妄想フロントライン   作:杭打折

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episode.8

 このままでは、二人は追いつかれる。焦りという感情をこれ程までに強く認識したことはなかった。

 HK417はその脚にエネルギーを優先的に回してありったけの力で地面を蹴る。曲がり角では壁際まで遠心力がHK417を追い込もうとするのを体で感じながら、最短のルートに軸を合わせて駆け抜ける。

 道中、遭遇する敵はいない。敵は皆、SIG-510たちを追っているのだということは、端末を確かめなくてもわかる。敵はいくつかの部隊が合流して大群を形成している。捕まったらどうなるか、ダイナゲートに部品単位で解体されスクラップ行きのは間違いない。

 だが、位置関係の把握を行う為にマップデータの監視を続けていた417の目の前で、その大群の反応が忽然と消滅する。突然の事に417は困惑するが、その答えは数秒と立たないうちに自分からやってきた。

 下水道内を反響する幾種類かの銃声。分析してみると9mmパラべラムに始まり.45ACP、5.56mmに7.62mmなどが確認できた。反響し過ぎてるせいで人数は不明だったが、数は十人以上は居る。ネットワークを確認してもそれだけの部隊はSIG-510とIDWの位置に展開されていない。だとすれば――

 

「……味方?」

 

 その可能性が最も高い。417はその可能性に賭けることにして進む。

 それからさほど絶たないうちに、通路奥から照らされるフラッシュライトを見つけ、その中に姿を晒す。銃口が一斉に向けられるが、発砲はない。417は自分の予測が正しかったことに安堵し、グリップに添えていた手を離す。掌を向けながら両手を挙げると、向けられていた銃口が降りた。

 お互いに敵対勢力ではないことを確認したところで、先頭を歩いていたツーサイドアップの髪型の戦術人形が代表して歩み出る。

 

「黒コートに銀髪、情報通りね。あなたがHK417?」

「そうですが、あなた方は?」

「D08地区司令部所属、Gr Mk23よ。あなた達を助けに来たんだけど、その前に……」

 

 Mk23と名乗り、417に素性を明かした戦術人形は言葉を区切る。それを合図にしたようにダミーリンクが417を囲み、装置をかざす。

 おそらくは、何らかのスキャンを受けている――信号のようなものを肌に感じ、417はそう判断した。

 

「これは?」

「簡単な健康診断。たまに戦闘の中でウィルスに感染しちゃう子も居るからその確認……うん、良くってよ」

 

 ウィルスという単語に417は一瞬肝を冷やしたが、スキャン自体は何事もなく終わった。検査には引っ掛からず、417を取り囲んでいたダミー達も離れていく。

 スキャンが終わるまでは待機という指示があったのだろう。無事何事もなく終わったとMk23が告げたタイミングで、今まで少し離れた位置で見ていた戦術人形達の中から、ベレー帽を被った方が417に声をかけた。

 

「貴女がHK417さんですか?」

「そうですが、貴女は?」

「Gr G36Cと申しますわ」

 

 彼女はそれだけ言うと、じっと417の事を見つめる。特に何も言わずに凝視されると流石に居心地が悪くなり、今度は417から問いかけた。

 

「何か、気になることでも?」

「いえ……雰囲気がちょっとG36姉さんに似てるかもしれないと思って。ああでも、変な意味ではなくて、似た雰囲気というだけで、身体が疼くというわけではなくてですね?やっぱり、G36姉さんの時たま見せる天然さというか、少し抜けてるところというか、完璧故に見せてしまう欠点というのが堪らなく愛くるしいと…」

 

 417は後悔した。踏み込んではならない場所に踏み込んだと言うか、触れてはならないものに触れたとか、そんな気分だった。しかし、下水道で饒舌になり姉語りを始める戦術人形というのは中々に珍しいものだろう。そういう意味では彼女は貴重な経験をしたとも言える。本人が望むか望まざるかはさておき。

 

「はいはい、どうどう、大好きなお姉さんキメておちつきましょうねー」

「ふーっ!ふーっ!」

 

 さすがにそれを見兼ねてか、Mk23が紙切れを持って間に入る。G36Cは鼻息を荒くしながら、誘導されるがまま通路端によっていく。一瞬、Mk23の持つ紙切れの上に金髪碧眼の女性が見えた。きっとあれがG36なのだろう。417は今後、G36タイプの人形に会うときは気をつけようと心に決めた。

 

「気にしないで頂けると有り難いです……愛情がたまに爆発するみたいで」

「大丈夫、それほど気にしてませんから……改めて、HK417です。貴女はなんと呼べば?」

 

