妄想フロントライン   作:杭打折

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episode.10

 爆音と衝撃――付近にManticoreの主砲弾の着弾を感じ取りながら、HK417-arは身を隠している瓦礫から、僅かに銃口と半身を覗かせて応戦。短く三回、一定間隔の銃声が響く。Manticore目掛けて165グレーンの弾丸が音速を超えて飛翔する。

 多脚故の柔軟な運動性を誇るManticoreは、巨体に似つかわしくない機敏さで姿勢を変え、傾斜のついた装甲面を向けた。到達した弾丸はManticoreの装甲に食らいつくが、傾斜によりベクトルを捻じ曲げられ、あらぬ方向へと弾かれていく。

 

「大人しく壊されてくれれば楽なものを――」

 

 HK417-arは忌々しいと、不機嫌そうに口元を引き締める。反撃に随伴する人形兵から放たれていた弾丸がコンクリートの壁を抉る音がHK417-arの精神に圧力を掛けようとする。幾らかのコンクリートは衝撃によって砕け、彼女の銀髪から光沢を奪っていた。

 銃撃が弱まったタイミングを見計らい、HK417-arは強く地面を蹴って崩れかけの壁から敵の前に姿を晒す。

 逃すまいと襲いかかる小銃弾や拳銃弾の中を、両腕を覆う外骨格の装甲部分で急所を庇いながら駆け抜ける。夜間であることが幸いしたか、敵の狙いは粗い。外骨格表面を掠める音が耳に届くが、殆ど掠り傷のみで弾幕の中を抜け、HK417-arは別の廃墟に滑り込む。

 

 鉄血の部隊は追撃を望み、RipperとVespidを一部向かわせる事を戦術ネットワークへの提案を行う。その提案は上位個体である夢想家のもとへと届けられ、即座に承認と実行の命令が下される。

 部隊の中から即座に行動できるものがほぼ自動的に選出されると、彼女らは躊躇うことなく廃墟へと突入を仕掛けようとして、そんな彼女達を、廃墟の中で待ち構えていたスオミと、彼女のダミーリンクによる斉射が迎え撃つ。

 烙印システム、ダミーリンクネットワーク、一つの電脳によりまとめ上げられた統制射撃は数的不利をものともせず、最高効率で鉄血の人形兵を押し留める。

 

「助かりました!」

「同志を守るためならば!」

 

 HK417-arは滑り込んだ先で、ダミー達の指揮を取りつつ自らも迎撃するスオミに、銃声の多重奏に負けぬよう声を張って感謝を告げる。スオミも声を張りながら―HK417-arよりも幾らか澄んでいる声音だったが――それに応じる。

 HK417-ar自身も迎撃に加わるべく射撃姿勢を取り、スコープを覗く。その瞬間にHK417-arの電脳は、鉄血の一体の頭部が爆ぜる光景を視覚情報として取得した。

 

「一つ、撃破しましたわ」

 

 後方から、それを為したであろうSIG-510の声が届く。彼女の使用する弾丸GP-11の威力と、彼女自身の射撃精度は見事と言う他なく、称賛を送りたいところだったが、HK417-arの思考はそれよりも敵を殲滅することを優先した。

 無言で頷き銃を構えるHK417-arに、SIG-510は若干不満げであったが、当の本人は気づくことなくターゲットを見据え、視線データの共有をリクエスト。SIG-510もそれを受諾。互いにカバーをしながら、9mmの嵐にたたらを踏む鉄血を仕留めていく。

 

『戦術データ・リンク』

 

 銃撃戦の傍ら、HK417-arは鉄血のネットワークを逐一監視する。各種信号を拾いあげ、選択して必要なパターンとデータを分析。IOPの戦術人形達の共通通信規格であるジーナ・プロトコル。自身の電脳に標準として教育されているそれとは全く異なる信号パターンを一つずつ、HK417-arは電脳を駆使して学習する。

 

『NemeumとManticoreの砲撃動作を検知。発信地点の座標を送信』

 

 そうして、学習の結果、HK417-arは理解する。鉄血の主戦力である下級の機械兵や人形兵は兵隊アリのようなものだ。思考権限を有するハイエンド以外の個体は、インプットされた規定動作を、生物でいうところの本能とでも呼べばいいだろうか、それにしたがって動いている。故に、下級の機械兵達の中のやり取りに複雑なパターンや言語は存在していない。だから、それを少しでも読み取ることが出来るようになれば残りの答えも自ずと見えてくる。

 

『指定地点への攻撃を開始せよ』

 

 

 

 

 

 

