妄想フロントライン   作:杭打折

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episode.11

 S09地区G&K社第6基地司令本部。

 大きなモニターに向かって座る人物が一人。艶のある黒髪を後ろに流し、縁無しの四角いグラス越しの目つきは鋭く、眼前の戦局推移を見守っている。折目正しく着こなしたG&K社の制服に乱れは一切存在せず、当人の性格を表しているようであった。

 ひと目見た大多数はこの人物が極めて実務的な人間であると判断するだろう。そして、実際にそういうタイプの人間だった。

 モニターを見据え、彫像のようにピクリとも動かないその人物の代わりとでも言うように、背後の横開きの自動扉が開き、一体の戦術人形が入室する。

 

「御主人様、観測班からの報告です。交戦地区より高エネルギー反応を確認。電力量から、大型の電磁投射砲ないし粒子兵器が使用されたと推測される……とのことです」

 

 入室した副官が分析結果を口頭で伝達する。モニターに表示されている地図は広範囲を示すものに移り変わり、予想される射程を示す。その半径は凡そ18km。対空運用となれば多少射程は短くなるのだとしても、廃棄都市の中心部に備えられていたとしても十分な役割を果たすだろう。音の数倍の速度で直進する砲弾にチャフやフレアはまったくもって意味がない。そして人員輸送用のヘリの運動性などたかがしれている。回避運動など、したところで意味がない。

 

「如何なさいますか? 最悪の場合、回収は―――」

 

 ましてや、人形たちを回収した直後、離陸する瞬間を狙われでもしたらどうなるか。どうなるかなど、誰にでも想像のつくことだ。故に副官である彼女――G36という分類名称を持つ彼女は、自らの指揮官へと瞳を向ける。

 

「その心配は無用だ、G36。ヘリには当初の予定通りのコースを辿るように通達する。作戦に変更はない」

 

 回収は諦めるべきか、という最悪の事態を想定した彼女の言葉を指揮官は遮り、否定した。当初の予定通りのコースを使用しろという言葉に、不適切と理解しながらもG36は指揮官への疑問を顕にする。

 

「畏まりました……ですが御主人様、本当に宜しいのですか?あまりにも無謀では?」

「この作戦が無謀だと?ああ、その通り。対空兵装の存在が確認されている敵の支配地域に人員輸送ヘリを送り込み、離脱させるなど無謀にも程がある」

 

 指揮官は副官の疑念を全面肯定する。しかし、言葉とは裏腹にその口調に乱れは少しもない。無謀な作戦だと、公言するほどの評価を下しているのにも関わらず、だ。

 目の前の人物はそういった作戦を殊更に嫌う性格であると記憶しているが故に、不可解だった。

 

――ならば何故、そのような作戦を?

 

 メイドとして主の判断に従うという矜持からか言葉には出さなかったが、疑念を強めて表情を曇らせるG36に、指揮官は独り言じみた口調で続ける。

 

「回収は次の明け方がリミットになるだろう。それを過ぎれば周辺区域の鉄血が集結し、身動きすら困難な状況にもなり得る。状況は一刻を争う、急がねばなるまい」

「わざわざ他の司令部に要請を出してまで回収作戦を敢行する理由としては、些か弱い気もしますが」

「ふむ、不適格かな?」

「いいえ、御主人様がそうあれと望まれるのならば。それが、私にとって一番の理由になりますので」

 

 G36は思考する。指揮官は恐らく、確実に、HK417という人形についての裏を掴んでいるのだろう。いつ知ったのか、予め知っていたのかまでは分からない。だが指揮官の方から自分に明かさないのなら、それは自分の知るべきことでは無いのだろうとG36は判断して、それ以上の追求を止める。

 連邦保安庁特殊作戦部隊所属を経歴に連ねるこの指揮官が、如何なる繋がりを持ってこの場にいるのかなど、戦術人形でしかないG36が知るには過ぎた内容だというのが、彼女の自己判断だった。

 そんな思考を読み取ったのか、指揮官はそれで良いのだと薄い笑みを表情に貼り付けていた。

 

 

 

 全身に襲い掛かる衝撃波。

 受け身が間に合わないと電脳が判断すると同時に覆いかぶさってくる白い影。それをスオミのダミーの一体とHK417-arが理解したのは、破壊の嵐が過ぎ去り、建物の崩落が一段落した時だった。

