ロクでなしの紅炎公(憑依)   作:紅ヶ霞 夢涯

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 前話の後書きの通り、読み飛ばして下さって構わないお話です。


第21話 正義2

 それは『正義の味方』になりたかった、一人の男の物語だった。

 

 ある島に住んでいたときに、初恋相手の少女が魔術師である父の試薬を持ち出し死徒化し、島は壊滅。

 

 父の研究を放置すれば被害は増え続けると考えた『彼』はその手で実の親を殺害した。

 

 それからは島で出会った殺し屋の女性に師事し世界を巡る。父のように周囲を巻き込む魔術師を多く目の当たりにする中で、『彼』はその女性に対して母親同然の情を抱く。

 

 だがある一件の依頼を引き受けたことで、彼らの生活は終わりを告げる。

 

 それは蟲使いの魔術師を殺すという依頼だった。その蟲使いが船で移動するタイミングを見計らって、蟲の入ったケースを己から離した状況で殺しを実行した。

 

 まず女性が蟲使いと同じ船に乗り込み、蟲使いが持ち込んだ蟲を全て殺虫。それから蟲使い本人を客席真っ只中で魔術を用いて暗殺した。

 

 『彼』は船の行く先で何かあったときのために待機。船にいる女性からの定時連絡があったときは、何も予定外のことなどないかに思われた。

 

 しかし“何か”が起きてしまった。蟲使いが死んだことにより、蟲使いが体内に仕込ませていた蟲たちが暴れたのだ。

 

 船内の乗員乗客は全員が死亡、あるいは死徒となり、生き残れたのは操舵室に立てこもった殺し屋の女性だけだった。

 

 彼女は船を元々の目的地まで操りながらも、その後にどうすればいいのか分からなかった。そんな状況で『彼』は言った。

 

『僕に任せてくれ。いい考えがあるんだ』

 

 そう言った『彼』は女性にそのまま船を進めるようや告げ、自分は馴染みの相手からある魔道具を急ぎで取り寄せ、そして個人用の船で深い霧の中で海の上を移動していた。

 

 その間、彼らはずっと言葉を交わし続けた。

 

 彼らが出会ったときのこと。『彼』が女性の殺し屋稼業を手伝いたいと言ったときのこと。それに酷く頭を痛めたものだと女性は言う。『彼』はそんなに見込みがなかったのかと聞いた。それに女性は応える。

 

『アンタには素質があったさ。けどね、素質に沿った生業を選ぶってのは………必ずしも幸せなことだとは限らない。何をしたいか考えずに、何をすべきかだけで動くようになったらね。そんなのはただの現象だ』

 人の生き方とはほど遠い。

 

 『彼』は女性のことをもっと冷たい人だと思っていたと言い、女性はそれに当たり前だろうと笑う。私が坊やに優しくしたことなんて、一度でもあったのかいと。

 

『そうだね、貴女はいつだって手加減なくて厳しかった。照れくささ抜きで、僕のことを絞ってくれたな』

 

『普通、男の子を鍛えるのは父親の役目なんだけどね………そのチャンスを奪ってしまったのはが原因私みたいなものだから、引け目を感じないでもなかったのだろうさ』

 私に教えられる生き方なんて、他にはなかったからね。

 

 『彼』は船を止めて取り寄せた魔道具を組み立てながら、女性の話に耳を傾け相づちを打つ。

 

『アンタ、僕の父親のつもりかい』

 

『男女を間違えるんじゃないよ、失礼な奴め。せめて母親と言い直せ』

 

『ーーーそうだね、ごめん』

 

 笑いを零して女性は言う。

 

『ま、それなりに面白おかしいもんだったよ。家族、みたいなのと一緒にいるのは』

 

『僕も………僕もアンタのこと、まるで母親みたいに思っていた。一人じゃないのが、嬉しかった』

 

『あのねぇ、■■。次会ったときに気恥ずかしくなるようなこと、そう続けざまに言うのは止めろ』

 

 女性は『彼』の名前を呼んで呆れたように言い、再び微かに笑い声を上げた。

 

『ああっもう!調子狂うねぇ………あと20分かそこらで着港だってのに、土壇場で思い出し笑いなんぞしたら死ぬんだぞ、私は』

 

 それを聞いた『彼』は口元を僅か緩ませた。

 

『ごめんよ。分かった』

 

 その手に魔道具、広域を殲滅可能な魔術を込められたそれを携えて。

 

 

 

 

 

 

 

 いつの間にやら家族ごっこで気が緩んでいたせいで、こんなドジを踏む羽目になったのかもしれない。だとしたらもう引退するべきかとそう言った女性に『彼』は尋ねた。

 

『仕事を辞めたらアンタ、その後はどうするつもりだ?』

 

『失業したら………ふふっ。今度こそ母親ごっこしかやることがなくなるなぁ』

 

 それを聞きながら『彼』は魔道具の照準を、ゆっくりと見えてきた船へと向けーーー

 

『アンタは僕の、本当の……家族だ』

 

 引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 船だったものが海に沈む。爆散した船の一部が宙に舞い踊り、死徒だったものの肉片が燃え尽きる。

 

 船に乗ったままの母親同然であった女性ごと。

 

 ガタン、と音を立てて魔道具が手から落ちた。

 

『見ていてくれたかい?■■■■』

 

 『彼』が声に出したのは初恋の少女の名前。そして身体から力を抜いて、両膝を甲板に下ろした。

 

『今度もまた殺したよ。父さんと同じように殺したよ。君のときみたいなヘマはしなかった……僕は、大勢の人を救ったよ』

 

 誇るような言葉とは裏腹に、その表情は歪みだしている。

 

『彼女が無事に港に着いたりしたらどれだけの被害が出るか、分からない』

 

 『彼』は歯を食いしばって言葉を吐き続ける。

 

『彼女一人の犠牲でそれは防げるんだ。……だから………だからっ………■■■■』

 

 嗚咽を漏らしながら『彼』はうずくまった。

 

 絶叫が響いた。

 

 ふざけるな、ふざけるなと何度も繰り返す。甲板に拳を叩きつけ、その両目からは涙が零れる。

 

 『彼』の脳裏に浮かぶのは、いつかあの島で初恋の少女と交わした会話。

 

 彼女からどんな大人になりたいの、と。そう聞かれたとき、一体なんと答えようとしたのだったか。

 

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