ロクでなしの紅炎公(憑依)   作:紅ヶ霞 夢涯

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 待たせたな………私はここだ!!←言ってみたかった

 気づけばもう8月。長らく更新停止して申し訳ありません。更新してなかった間にスマホも変えたので、これまでとは地味に字体が変わっているかもしれないです。


第20話 正義

<sideグレン>

 

 イヴからED郵便社についての話を聞き終わった後、俺と爺は社屋の空き部屋で朝まで休むことになった。セラはイヴと社長室の奥にある部屋で寝るらしい。

 

 爺はもうとっくに寝た。先ほどから煩いいびきをかいている。

 

「…………眠れねえ」

 

 大きな窓を開いて身を半分ほど乗り出し、月が輝く夜空を見上げる。

 

 眠れないのは爺のいびきが煩いだけじゃない。ED郵便社に乗り込む前にセラと交わした会話のせいだ。

 

 『正義の魔法使い』。何を切り捨てることもなく、全てを救うことができる理想の存在。

 

 今になっても捨て切れない………俺の夢。

 

「けど俺からイヴにそれを聞くってのも、何かなぁ」

 

 別にあいつとの仲が悪いてわけじゃないと思う。普通に話すし何度か組んで任務をしたこともある。

 

 けどセラほど仲が良いというわけでもない。頼りになる存在ではあるが、間違っても友達なんて間柄ではないだろう。

 

(何つーかこう、微妙な距離感なんだよな)

 

 そうとしか言いようがない。

 

 もう寝るかと考えたそのとき、上から声を掛けられた。

 

「寝れないの?」

 

 顔を上げれば屋根に登っているらしいイヴが居る。蝶の髪飾りを外して髪を下ろした、シンプルな青色の寝間着姿。その手には酒瓶を持ち、口には火のついた煙草を咥えている。

 

「だったら上がってきて、グレン。少し付き合いなさい」

 

<sideout>

 

 

 

 

 

 

 

 [グラビティ・コントロール]を使って屋根の上に登ってきたグレンを横に座らせる。

 

「何の用だよイヴ。今日はもう休めって言ったのテメェだろ」

 

 そう言った彼に適当に錬成して作ったグラスを手渡し酒を注いだ。

 

「用があるのはグレンでしょう?さっきもED郵便社のこと以外で何か聞きたそうだったし」

 

 それが気になっていたのでまだ起きているなら聞いてみようと思い、こうしてグレンを呼び出してみた。

 

 そして尋ねてみれば案の定、何かしら私に聞きたいことがあるらしい。少しだけ迷う素振りを見せたが、グレンは口を開いた。

 

「イヴ、お前は……『正義の魔法使い』を知っているか?」

 

「『メルガリウスの魔法使い』のこと?それなら目を通したことくらいはあるわ」

 

 曰わく、ロラン=エルトリアの最高傑作。正義の魔法使いが魔王を倒し、お姫さまを救うという王道の物語。

 

「違う。それ以外でお前は知ってるんじゃないのか」

 

「ーーーそう、ね」

 

 私は小さく呟いた。

 

 確かにそれに準ずる人物を、正義(理想)を志した人を私は知っている。

 

 理想の王足らんとした、アルトリア(アーサー)・ペンドラゴン。彼女は理想の王であるために人であることを止め、そして見事に一時の繁栄を国にもたらしてみせた。しかし己の全てを捧げ国に尽くすも空しく故国は滅亡し、彼女は誰に理解されることも、誰を理解することもなかった。

 

 世界の天秤を担おうとした衛宮切嗣。聖杯を用い恒久的な世界平和を成そうとした彼は、愛した妻を失い子供と会うことも出来なくなり、この世全ての悪(アンリ・マユ)に呪われた。

 

 英霊エミヤ(衛宮士郎)。正義の味方の成れの果て。彼は正義の味方を目指し、その果てに絶望した。彼は生前から人を助け続け、死後さえより多くの人を救えると信じ英霊となった。しかし夢を叶えた筈の彼は、己を殺そうとするまでに己自身に絶望する。

 

(悟らせたつもりはなかったけれど………まぁ言い方が良くなかったかしら?)

