『どうです?』
HK417-arの入手した情報により敵の監視の目を掻い潜り、地下を出た後も歩みを進めていた一行は再び廃墟の街を進む。当初とは違うのは景色だろう。当初進んでいた市街地よりも見通しはよく、廃墟の背も高くない。外に近づいて来ている証だった。
その中でも最も夜目のきくMk23が、進もうとする先の敵の存在を確かめる。HK417-arは彼女に偵察結果の共有を求めた。
『潜り抜けるというのは無理かも。マップデータの通りに、配置された部隊が封鎖してるみたい』
『にゃー……此処だけは情報通りじゃないことを祈ってたのに』
『現実がそんなに都合良く変化するわけ無いでしょ。どうする?私はいつでもやれるけど』
『真正面からぶつかっていく?』
『それで勝てるならやっても良いけど?』
現状の戦力で敵殲滅は不可能である――ネットワーク内で行われるやり取りを聞きながらHK417-arは戦力分析を行う。
戦力というのは往々にして流動的に表現されるものだが、発揮できる火力は絶対値で表せる。彼女の扱う7.62×51mmの弾丸で爆弾のような破壊を起こすことは出来ない。重要なのは有限かつ上限の定められた火力の集中運用。特に考えるべきは何処に火力を集中させるか。
『何考えてるの?』
『部隊の動かし方を、少しばかり』
いつの間にか自分に視線を向けていたHK417-rfからの問いかけに、データ共有を行いながら返答する。
『んー、やっぱり多いね。ManticoreとAegisを配置して、その後ろにNemeaを配備。全体的に砲撃戦向け構成?』
『大通りなどは装甲部隊により封鎖。細かい路地に関してはScoutやVespidを徘徊させて偵察。見つけた敵を大通りに追い込み、砲撃の的にするといった塩梅でしょう』
『外縁部に近づけたのはいいけど、ルートは敵に特定されてる?』
『恐らくは。Dinergateから逃げた時の方向で推測されているのでしょう。投入したDinergateで下水道内の地図も作成していた筈です』
HK417-arは敵部隊の指揮をしている個体の思考を読むべく演算リソースを注ぎ込んだ結果を送る。推測の根拠は自分ならばそうするという非常に不確かなものだが、あながち的外れな考えではないだろう。そう思える程度の確信はあった。
『でしたら、わたくしたちは次はどんな行動を取るべきかしら?』
情報のやり取りをしているうちに、気付けば他のメンバーも全員、HK417達のネットワークに繋がっていた。Mk23は興味深そうに、HK417-arの考えを問う。
『強行突破を提案します』
即答だった。HK417-arはネットワーク上に、いくつかのパターンでシミュレートした戦況推移図を展開する。敵を回避することを優先したパターン、時間稼ぎを行いながら進むパターン、敵の戦力の薄い場所を突破する方針、いずれも共通しているのは交戦は不可避であるということだった。
『いずれの状況においても敵兵との交戦は免れず、敵の主力部隊とは必ずぶつかるでしょう。これの突破は、我々にとって必須項目です』
各種状況推移から測定した突破確率を提示する。その中で最も高い確率を出しているのは正面突破だった。
『敵の配置、私達の弾薬……諸々の要素を含んでも確かに一番確実なのは認めるわ。けど、その後に不測の事態が起きたらどうするつもり?』
各種データの妥当性を検討していたFALがHK417-arに疑問を突きつける。共有された予測の妥当性を認めながらも、現状で分かっている情報からは予測できない事態への対処や、敵が予測を上回った際の対処を問う。
『その時は、私が殿で遅滞戦闘に徹底します。その間に皆さんは撤退し、私も後を追います』
問われる前からそのつもりだったのか、HK417-arは即答した。
『反対です』
『ナンセンスよ』
『駄目ですわ』
『有り得ませんわね』
『却下にゃ』
『拒否します』
『審議拒否』
『早すぎませんか皆さん』
それに対して最速の返信が七パターン。即座に返された拒絶の連打にFALを含めて多くの人形が顔をしかめた。同時に反対意見が続々とネットワークに提出される。
シミュレーションでは最もメンバーの生存率が高かったのに、とHK417-arは電脳の片隅で惜しむ。
ヘリアンから与えられたSIG-510とIDWを無事に回収地点まで連れていくという指示。これは何よりも優先して達成するべき命令で、人形としての義務だ。当然だが、救援に来た部隊のメンバーも送り届ける対象に含まれる。だから、危険に晒される役回りは自分が負うのが妥当と考えていたのだが拒絶されてしまってはどうしようもない。
HK417-arはおとなしく思考を切り替え、提案した方針の優先度を下げて別の案を提示する。
