ゴジラVSガイガン2019   作:マイケル社長

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ー疑念ー

・6月4日 月曜日 16:37 イトゥルップ島クリリスク

※日本名:択捉島(北海道紗那郡紗那村)日本より1時間進んでいる点に留意

 

 

日本の友人と通話を終え、ジョージ・マクギルは空港から集落まで仰げる高台から北を臨んだ。

 

ここから北東へ約50キロに位置するベルタルベ山は、天空へ向けて黒い煙を吐き続けている。

 

ジョージはフリージャーナリストだが、択捉にいるのはまったくの偶然だった。

 

そもそも今回の取材は、ロシア極東地域の産業と生活に迫るという、ニューヨークの相当物好きな出版社からの依頼だったのだ。

 

とはいえフィラデルフィア・ドレクセル大学でロシア語とロシア史を学び、エクソンモービルに勤めていたころも頻繁にシベリアへ飛んでいた事実を鑑みると、ジョージへの依頼は至極まっとうといえた。

 

今回はシアトルから中国・北京を経由し、ユジノサハリンスクで水産業、足を延ばし国後・択捉島の再開発事業に密着するという行程だった。

 

幸か不幸か、択捉島着の翌日、ベルタルベ山が噴火してしまい、数少ない定期旅客便が運航停止に追い込まれていた。

 

そのぶん詳しく取材することができたが、同時に行政を管轄するクリル管区、及びロシア連邦軍の災害対応に違和感を強めていった。

 

2日前のことだ。

 

ベルタルベ山噴火後、ロシア連邦軍が調査ということで航空機と調査船をウラジオストクから派遣してきた。

 

だがクリリスク港に短時間停泊したのは、調査船とはまるでかけ離れた海軍駆逐艦3隻であった。

 

さらにクリリスク空港へ飛んできたのは、空対地、空対艦能力を備えたスホーイ30が数機・・・。

 

最初は調査とはまったく別の名目で、オホーツク海で海空合同実弾演習でもするものかと思った。

 

ところが昨日になり、駆逐艦・スホーイ30共に姿を消した。給油のみの停泊にしては奇妙だった。通常、実弾訓練といえど日中、陽が昇るのを待って行動するものだ。夜が明けないうちにいなくなるというのは不可解だし、そもそも島の上空は噴火により飛行が制限されているのだ。

 

もうひとつ、本日昼にベルタルベ山の噴火が強まったとして、クリル列島すべてに非常事態が宣言された。たしかに、『ドンっ』という爆発音の後、ひときわ大きな黒煙が北から上がったのは確認できた。

 

それでも、南北およそ1000キロに及ぶクリル列島と、サハリンからウラジオストクにかけてのロシア太平洋岸すべてに非常事態が出されたというのは解せない。

 

ジョージ自身、これより強い噴火を経験したことがあった。

 

2010年、アイスランドのエイヤフィヤトラ・ヨークトル噴火の際、ジョージはスコットランドで氷河跡の取材中だった。そのときは300キロ離れたアイスランドから噴き上げられた噴煙がはっきりと確認できた。それから10日間、欧州全域で航空機の運用が制限され、物流に大混乱を引き起こした。

 

今回はどうだ。ベルタルベ山からの噴煙は明らかにアイスランドのそれに劣っていた。

 

この規模であれば、せいぜい北方4島とウルップ島辺りへの警戒で充分なはずだった。

 

「マクギルさん、もう良いですか?」

 

運転手兼ガイドの現地人、レオニドが車の中から声をかけてきた。

 

「おお、そうだな。もう行くか」

 

ジョージは助手席に乗り込むと、ベルトを締めて座椅子にもたれかかった。どうも左側が助手席というのは慣れない。この車も、おおかた日本の北海道あたりから流れてきた中古車だろう。

 

旅客便が再開される見通しはつかず、まだしばらく外見だけ新しいカビ臭いホテルと、色だけ立派でイギリスの料理よりもマズイボルシチの厄介になりそうだ。

 

「マクギルさん、明日はどの辺りを巡りますか?」

 

通行量はそれなりだが、信号機がひとつもない極東ロシアの典型的道路を飛ばしながら、レオニドが訊いてきた。

 

「ああ、今朝宿のイワンが紹介してくれた漁師を訪ねてみよう。アポ取れるか?」

 

「着いたらやってみますよ。もう陸に上がったはずだ」

 

しっかり頼むぞ、高い給料払ってるんだからな・・・アメリカならそんなジョークのひとつでも飛ばしてやるが、融通の利かないロシア人にはただのイヤミになってしまう。

 

7年前、やはり択捉島に降りた際、まだ10代だったレオニドへ支払う日当は1500ルーブル(約25ドル)だった。それが今回は1日で10000ルーブル(約150ドル)にまで高騰していた。

 

ここ数年、国家の中枢からはるか遠く、辺境の地だったクリル列島にも、資本主義の洗礼が訪れたのだ。砂利道でもまともだった島内の道路も、アスファルトできれいに舗装され、軍と大型船の停泊を見越して、クリリスクの港は粗末な木造施設からコンクリートの最前線設備に成り代わっていた。

 

アメリカ人のジョージには、この島が日本のものかロシアのものか、わからないし審判する権利もない。少なくとも既成事実としてロシア領なのは違いないし、今後ますますその傾向は強まるだろう。

 

「おかしいな、また噴火かな」

 

運転しながら、レオニドはつぶやいた。

 

「噴火?あっちのベルタルベか?」

 

「いえいえ、あれですよ、ホラ。海の先」

 

レオニドが指さす方角―オホーツク海上から、うっすらとだが黒煙が上がっていた。

 

「あっちに陸地なんかあったか?」

 