 

 正直そんな話をしたのもいつだったのか覚えていない。

 

 煙草の火を携帯灰皿に押しつけて消し、コップに注いだ酒を飲み干す。そうしてからゆっくりと口を開いた。

 

 

「『とある男の話をしよう』」

 

 

「は?」

 

 何か言いたげなグレンを手で制し、意識して遠くへと視線を投げる。

 

「『誰よりも理想に燃え、それ故に絶望していた男の物語を』」

 

 かつてのグレンであれば話すつもりなどなかった。

 

(だって万が一にも憧れでもしたら嫌だもの)

 

「『男はこの世の誰もが幸せであって欲しいと願った。全ての少年が一度は胸に抱き、そして捨てていく幼稚な理想』」

 

 その生き様を格好いいと思うのも構わない。別に同情するのだって止めはしない。

 

 だがそれに憧れ、その対象を目指すというなら話は別だ。彼らは断じて人が憧れていいものではない。

 

 少なくとも憧れだけで目指していいものではないと、そう思う。

 

(………………けど)

 

「『だがその男は違った』」

 

 ようやくグレンは夢よりも大切なものに気づきそうなのだ。いや、あるいは既に気づいているかもしれない。

 

「『全ての生命が犠牲と救済の両天秤に載っているのだと悟り、決して片方の皿を空にできないと理解した時、彼は天秤の計り手たろうと志を固めた』」

 

 何も夢を諦めろとまでは言わない。ただもう少しだけ、現実を見てくれる切欠になればそれでいい。

 

「『より多く、より確実に世界から嘆きを減らそうと思うなら、取るべき道は他になかった』」

 

(それにどうも耳を傾けてるのはグレンだけじゃないみたいだし)

 

「『それは多数を生かすために、少数を殺し尽くすという行為』」

 

 屋根の縁に目を向ける。そこにいるのはジャティスがよく使っている人工精霊だ。

 

「『故に彼は誰かを救うほどに人殺しの術に長けていった』」

 

 彼が興味を抱くような話ではないと思う。だがジャティスの方から聞いてくれるというなら………。

 

「『手段の是非を問わず、目的の是非を疑わず。ただ無謬の天秤たれと、男は分け隔てなく人々を救い、分け隔てなく殺していった』」

 

 否。あるいは歪んだ正義を高々と掲げるジャティスにこそ、もっと早くに語っておくべきだったかもしれない。

 

「『だが彼は気づくのが遅すぎた。全ての人を等しく公平に尊ぶならば、それは誰一人として愛さないのと同じこと』」

 

 今更ジャティスに何を語ったとしても意味はないのだろうけれど、それでもどうか聞いて欲しい。

 

「『若い心を凍らせ壊死させ、血も涙もない計測機械として己を完成させていたなら、苦悩もなかっただろう』」

 

 同じような手段を取りながらも、それでも優しい心を失わなかった男の話を。

 

「『だがその男は違った』」

 

 グレンはどう思うのだろう。やはり理想は理想でしかなかったと、そう言うのだろうか。

 

「『誰かが歓喜する笑顔は彼の胸を満たし、誰かの慟哭する声は彼の心を震わせた。無念の怨嗟には怒りを供にし、寂寥の涙に手を差しのばさずにはいられなかった』」

 

 ジャティスきっと、愚かな男だと笑うことだろう。正義を為しているのに何を悩んだのかと。

 

「『人の世の理を超えた理想を追い求めておきながらーーー彼はあまりに人間すぎた』」

 

 

 

 

 

 

 

「『そんな愚かな男の物語をーーー』」

 




 
 語るのは皆様お察しのFateを代表する『正義の味方』です。次は独自解釈等入ると思われるので、嫌いな方はどうか読み飛ばして下さい
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