「でもね、ジャティス………」
今日は普段よりも多く酒を飲んだせいだろうか。
頭がぼぅっとしたままの私がジャティスに向ける声は、弱々しいことこの上なかった。
「人を助けるって、信じられないくらい難しいのよねぇ」
黙ったままで何も言わない彼だが、耳を傾けてくれているのは何となく分かった。
「どれだけ人を助けようと手を伸ばしても届かない。出来ることなんて、ただ任務で悪人を殺すだけ。もう生きることさえ苦痛でしかない人を殺すだけ」
人を助けたい、誰かの助けになりたい。一度は誰もが抱くようなそれが、こんなにも難しい。
「そういうことは、セラかグレンにでも言ったほうが良い。僕に言っても仕方ないだろう?」
「貴方だから言うのよ」
セラに言えば自分のことでもないのに真剣に聞いて、それでも優しく「そんなことはないよ」と言ってくれると思う。
グレンに言えば………どうだろう。きっと価値観を重ねたり、共感したりするんだろう。
「でもジャティスはそんなことしないでしょう?」
形はどうあれ己の中に確固とした『正義』を持つジャティスは、私がこんな風な弱音を吐いたところで気にはしないと思ったから。
〈sideジャティス〉
「それにね。人を助けるっていうのは、命を救うことだけでもないと思ってるわ」
「………それで、この会社かい?」
ED郵便社。誰かを助けたその後の為に、イヴが設立した会社。
「えぇ。人の命を救えたとしても、きっとそれだけじゃ駄目。救うばかりで導くことをしないのなら、いつかどこかで何かが狂う」
イヴは確信めいた口調でそう言った。まるで実際にそうなったものを知っているかのよう。
(いや、まさか)
軽く頭を左右に振って馬鹿げた考えを捨てた。そんな話、国中探しても聞いたこともない。
「導く、か。それは“王”の役割だ。僕にも君にも関係のない話でしかない」
「………そうね」
肯定するようにイヴは呟く。しかし直後に力強く言葉を吐き出した。
「なら私は“王”になる。この国の女王はアルシア陛下だけれど、少なくとも私は私が預かった人に誇れる王になる」
「っ……!」
思わず息を飲んだ。口先の言葉ではなく、彼女は常日頃からそう思っているのだと、そう在ろうとしているのだと理解させられた。
「………何か、余計なことを喋ったわね。忘れて頂戴」
そう言って顔を俯けたイヴは寝てしまったんだろう。「一体何を目指しているのか」と言っても、何の反応もしなかった。
入ってきた時と同様に窓から外へ出る。そしてフェジテの街中を歩きながら。
ギシリ。
軋む音がするほどに歯を噛み締め、強く握り締めた拳を近くの壁に打ち受ける。
認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めるわけには、いかない。
悪を裁くことこそが『正義』の本懐だ。その為ならどんな犠牲も厭わない。まして犠牲を躊躇して悪を逃すなどあってはならない行為だ。
事実、『正義』たる僕はそうしてきた。今後もそれは変わることはない。何があろうと、僕は僕の『正義』を為す。
けどもしもイヴの言うように、誰かを助けることが『正義』なら。
助けようとすることもしない僕は………