妄想フロントライン   作:杭打折

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episode.5

「いったい何をするつもりかしら?」

 

 上空で待機させたドローンを使い、三体の戦術人形を監視する夢想家は、一向に動きを見せないその様子に僅かな疑念を抱いていた。

 状況は彼女らに不利で此方が有利。度重なる戦闘により彼女らは弾薬的にも躯体的にも疲労が積み重なっている。しかも夢想家は指揮下の戦術人形を数多有しており、夢想家自身に至っては損耗すらしていない。

 この場合、彼女らが取り得る最良の選択肢は休まず迅速に戦域を離脱し、ヘリとの合流地点まで急ぎ向かうといったところがセオリーだろう。

 

「でも、そうしなかったということはドローンに気付いたと言うことよね? それなら褒めてあげる……早い方よ、貴女たち」

 

 だが、彼女らは離脱するのではなく屋内へ入り、ドローンからの視線を一時的に遮断した。

 その選択は、今回の状況においては正解と言える。夢想家は監視するドローンから得た情報で三人を追い、更に何時でも彼女らを狙い撃つ事ができるからだ。実際、過去に侵入してきた人形達はドローンと連携をした夢想家の狙撃で一方的に撃破されてきている。

 夢想家は自身の戦い方も考慮して、彼女らのとった身を隠すという行動には一定の評価を下す。だが、しかし、同時に落胆もした。

 

「でも、屋内に入っていれば安全ではないの……さあ、ここからどうするの?」

 

 逃走を行う状況において、屋内に立て籠もるのは良策とは言い難い。追いかける側は単に包囲を行えばいいだけなのだ。

 ドローンから送られる映像へと目を向け、改めて彼女らの立て籠もった建造物を確かめる。見るからに古い建物で壁にも亀裂が走っているが、状態としてはだいぶマシだ。記録によれば過去は商社施設で、倉庫も兼ねた建築物とある。

 部下からの報告にも、外部からの攻撃には強い建物であるとのこと。他の建物と比較して状態も良く、侵入経路は限られているとのこと。しかし、それ以外に特別な点は無いという。 

 彼女らがどういった理由であの建物を選んだのかは不明ではあったが、この状況において夢想家の取る手段は一つしかない。

 

「ゲーム再開よ……逃げるのも戦うのも自由だけど、逃げられるかしら?」

 

 嘲笑いながら建物を包囲している人形部隊の一つへと命令を下す。それがどんな結果になるのか、予測演算をしながら夢想家は映像へと意識を傾けた。

 

 

 

 

 夢想家の視線を隔てた壁の向こう側。417達が立て籠もっている部屋に、錆びた鉄が擦れ軋むような不協和音が反響する。隠されていた床下へと続く扉の向こう側にはマンホールのように穴が掘られていて、先の見えない地下へと続いている。

 

「隠し扉に地下への孔……なんて前時代的な」

「前時代の名残ですもの」

 

 若干呆れたような口調を混ぜつつも、417の声音は感心混じりであった。これはSIG-510が事前に指揮官から受け取っていたプランの一つによるものだったが、自分が褒められたような気がしたSIG-510の電脳は、誇らしいという感情を算出する。

 

『隠し通路から下水道に入りますわ。地下に入ってしまえばドローンによる監視はできません』

 

 SIG-510の提案したのは地下からの脱出。指揮官から送られた経路の一つに存在していたもので、

 その際に共有された下水道と、辺り一帯の地図を重ね合わせて見る。下水道は街の外縁部まで広がっており、その出口は回収ポイントにもほど近い。更に言えば下水道は廃墟になった市街地よりも道として優秀な形になっている。ここを進む事が出来るのなら、確かにいい考えだと判断した417は自己の電脳に、戦術パターンの一つとして刻むことにしていた。

 

「それにしても、やっぱりボロいにゃ……」

 

 ボロいと評したIDWの言葉に、他の二人も言葉にこそしなかったが同じ感想を抱いていた。穴の内側には昇降用のはしごらしきものが取り付けられているが、金属製のそれは長年放置された結果なのか劣化し、足の置き場がところどころ崩れているような有様だ。銃器を抱えながら降りるのには到底使えそうにもない。417とSIG-510がどうやって降りるかを考えている横で、IDWは取り出したライトスティックを穴の中に放り込む。数秒の落下を経て、ライトスティックは穴の底に到達したのか落下が止まった。計算するとおよそ10mほどか。飛び降りるには不安が残るが、地下への孔はそれほど深くはないようだった。

 

「ロープを垂らして降りていきましょう。そうすれば安全ですわ」

「地下まで届くかにゃ?」

「たぶん大丈夫です。届かなくても、問題なく飛び降りれる高さまでは降りられるはずですよ」

 

 SIG-510が取り出し、手にしているロープの長さは10mもないが、戦術人形の身体能力込みで考えればある程度の高さまで降りれば、飛び降りてしまえる。用途に対する長さとしては十分だった。