『では別プランで行きましょう。我々で不測の事態を起こすのです』
目が覚めると其処は薄暗い部屋だった。撃破された際にバックアップのメンタルデータがアップロードされる電脳空間――所謂ベッドルームとも違う。物理法則に縛られた現実の空間だと彼女自身のボディが語っていた。
「此処は……?」
最後の記憶は射撃体勢に入った直後、爆風と崩壊する廃墟に巻き込まれた光景。その後電脳はシャットダウンされてしまっていた。意識の途絶える直前、此処で終わりかと覚悟したものだが、しかし瓦礫の中にも関わらず味方は回収してくれたらしい。
「なによ、夢想家のやつ……ちゃんと助けてくれたんだ」
夢想家は意地の悪さもハイエンドな人形だが、なんだかんだ彼女は助けてくれたのだと安心していた。感謝の言葉を告げておくべきだろう――破壊者はそう考えた。鉄血のネットワークに接続しようとするが、未だに機器の不調が残るのかネットワークにはつながらない。仕方がないので夢想家へ直接繋がる周波数に対してリクエスト送ると、回線はすぐに開かれた。
『あら、目覚めたのね』
「お陰様でね。助かったわ、夢想家」
感謝の意思を込めて夢想家へと助けられた事への感謝を告げる。その言葉を受け取った夢想家は、いつもの薄笑いを崩さない。
『気にしなくていいわ。ただ、貴女の脚は使い物にならなくなってたから、予備もすぐに用意できなかったから代替可能な部品に取り替えるけど』
「そう……わかったわ。新しい脚はいつ頃付け替えられるの?」
『戦闘が終わるまでは無理よ』
廃墟の崩壊に巻き込まれたのだ。無事で済むとは思ってなかった。それに夢想家の権限であれば破壊者の脚のスペアを作る事は容易い。少しの辛抱だと思えば安いものだと考えていた。
ひとまず、身体があるのだから自分のやるべき事をやろう。手始めにグリフィンの連中に報復を――そう考えた破壊者は立ち上がろうとして、しかし、いつものように身体が動かせない事に気付く。
「ねえ夢想家、今の私の脚ってどんな状態なの……?」
『今から転送してあげる。確認しておきなさい』
転送されたデータを受け取った破壊者は目を見開く。そこに記されている内容を理解すると、夢想家に対する感謝の念を吹き飛ばす程の怒りが湧き上がった。
「こんなものをつけて、どういうつもりよ!?夢想家ッ!!」
『他に部品が無かったのよ。それに私に言わないで欲しいわね……貴方をそんな姿にしたのは、グリフィンの連中でしょう?』
怒りの行き先を間違えるなという夢想家の言葉を受け、破壊者は我に返る。怒りを向けるべきは夢想家ではなく、自分をこんな姿にしたグリフィンの戦術人形達だ。だから彼女らを髪の毛の一本すら再利用出来なくなるまで破壊しよう。そしてスクラップを粉砕機にかけ、更に破壊して汚染された海にばらまこう。その光景を想像した破壊者の口元は笑みを形作るように歪む。きっとそれは、とても愉快だから。
「悪かったわ、夢想家……それで私は何をすればいい?」
『いつもと変わらないわ。貴女の火力で目に付く敵を破壊しなさい』
「っはは……そんなの簡単すぎてつまらないわ」
敵を壊す、火力で殲滅する。なんて簡単なことだろう。確実に掴むと確信した未来の娯楽を思い浮かべた破壊者は、弾む声音で与えられた命令を受諾する。
そして破壊者は自らの内から湧き上がる衝動に浸りつつ、新たな肉体のスペックを知る事に努める。全ては破壊のため、復讐のため、破壊者の電脳は欲望に浸されていた――――その欲望が、自身には本来備わっていないものであるとも知らずに。
通信の先で高笑いをする破壊者を見つめて、夢想家は嘲笑う。
状況は彼女の望むように推移している。その結果は夢想家が想定し、期待した以上であると言えるだろう。
「あら、動くのね?」
状況は更に推移する。鉄血のネットワーク上でが敵襲を知らせる。攻撃を受けたのは装甲戦力を集中させた主力部隊。しかし、それ自体に驚くようなことは何もない。彼女らがそう選択するように誘導をしたのは、他でもない夢想家なのだから。
「各部隊、予定通り敵を四方から包囲し殲滅せよ。以上」
脱出を望むものと望まざるもの。この前線の最終局面が始まろうとしていた。
戦闘をあーでもないこーでもないとしながら、悩んだ結果導入回を書いてお茶を濁す人、私です。
書くの遅いくせに悩みに悩んで方針変えるから更に遅くなる、ほんまそういうとこやぞ。
なので戦闘は次回から。楽しみにしてくれてた人がいたら申し訳ない。
あ、今回の話でわかると思うけどデストロイヤーは基本的に損な役回りなので、デストロイヤーは愛されなければならないの民には警告である。
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