ロクでなしの紅炎公(憑依)   作:紅ヶ霞 夢涯

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 言ってませんでしたが、原作までかなり長いです。
 


第3話 セラ=シルヴァース(裏)

 

<sideセラ>

 

(遅い……)

 

 私、セラ=シルヴァースは特務分室室長にして、また私の友人でもあるイヴが戻ってくるのを、特務分室の職務室で待っていた。

 

 しかしそれが予想以上に遅い。

 

 イライラするのを自覚しながら待ち続けること数時間、結局彼女が戻ってきたのは日付が変わる直前だった。

 

 室長用の椅子に腰掛けた彼女は少しして、今私に気づいたという風な反応をする。

 

(やっぱり気づいてなかった)

 

「こんな時間まで起きてたのね、セラ」

 

「そういうイヴこそ。今までどこに行ってたの?」

 

 意識して微笑みを浮かべながら私は言った。

 

 イヴ=イグナイト。

 

 アルザーノ帝国宮廷魔導士団特務分室。その室長を代々務めているイグナイト家の娘で、執行者No.1《魔術師》。

 

 思わず目を引かれる美しい深紅の髪と紫炎色の瞳を持っていて、同じ女性の視点から見ても非常に容姿が整っていると思う。

 

 数分後、その彼女の部屋に私は居た。こんなつもりはなかったのだけど、その場の流れとしか言いようがない。

 

 随分と座り心地の良さそうな椅子に座って、チラリと彼女に視線を送る。

 

 私は彼女が《業魔の塔》に帰還する前から薄手の寝間着で、イヴも私に合わせるようにラフな格好に着替えた。

 

 非常に丈の短いワンピースタイプの寝間着の下に短パンという、彼女をあまり知らない人からしたら信じられない格好をしている。

 

 惜しげもなく白い太腿が露わになるけど、彼女にそれを気にする様子はない。

 

(私服ってだけで、こうも雰囲気は変わるものなのかな?)

 

「お酒で機嫌取ろうたって、そうはいかないからね」

 

「べ、別にそんなんじゃないわよ」

 

 どこからかグラスを持ってきたイヴは、私から顔を背けてそう言う。

 

(あ、これ図星だ)

 

 そう思いながら、いかにも高そうなお酒が注がれたグラスを彼女から受け取り一口飲んだ。

 

(……美味しい)

 

「悪くないでしょ?」

 

 それが顔に出たのか、イヴは悪戯っぽく笑みを浮かべている。

 

「うん……。本当に美味しいよ、これ」

 

「気に入ってくれたみたいね」

 

 満足気に彼女はグラスを傾ける。

 

 それから何を話すでもなく、ただ心地よい時間を幾ばくか過ごした頃。

 

 私からイヴに話しかけた。

 

「ねぇ、イヴ」

 

「……何?」

 

 酔っているのか、イヴの頬は軽く赤みを帯びていた。きっと私も似たような感じに出来上がってると思う。

 

「私の夢、聞いてくれる?」

 

 また人の言うことをロクに聞かなかったことについて何かしら言いたい筈だったのだけど、今は何故か私のことを彼女に話したかった。

 

 すでにイヴが知っていることも含めて、最初から口にする。

 

 私の故郷が隣国のレザリア王国に滅ぼされたこと。そこを取り戻したいが為に、旧き盟約に従ってアルザーノ帝国の力になっていること。アルディア草原の、故郷の優しい風やその風景が好きだということ。

 

 そしてーーーーーーいつか再び、あの草原に帰りたいということ。

 

 その全てをイヴは何を言うでもなく、ただ黙って聞いてくれた。

 

「あ、はは……。ごめんね?急にこんなこと言っちゃって」

 

(何言ってるの私は、本当に)

 

 酔った勢いだと誤魔化すように、グラスに注いだお酒を一息に飲み干す。

 

「故郷、ね。それがセラの夢なの。でも分かってるでしょう?それは」

 

「うん、分かってる。でも、それでも………」

 

 イヴが言いたいことくらい理解している。この国の現状だと、それが難しいどころか不可能だってことは。

 

 ーーーそれでも。

 

「諦めるなんて、出来ないよ」

 

「………ふぅん、そう」

 

 私の言葉にイヴはそう言って、自分の顎に指先を添える。

 

 失望されただろうか。軽蔑されただろうか。それとも諦めろと罵倒されるだろうか。

 

(それは………嫌だなぁ)

 

 しかし僅かな沈黙の後、イヴはとんでもないことを口にした。

 

「じゃあ私が連れて行ってあげる」

 

「え?」

 

 思わず聞き返した。

 

 しかしイヴは私の反応に気づいてないみたいで、窓の外に視線を投げている。

 

「貴女の故郷を取り戻すなんてことはできないけど、一回見に行く程度ならどうってことないわ」

 

 自信に満ち溢れた表情に、私は何も言えなかった。

 

 もしかしたら、彼女ならばと思った。

 

「だからその時、もし貴女さえ良ければ私に故郷を案内して頂戴。約束よ?」

 

「………………………いいの?」

 

「当然じゃない。だって私たち友達でしょう?」

 

 それだけで。たったそれだけの理由で、きっと本当にいつか実現するだろうという気がした。

 

「ホント?嘘じゃないよね」

 

「ホントよ」

 

 私は彼女に右手の小指を伸ばす。

 

「それじゃあ、約束っ」

 

「えぇ、約束」

 

 まるで子供のように私たちは指切りを交わした。

 


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