ゴジラVSガイガン2019   作:マイケル社長

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ー漆黒IIー

・6月5日 火曜日 21:05 イトゥルップ島クリリスク

※日本名 択捉島紗那村 日本より1時間進んでいることに留意

 

 

ゴーゴリじいさんの手引きで韓国籍の貨物機を紹介され、ジョージはレオニドを伴ってクリリスクの外れにある寂れた空港へやってきた。

 

誘導路や照明はお世辞にも機能しているとは言い難く、離陸にはいささか不安もつきまとうが、韓国人の乗組員たちは慣れているのか淡々と荷物の積み込みや離陸の準備を進めていた。

 

離陸までの間、先ほどウマールに取材した際のメモをまとめていた。

 

ウマールの話を総合すると、ロシアはゴジラの出現をいち早く察知し、これを国際社会へ警告する前に自国で対処しようと軍を動員、ところがゴジラを探知することが叶わず、出現の折に駆逐艦が撃沈、そして砲撃も通じることなく、動員された太平洋艦隊は全滅・・・。

 

「なぜロシアは安保理で日本に現れたカマキリの群れに核攻撃を主張しているか、よくわかったな」

 

ジョージは隣のレオニドに向けて言うでもなく、独り言のように喋った。

 

「日本に向けて警告することなく、自国で対処しようとして失敗しました、なんて言えないからな。東京と通信が断絶したこの状況は願っても無い好機ってワケだ」

 

レオニドは複雑な顔をして、ジョージを見つめてきた。

 

「レオニド、君も自国の恥を晒されるのは辛いだろうが、ウマールの無念を白日の下に明らかにするのが僕の仕事だ。付き合わせてすまなかったな」

 

「い、いえ、それは大丈夫です」

 

そうは言うが、レオニドはジョージから目を逸らし、車のエンジンを止めた。ちょうど韓国人の乗組員が近づいてきて、出発の合図をしてきたのだ。

 

「ありがとう、レオニド。おかげで良い取材ができた」

 

言いながら、ジョージはポケットから20ドル札の束を出してきた。

 

「これは・・・」

 

多過ぎますよ、と言いたいレオニドを、ジョージは手で制した。

 

「チップ込みだ。取っておいてくれ」

 

暗に口止め料だと匂わせつつ、ジョージはドアを開け、バッグを後部座席から取り出した。

 

「レオニド、今回の件で僕は今後、ロシアへの入国が不可能になるだろう。だがな、また必ず、イトゥルップに来るよ。ここの空気は最高だ」

 

ジョージは満天の星空を指差して、笑った。ここ数年、韓国企業の進出著しいイトゥルップ島だが、次に来るときには、北方のリゾートと化しているのかもしれない。快適になるのは良いことだが、この寂れた雰囲気が損なわれるのもまた残念だ・・・そう思っていたとき、いつの間にか両脇に男が2人現れた。

 

「ジョージ・マクギルだな。連邦保安局だ。お前を連行する」

 

右の男がロシア語で言った。有無を言わせぬ、静かで強い口調だった。

 

「おいおい、英語で頼むよ。なんだって?」

 

ジョージはおどけたように笑い、英語で話しかけた。2人の男は険しい顔を崩すこともせず、ジョージを睨みつけたままだ。

 

「なんだ、あんたら英語できないのか?なあレオニド、ちょっと通訳してくれるか?」

 

運転席から降りてきたレオニドは、暗がりでもはっきりわかるくらい、ただでさえ白い顔を蒼白にしていた。

 

「おいおい、政府機関のクセに英語できないのかあんたらは。おいレオニド、フォローしてくれよ」

 

だがレオニドはオロオロするばかりだった。無理もない、ジョージと一緒にいる時点で、レオニドも連行されるのは間違いなかった。

 

「君たちを連行する。一緒に来てもらおう」

 

ジョージとレオニドのやり取りにはまったく興味がないのか、男はジョージの両脇を掴んだ。

 

「痛いじゃないか。なんだ、ロシアの政府機関はだいぶ紳士的になったと聞いたが、これじゃソ連時代と変わらないな」

 

