ロクでなしの紅炎公(憑依)   作:紅ヶ霞 夢涯

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 今回はアルベルトと任務です。



第5話 潜入任務

 

「アルベルト、怒ってるわよね………?」

 

 いや朝の私は本当に何で大丈夫だと思ってたのやら。普通に間に合わなかったじゃん。

 

 件の貴族の屋敷の門番に名前ーーー勿論のこと偽名ーーーを告げて中に入る。

 

 迷うことなくパーティー会場に足を運び、変装しているであろうアルベルトの姿を探す。

 

 といっても彼の変装を見破るなんてこと簡単にできるわけもないなので、目印として彼が片耳に付けている筈のイヤリング型の魔導器をしている人を探す。

 

(いや多いわ)

 

 しかし心の中で突っ込みを入れるくらい、イヤリングしてる人が多沢山いる。まぁ、イヤリングなんてファッションの最たるものの一つだし、そりゃそうか。

 

 給仕の一人からワイングラスを貰い、会場全体を見回せる壁際にもたれかかる。

 

 同じタイミングで一人の男性が私の隣に立った。

 

 長い藍色がかった長髪を三つ編みにして肩に垂らし、黒いシャツを着て青いネクタイをしている。黒めのコートにボタンを閉めることなく袖を通していた。その片耳には私と同じイヤリングがある。

 

(いや誰よ)

 

 アルベルトと分かっても、一瞬だけ私はそう思わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

<sideアルベルト>

 

(まさか本当にイヴだとはな)

 

 壁に寄り掛かる少女を見下ろす。

 

 その身を着飾るのはシンプルな紫色のパーティードレス。いつもしている蝶の髪飾りは外し、深紅の髪の毛先にはウェーブをかけている。紫炎の瞳は穏やかな光を宿し、口元は穏やかに弧を描いていた。

 

 髪を染めるなりしているわけではない。しかし別人としか思えなかった。

 

「遅れてごめんなさい。少し、色々と手間取ってしまって」

 

「構わない。そんなに待ったわけじゃないしな」

 

「そう」

 

 イヴは自然な動作で左手を動かし、ここに来る前に詠唱済み(スペル・ストック)していたらしい魔術を行使する。

 

 すると俺たちは周囲から認識されなくなった。

 

「さて、アルベルト。パーティーで出会った素敵なレディに何か言うべきことはないの?」

 

 自分の容姿によほど自信を持っているのか、彼女はそんなことを宣う。 

 

「後でな。それより任務だ」

 

 俺がそう言うとイヴは「相変わらず真面目ね」と呟き、給仕から受け取っていたワイングラスを傾ける。

 

 ………任務中にどうかと思うが、一杯くらいは別にいいだろう。

 

 この後セラにでも言っておくか。

 

「お前が来るまでに粗方調べ終えた。この会場にいるほとんどは無関係。そして恐らく証拠の書類などはここの当主の部屋にある。そこの扉の前には、警備を務める魔術師が二人」

 

「優秀ねぇ、ホント。……その魔術師の位階は?」

 

第四階梯(クアットルデ)第五階梯(クインデ)

 

「問題ないわね」

 

 自慢するようなことでもない、言わばただの事実だ。俺もイヴもたかだか第四階梯と第五階梯の魔術師を相手に、手こずることなどあまりない。

 

「しかしどのようにしてそこまで行く?これだけある人の目を誤魔化すのは不可能だ」

 

 無関係な者が多いため、あまり派手に動くわけにもいかず、[コール・ファミリア]で呼び出した使い魔で調べるしかなかった。

 

 しかしイヴには何か策があるのか、余裕だという態度のままで佇んでいる。

 

「こうするの」

 

 そう言うとイヴは手首のスナップだけで、いつの間にか空にしたワイングラスを近くの窓から外へ向けて放り投げた。

 

 彼女の左手はそれに向けられている。

 

「ほら、走った走った」

 

「………………」

 

 楽しそうなイヴに殺意を覚えた気がした。無言で[フィジカル・バースト]を自分の身体にかけ、会場を駆け抜ける。

 

 直後外で爆発が起きた。その衝撃と音は屋敷の中まで届く。

 

「おい、何だ今の?」

 

「知るかよ。俺らはこの部屋に誰も入れなかったらいい」

 

「それもそうか」

 

 当主の部屋の扉の両脇に立つ魔術師に指先を向ける。

 

「《貫け閃槍》」

 

 小声で[ライトニング・ピアス]の呪文を唱え、さらにそれを二反響唱(ダブル・キャスト)で起動する。

 

 そして容赦なく打ち抜いた。

 

 音もなく崩れ落ちる魔術師二人が絶命したこと、部屋の中に誰も居ないことを確認してから扉を開ける。

 

 手早くその部屋にあった机の引き出しや本棚を探った。

 

 幾つかのダミー見つけた後、俺の手の中には幾つもの証拠が握られていた。

 

 後はイヴに連絡して外で合流すればいい。

 

 そう考えたとき窓が静かに開いた。咄嗟に左手を構えるが、その必要はなかった。

 

 窓から入ってきたのはイヴだ。必要ないと判断したのか、既にパーティードレスからいつもの装いに着替えている。

 

「………お前か」

 

 深紅の髪を蝶を模した髪飾りで括り、特務分室の軍用コートを羽織っている。下には長袖の白い上質なシャツを着込み、丈が短めのスカートからすらりと伸びる足は黒いストッキングで覆っていた。

 

 イヴは俺の手元を見ると、笑みを浮かべる。

 

「流石ねアルベルト。もう見つけたの」

 

「あぁ。引き上げるぞ」

 

「そうね」

 

 短く言葉を交わした俺たちは、予め確保していたルートを使って《業魔の塔》まで戻った。

 




 
 アルベルトの変装は「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」に登場する、ディートフリート・ブーゲンビリアを参考にしてみました。

 もう一話続きます。多分。
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