 軽く話し合った結果、長さを確保するために417がロープの端を保持し、先に二人が降りてから417も続くという流れになった。417が降りる際には蓋の裏側の取手などに上手いこと括り付け、隠し扉を閉じた状態で降りるという段取りだ。

 

「では、私から行きますわ」

「どうぞ」

 

 SIG-510が背中と両足を壁面に押し付け、制動をかけながらロープを使って降りていく。強化外骨格により強化された力で保持されているロープはずり落ちるような気配はなく、命綱としての役割を十二分に果たしていた。

 

『あの、417さん』

『なんですか?』

『わたくし、重くはありませんか……?』

 

 SIG-510が少し降りた辺りでだろうか、ネットワークを介して話しかける。どことなく不安げな声音に、何か不都合でもあったのかと417は身構えたが、予想に反してその内容は軽かった。

 

『重くありません。何ならこのまま引っ張り上げましょうか?』

『い、いえ!その必要はありませんわ!』

 

 安堵したような声音に417はため息をつきそうになるが、地下へと降りていくことに色々と不安もあるのだろう。自分にそう言い聞かせて納得させる。

 

「緊張感なさすぎだにゃ」

 

 横から聞こえたIDWのため息混じりの声には、何も言わないことにした。

 

 

 

 

 

 建物から脱出しようとするHK417達とは反対に、3つの影が忍び込んでいた。青い髪に褐色の肌を露出したような軽装甲。脚部は外骨格に覆われており、両手には大振りのナイフを二刀流。鉄血の量産型戦術人形の特徴とも言える、ゴーグル状の装置で目元を覆っている彼女らの名前はBrute。猛獣の名を冠した近接戦闘を得意とする戦術人形。

 統率個体である夢想家の命令に従い侵入した彼女らはラインアイを紫色に輝かせて周囲をスキャニングし、通路の中に土埃の薄い箇所を見つけ出す。その先に潜む獲物を求め、巣穴に逃げ込んだウサギを追い詰める猛獣のように、静かに忍び寄る。

 

 

 

 

 

 SIG-510が無事、下水道へと降りた。即座に環境情報がネットワークを利用して共有される。その情報によれば、"人形なら"活動に問題ないらしく、彼女に続いてIDWもロープを降りていった。

 ロープの端を掴んでいる417が感じる重さは、SIG-510の時よりも少し軽い。何気なく一人残された部屋を眺めて見る。彼女達とは出会ってからまだ数時間しか経っていないのに、こうして一人になるのは久しぶりなように感じられた。

 思えば、二人と出会えた事は417にとって幸運だった。そうでなければ417は、取り敢えずというように人間の居住区を目指していただろう。それ自体悪いわけではないのだが、研究所から抜き出せたデータはそれなりに古く、あまり信頼はできない。

 だから、目覚めてすぐに出会えたという幸運に417は感謝の念を懐いていた。ただそれは、SIG-510達に対して不義理であると判断した417自身の電脳により、悪性パターンとして内部で密かに処理されていた。

 物思いに耽っていた417だったが、腕にかかる負荷がなくなった事に気づいてその思考を中断する。

 此処からが417にとっての本番だ。417は蓋の裏側取手にロープを結びつけて固定。裏側取手は触ってみたところしっかり固定されているが、何せ古いものなので降りてる途中で外れるかもしれない。

 

『いざという時はキャッチお願いします』

『任せるにゃ!』

『任されましたわ』

 

 返された勢いの良い言葉を頼もしいと感じながら417は最後の仕上げに入る。穴から離れ、部屋の隅に積み上げられたガスボンベから、ガス残量の多いものを優先的に四隅へと配置していく。

 そして通り道を確保するべく扉を開けて、更に奥への配置を行おうとした矢先――明かりの無い暗闇の中で何かが蠢くのに気づく。

 

 甲高い金属音が、自分の首の僅か数センチ離れた位置から発せられる。反射的に動いた引き抜き、逆手に掴んでいる腰のマチェットに貪欲に喰らいついてくる金属の刃。417はマチェットを持たぬ左の拳を固めながらナイフの刃を流して姿勢を崩そうとするが、敵は躊躇うことなく彼女から離れて真っ向から向き合うように対峙する。

 戦闘モードへと移行したことを示すように紫にラインアイを発光させ、感情を示さぬ無機質な顔立ちを顕にする。それに呼応するように暗闇の中から別の光が出現する。

 確認できた敵は鉄血製人形のBrute、それが合計三体。今にも417に襲いかかろうとしている姿がそこにあった。




低体温症終わりましたね。
今回のイベランキングは一回しかやらなかったのを少し後悔中。



あと途中まで描いた我が家の417を挿絵にしておきます。
そのうち手直し入れて全身を描きたい。

【挿絵表示】

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