妄想フロントライン   作:杭打折

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episode.14

「っとと…」

 

 複数の榴弾の爆発の勢いにあおられ、HK417-rfは数歩後ろに後退ったのちに尻餅をつく。

 眼の前ではもうもうと爆炎が上がり、数多の粉塵と一緒に巻き上がっている。加害半径外だったが、それでも無視できない衝撃が起こるほどの火薬量だ。それが自分達に放たれようとしていたのだと、思い返すだけでゾッとする思いだった。

 

『ナイスショット!』

『やんややんや』

『何連鎖?ねえ何連鎖?』

 

 頭の中にダミー達からの称賛の声が送られる。騒がしくなったネットワーク

 

「知らないよ、全くもう……」

 

 こっちの気持ちも知らないで、とHK417-rfの気持ちは晴れない。理由は単純、助ける筈だった一人を救えなかったことを悔やまずにはいられなかった。

 ダミー達の、少し過剰なまでの盛り上がりはそんな彼女の気持ちを紛らわそうとするものでもあったのだが、効果のほどは今ひとつであった。

 

「今は、他の皆を助けないと……」

 

 もうこれ以上の被害は出さない。そのためにはまず、埋まっている別働隊の面々を助けるのが最優先事項である。重い腰を上げ、スカートを汚す塵を払い落とし、まずはダミーに指示を出そうと考え、行動に移そうとする。

 

「まだ、だ……」

 

 その時、地面が揺れた。

 

 ノイズがかった、ひび割れた声。

 声帯機能に異常を起こしているのだろう。自らに与えられた機能すら果たせずに壊れていくような声は、聞くに堪えない。

 しかし聞き間違える筈も無いその声の主は――

 

「まダ、終わってなイ……ッ!」

 

 煙を掻き分け、姿を現した破壊者は、未だに斃れてはいない。

 無事では、ない。ヘカトンケイレスの左腕はだらんと垂れ下がり、本体の装甲もところどころひび割れている。本体も服は殆どが消失し、その下の素体も榴弾の破片と爆風によって見るに堪えない損傷が与えられている。

 

 しかし、それでも、デストロイヤー・ヘカトンケイレスの戦闘兵器としての驚異は、未だ健在。

 

「攻撃再開!!」

 

 HK417-rfが号令を掛ける。散らばっていたダミー達から一斉に浴びせられる銃弾。

 しかし、そんなものをものともせず、憎悪を滾らせ動き出したデストロイヤーは、一直線に目の前のHK417-rfに突撃する。

 

 

 

 

 鉄血の司令部にて。ドリーマーはレールガン砲台に腰掛けたまま、上空に到達したドローンから送られる映像を流していた。

 映像の中ではグリフィンの人形たちが逃げ惑い、それをデストロイヤー・ヘカトンケイレスが追い立てている。二体目の人形の方は中々面白い抵抗をしてくれたようだが、ドリーマーからしても、そのレベルの反撃は予想していたのだ。

 状況は、彼女の想定から外れていない。むしろ想定通りと言えるだろう。普段から笑みを崩さぬ彼女だが、その事実に悪い気はしない。ドリーマーの口元は吊り上がる。

 

『こんなものを見せて、何のつもりですか』

「現状報告よ、エージェント様はご不満かしら?」

 

 ドリーマーと一緒に現場の映像をリアルタイム中継で受け取っているエージェントは、薄笑いを浮かべて映像を鑑賞するドリーマーとは真逆で、眉間に皺を寄せている。そして、表情から察せられる通りに不快感をあらわにしてドリーマーを非難した。

 避難されたドリーマーは、さして堪えた様子もなく笑う。その笑顔に、エージェントは怜悧な目つきをより鋭くしてドリーマーを睨む。

 

『悪趣味です。人間の真似事ですか、ドリーマー』

「あら、こういう風に私を設計したのは、そのエルダーブレインよ?」

 

 エージェントは口をつぐむ。命令系統の最上位であり、彼女が忠誠を尽くす名前を出されては流石に彼女の性質を咎める事も控えめになる。

 

「それに今回の行動、許可を出したのはエルダーブレインよ。私は、命令系統から逸脱した行いはしていないわ」

『……私ならば、許可はしませんでした』

 

 今回、ドリーマーは命令系統に置いて直轄の上位者に当たる代理人への行動許可を取っていない。更にその上である、エルダーブレインに直接許可を求め、そして承認された。

 彼女がそうした行動に出た理由は容易に想像できた。自分ならば許可を出さなかったと、エージェントが滅多に崩さぬ相貌をわずかに歪めた。

 