 417の考えていることを察してか、今まで黙っていた戦術人形が申し訳なさそうに話しかけた。彼女の名前をまだ聞いていないことに気付いて問いかける。

 

「私はスオミKP/-31、スオミと呼んでください。銃種はサブマシンガン、囮役には自信があります」

 

 そのはっきりとした紹介を聞いて417は安心した。G36Cが少々個性的過ぎるだけで、他の人形も同じという訳では無いのだろう。そう考えて、417はスオミを見る。スオミは親しげに微笑んだ。

 

「ところで、音楽はお好きですか?」

 

 

 

 

「あっちはターゲットと合流したみたい。さあ移動するわよ、三人とも」

 

 FALの言葉を合図にしてHK417-rfはダミー達を統率し、配給食料でエネルギーを補給していたSIG-510とIDWも立ち上がって移動に備える。幸いな事に、援軍の際に幾らかの補給弾薬も持たされていたようで、特にSIG-510の顔色はいくらか明るい。

 

「FAL達とも地図の共有をしておくにゃ」

「わお、びっくりする程敵だらけじゃん」

「へえ、こんなに居たの…選り取り見取り、踏み潰し放題じゃない」

 

 移動するという事になり、情報共有を行おうと思いだしたIDWはFALとHK417-rfをネットワークに迎え入れ、二人は受け取ったデータの示す敵の数にそれぞれの反応を示す。

 素直に驚きつつ感嘆するHK417-rf。そして、一つ、二つと自分の手持ちの榴弾をカウントし、それでも倒し切れない程の数が居ることを知って嬉しそうに笑うFAL。

 

「嬉しそうですわね?」

「久々の激戦区よ? 楽しまないなんてナンセンスだわ」

「頼もしいですわね。私はしばらくは遠慮したい気分ですけど」

 

 あっけらかんと言い放つFALの姿にSIG-510は苦笑する。今夜だけで何度か生き死にを彷徨ったSIG-510からしてみれば、暫くは前線はお断りしたい気分だったが、FALの自信に溢れた態度は頼もしいとも感じていた。

 

「FAL、派手にドンパチしろっていう作戦じゃないんだから」

「わかってるわ。でも、相手も私達に気づいた筈。戦闘は起きるものと考えるべきよ」

「まあ、それはそうだけどね」

 

 軽い口調でやり取りを交わすメインフレームの背後では、ダミーリンクたちが隣に立つ同型を見て、互いが不備が無いの確認をしている。メインフレームたちはメインフレーム同士で確認し、全員に問題がないことが確認された。

 歩き始めてしばらくして、そろそろ合流しようかという頃にHK417-rfがSIG-510達と並ぶように歩調を合わせてきた。

 

「今いい?」

「大丈夫だにゃ、なんでも聞くにゃ」

「……構いませんわ、なんでしょう?」

 

 SIG-510は答えるべきか、作戦行動中の私語は慎むべきではと迷ったが、彼女が悩んでいる間にIDWが応じていた。それでもと一瞬悩むも、先頭を行くFALが何も言わないのを見てSIG-510も程々にという前提の中で、IDWと同様の対応を取ることに決める。

 

「HK417-arの事なんだけど、何処から来たかとかって言ってた?」

「この都市には廃棄された研究所があるようで、そこからと言ってましたわ。けどそれ以上は……」

「じゃあ、私とは違うっぽいなぁ……」

 

 同じHK417の戦術人形であるなら、相手の方が詳しいのではとSIG-510は思ったが、目の前のHK417-rfから受ける印象は、自分達の知るHK417-arとは大きく異なる。

 戦術人形の中には、同じ銃のバリエーションごとに、それぞれ別のタイプの人形が適合する場合が存在する。有名なところでは、16Labのエリート部隊であるAR小隊がそうだろう。あの部隊で使われてるのは大きな括りをすれば全て同じ銃だ。更に別の例を挙げるとすると、G36とG36Cも挙げられる。彼女らの場合は異なるカテゴリーとして登録されている良い例である。

 SIG-510はてっきり、目の前の彼女もその類であろうと思っていたのだが、HK417-rfの様子を見る限りでは違う様子だった。気になったが、彼女が話さないのなら踏み込むべきではないと判断したSIG-510は、知的好奇心を抑えた。

 先を歩くFALが足を止め、彼女のダミーリンクが銃口を正面に向ける。暗い通路の先に光源が見えた。敵かとにわかに緊張が走る中、FALは通信回線を開いて問いかける。

 

「こちらFAL、そちらを視認したわ。ライトを振って貰えるかしら?」

『了解、確認できる?』

「確認したわ。このまま合流しましょう」

 

 応答に合わせて、奥に見える光は左右にゆっくりと揺れている。味方であることを確認したところでダミー達は銃口を下ろす。場の張り詰めた空気も僅かに軽くなり、安堵の感情を抱いていた。

