妄想フロントライン   作:杭打折

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episode.13

 HK417-rfは足場の崩壊と衝撃、そしてEMPにより他のメンバーが一時的に行動不能になったときも、ほとんど意識を失わずにいた。

 崩落の際の衝撃で一瞬意識が揺らいだ程度で、EMPに関してはほとんど影響を受けなかったと言っても過言ではない。

 それが、彼女のメンタルが特殊であるからなのかは定かではなかったが、HK417-rfは思わぬ幸運に喜びながら、近くで一緒に埋まっていたG36Cを彼女のダミーリンクたちと一緒に引きずり出した。

 そして粉砕された瓦礫の中で埋まっている他の皆の位置をビーコンで把握。ビーコンから伝わってくる情報からは、損失はない事も判断できた。G36C達のフォースフィールドがなければどうなっていたかはわからないが、ただでは済まなかっただろう。

 

「さっきの砲撃、あれって間違いなく味方ごとやってたよね……」

 

 自分達が巻き込まれた砲撃の影響で周囲の電波状況は最悪。人形同士の相互通信により構築される戦術ネットワークはグリフィン、鉄血を問わず崩壊し、即座に状況把握が出来ない。

 着弾地点はHK417-ar達囮部隊がいる方だった。現状では彼女たちがどうなったかを知ることは出来ない。建物の内部に居る、ということであったから衝撃波の直撃は免れただろうが、建物の崩落に巻き込まれた可能性は非常に高い。

 

――とにかく、今はFAL達を瓦礫の中から救助してあちらの救助に急いで向かおう。

 

 そう考えた矢先だった。HK417-rfの目が一つの影を捉えた。

 夜空を行く一機のコウノトリ。そのデザインは直線が多く、色合いは黒ベースに白のモノトーン。お腹にはずいぶんと大きな子供を抱え、その重量を少しも感じさせない挙動で着弾地点の方角へと向かっていた。HK417-rfの表情が厳しくなる。

 

「全員集合!」

 

 HK417-rfは自分のダミーリンク達に集合を掛け、鉄血の増援が身動きの取れない囮部隊のもとへと向かっているという情報をネットワークで共有する。その瞬間に、ダミーを含む全員の意見は救出に向かう方針で一致した。

 

「今からあっちの救援に向かうよ……動けるのは私達しか居ない。長距離通信はまだ無理だろうから、一人は此処に残ってFAL達への連絡役。オッケー?」

 

 ダミー達から肯定の返事を受け、じゃんけんで負けた一人のダミーを残してHK417-rfはコウノトリの後を追った。

 とはいえ相手は空路を行き、此方は足場の悪い崩壊した陸路を行く。身体能力に優れた人形の性能を発揮しても、かなりの遅れをとってしまう。

 そしてHK417-rf達は開いた差を埋めることはかなわず、鉄血の増援であるあの人形兵器が囮部隊の直ぐ側に降下した。

 

――終わった。たとえどれだけ急いでも、もう間に合わない。

 

 そんな考えに頭が支配されかけた矢先、掻き消すような銃声が届いた。聞き覚えがある。そう、自分のライフルに似ている。ならばこれは、HK417-arのものだろう。

 それに続いていくつかの炎が一つ二つとあがった。交戦を開始したということだろう。走りながらいくつもの爆発が巻き起こるのを見たHK417-rfは、踏み出す脚に力を込めて更に加速した。

 聞こえる銃声は一種類のみ。であれば、他の人形たちは未だノックダウンから立ち直れていないという状況にあるのだろう。

 そして、ようやく見えてくるといった矢先に、重機関銃の斉射音とともに、7.62mmの銃声が途切れた。

 僅かに感じ取っていた、HK417-arのシグナルが絶えた。

 その事実に、どこかで抱いていた、無事だったという安堵。きっと大丈夫だろうという油断は、いとも容易く打ち砕かれた。

 弾着地点はほとんど粉砕された細かな瓦礫と粉塵で砂丘のようになっている。その中心に近い場所で、先程見た巨人が甲高い声を上げて笑っていた。

 

「……っ!」

 

 そして、その巨人の目の前には見るも無残に砕かれた人形の部品達と見覚えのある外骨格。

 ほとんど反射に近い動作で、HK417-rfはライフルを構え、側面を晒したまま笑い続ける巨人のコアユニットであろうデストロイヤーを狙撃する。

 しかし、とっさの狙撃だからなのか、それとも先程の崩落の影響で彼女のライフルに狂いが生じていたのか。狙った彼女の頭部ではなく髪の結束部分を束ねる髪留めにあたってしまう。

