ゴジラVSガイガン2019   作:マイケル社長

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ー邂逅ー

6月6日 水曜日 5:54 東京都中央区築地5丁目 築地市場跡

 

 

ゴジラは低く重たいうなり声をあげながら、ほとんど雲のない空に頭を向けた。

 

黒い波のような幾多もの筋が、四方から一斉にゴジラへ向かってきたのだ。

 

慌てふためく人々も、空を埋めんばかりのカマキリに思わず足を止め、天を向いた。

 

黒い筋は高度を下げ、狙いすましてゴジラの身体にまとわりつき始めた。

 

大きさこそ所謂普通のカマキリと何ら変わらないが、その凶暴性、群衆での集団戦法はカマキリにはない習性、能力であった。

 

ものの数秒でゴジラの身体はカマキラスに纏われ、ゴジラの皮膚に鎌、顎が各々突き立てられだした。

 

この時点で数千匹のカマキラスに集られるもしかし、ゴジラは意に介さずうなり声を上げるばかりであった。

 

強力な鎌も顎もゴジラには文字通り歯が立たず、ゴジラが尻尾を振るだけで何匹もが遠心力に耐えきれず、隅田川の藻屑と化したり、あるいはビルや地面に叩きつけられた。

 

しばらくすると、ゴジラに纏わりついていたカマキラスたちは、続々と力を失い地へと落下し始めた。ゴジラが全身から発する激烈な放射線に抵抗する術がなく、ゴジラはやがて苦もなくカマキラスたちを振り払った。

 

 

 

 

様子をうかがっていた「彼」は驚愕するしかなかった。自身の手により、それまでより大幅に強力となった僕たちが、為すすべなく倒されていくなどとは・・・。

 

「彼」は新たに命じた。

 

 

 

 

 

 

最初にゴジラへ向かった筋より、さらに多くのカマキラスがゴジラに纏わりついてきた。

 

全身はおろか、ゴジラの口を介して体内から喰い荒らすべくゴジラの口内へ侵入する群れもあった。

 

だがやはり数の上で優位なだけで、何ら状況は変わらなかった。生命活動を停止し、ボロボロと落下するばかり。体内に侵入した群れは二度と戻ってこなかった。

 

さしものゴジラも、さらに迫りくる群れに対し敵意を剥き出しに唸った。

 

ゴジラの背鰭が沸騰するように発光し―それだけで多くのカマキラスが炎上した―1拍置いて白熱光を噴き出した。

 

ゴジラの頭上いっぱいに集まっていたカマキラスたちは容赦なく焼かれた。ひとたまりもなく、灰にも塵にもならず一瞬で蒸散してしまった。

 

左右交互に首を回し、一帯を嘗め尽くすように白熱光を放つゴジラ。

 

迫りつつあった後発の群れは、二の足を踏んでいた。

 

やがてカマキラス同士で捕食を始めた。

 

元々共喰いをするカマキリの習性以上に、自分たちを支配する者から命じられるままであった。

 

そこへ、いままでよりやや大型のカマキラスたちが合流した。人間や同族をより多く捕食したことで、急速に身体が大型化した個体群であり、小さくとも体高3メートル、大きいもので20メートル近くに達する個体もあった。

 

ここへ至り、カマキラスはゴジラに滅されたことと共喰いの結果その数をかなり減らしていたが、大型化の結果鎌も顎も応ずるように強化された。

 

しばらく静止し、様子をうかがっていたゴジラは、怒りを示すかのように大きく啼いた。

 

何もかもが比べ物にならなかったゴジラとカマキラスだったが、唯一カマキラスはその数において勝っていた。一気に成長した個体群はゴジラが発する放射線に抵抗を得たのか躊躇なく突進していった。ゴジラの皮膚を穿つまで鎌が鋭く強くなり、ゴジラはカマキラス相手に初めて怯んだ。

 