 SIG-510、IDW、FAL、HK417-rfと、HK417-ar、Mk23、スオミ、G36Cの全員が合流を果たす。

 

「お待たせ。迷子ちゃんもしっかり連れてきたわよ」

「お疲れ様、Mk23。外見データにも一致してるし、間違いなさそうね……ところでスオミがやけに機嫌良さそうだけど?」

 

 回収対象であった一名の戦術人形が増えているのとは別に、明らかに部隊には変化があった。それに気づいたFALは、それは何故かとMk23に尋ねる。聞かれたMk23は若干バツが悪そうに、HK417とスオミを交互に見てから声を潜め、耳打ちして答えた。

 

「気づいたらターゲットがスオミに音楽談義で捕まってしまって……」

「何をやってるのよ全く……」

 

 呆れて溜息を吐き出しているFALの隣を小柄な人影が通り抜け、HK417-arへと近づいていく。自分の前に来た彼女の姿にHK417-arは何事かと怪訝そうに見つめるが、その手に持たれた銃を見て納得したように息を吐く。

 

「はじめまして、417。会えて光栄です」

「こちらこそ。はじめまして417、今回の作戦ではよろしくね」

 

 自分と同じ銃を扱う戦術人形の存在については、HK417-arも移動の途中で聞かされていた。話を聞いたときは驚いたが、実際目の前で向き合ってみると、なるほど何ということはない。

 顔も違う、装備も違う、HK417のバリアントもカスタマイズも異なっている。同じ名を持つ二人は、互いが互いを全く異なる別の存在であると再認識をしていた。

 

「HK417の使い心地はどうです?」

「ちょっと重いけど、最高よ。そっちは?」

「最高ですよ。良い所を教えましょうか?」

「大丈夫よ、よく知ってるもの」

 

 同じ銃を扱うのだから、と軽い言葉を交わして笑い合う。状況が許すのなら、そのままお茶を飲みながらとでもなるのだろう。しかし刻一刻と迫る時間の制限と、更に鉄血部隊の脅威は未だに去ったわけではない。それを分かっていたから、暗黙の了解の上でFALが二人の会話に横槍を入れる。

 

「仲良くなれたみたいで結構。それじゃあ早く行きましょう?ホスト達も歓迎会を開いてくれるって意気込んでるみたいだから。良い女はデートの相手を待たせないものよ」

「私はダーリン一筋だから、相手は任せても良いかしら?」

「良い女は後腐れなく振って、後顧の憂いを断つものよ」

「ふふっ…ストーカーになられても困りますものね?」

 

 戦意旺盛にして意気軒昂。HK417-arはFALとMk23が軽口を交わし合うのを横目に、SIG-510とIDWの方を向く。

 

「SIG-510達は残弾は大丈夫ですか?」

 

 二人が自衛程度にでも戦えるか否かは、部隊の行動を決める上で重要な要素だった。SIG-510とIDWはそんなHK417-arの不安を他所に、満面の笑みを返して活力を示す。

 

「弾薬も食料も補給してもらいましたわ。万全ですわよ」

「さっきよりも厚く弾幕を張れるにゃー!」

 

 その様子を見てHK417-arは二人が問題なく戦力になると判断する。だとすれば、残る問題は自分自身の残弾かと考えているとHK417-rfがコートの裾を引っ張ってきた。何かと思って振り向けば、彼女は弾薬を詰め込んだ20連マガジンをいくつも抱えていた。

 

「これ使って?問題なく使えると思うけど」

「助かります、もう少しで弾を切らしてしまいそうだったので」

 

 感謝の言葉を返しつつHK417-rfの提供してくれたマガジンを受け取る。その中から一発抜き取り、仕様を確認する。

 弾頭重量は165グレーン、弾頭先端が黒く塗られた徹甲仕様。装甲標的の多い今回はうってつけの弾だ。

 

「試し撃ちしたいところですが、今は無理ですね」

「的はこれから一杯出てくるから」

「違いない」

 

 可愛らしい顔で好戦的に笑う彼女の言葉に、HK417-arは笑って返した。

 

 




今回は合流したメンバーとの顔合わせ会。
登場人物増えると会話が増えてわちゃわちゃしてきて、楽しいですねぇ


コラボしといて遅くなるとはどういう了見かと自省してる所存。本当に申し訳ない……
理由はプロットというか、戦闘の流れを作り直してたのがありまして。当初の予定より、敵の強さ設定を引き上げてみるかといったところ。



皆も固定砲台やら多薬室砲やらレールキャノンはお好きでしょう?
つまりはそういうことだ。
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