「サハリン・・・いえ遠いですよね?」

 

「・・・レオニド、お前ここの漁師の頭目にコネあるか?」

 

「ええ?まあ・・・母の同級ですから」

 

「これから話聞けるか?」

 

「きいてみますけどね・・・なんだってそんなこと?」

 

ジョージは答えなかった。

 

おそらくは、疑念の回答があの黒煙だろう。

 

こんなこと軍に正面切って訊けない。こんな田舎では、地元のことなら何でも詳しい顔役に突撃取材してみるに限る。

 

 

 

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・6月4日 月曜日 17:07 ロシア連邦 ウラジオストク

ロシア海軍太平洋艦隊司令部 ※日本より1時間進んでいる

 

 

『ソナー感、接近・・・急速に接近中!本艦に衝突します!』

 

ほぼ悲鳴のような報告の後、鉄が折れ曲がる耳障りな高音がつんざいた。

 

「・・・・いまから30分ほど前、イトゥルップ島沖合30キロです」

 

駆逐艦との交信記録を持ってきた通信担当副官は、顔面が真っ青のまま力なく言った。

 

両手を組んだまま、太平洋艦隊司令のレニング・シルパトキン海軍准将は顔を上げた。

 

「駆逐艦ボエヴォイとの通信はそこまでかね?」

 

「はい・・・交信途絶の6分後、2キロ先沖合を航行中の駆逐艦ブールヌイが、ボエヴォイの沈没・・・もとい、轟沈を確認しました」

 

轟沈・・・そこまでの表現を用いるにしかるべき状況だった。

 

「駆逐艦ボエヴォイは艦体を2つに折り、断裂部から出火。搭載火器に引火し爆発を繰り返しながら沈んだとの報告です」

 

「して、ブールヌイは?」

 

「は、ボエヴォイの轟沈直後から、現場海域を捜索。レーダーに反応なく、威嚇用爆雷散布の用意に入ったところ、1キロ離れた僚艦ベズボヤーズネンヌイが突然爆破・・・ブールヌイの救助へ向かうと報せあり。ブールヌイとの交信記録です」

 

副官はラップトップのキーを叩いた。

 

『ベズボヤーズネンヌイ、激しく炎上。ただいまより消火、救援・・・あれは!?あれは・・・目標浮上、繰り返す、目標、浮上!!』

 

『ブールヌイ、どうした?状況、しらせ』

 

『我、目標と邂逅!艦長より交戦許可!』

 

ブールヌイの通信担当の声から、驚愕以上に恐怖が痺れるほど伝わってきた。

 

『我、目標へ砲撃開始、繰り返す、砲撃開始!!』

 

報告の声は、腹にドンと響く砲撃音に負けぬ大きさだった。

 

『艦隊司令部、近接航空支援を要請!砲撃、効果なし!繰り返す、砲撃、効果なし!近接航空支援を要請、至急!至急!』

 

(あれはなんだ!?)(背びれが光ってるぞ!)

 

『艦隊司令部、我、目標からあああああああーーーー!!??』

 

「・・・・その後は?」

 

「イトゥルップの噴火を避け、ユジノサハリンスクに駐機していたスホーイ30の5機編隊が、通信途絶後10分で現場海域に到達。目標姿なく、炎上するブールヌイを確認したとのことです・・・。現在、当司令部所属の救助船マシュークが現場へ向かっております。また、ニコラエフカ対潜哨戒機編隊が継続して捜索中です」

 

シルパトキンは沈みゆく気を奮い立たせ、まずは頭の中で状況を整理した。

 

「モスクワの国防大臣宛に至急連絡。作戦、失敗。ただちに別命指示を請う」

 

副官は頷くと、敬礼して司令執務室を後にした。

 

もはや、コトは当司令部のみで収まることではなくなった。

 

貴重な駆逐艦を3隻も失ったこと以上に、“ヤツ”には現代の最精鋭兵器がまったく通用

しないこと、そもそも事前に発見することが不可能である、という事実には暗澹たる思いだった。

 

昨日、得撫島の駐屯部隊から報告を受け、「可及的速やかに撃滅せよ、無用の混乱を招くな・・・」モスクワの海軍総司令の命令には愕然とした。

 

領海内での実弾演習、並びにクナシル・イトゥルップの噴火警戒。とにかく適当なお題目で攻撃艦隊を編成。哨戒に当たらせ、目標発見後、速やかに撃滅すべし・・・そう命じた当初は、ごく簡単に発見・駆除が可能と考えていた。

 

だが期せずして、海上警報が届くかどうかのタイミングで日本の漁船が沈没させられた。当艦隊の索敵能力に疑義はない。相手は最新の索敵機器を易々とくぐり抜けられる・・・その頃から、歯車が狂い出した。

 

一昼夜かけても発見には至らず、結局、撃滅のため出港した駆逐艦が撃沈された段階で、ようやく発見。肉眼でようやく会敵できたということは、すなわち会敵後即攻撃を意味した。そして、攻撃は通用しなかった・・・。

 

シルパトキンは受話器を上げ、緊急回線のボタンを押した。

 

モスクワのくそったれ総司令を恨むことはいくらでもできる。駆逐艦喪失の責任を取らされ、艦隊司令の職を解任させられる覚悟もできている。

 

せめて、不本意とはいえ事態を混乱、悪化させた罪滅ぼしをしよう。それがおそらく、自分の艦隊司令として最後の仕事だ―。

 

「シルパトキン准将だ。まず、市長につないでくれ」

 

受話器を持ったまま、シルパトキンは駆逐艦撃沈地点を指でなぞった。

 

「それから、ウラジオストク日本総領事も頼む」

 

 

 

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