 原因はおそらく、ほぼ間違いなく後者だろう。いくら急な動作であったとは言え、烙印技術によるアシストを受けたHK417-rfが視認可能距離で外すはずがないのだ。

 敵が417-rfに気づく。そして、彼女の姿を見て目を見開き、その相貌は憎悪に満ちた。ぞわりとHK417-rfの背筋に悪寒が走る。直感的にこの場に残っていてはならないと、察知した。

 

「生きていたのかぁァァァァアッ!!」

「散開、散開っ!!」

 

 デストロイヤーが絶叫し、HK417-rfが檄を飛ばす。

 ヘカトンケイレスユニットの戦車砲から、HK417-rfを撃滅せんと砲弾が放たれる。

 榴弾が炸裂し、破壊と破片を撒き散らす。HK417-rf達はどうにかその加害半径から逃れたが、代償として場の主導権は敵の手に渡った。

 別方向にに散って破壊から逃れたHK417-rf達を、ヘカトンケイレスユニットの背から伸びる重機関銃が、1人あたり2門の数で追尾し、追い立てる。

 狙われたHK417-rf達は左右に進行方向の向きを変え、どうにかしてかわしていく。地面を蹴った直後、足裏を舐めるかのように地面と大口径弾のぶつかる衝撃が襲いかかるたび、命の危機を間近に感じながら、真後ろに迫る猛威から逃走する。

 

 反撃など試みようものなら一瞬で再利用不可能なスクラップだ。それをわかっているからか、HK417-rfもダミー達も逃げ続ける。

 逃げて、逃げて、ただ反撃のタイミングを待つ。

 

「ちょこまかと、ぉッ!!」

 

 痺れを切らしたデストロイヤーが、ヘカトンケイレスの両腕をHK417-rfへと向けんとし、勢いをつけ振りかざす。奇しくもそれはメインフレームのHK417-rf。

 彼女は射程圏内で、デストロイヤーがアクションを起こすと同時に、どういうつもりか足を止めている。

 シャンパンのコルクが、瓶の口から弾かれるような、先程までの戦場とは不釣り合いなほど気の抜けたガスの音。

 HK417の銃身下部より放たれた40mm径の巨大なコルクは、ヘカトンケイレスの戦車砲の砲口に飛び込む。

 危険を理解したデストロイヤーが砲撃中止の信号を送るよりも早く、ガチンと砲弾の音を叩く重い音がした。

 

「ばぁん」

 

 HK417-rfを見ると、してやったりと笑いながら握り拳で爆ぜるようなジェスチャーを見せた。

 

 例えばだが、いくら大型のパワードスーツに持たせるとはいえ、戦車砲を手持ちにするには設計上の課題をクリアしなければならない。

 それらは運用方法と要求性能、実現可能な性能と、諸々の数値との折り合いのよって妥協を挟みながら達成されていく。

 例えば給弾方式。ヘカトンケイレスの持つ砲は運用故に、一発ずつ込めるので後装填では非効率的である。また、左右に一門ずつの装備が要求されている。ゆえに、ヘカトンケイレスの装填機構はクリップ式に類似し、装填作業は背面サブアームユニットが使用される。

 

 つまり、ヘカトンケイレスの砲にはいくつもの砲弾が詰め込まれており、そのうちの一発は、今まさに撃発した直後。

 

 そんな砲弾の前で、榴弾を爆発させたらどうなるだろうか。

 

 答えは極めて単純。ある一つの現象が巻き起こされる。

 

――誘爆

 

 一度ならず、二度、三度と、次第に炸裂音を増しながら繰り返される爆発。

 ヘカトンケイレスユニットの巨体すら容易く呑み込むほどの爆炎が崩壊した廃墟を眩いほどに照らしていた。

 

 

 

 




突然ですがご報告。
平均評価点数が落ちるのを見て、モチベが若干下がったので、そのうち解除するとは思いますが、評価に必要字数を設定させてもらいました。
評価システムとやらがそういうものであるのは理解してますが、これは単に私のモチベを保つためのワガママのようなものです。
ご容赦を。

と、こんな後書き書いといてなんですが、これからもよろしくお願いします。
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