 HK417-arを庇ったダミーの姿は形容し難いほどの惨状で、限界を超えたダメージによる強制停止状態に陥っている。

 彼女はダミーリンクの一体。メインフレームではない。自分にメタルの音楽性と魅力を熱く語っていた彼女とは異なる。そんな事は理解している。

 しかし、HK417-arの拳に力が籠もる。なぜ自軍の部隊ごと砲撃を仕掛けてくるという可能性を考慮しなかったのか、という自分への怒りが彼女の電脳を満たしていた。

 守られた。彼女を犠牲にして救われてしまった。HK417-arは自分を庇ったスオミのダミーリンクの頚椎に手を添える。

 救われた。ならば今度はこちらが彼女を救う。少なくとも、このまま見捨てる事はしない。

 D08所属の人形とネットで繋がって判ったことだが、D08の人形たちはダミーリンクにもある程度の個体差が存在していた。通常であれば無効化するダミーの疑似人格モジュールを有効化しているからなのだろうとHK417-arは結論づけている。

 ある程度固有の人格を有している彼女らにとって、此処での機能停止は時系列的な個体連続性の喪失を意味する。HK417-arはそれを防ぐためにスオミのダミーと有線で接続を行い、記憶された戦闘データなどの各種情報記憶や経験記憶の中で生きている部分を探す。幸いにも、メモリは完全に停止しては居なかった。即座に人格モジュールの摘出を行い、丁寧に収納する。

 それを使ったところでもとの個体と同様になるかは保証しかねるが、少なくとも記憶の連続性という観点での存在は保たれる筈だろう。HK417-arは自分にできることはやったと判断し、味方の生存と敵勢力の確認を行う。

 

「っ……此方417-ar、被害確認を!」

 

 人形同士の戦術ネットワークは悲惨な状況だった。中でも鉄血の方は悲惨と言える。損害多数の文字はさながら鉄血の下級人形たちに人格と呼べる人格が備わっていないことが数少ない救いだろう。人格があったなら、ネットワークは助けを求める声に埋め尽くされた地獄絵図と化していたに違いない。

 HK417-arは鉄血の戦術ネットワークは崩壊したと見て、どう動くべきかを思考する。着弾の際に生じたと見える電磁波の影響でグリフィンのネットワークも状態は良くない。囮部隊の他のメンバーも、撃破されていなければ近くに居るはずだが、HK417-arに返ってくるのは狂ったようなノイズ音ばかりだった。

 敵はおそらくだが交戦距離の最も近い鉄血部隊の位置情報を基に砲撃を行ったはずだと、HK417-arは砲撃が着弾した時の光景を思い出しながら推測する。

 しかし不可解なこともあった。砲撃の主は何故、自分達の座標を直接狙わなかったのか。

 

「敵はさっきの砲撃で撃滅するつもりはなかった……?」

 

 だとすれば次に行うのは何か。どんな手を打ってくるのか。HK417-ar は電脳をフル稼働させて思考する。数多の可能性を、先程のような見落としを起こさないために全力で予測する。

 砲撃を受けるまでの戦況はどうだったか。圧倒的とは行かなくとも有利であったことは間違いなく、突破の兆しが見えていた。

 敵の目標は何か。突破の阻止と我々の撃滅。

 ならば、一箇所にまとめた戦力を自らの手で排除したのは何故なのか――

 

「最初からあの部隊は捨て駒、別の戦力を投入するつもりだった?」

 

 単純に考えて、その戦力は先程まで集結していた部隊を上回るものだろう。だとすれば、考えられるのはただ一つ。

 

「ハイエンドモデルが来る……」

 

 答え合わせをするように、上空から排気音が轟いた

 

 

 

「見つけた……」

 

 間違いない。あれはグリフィンの人形だ。

 銀髪、黒コート、強化外骨格。間違いない、夢想家からの情報通りだ。あいつが私を、あれが居なければ――

 

「見つけた、見つけた見つけた見つけた見つけたァッ!」

 

 歓喜というのはこういう感情を言うのだろう。暴力的なまでに湧き上がる衝動が、喉を今にも突き破ろうとしている。

 

「私の身体をめちゃくちゃにした奴ッ!!」

 

 抑えが効かない。抑えようとも思わない。

 衝動に身を委ねる事はこんなにも気持ちが良いのだとは知らなかった。今ならばどんな事でも出来る。

 そんな高揚感に満たされながら、かつてデストロイヤーと呼ばれたハイエンドモデルは、輸送ドローンの固定アームを解除。

 音で気付いたのだろう。こちらを見上げる標的――HK417-arへと目掛け、2mを遥かに超える巨体を降下させた。

 

 

 

 




メイド好き(直球

どうも、読み直すと描写したかった事があるはずなのに上手く盛り込めてない事がたくさん見つかって落ち込んでるマンです。

GW一瞬でしたね、周回とサバゲーしてたら終わってた。
DDも近いし休める日はいつ来るんじゃろ?

そろそろリハビリ名目にし難くなってるから、放置してる作品にも手を付けないとと焦りを抱いてもいる。
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