は微笑んだ。この上司と接していてときに思うが、どこか激務を楽しんでいる部分がある。

 

「副部長って、仕事に前向きですよね」

 

若干の皮肉はこもったが、金崎の率直な感想だった。

 

「仕事でもなんでも前向いていこ。ほら、手が止まってる」

 

すいません、と書類をめくったとき、スマホが鳴った。

 

「・・・副部長、石川主任です!」

 

東京支社海損部で金崎のチームの上司であり、緑川の部下である石川からの着信だった。

 

『やっとつながった。金崎お前大丈夫か?』

 

あいさつ抜きに、興奮した様子で石川が出た。

 

「はい、いま大阪の本社です!主任はいまどこですか?大丈夫なんですか!?」

 

金崎も興奮が止まらない。

 

『ああ。出先の大崎から歩いて逃げてな、いま横浜の避難所だ。スマホ充電してもらってかけたんだけど、うちの誰かと連絡ついたか?みんな大丈夫なのか?』

 

「いえ、うちのメンバーでは石川主任が最初です!支社とは連絡がつきません・・・」

 

「替わって」と緑川は金崎のスマホを手にした。

 

「石川、大丈夫?怪我はない?」

 

『ああ、副部長!オレは大丈夫です。だいぶ暑くて、さっき倒れかけましたけど、いま避難所です。横浜です』

 

「良かった・・・他のみんなは?誰か一緒にいないの?」

 

『わからないです。吉田や絵美ちゃんにも連絡したんですが、誰とも連絡はつきませんでした』

 

「会社は?カマキリにやられてない?」

 

『それもわかりません。副部長、警察とか、自衛隊はどうなってますか?東京に入れないんですか?』

 

「わからない。カマキリの群れに効く殺虫剤を用意してるってニュースはやってたけど」

 

『カマキリ・・・そんなモンじゃなくて、別な・・・あいつは・・・』

 

ふいに、通話に雑音が入るようになってきた。

 

「ちょっと、石川?」

 

『はい・・・聞き取・・・れ・・・ですか?』

 

「ええ?」

 

『ですから、あいつの存在は誰も知らないんですか?』

 

石川の声が明瞭になってきた。だいぶ苛立っている。

 

「あいつって、なに?カマキリのことでしょ」

 

『カマキリ・・・いや似てるけど違いますよ!大崎から大井に抜けるときに見たんです。もしかして警察も消防も知らないの・・・あんなの、カマキリじゃ・・・大き・・・もしもし?』

 

「もしもし?ちょっと、どうしたの?」

 

『通話・・・・聞こ・・・あいt・・・ヤバいですよ・・・』

 

通話が切れてしまった。リダイヤルしたが、通話が切れる音がするばかりだ。

 

「どうしたんですか?」

 

興奮の冷めないまま、金崎が訊いてきた。

 

「わからない。切れちゃってからつながらないの」

 

 

 

 

 

・同日 15:02 神奈川県横浜市 神奈川県庁

 

 

昨日、都内で異常事態が発生してからというもの、県庁の危機管理センターは上へ下への騒ぎとなっていたが、騒ぎはほんの数分前から際立ってきた。

 

職員が首都圏の地図を持ってきた。連絡不通エリアは赤く塗られているが、30分前から文京区から北区まで塗られたかと思っていた矢先、さらに23区から西側、武蔵野から国分寺まで塗られた地図が用意され、たったいま用意された地図によると、赤いエリアはさいたま市、所沢市、入間市まで広がっていた。

 

「おかしいんです、急速に広がっています」

 

赤く塗られた地図を持ったまま、青い顔をした清水が報告してきた。隣では、富井県警副本部長が汗をぬぐいながら電話をかけ続けている。

 

「練馬の東部方面総監部、空自の入間基地とも連絡ができないそうです」

 

「第一空挺団は、飛び立ったのか?」

 

「わかりません、確認ができません」

 

八田部は視界が狭くなるのを感じた。

 

「富井さん、何かわかりましたか?」

 

電話を切り、汗でびっしょりの富井に訊いた。

 

「それが、まったく・・・第一、埼玉県警本部に電話がつながらないんです」

 

「知事、これは、カマキラスが急速に勢力を拡大しているとしか思えないですよ」

 

清水の言葉が、八田部の視界をさらに狭くした。軽く眩暈がするほどだった。

 

「なにィ!?」

 

近くで電話している危機管理センターの職員が声を張り上げた。

 

「飛んでる!?」

 

センター中の注目を浴びたまま、職員はひときわ大きく言った。ふいに、別な職員が新たに地図を持ち、清水に手渡してきた。

 

「・・・八田部知事・・・。鶴見、港北の一部で、連絡が取れなくなっているそうです・・・」

 

 

 

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