 HK417-arのアナウンスで移動していた別働隊率いるFALは、一体の敵とも遭遇する事無く目標地点へと移動を完了していた。

 

「大した電子戦能力ね」

 

 FALは思わずそう呟いていた。彼女自身、戦場経験が非常に豊富な戦術人形であることを自負している。しかし、IOPに属する戦術人形は、元はと言えば民間用だ。其処に戦術コアを投入し、戦闘能力を付与している似すぎない。戦闘能力は後天的なものであり、人形としてのスペックの限界というものはある。並大抵の端末より高性能であることは明らかなのだが、戦術人形としての戦闘行動を行いながらの電子戦を行えるかと聞かれれば、不可能である。

 

『ねえMk23、どう思う?』

『それは、HK417-arの戦術人形としての能力評価という意味かしら、それとも……』

『良いから、思うところを聞かせなさいよ』

 

 FALの言葉にくすくすと、少し含みをもたせた笑みを漏らしながら、Mk23は自らの所感を述べる。

 

『単純な躯体としての性能はかなり高いわ。民間で彼女が使えそうな場所なんて無いくらいに、ね』

『そう、やっぱりそう思うのね……』

 

 Mk23の口にした言葉は、FALの抱いていた疑念と合致していた。強化外骨を標準装備し、その外骨格の挙動に耐えうる躯体強度。そのどれもが、民間で使用する出力規格を遥かに上回っている。こんなものを民間の人間が有していたら、違法として検挙されかねない代物だ。だとすれば、彼女は当初から、軍などの高い性能が要求される環境での運用を前提として作られているのではないだろうか。

 

『それに、実は私達が持ってきた配給食料、一人分余ってるのよ? 稼働し始めた時はエネルギーが最大だったとしても、これだけ戦闘状態が続いていればボディが不足を訴える筈なんだけど……』

『エネルギー状態のコンディションはグリーン。まったく、どれだけタフなんだか』

 

 FALは半ば呆れながら、HK417-arを取り巻く事情のきな臭さに顔をしかめた。だが、すぐに考えは切り替える。今はHK417-arを助け出す事が最優先なのだ。彼女の背後関係がどのようなものであっても、指揮官から下された命令は絶対に果たすし、仲間を見捨てるなんてものは彼女の挟持が許さない。

 

『ポイントに到着してグレネードも装填。こっちはいつでも行けるよ、FAL』

「まあ細かいことは考えててもしょうがないわよね。私達は助けに来た、それだけじゃない」

 

 そう考えているところでHK417-rfから準備を伝える通信が届く。FALも、余計なことを考えるのを止め、自らの使命に忠実であらんとする。

 HK417-ar達が交戦している地点の少し後方、射線の通った通りの向こう側に待機する装甲部隊が隊列を組んで並んでいる。Manticoreは四肢を踏み固め、Nemeumの砲身は粒子兵器特有の青白い燐光が収束している。あれの砲撃を許せば、囮をしている連中の生存確率はぐんと下がる。

 全員無事に帰還せよ。指揮官より与えられた至上命令を遂行するためにやるべき事は語るに及ばず。

 FALと同じく別働隊に組み込まれていたHK417-rfも、伏射姿勢を取って攻撃準備完了。FALは自らのダミーリンク達にもライフルグレネードを装填させ、照準器を覗き込む。

 

『目標までのコンディションを観測。お二方、よろしくおねがいしますわ』

 

 観測手を務めるMk23からの観測データが流れ込む。囮部隊の観測したデータと照らし合わせて精度向上、自身の射撃に反映――全行程完了、攻撃準備完了。

 

「よし……各員、蹂躙するぞ!」

 

 怒声に近いFALの声を引き金に、炸薬を詰め込んだグレネードの雨が降り注ぐ。

 

 

 

――主力部隊の損耗率70%

 

 砲撃陣形に入った部隊の信号が途絶したことを眺める夢想家は、表情を崩すことなく思考にリソースを割いていた。

 空中から監視するドローンの目をかいくぐって攻撃可能な地点に移動することは可能だろうか――結論から言えば可能である。数十に渡るランダムな監視パターンを幸運にも全て掻い潜っていくということが可能であるならば、だが。

 言うまでもない事だが現実的ではない。夢想家自身、そういう幸運が存在すること自体を否定はしない。だが、四捨五入しても1%に満たない確率が目の前で起きているのならば、真っ先に別の可能性を疑うのが正常な思考である。

 

「だとすれば、私達のネットワークに侵入してる輩が居るのね」

 

