※『青髭』がこんなことするの?みたいなコメント頂きましたが、細かいこと気にせずそんなものだって思って下されば有り難いです。
意識が浮上する。目を開けることなく周囲の気配を探ると、今にも死にそうな複数の気配と人型の“何か”としか形容できない気配があった。
「ーーー目覚めましたか」
特に身動きはしなかったのだけど、どうやら起きたことには気づかれているようだった。左腕に違和感を覚えながら、ゆっくりと目を開ける。
そして視界に飛び込んできた光景に、思わず胃の中身を吐きそうになった。
片目をくり抜かれ、そこに丸時計が埋め込まれていた。腹を真一文字に裂き引きずり出された腸に、ピアノの鍵盤が取り付けられていた。両手足を付け根から切り落とされていた。臓器を取り出され、体をあらゆる刃物の置き場にされていた。不自然に開いた穴に、植物が生けられていた。
そしてそれらは、未だ生かされた人を素材にしていた。
その中心に佇む一人の男がいる。その容姿は先程セイバーに斬らせたものと同じだが、存在そのものの“格”が人より上だと自然と理解した。
正真正銘この男が、サーヴァント・ジル=ド=レェなのだろう。
「………何?私も同じ目に遭わせる気?」
「いいえ。これ以上の地獄を、その身に味合わせて差し上げましょう………ですが、その前に」
ふと、頭上から垂れてくる液体に今更気づいた。
「えッ」
視線をそこに向けると、縛られていると思っていた左腕は何本かの釘で壁に打ち付けられていた。
「は、」
だというのに、そこから痛みが一切感じられない。血も流れ出ているというのに、その感覚さえない。
(感覚を鈍らされたなんてものじゃない………もしかして、神経を直接弄られた?)
いや、落ち着け。
乱れた呼吸を整え、無駄に早まった動悸を静める。
それだけのことをするには、流石に時間が足りない筈だ。よくよく見れば、釘に何かしらの魔術が施されているのが分かる。恐らくこれを正式な手順で外すか、誰かに魔術で解除すればどうとでもなる筈だ。
「貴女、私の聖女に何をしたのですか?あぁ、魔術は使わないことをオススメしますよ」
そう考えていると『青髭』が、床に染み込んだ血から触手の化け物を複数召喚した。それらを侍らせ、ゆっくりとした歩みで私に近づいてくる。
「《そう・ご忠告・どう》ッ!?」
会話を装って攻撃を仕掛けようとしたら、急に腹部に痛みが走って思わず動きを止めた。視線を痛みの発生源に向けると、身体の内側から細い触手が生えている。
「これ、は」
「貴女に埋め込んだそれは、魔力に反応して成長するのです。そして魔術師にとって重要な左腕は、見ての通り物理的に封じさせて頂きました」
「………………………ふぅ、ん。ご丁寧にありがとう」
「いえいえ。ではそろそろ、答えて頂きましょうか。でなければ、貴女のお仲間にも尋ねることになりましょう。特に大剣の少女と細剣の少女はすぐにでも、この場にお招きしたいですねぇ」
耳を疑った。
「は?」
それはリィエルとシノブのこと?
『青髭』は怒りの表情から一転して、恍惚とした表情を浮べ大仰に動きながら口を開く。
「あの一切汚れを知らぬような青髪の少女に凌辱の限りを尽くし、常に微笑む藤色の髪をした少女の顔を屈辱に歪ませたい!この街でも多くの少年少女を作品にしてきましたが、彼女たちはその過程も含めて格別なものとなるでじょッ!!?」
肉を千切りながら力任せに壁から左腕を放し、右手で腹に生えた触手を引っこ抜いた。そして勢いのまま『青髭』を殴り飛ばす。
「よ、くもまぁ………こんな、気持ち悪いものを、人様の身体に、入れてくれたわね」
口の端から血が零れる。そこそこ大きな穴が開いてそれなりに出血したが、既に“呼吸”で止血した。流石に痛みは消せないが、我慢できない程ではない。
「しょ、正気か貴様!壁に打ち付けた左腕と、自身の内側から生えたものを力づくで引き抜くなど!?」
「口調が、乱れて………いるわよ。それより、アンタみたいなのに、正気を、疑われるなんて……心外にも、程があるわ」
引き抜いた触手を投げ捨てた。血走った目で私を見る『青髭』を睨み返す。
「それにしても………随分とおかしなことを言うのね」
「何?」
「まさか、忘れたの?」
思いっきり、口元を歪めて嘲笑する。
「聖処女だ何だ言ってるけど、正反対の魔女だったじゃない」
「その口を今すぐに閉じろ小娘がああああああああああ!!!!!」
『青髭』の激情を表すかのように、暴れる触手が迫ってきた。