全身を鎌と顎で突かれ、たまらず後ずさりしたゴジラは転倒し、隅田川に仰向けに倒れ込んだ。

 

大型のカマキラスたちは水を恐れることなく、もがくゴジラを追撃した。

 

 

 

 

 

・同時刻 東京都千代田区有楽町2丁目 ルミネ有楽町

 

 

皆が疲れ切り、朝だというのに清々しさもなく重苦しい空気が漂っていた時間帯だったが、さきほどから異変が相次いでいた。

 

地震とも異なる揺れが建物を襲い、かすかだが轟音が聞こえてきて、やがて大きく聞こえるようになってきた。

 

そして外から聞こえる、不快な羽根の音。

 

寝付いていた赤ちゃんが驚いて泣き声をあげ、周りの大人たちがなんとかあやしていた。不思議と倉嶋が抱いたところ、泣くのをやめた。

 

赤ちゃんをしっかりと抱きながら、倉嶋は外の様子をうかがおうとした。

 

「おいおい、赤ちゃん守れって」

 

近藤は倉嶋を留め、外を仰いだ。

 

「オレが様子を見てくるから」

 

「えっ、でも・・・」

 

躊躇する倉嶋を、「そうだ、お前はその子を守れ」と、負傷により横たわったまま中村が言った。

 

「近藤さん、悪いがお願いできるか?」

 

モデ医師の処置は適切だったのだが、いかんせん深い傷が痛むのか、片方の顔を歪めながらも中村は少し顔を上げた。

 

「ああ、大丈夫」

 

近藤は頷き、慎重に外へとつながるドアを開けた。皆が息を飲んだが、幸いにもカマキリが飛び出してくることはなかった。

 

壁に背をこすりつけるように移動し、外の様子がわかる場所まできた。

 

近藤は目を見開いた。数寄屋橋交差点は大勢の人で溢れていた。それは日常が戻ったからではなかった。

 

皆、何かから必死に逃げてきたようだった。皆目的に従ってあちらこちらへ行き交う普段と異なるのは、全員が築地から丸の内方向へとなだれていることだった。

 

カマキリの姿は少なかった。時折逃げる人々に向かっていくカマキリもいたが、それすら気にも留めることのない必死な様子が伝わってきた。

 

視界の上部で何かが動くのがわかり、近藤は視線を空へと向けた。空いっぱいにカマキリが飛んでいた。だがパジェロを乗り捨てたときのように無秩序なものではなく、秩序だったように人々が逃げてきた方向、築地方面へ流れるように飛んでいた。

 

これだけ人が表に出ているのなら襲い掛かってもおかしくないが、そんな様子もなかった。

 

近藤は驚愕しつつ困惑した。奴らが向かう先に、何かがあるのだろうか・・・。

 

またビルが揺れた。地震にしては単発的で短いものだった。それが何度も続く上、揺れがひどくなってきていた。

 

ひとまず皆に報せようと戻った時、懐かしい音がした。スマホの通知音がなったのだ。急ぎスマホを取り出すと、いくつか通知が来ていた。

 

近藤は走り出した。この事実を皆に早く知ってもらいたかった。よほど嬉々とした顔をしていたのか、飛び込んできた近藤に一同怪訝な顔をした。

 

「い、いまスマホが動いた」

 

自分でも驚くほど急いだせいか、息が切れていた。言われてスマホを取り出したが、特段変わりないのか皆首をかしげるばかりだ。

 

『警視・・庁・・・本局・・・報告せよ』

 

そのとき、中村と倉嶋の警察無線が鳴った。中村は負傷した身体を跳ね起こし、血液で汚れた無線機を手にした。

 

「こちら数寄屋橋1、現状有楽町ルミネにて避難者十数名と待機中。至急救援を要請」

 

無線機から雑音がする。通信状況は不安定らしきことがうかがえた。

 

「いま外を見てきたが、築地の方から大勢の人たちがこっちへ走ってきてる」

 