 鉄血の部隊の司令部にて指揮を執る夢想家は、静かにそう判断していた。しかし、ざっとログを漁ってみるが非認証アクセスや新規の接続は検知されていない。

 ならば、グリフィン側は予め認証されたネットワークモジュールを使用しているということになる。

 認証済みのネットワークモジュールを入手する方法は限られている。さらに現地調達したとなれば、それは一つしか有り得ない。

 

「残酷なことをする人形も居たものね。生きたままの人形からパーツを剥ぎ取るだなんて」

 

 おそらくは、撃破した個体から抜き取ったのだろうと、夢想家は結論付ける。代理人や錬金術士辺りなら怒りに燃えそうな事案だ。しかし、夢想家はそうは思わない。むしろ褒めてやりたいくらいだった。

 

「ふ、く、ふふっ……それは指揮官からの指示かしら?それとも独断?どちらにせよ、面白い事をしてくれる」

 

 目を細め、おかしくてたまらないと声を上げて笑う。目的達成のために手段を選ばないやり方は、夢想家としても非常に好ましい。そして小細工を弄するというのも、実に愛すべき姿だ。

 それなりに経験を積んできた電脳を持つ自身であるが、自分たち鉄血側のネットワークに侵入してきた人形は初めてだ。

 だが、しかし、汚染されたネットを排除する簡単な方法が一つ存在する。

 

「もうすぐ破壊者も到着する頃……だから、私も始めましょうか」

 

 司令部施設屋上へと続く階段を上がっていき、夢想家は屋上に備えられた武装を覆う迷彩膜を取り払う。

 それは通常、夢想家が装備する粒子ライフルとは異なる兵器だった。全長にして夢想家の身長の倍はある(カノン)。それが無数のエネルギー供給ケーブルに繋がれながら鎮座していた。

 この砲は、かつて人間同士が核戦争を行っていた時期に編み出された兵器に由来する。迎撃システムの進化により有効性の薄まった大陸間弾道ミサイルに代わり、核弾頭を迎撃不可能な高度と速度、進入角度で目標地点に到達させるための投射砲。本来であれば大型の発電施設とともに設置され、要塞砲や艦砲として使用するような兵器だ。

 夢想家が接続をしているそれは、本来の姿に比べると遥かに小型だ。サイズダウンが行われた結果、通常弾頭を使用する変更により威力は低下したものの、消費電力軽減という成果を得た。数発であれば司令部施設レベルのジェネレーターでも運用が可能な汎用性を獲得している。

 砲口が向けられるのは、グリフィンと鉄血の交戦地点。

 

 汚染されたネットを排除する最も簡単な方法とは、それは物理的な排除にほかならない。

 

「今夜は楽しいわ。久しぶりに楽しいの……だから、これはそのお礼」

 

 主人の意を受け、砲はその全長の大半を占める自らの砲身へと高圧電流を流し込む。強引に送り込まれるそのエネルギーを、接続した夢想家のシステムが制御する。

 数秒の収束(チャージ)の後に、発射準備が完了する。膨大な量のエネルギーを受け、臨界状態に達している砲身周辺と通常の大気との空間電位が爆発的に増大し、まるで粒子が収束するのにも似た光景を齎す。

 

 夢想家はトリガーを引く。

 溜め込み、抑え込まれていた運動エネルギーが一気に放出される。射出と同時に音速の壁を容易く超えた砲弾は、余剰エネルギーの放出現象による残光で夜の空を切り裂いて、狙いを過たずに交戦地点へと着弾した。

 

 爆発と、衝撃波によって巻き上げられた瓦礫と砂塵。遠く離れた司令部施設の屋上にも到達するほどの爆風。

 その中心にあって、無事でいられるものは居ないだろう。

 しかし、なんともタチの悪いことに、夢想家という人形は敵の生存を確信していた。

 そうでなければ面白くないから。到底論理的とは言えない思考だというのは自覚していたが、夢想家にとってはそれが全てだった。

 

「次の手も打っているのよ。私の気遣いを無駄にしないで頂戴ね?」

 

 




コラボしてもらってるD08のHK417ちゃんが指揮官と結婚をしたようです。
なので今回は夢想家からの祝砲を送らせていただきます。
改めて、おめでとうございます。


結婚式風景は番外編でやるよ、今執筆中。


あと、こんな亀更新小説でもお気に入りに登録してくれてる人が少しずつ増えてくれてるのが嬉しい……いやほんと、ありがとうございます。

ただ、おまえら、感想がないってことは好きなようにやってもいいって事なんだな?そうなんだな?(震え声
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