英語で悪態をついても、男たちはピクリとも表情を崩さない。貨物機の方では、乗組員たちがこちらを不審そうに見ている。

 

「抵抗するな。来い」

 

脇を抱えたまま歩き出そうとする男に、ジョージはヘラヘラした顔を一変させた。

 

「いいのか、そんなことをして」

 

男たちは初めて、冷徹な表情を崩した。ジョージが突然ロシア語を喋ったからだ。

 

「君たちが職務熱心なのはよくわかるが、今回取材した原稿は全て仕上げた上、アメリカのニュースサイトに既に送信を済ませている。僕が帰国して最終チェックする手筈だったが、もし僕が定められた日にちに帰国しなかった場合、チェックを経ることなくニュースを発信しろと話してある」

 

男たちの顔には、明らかに動揺が浮かんでいた。

 

「そうなった場合、君たちがひた隠しにしたい不都合な真実が世界中に知れ渡り、祖国ロシアの権威は失墜する。君たちは祖国の権威を守ろうとして僕を拘束した場合、皮肉にも最悪の結果を招いてしまうというわけだ」

 

男たちはジョージから手を離した。拘束対象が言葉を理解できるため、自分たちで秘密の会話をすることもできず、目を見合わせるばかりだった。

 

「それでも僕を拘束して、拷問にかけるなりシベリアで強制労働に当てたいと言うなら、僕に拒否権はないだろう。だが国益を考えた場合、どうすれば良いか、いまここで結論を出すべきだと思うんだが、どうだろうか」

 

「アメリカ人め・・・」

 

忌々しげに左の男が言うが、「悪口は聞こえるように言うもんじゃないな」とジョージは負けずに言った。

 

「・・・祖国の重大な脅威であるアメリカ人ジャーナリスト、ジョージ・マクギルは、通告のあった貨物機に乗っておらず、カニ漁船に紛れて出国してしまっていた、そう報告書を仕上げる」

 

右の男が言うと、左の男は怒りで目をギョロリと見開いた。

 

「出国を手引きした者たちは、政権中枢に関与しているドルゴルキイ・マフィアの一味であり、出入国法違反で逮捕した場合、政権への損害も大きく、ここは黙って、下を向く・・・それでどうかな?」

 

「君はロシア人にしては物分かりが良いな。よし、素敵なシナリオライターの君に敬意を表し、アメリカへ戻ってから僕も鉛筆を舐めることを約束しよう」

 

ジョージの提案に、男は黙って頷いた。左の男はなおも何か言いたげだったが、拳を握りつけるに留めた。

 

「それから、このレオニドは本当に何も知らない、ただの運転手であり、ゴーゴリじいさんの友人だ」

 

「よろしい、この男の身柄も保証しよう」

 

「さすが、隠蔽が得意なお国はこういうとき心強い」

 

ジョージの皮肉に、男は顔をしかめた。「お近づきの印に、これで一杯やると良い」と、ジョージは20ドル札の束を男の手にポンと渡した。

 

2人の男は口を真一文字に結び、しかめ面のまま場を離れていった。

 

「・・・ジョージさん、ロシア語、話せたんですか?」

 

汗を浮かべながら、レオニドが訊いてきた。

 

「敵を欺く前に、まず、だ。驚いたかね」

 

流暢にロシア語が話せるならどうして僕を、と言いかけたレオニドに先回りするように「偉大なるロシアの友と一緒にいたかったのさ」とだけ言うと、ジョージは振り向きざまに手を挙げ、貨物機へと向かった。

 

こちらの様子を注視していた韓国の乗組員たちに「ほら、定刻通りの出発を心掛けよう」と、韓国語で話しかけた。怪訝な顔をしながらも、理解不能な珍客を機内に収容した。

 

やがて貨物機は離陸し、星空の輝く宙に浮いた。乗り心地はエコノミークラスにすらはるかに及ばないが、この際贅沢は言うまい。ジョージはタブレットを開くと、早速今回の取材結果を記事にしたため始めた。

 

 

 

 

 

 

6月5日 火曜日 20:07 東京都千代田区有楽町2丁目 ルミネ有楽町

 

 