近藤の言葉に、皆が注目した。

 

「外に人が出てるのか?カマキリは・・・?」

 

「それが人々には目を向けないで、築地方向へ群れで飛んでる」

 

皆、首をかしげた。何を話してるのかと訊いてきたモデ医師に、倉嶋が通訳して状況を伝えていた。

 

「はっきりとはわからんが、築地で何かあって、みんなそこから逃れてるんだ、きっと。カマキリの動きも気になるが・・・」

 

近藤の推論に、誰も異を唱えられなかった。

 

「我々もここを離れた方がいいのか、って、モデ先生が訊いてます」

 

倉嶋がモデ医師の話を通訳した。

 

「まだ何とも言えない。外の様子を把握しないことには」

 

近藤は通訳を介することなく、モデ医師に言った。

 

「中村さん、ひとつ提案だけど・・・」

 

近藤は横たわる中村に向き直った。

 

「オレ、様子を見てきたいんだ」

 

「・・・危険じゃないのか?」

 

身体さえ問題ないならオレがいくのに、そう言いたげに中村は半身を起こした。

 

「なんとかするよ。通信も回復してるようだし、状況わかったら連絡できるかもしれない。もし逃げなきゃいけないようなら、最悪這ってでも急いで戻ってくる」

 

そうは言っても・・・と、中村は躊躇気味に目を伏せた。近藤は充電を確認し、自身のYouTubeチャンネルを確認した。時間はかかったが、チャンネルに接続できた。

 

「それに、現場の様子を隠さず伝えるのがオレの仕事だ。中村さん、頼む」

 

近藤はしゃがみ込み、頭を下げた。倉嶋が心配の眼差しを向けてきた。

 

「・・・わかった。職務上あんたを静止しなきゃならんのはやまやまだが、頼む。そのかわり、絶対に無理はしないでくれよ」

 

「ああ」

 

近藤は頷くと、予備のバッテリーを確認した。ふたつあるが、どこまで持つか。そもそも、通信状況がより回復する保証もないのだが。

 

「倉嶋さん、LINE、交換してくれ。ああ、無事助かったら、食事行こう」

 

 

 

 

 

身を起こしたゴジラは、再度築地に足を踏み入れた。成長を遂げたカマキラスだったが、皮膚を切り裂くことまではできたが、ゴジラの皮下組織まで鎌が到達せず、却ってゴジラに逆襲された。

 

飛び込んできたカマキラスを振り払うと、目を突き刺すべく顔を昇ってきた個体をわしづかみ、握り潰した。

 

もっとも大型の個体が飛び掛かったが、間髪入れず白熱光を吐くと、一瞬で火だるまとなり築地市場跡の倉庫に落ちていった。

 

足元の個体群を踏み潰し、ゴジラは怒りの咆哮を上げた。これほど攻撃を浴びせても起き上がるゴジラにたじろぐことなく、カマキラスたちはさらに攻撃を仕掛けていく。だが死体の山が出来上がるばかりだった。

 

甲高い音がして、ゴジラは歌舞伎座付近を睨みつけた。共喰いの結果、体高が30メートルほどまで達した個体が5匹、現れた。

 

咆哮を上げるゴジラの顔をめがけ、一体が襲い掛かった。鎌が皮膚に突き刺さるより早くゴジラの牙がカマキラスの胴体を貫き、透明な体液があふれ出た。だがゴジラの注意はそちらばかりに向けられ、下半身目掛けて飛んできた二体への反応が遅れた。

 

下腹部に突き立てられた鎌にゴジラは呻き、身をよじらせた。それでも、咥えたカマキラスを離さず、下腹部を狙う二体に突進を仕掛けた。

 

その隙に背後からもう二体が忍び寄り、背鰭に飛びついた。新たな苦痛にゴジラは大きく吼えた。ふらつくゴジラによって解体中の築地市場は崩れ落ち、体重を支えんと大地に振り下ろした尾が築地場外市場を直撃した。

