ゴジラVSガイガン2019   作:マイケル社長

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ー進化ー

・6月6日 水曜日 6:07 東京都千代田区永田町 首相官邸地下一階 危機管理センター

 

 

一斉に室内の電気、モニター、空調が動き出し、瀬戸と望月、職員やSPたちは驚嘆の声を上げた。

 

しばし戸惑いながらも、職員たちは今までやるべきはずが通信の断絶に伴い出来なかった他機関との連絡を始めた。

 

「電気が通じたのか?一体、どうして・・・?」

 

喜びよりも戸惑いの方が上回ったが、それでも事態は大きく進みそうだ、瀬戸は心の中で確信した。

 

望月は職員たちに担当ごとの状況把握を命じ、菊池内閣危機管理監は古巣である警視庁からの出向者たちと短く打ち合わせ、警視庁への電話連絡を試みていた。

 

やがてセンター内の様々な電話が鳴り出し、職員たちが応対に駆り出された。気が早るのか、メモを取るペンが恐ろしく達筆だ。

 

電話に向かう職員たちが顔を曇らせ始めたとき、望月が瀬戸の元へ走ってきた。

 

「総理、大阪からです。たまたま開催されていた、全国知事会の面々がいろいろと頑張ってくれていたそうで」

 

瀬戸は短く頷き、電話を代わった。

 

『総理、全国知事会長、島根県知事の侭田です』

 

「ああ、ご心配をおかけした。いろいろ尽力してくれたそうで」

 

『総理、すみませんが、いま緊急事態です。そちらではまだ情報が上がりませんか?大変な・・・』

 

ちょうど隣に来た菊池が、瀬戸に話をしたくて我慢ならない顔をしているのがわかった。

 

望月に職員が耳打ちし、顔色がサッと変わっていた。

 

 

 

 

 

 

・同時刻 大阪府大阪市 大阪府庁舎

 

 

侭田が電話をしている間、列席の知事たちは食い入るようにモニターへと視線を注いでいた。

 

八田部知事から不穏な情報をもたらされてからしばらくして、職員の1人が東京でYouTubeの生放送をしている人がいる、と報告があり、知事たちは東京の様子をリアルタイムで把握できていた。

 

3匹の巨大なカマキラスが群がる対象に、皆愕然としていた。現地は争いで地面が揺れるのだろう、手ブレが激しく、お世辞にも観やすいとはいえなかった。

 

「総理は何と?」

 

八田部から都内への連絡ができるようになっていると報告があり、官邸への電話を終えた侭田に、原田が訊いた。

 

「まだ混乱してるご様子でしたが、然るべき処置を、とは申し上げました」

 

ただでさえ問題は山積だった。国連安保理との折衝、カマキラス及び停電への対応など、最優先課題ばかりな上、日本にとって最大の脅威が知らぬ間に、首都中枢に現れている・・・日本は喉元に刃を突き付けられているに等しかった。

 

「恐れていた事態だが、その前に官邸との連絡ができたのは幸いと言えるのか・・・」

 

原田はふうっと息を吐いた。あまり褒められた話ではないのかもしれないが、国の最高責任者が健在とわかり、荷が軽くなったように感じるのは原田だけではなかった。

 

「しかしなぜ、停電から復旧できたんでしょうか?」

 

川名は隣に座る劔崎に訊いた。

 

「ふうむ、この映像で判断する限りでは、カマキラスはおそらく相当数がゴジラによって殲滅されたんでしょうなあ。この映像を撮ってる人は、洪水のようなカマキラスが空を飛んでいたと語っているし・・・この極端な大型化も、ゴジラに対抗せんとした?これほどに知能が発達しているとは」

 

しきりに感心する劔崎の隣で、尾形はただただ映像に見入っていた。まるでゴジラの到来を待ち望んでいるようにも思え、知事たちは不思議だったが、訊くことはしなかった。

 

「八田部さんによれば、座間・厚木の陸上部隊が即応態勢に入ったそうです。総理からの防衛出動命令が下されれば、ただちに動くと思われます。都民の避難が効率良く働いてくれることを祈るばかりですが・・・」

 

町田の言葉に「バカな」と、小林が釘を刺した。

 

「現場はいまやっと状況把握できたところだぞ。こんな状態では、自主避難が関の山だろう」

 

