アルベルトとバーナードに、《業魔の塔》への帰投命令を出した後。
私が塔に戻ってきたのは、真夜中。まぁ、日付が変わる直前だった。
(……疲れた)
そして眠い。
何をしていたかというと、複数の任務だ。
本当ならこんな時間までやる必要はない。………ないのだが、そうすると部下に回す任務が増えてしまう。
で、そうなると部下の不満も増すだろう。結果、不満を爆発させた部下は辞めていく。
そんなこと考えながら特務分室の職務室に入った。その一番奥にある室長用、つまり私用の椅子に深々と腰掛けた。
そのまま寝たかったが、両頬を叩いて眠気を堪える。まだこれから報告書の作成をしないといけない。
そして報告書の作成に取りかかろうとしたところで、職務室に一人の女性がいることに気がついた。
普通なら気づかないわけないのだが、どうやら本当に疲れているらしい。
私は彼女に話しかけた。
「こんな時間まで起きてたのね、セラ」
「そういうイヴこそ。今までどこに行ってたの?」
セラ=シルヴァース。特務分室所属の魔術師で、執行者No.3《女帝》。
遊牧民族シルヴァース家の出身で、その族長の娘にあたる元お姫さま。綺麗な白髪と透き通るような白い肌を持つ美しい女性。その肌に刻まれた真っ赤な紋様が目を引く。
いつもは自分で改造した南国風の魔導礼装を着こなしている彼女だが、今は薄手の上は半袖で下はロングスカートという寝間着姿だ。
いかにも「私は怒ってます」と言いたげに、彼女は頬を膨らませていた。
(可愛い)
しかし怒っているのは確かなようだ。
「に、任務。そう任務よ。予想外の事態が起きたから、それで」
「一人で?」
無言で目を逸らした。
ちなみに予想外の事態とか遭遇してない。完璧に嘘である。
そして彼女の言う通り、私はさっきまで一人で任務をこなしていた。そしてそれは、今回に限ったことではない。
それがバレる度にセラはこんな感じになる。
「別にいつものことでしょ」
「それがダメだよ」
そう言いながらセラは私の机まで近寄り、上半身を私の方に乗り出させる。
「ねえ、私何回も言ってるよね?無茶はしないでって、そういうのはダメって。たった一人でこんな時間まで任務をするなんて無茶以外の何でもないよね。貴女が強いのは知ってるけどそれでも危ないんだから」
………セラってこんな饒舌だっけ?というのが、原作の彼女を多少なり知っている私の感想だ。
「あ、そうだセラ」
「何?まだ話は終わってないよ」
そんなどこか不満そうな雰囲気を醸し出してる彼女に、私は机の下に隠していた酒瓶を取り出して突き出した。
「ちょっと付き合ってくれる?」
彼女はキョトンとした表情を見せた。
次はセラの視点で書こうと思います。