いまや懐中電灯と時計程度の機能しか果たさないiPhoneをポケットにしまい、近藤は深く息を吐いた。

 

最初にこのビルへ避難したときには50名ほどの人が身を寄せていたが、数時間前にカマキリが侵入してから散り散りとなり、いまは20名程度がこの狭い廊下に固まっていた。コンクリートに囲まれて圧迫感は強いが、それだけカマキリから身の安全を図れるのも間違いなさそうだった。

 

怪我人も多いが、インドから来たモデという医者の応急処置により、どうにか落ち着いていた。怪我をしてない者は近藤も含め、時折痛みに苦しむ怪我人を介抱したり励ましたりを繰り返した。

 

1階のドラッグストアにあった薬剤なども残り少なくなり、努めて冷静に処置に当たっていたモデ医師にも焦りの表情が浮かんでいた。それでも夜ということもあるのと、コンクリートの空間は店舗フロアに比べてだいぶ涼しく、大抵の怪我人は寝息を立て始めたのは救いと言えた。

 

どこかから見つけ出してきた非常用電灯に照らされた薄暗い空間の隅で、さきほどまで避難者の介抱やモデ医師への通訳に奮闘していた若い女性警官が体育座りで俯いていた。疲れて元気がないのだろうか。

 

近藤は横たわる怪我人に気を遣いながら移動し、壁にもたれるように女性警官の隣に座った。たしか、倉嶋と名乗っていたはずだ・・・。

 

「倉嶋さん、ご苦労様」

 

言いながら、近藤はポケットに潜ませていたキャンディを差し出した。少し眠っていたのか、倉嶋はびっくりしたような顔を向けてきた。

 

(しまった、起こしちまったかな・・・)

 

近藤は心の中で舌を出した。

 

「す、すみません、ありがとうございます」

 

恥ずかしそうに顔を背け、倉嶋はキャンディを受け取った。

 

「大変だったもんな、眠くもなるよ」

 

近藤は微笑みつつ、様子を伺った。疲れもあるだろうが、浮かない顔も気になる。

 

「一人で奮闘してたよな。すごかったよ」

 

最初は3人いた警官も、1人は負傷し、もう1人は避難路確保して囮になり・・・このフロアに来てからというもの、倉嶋1人で負傷者のケアや避難者の相談に駆けずり回っていたのだ。随行してる警備員や近藤ら有志の民間人もサポートしたが、どうしても制服を着た公務員への期待と負担がかかる状況なのだ。

 

「倉嶋さんは英語も堪能なんだね。オレみたいななんちゃって英語じゃなくて、どこかできちんと教育を受けた英語でしょ?」

 

倉嶋は近藤に向き直った。

 

「あたしなんて、全然です・・・」

 

モデ医師の通訳として治療に当たったが、専門用語の多さと、英語的方言の壁でうまくコミュニケーションが取れないこともあり、何度か治療が滞ることがあったのだ。

 

「いやあ、さっきもモデ先生、君のこと褒めてたよ。優秀な警官だねって。倉嶋さん、オーストラリアにでも留学してたの?オージーイングリッシュでしょ、話してたの」

 

倉嶋はびっくりしたように目を剥いてきた。

 

「なんでわかったんですか?」

 

「はは」と、近藤は照れ笑いしてから言った。

 

「オレ、いまはフリーだけど、前は共同通信社に勤めててね。海外回されることも多かったからな。いやあ、もっと英語勉強しとけばっていまでも後悔してるよ」

 

「・・・・・でも、さっきもあたしが通訳しきれないときに助言してくださったじゃないですか」

 

「ん、まあ、あの単語だけまぐれでわかってたくらいで。倉嶋さんの方がしっかり喋れてたと思うよ。たくさん勉強したんだろうね」

 

倉嶋は再び俯いた。

 

「あたし、警察官になって得意の英語を役立てたいとずっと思ってたんです。でも、実際使う場面になると、通じないし、こんなときに役に立たなかったし。警察官としても、なんにもできてないなって。あたしが一番頑張らないとダメなのに・・・」

 

少し涙を浮かべ、「ごめんなさい」と拭った。

 

