ロクでなしの紅炎公(憑依)   作:紅ヶ霞 夢涯

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 今回の後半からはちゃんと本編なので読んで頂きたい。


第22話 正義3

そして幾ばくかの時が過ぎたある日、『彼』は赤毛の少年と共に満月が浮かぶ夜空を見上げていた。

 

 その少年はかつて『彼』が行った魔術儀式の生き残り。

 

 その魔術儀式の内容は恒久的世界平和を実現する一心で臨んだ、あらゆる願いを叶える万能の釜ーーー聖杯を顕現させるというもの。

 

 しかし聖杯が完成する直前に『彼』は気づいた。

 

 聖杯が致命的なまでの呪いを孕んでいることに。

 

 仮に『彼』が恒久的世界平和をその聖杯に願ったりしたならば、聖杯は争いを起こす人間を全て滅ぼして、結果的には世界に平和を齎すだろう。

 

 故に『彼』は聖杯を破壊した。例え『彼』が愛した妻を核にしたものであっても、それでも妻を犠牲にすれば多くの命が助かるのだと、涙ながらにそう言って。

 

 だが聖杯を破壊したときに中身が溢れてしまった。膨大な魔力に世界を滅ぼし得る呪いを宿したそれーーー聖杯の泥は、儀式を行った街一つを容易く焼き尽くした。

 

 建物も人も何もかもが燃えていく中で、唯一助けることができたのがその少年だった。

 

『子供の頃、僕は正義の味方に憧れてた』

 

 『彼』が月を眺めながらそう言えば、少年は不満そうに言葉を返す。

 

『何だよそれ。憧れてたって、諦めたのかよ』

 

『うん、残念ながらね。ヒーローは期間限定で、大人になると名乗るのが難しくなるんだ』

 そんなこと、もっと早くに気づけば良かった。

 

『そっか………それじゃあしょうがないな』

 

『そうだね。………本当に、しょうがない』

 

 自嘲するような響きで言う『彼』に向けて、少年は明るく言い放つ。

 

『うん、しょうがないからーーー俺が代わりになってやるよ』

 

 え?と零す『彼』へ、さらに少年は続けて言う。

 

『爺さんは大人だからもう無理だろうけど、俺なら大丈夫だろ。任せろって』

 

 

 爺さんの夢はーーー

 

 

『……そうか。あぁーーー安心した』

 

 そして『彼』は眠るように息を引き取った。その死の間際に浮かぶのは、いつかの夜にあの島で交わした少女との会話。

 

『■■■はさ、どんな大人になりたいの?』

 

 

 僕はねーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー正義の味方に、なりたいんだ

 

 

 

 

 

 

 

「今の話のどの辺りに『正義の魔法使い』要素があったんだよ」

 

「そんな要素が、分かりやすくあるわけないじゃない」

 

 落胆の雰囲気を隠しもしないグレンに言えば、彼は「分かってたよ」と呟いて顔を伏せる。

 

「それでも“何か”があるかもしれないって、そう勝手に期待してただけだ」

 

「………そう。期待に沿えなくて悪かったわね」

 

 屋根の上で立ち上がり寝間着を叩くと同時に「でも」と口を開く。

 

「『彼』は幸せだったと思うの」

 

「そんなわけ、あるか………。実の親を自分の手で殺して、親同然の人すらその手に掛けたんだろ?妻を犠牲にしたのも無意味だったんだろう?」

 それで幸せなわけがねぇだろ。

 

「そうかもしれないわね」

 

 グレンの言葉に頷く。確かにそういう見方をする人もいるだろうし、まして幸せと言う私の方が稀だろう。

 

 だけど。

 

「それでも最後にその手は届いたから」

 

 それまで“殺す”という手段でしか何かを為せなかった『彼』が、たった一人だけでも“助ける”ことができたのだ。

 

 だからきっと報われた。救われた。

 

「別にグレンの手が届いてないとか、そんなことは言わない。貴方に自覚がなくても、貴方が救った命は確かにあるもの。

 私はただ貴方が自分の夢を大事にしているのと同じくらい、現実で大切なものを守って欲しいと思っただけ。夢を叶えるためにしている努力を、少しでいいから現実に向けて欲しいだけ。ーーーあぁ、でも」

 

 言葉を切った私にグレンは先を促すような目を向けたけど、「何でもない」とだけ言って首を横に振った。

 

 ーーーセラがいるならわざわざ言う必要もなかったかもね。

 

 そう胸の内で呟いて。

 





 もうちょっとだけ続きます。この話を聞いたもう一人がまだ出せていないので。
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