「ところで」と、侭田が言った。

 

「この戦い、どっちが勝つんでしょうか?」

 

画面には、取っ組み合うゴジラとカマキラスが映し出されたままだ。

 

「ひとつだけ申し上げられるのは」と、町田が言った。

 

「勝った方が、我々の敵になるでしょう」

 

 

 

 

 

・同時刻 東京都千代田区有楽町 ルミネ有楽町

 

 

近藤からのLINEに続き、完全に機能を回復したスマホで倉嶋は近藤のyoutubeチャンネルを観ていた。

 

「これが、ゴジラ・・・」

 

ただでさえ大きな目をいっぱいに開き、モデ医師はつぶやいた。

 

「どうしましょう、避難すべきですか?」

 

倉嶋はどうにか起き上がった中村に訊いた。

 

「そうすべきだが、ケガがひどくて動けない人も多い」

 

この廊下にいるのは18名、うち11名がケガで満足に身動きが取れない人々だった。だがここにいるのも賢明とは言えない。

 

「倉嶋、元気な人を連れて、逃げろ」

 

「そ、そんな・・・」

 

「怪我のない人たちを道連れにできん。それにその赤ちゃん、お前が抱いてやらないと泣き止まないんだぞ」

 

戸惑う倉嶋に、「おまわりさん、いいよ。オレ一緒に残るよ」「死ぬときはみんな一緒だよ」と、怪我のない人たちが声をかけた。

 

「いやダメだ」

 

中村は譲らなかった。

 

「これ以上犠牲者を増やすわけにはいかない。みんな、大丈夫なら逃げてくれ」

 

全員が顔を見合わせた。倉嶋はどう言って良いかわからず、不安げに下を向いた。それが伝わったのか、赤ちゃんが泣き出した。

 

「倉嶋サン、私は医者だ。この人たちには私が付き添うから、みんなを連れて避難しなさい。大丈夫だから」

 

モデ医師が諭してきても、倉嶋は踏み切れず俯いた。

 

「倉嶋!」

 

中村の雷が落ちた。よほど痛みが走ったか、中村は膝から崩れ落ちた。

 

倉嶋は唇を噛んだ。泣き止まない赤ちゃんをグッと抱きしめると、首を縦に振った。

 

「私が誘導します、みなさん続いてください」

 

意を決した倉嶋に気圧され、怪我のない人々は戸惑いつつも頷いた。

 

「必ず迎えに来ます」

 

中村に言うと、安心したように微笑んだ。

 

「頼むぞ、いいか、交差点は混乱してるはずだ。大通りを避けて、とにかく逃げろ。ここからだと、靖国方面を目指せ」

 

こんなときにも律儀な中村のアドバイスに、倉嶋は思わず涙が滲んだ。

 

(いけない、しっかりしなくちゃ!)

 

倉嶋は迷いを振り切るように涙を拭うと、赤ちゃんを胸元に寄せた。安心したのか、泣く声が小さくなった。

 

 

 

 

 

・同時刻 東京都中央区築地1丁目 銀座松竹スクエア付近

 

 

近藤は争う怪獣たちの発する振動震に足を踏ん張りながら、実況を続けていた。

 

驚くべきことに、巨大なカマキリ3匹に身を刻まれても、あるいは皮膚を齧られても、ゴジラは倒れることなく否してした。

 

当初こそ劣勢だったゴジラだが、無尽蔵とも思えるスタミナでカマキリに歯向い、さらに皮膚を抉ろうとする1匹の鎌をつかむと、猛烈な力で引きちぎった。

 

不快な高音の啼き声を上げる相手の首を掴み、絞め上げた。

 

他の2匹が背後から飛びかかったが、片方は持ち上がった尻尾に打ち付けられ、もう片方は振り向きざまにゴジラが手にした個体の頭に鎌を突き刺してしまった。

 

目から薄黄色い液体を撒き散らし、もがくたびに鎌が深く刺さる。鎌が抜けず慌てる2匹に、ゴジラは白熱光をお見舞いした。

 

皮膚が弾け飛び、激しく燃え上がった2匹を足蹴にすると、重たい尻尾の一撃でもがく最後の1匹に何度も尻尾を浴びせた。

 

動かなくなったのを見届け、ゴジラは天を仰ぎ、勝利を叫ぶように吼えた。

 