「そんなことないよ。たった1人でもすごく良くやってたと思うよ。腕噛まれたあそこのお姉さん、君に感謝してたよ。こんな状況なのに頑張ってるって」

 

言うと、倉嶋が拭う涙が多くなってしまった。

 

「オレも大したことできないけど、助かるまで一緒に頑張るぞ。それにしても、いつ助け来るのかなあ。早く風呂入って安心して一杯やりてーなあ」

 

呑気な近藤に、倉嶋はようやく微笑んだ。

 

「倉嶋さん、まだ若いでしょ?お父さんお母さんも心配してるんじゃないか?終わったら、連絡取らないとな」

 

少し陰が射したような表情を、倉嶋は浮かべた。

 

「・・・そうですね。心配してくれてるかなあ」

 

「子どものこと心配しない親はいないよ。倉嶋さん、故郷はどこなの?」

 

「和歌山です。もう、ずっと戻ってないけど」

 

「そっか。警察官の仕事忙しいよな」

 

「忙しいのもあるけど・・・ちょっと、折り合い悪くて、両親と」

 

近藤は倉嶋に向き直った。やはり、そうだったか。

 

「両親、あたしが地元に残って、地元で仕事してくれることを期待してたんです。制止をきかないで、こっちに飛び出してきちゃったから、それからずっと、気まずいんです」

 

「連絡もしてないの?」

 

ややあって、倉嶋は頷いた。

 

「最初は話すのもイヤで、電話も出なかったんです。ずっとそんなことしてたら、いまさら電話で話したりするのもなんか・・・。お母さんとは、メールやLINEで短文やり取りするくらい。お父さんとはそれすらしてません」

 

「そっか・・・」

 

しばし沈黙してから、近藤は顔を上げた。

 

「お節介なのは承知の上で、これが終わったら連絡してみたらどうだろ?いやあ、実は恥ずかしい話、オレ昔やんちゃしててさ。親ときちんと話さないままずっと反抗期でいたら、両親とも早くに亡くしちゃってな。いまになって、もっと話しとけば良かったって後悔してんだ。やっぱりな、きっかけだと思う。大丈夫だよ、ご両親だって、こんなに立派になった倉嶋さんを見たら、きっと嬉しく思うだろうよ」

 

俯きがちだった倉嶋に、微妙な表情の変化が見てとれた。

 

「ほんの少しでいい、勇気出してみようぜ」

 

近藤につられるように、倉嶋は笑顔になった。

 

「さっさとあのカマキリ退治して、いまいるみんな助け出してからだけどな。でもきっと助かる。大丈夫だ」

 

近藤自身、何の根拠もなかったが、絶望に呑まれることは決してしないというつもりの元、倉嶋に言った。

 

廊下の奥でうめき声が上がり、仮眠していたモデ医師が目を覚ました。

 

「倉嶋サン、ちょっと手を貸してほしい」

 

そう言われて立ち上がった倉嶋の顔は、警察官のそれに戻っていた。

 

「オレも手伝う」

 

近藤も立ち上がった。

 

 

 

 

 

「彼」は瓦礫の中、次々とやってくる僕たちを貪っていた。この惑星の支配者を捕食して成長した個体たちを貪ることにより、「彼」は群体の主に恥じぬ身体になっていた。

 

支配者にはまだその数ではるかに及ばないが、支配者の力を封じることにより、さらに勢力を拡大することに成功していた。

 

惑星全体を支配するまでの時間も、「彼」は計算できるまでになっていた。

 

少なくとも、次にまた漆黒の時間を迎える前には、この大地を埋め尽くすことができるだろう。あとは環境次第だが、過酷な環境下では支配者たちも存在できないだろう。

 

「彼」はこの惑星に降りたであろう「主」に感謝した。惑星を支配せんとする歓びが、これほど大きいものだとは、いままでの「彼」であれば到底理解できなかったであろう。

 

足元を這いつくばっていた支配者に、群体が喰らいついた。それらを捕食し、さらに大きな身体へとなっていく。

 

もはや、「彼」よりも大きな存在はこの惑星に存在しないだろう。

 

「彼」は嗤った。

 

 

 

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