 

咥えていた個体が動かなくなると、ゴジラは歯を食いしばった。背鰭が発光し、しがみついていた二体のカマキラスが熱に耐えきれず身を投げた。

 

怒りの白熱光は下腹部を狙う二体に降りかかった。わずかな時間で放射線への耐性を獲得したカマキラスであったが、超高温のガスには赤子も同然だった。周囲の瓦礫ごと燃え上がり、消し炭となった。

 

背鰭の放熱で焼かれた二体は左右からゴジラの顔にしがみついた。うち一体をつかみあげ、鎌と頭を握り潰し、もう一体は腹部をつかまれ、力いっぱい放り投げられた。築地本願寺が瓦解し、カマキラスはそのまま動かなくなった。

 

頭を潰されてもがく一体を踏みつけ、ゴジラはなお様子をうかがった。さらに大型化した、50メートルにも達する個体が三体、汐留のビル群に立ちゴジラを見下ろしていた。

 

 

 

 

 

有楽町ルミネを飛び出した近藤は、人々の流れに逆らって晴海通りを南へ走った。道路上には、カマキリに襲われたと思われる人たちが横たわっていた。本来なら介抱するところだが、近藤は無念さをにじませながら走った。

 

ネットへの接続は不安定だが、だいぶつながりやすくなっている。近藤は自身のチャンネルを開いたまま、動画撮影を開始した。

 

「いま、なにがどうなってるのか・・・とにかく、カマキリの姿がなくみんな何かから逃げてます。詳しくはわかりませんが、カマキリのせいで、ネットも電話も電気も止まってました。いま、ここは銀座通りです・・・!?」

 

近藤は足を止めた。道路いっぱいに走ってくる人々、銀座の街の向こうに、ひときわ大きく黒い物体がうごめいていた。それが動く度に強く鈍い音が響き、アスファルトが揺れた。

 

「あれは・・・」

 

言いながら、カメラをその黒い物体に向けた。

 

「ゴジラ・・・まさか、ゴジラ・・・!!」

 

呆気に取られているうち、さらに激しい振動が近藤を襲った。ゴジラの下半身ほどはある巨大なカマキリが三体、ゴジラに襲い掛かったのだ。ゴジラが立ち回るたび、大地が波打ち、先のビル群では窓ガラスが散乱している。逃げてきたうちの何名かはガラスや落下物で身体を切り裂かれ、地面に倒れていた。

 

ゴジラは噛みついたまま離れない三体を振りほどこうと、激しく動きまわった。下腹部から赤黒い液体が滴り落ちている。

 

ガラスに気をつけつつ、近藤は慌ててルミネにいる倉嶋にLINEを飛ばした。だがゴジラがいるなどと信じるだろうか・・・そう疑念を持ったとき、空が一瞬暗くなり、強風が吹き荒れた。

 

思わず閉じた目を開けると、近藤はさらに呆気に取られることとなった。

 

銀座クレストンビルの屋上に、ゴジラとは違う黒い物体が鎮座していた。だがカマキリともまた違った。いや、カマキリに違いはないのかもしれないが、近藤が知っているどのカマキリにも似つかない異質な存在だった。

 

全身が黒ずんでおり、カマキリにはありえない黄色い鱗が胴体に確認できる。何よりも異質なのは、カマキリ特有の複眼などではなく、細いサングラスのような真っ赤の単眼なのだ。近藤自身昆虫に詳しいわけではないのだが、少なくとも大きさはともかく、見たことも聞いたこともない姿だった。

 

その存在はただじっと、ゴジラとカマキリの争いを観察しているように見えた。近藤は恐怖を押し殺してスマホを向けた。先ほどより、ネットへの接続が良好になっているらしく、動画へのリプライが矢継ぎ早に表示されてきた。

 

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