「それにしても、イヴって剣もあんな上手に使えるんだね。知らなかったなぁ、私」
リィエルとの模擬戦を終えて、アルベルトとグレンが彼女を連れて行った後。私はセラと《業魔の塔》を歩いていた。
「確かに今までは皆の前で使う機会は少なかったかもね」
言って以前から感じていた違和感に顔を顰める。
当然すぐ隣の距離でセラがそれに気づかないわけもなく、怪訝そうな表情で「どうかした?」と聞かれる。
「そう、ね………」
普通に使う分には問題はない。先ほどのリィエルとの模擬戦でも全集中の呼吸を使用したけど、特に身体の方に不調は感じられない。
だが、違う。
恐らく今の私は『鬼滅の刃』の主人公、竈門炭治郎と同じような状態にあるのだと思う。水の呼吸を修めながらも、彼はそれに適した身体ではなかった。一撃の威力が高い呼吸は別にあった。
呼吸を派生するなり、全く別の呼吸を試すなりすればどうにかなるかもだけど。
(全く別のならともかく、呼吸の派生ってどうやったらいいの?)
炎の呼吸をこの身に修めるだけで、かつて死にかけたという過去がある。他の呼吸を試すのも派生させるのも、正直に言えば恐ろしい。
でも仮にもし試すなら基本の水、雷、風、岩のどれかか。あるいは柱が使っていた音、霞、恋、蟲、蛇………いや音はまだしも他四つはないか。私らしくないにも程がある。
あるいはーーーーーーーーー
「イヴ?」
「あ、ごめんなさい。少し考え事をしてたわ」
「何を考えてたの?」
「え………っと、リィエルのこと」
そう言って私が自分の私室に入ると当たり前みたいにセラも入ってきて、ベッドに飛び込んで横になる。それを眺めながら私は椅子に腰掛けた。
机の引き出しから書類の束を取り出して、その内容を確認しながらペンを走らせる。
呼吸のことは私がどうにかするべきことだろう。それにリィエルのことで考え事がないわけでもないから、嘘というわけでもない。
「今後はあの娘にも人殺しをさせると思うと、何だか少しだけ憂鬱になってしまってね」
生まれて間もない無垢で無知な彼女をそうと知りながら私は、この道にリィエルを引きずり込むのだ。
例え特務分室に入るきっかけを作ったのがグレンであっても、最終的にそれを認めるのは他でもない私だ。
「大丈夫だよ、イヴ」
ともすればグレンが入隊したとき以上の罪悪感を覚えている私に、セラは微笑んで優しい声を掛けてくる。
「だってイヴは優しいから」
「ーーーそう。ありがとう」
言って彼女から顔を背ける。セラはこういうことを素で言うからちょっと困る。いや嬉しいけども。
少ししてセラは部屋から出て行った。何でもリィエルと話して仲良くなりたいとのこと。行動力が凄いというか、その辺りはどうにも相変わらずだ。いつの間にかシノブのことも、ちゃん付けで呼ぶようになっていたし。
「これから先はこれまで以上に大変になるわよね………けど、全員揃ったんだから弱音なんて吐いてられないわ」
この先に何が起こったとしても、私がどうにかしなければならないのだから。
「一先ずは……あの娘に業務連絡するところから始めようかしら」
家族として接するのはもう無理かもしれないけど、せめて仕事上の関係くらいは築いたって構わないだろう。いや彼女がそれも嫌がるなら話は別だけども。
そう思いながら私は通信魔導具を起動してシノブに繋いだ。
それはそれとしてセラだけリィエルと仲良くしようというのは何だかズルい。私も彼女と距離を詰める時間を設けた方がいいのだろうか。あの娘は私物なんて全然持ってなさそうだし、服とかプレゼントするのも悪くないかも。