決した勝負の後、ゴジラがどう動くか身構える近藤だったが、ゴジラは低く唸り声を上げ続けたまま、辺りを見回している。

 

ハッとして銀座クレストンビルを見上げた。さっきまで鎮座していた赤い目の巨大カマキリは姿を消していた。もしかしてゴジラは、あいつを探しているのだろうか・・・。

 

メチャメチャに崩れた場外市場の辺りで何かが動いた。

 

 

 

 

 

巨大化して対抗すべく数を減らした僕が全滅し、「彼」はいよいよ動き出した。この存在が出す波長から、僕が束になっても敵わないのはわかっていた。

 

それでも相当なダメージを与えることはできた上、本来の目的が果たされる機会を待ち望んでいたのだ。

 

動かなくなった僕を喰らい、「彼」は全身が感じたことのない躍動に包まれるのを理解した。

 

この僕はあの存在に強く喰らいついていた。案の定、この惑星の支配者にもない強烈な刺激を得られた。間違いなく、「彼」がいままで以上に強力に変化する要素を、この存在が持っていることがわかっていた。

 

こちらに気づいたのか、怒号のように吼え、こちらへと向かってきた。この存在に見下ろされていたのだが、まるで立場が等しくなるように、目線が上がっていく・・・。

 

 

 

 

 

 

「なんだこれ・・・」

 

思わず近藤は口にした。

 

赤い目のカマキリが倒れている巨大カマキリに噛り付いた。あっと言う間に貪った刹那、異様な音が響いた。断続して骨折するような、重く乾いた音がする。カマキリはカマキリの姿を急激に変化させつつある。

 

「まさか・・・ゴジラを食った奴を食って、自分を進化させた・・・・」

 

自分でもあまりに荒唐無稽だと思ったが、近藤は撮影しながら思ったままを口にした。目に飛び込んでくる光景は、そう説明せざるを得なかったのだ。近藤自身は知る由もなかったが、この実況を観ている大阪の劔崎と尾形は息をするのも忘れて映像を見入っていた。

 

一層強く膨れ上がるような音がして、やがて圧力鍋の蒸気が抜けるような音がして、猛烈な白煙が上がった。

 

思わず近藤は口を塞いだ。よもや人体に有害なガスなのかとも思ったが、煙混じりの水蒸気らしかった。

 

白煙が落ち着き、何かがゆっくりと身を起こした。近藤はその様子を動画に収めた数少ない人になった。

 

カマキリではない、二足歩行の何かがそこにいた。

 

頭と口の周り、首から腹部に突起があり、両手の鎌は極限まで研がれた日本刀のように鋭く光っている。また腹部は黄色、全身は緑色の鱗に覆われている。そしてもっとも特徴的なあの赤い単眼は健在だった。およそ生物的ではないその目は血のように赤い。そして背中には半透明の翼のようなものが生え、尻尾は尖鋭的に天へ向かっている。

 

進化によるものか、全身の関節から白煙が立ち昇り、その生物は完全に頭を上げた。その大きさは今までとはさらに異なり、ゴジラと寸分違わぬほどになっていた。

 

甲高い咆哮と共に、生物は銀色の鎌を振り上げた。全身が鋭い凶器を思わせ、近藤はまるで自分がナイフを突きつけられたように感じた。

 

あまりのことにゴジラも怯んだように身を反らせたが、やがて威嚇するように大きく吼え、突進していった。

 

恐怖を我慢しながら、近藤は衝突した二大怪獣をもっと映すべく、築地二丁目交差点まで足を進めた。

 

逃げ遅れていたのか何人か走ってきて、近藤は足がもつれて転んだ白人男性の巻き添えを食った。

 

「おい、大丈夫か?」

 

腰をさすりながら、近藤は白人男性に声をかけたが、怯えた顔で男性は叫ぶようにつぶやいた。

 

「GIGANTIS!!」

 

走り去った白人男性の言葉が、近藤の頭に反芻した。

 

(巨人・・・・gigantis・・・・)

 

近藤はゴジラとぶつかるあの進化したカマキリを強く眼差した。奴の名前・・・。

 

(gigantis・・・ジャイガンティス・・・ギガン・・・・)

 

「・・・・ガイガン」

 

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