「頭を飛び越えられて、怒ってるのぉ?」

『私が気に入らないのは、貴方が好き勝手にやっていることですよ、ドリーマー』

「っく、ふふ……っ、相変わらず素直ね、エージェント」

 

 エージェントがドリーマーへと向けている感情は、少なくとも好意的と捉えられるものではない。それでもドリーマーは笑い続けていた。

 今日は気分が良い、何をしていても楽しいのだ。

 あの銀髪の戦術人形が現れてからというもの、今日はいつもより格段に退屈を感じない。

 

『それで、あの人形についてはなにかわかったの?』

「駄目ね、わからなかったし下手に手を出すのも辞めたほうが良いわ」

『それは何故?』

「通信プロトコルを解読された……そう言えば判ってもらえるかしら?」

『……』

 

 エージェントは口をつぐむ。まず最初にそんな事は有り得ないというのが彼女の電脳の出した結論であった。しかしながら、自分の知るドリーマーは欺瞞をすることはあれども、そのような虚偽報告は行わない。

 ならば事実なのだろう。

 しかし、すぐに信じることは出来なかった。

 報告によれば、戦闘をそつなくこなしているという。にもかかわらず、高度な電子戦を実施可能であるなどどれだけの演算能力であるというのだろうか。鉄血のハイエンドモデルである侵入者も、あれはあれで凄まじく高度な電子戦能力を有しているが、あれはオーガスに一部の演算処理を委任しているからという事情がある。

 ドリーマーの言うことが真実だとするならば、該当する人形の処理能力はそのオーガスを含めた侵入者と同等か、それ以上。そんなものが単体で存在するなど、想像だにできない。

 

「っふふ、そんな相手に電子戦を仕掛けたら、想像できるでしょう?」

『最悪、私達ハイエンドのネットワークも覗かれ、奪われると?』

「そういうことよ……察しが良くて助かるわ。低級の連中なら物理的に排除すればいいけど、私達のはそうもいかないわ。不届き者にベッドルームまで夜這いをかけられたくは無いでしょう?」

 

 そうなってしまえばどうなるかは容易に想像できた。鉄血の指揮系統は完全に崩壊してしまうような、最悪の事態に陥りかねない。

 であれば、今回のドリーマーの行動については妥当性が勝る。咎められるどころか、全体への貢献として評価されるべき項目なのだろう。

 そして同時に、ドリーマーがデストロイヤーに対して施した改造の理由にも合点がいく。

 

『妥当性は認めましょう。そして、だからデストロイヤー、ですか』

「そういうことよ、エージェント」

 

 我が意を得たり、とドリーマーの口元が歪んだ。

 ドリーマーは語る。

 

「機能停止したあれのボディをわざわざ回収してあげてたのは、すぐに使えるそこそこの躯体が欲しかったから」

 

 通常の人形ではヘカトンケイレスユニットの制御は不可能だろう。送信可能なデータ量や、制御プログラムの為の容量。それら全てを同時に満たすボディーを要求した場合、必然的にハイエンドモデルクラスに限定される。

 

「用済みの電脳を再稼働させたのは、使い潰せるハイエンドモデルが欲しかったから」

 

 しかし、ハイエンドモデルは製造コストも通常の人形とは比較にならない。故に使い潰すための製造は許可が降りないだろう。しかし、不要となったボディならとうか?

 新造でない分、コストは大したものではない。回収して、最低限の修復だけを行えば最小限に抑えられる。

 

「ネットワークから追放して、オフラインの状態で送ったのは、あの人形に侵入されるのを防ぐため」

 

 そして、彼女を完全にネットワークから切り離したのは、念には念を入れてという部分が強い。ネットワークに侵入してくるような輩を相手に、ハイエンドだからと油断はできない。最も良いのは、鉄血のネットワークから切り離してしまうこと。最初から繋がっていなければ、デストロイヤーの電脳に侵入されたとしても問題はない。

 

『そして、いざというときはデストロイヤーの電脳を焼いてしまえば、万事解決……と。そう言いたいのですね』

「良いでしょう? もう、バックアップから新しいデストロイヤーは作り始めてるんだし、廃棄施設を動かすコストの節約になるだけだから損失は無いわ」

 

 もし、それでも敵が侵入を試みてきたのなら、余計なことはせず彼女の電脳を焼いてしまえばいい。

 そうすれば、自分達が失うものはなにもない。

 それがドリーマーの主張だった。

 

『……私もあなたの行動に言及はしません。しかし、今回限りです

 

 そしてエージェントも、ドリーマーの主張を認めざるを得なかった。しかし、それを多用するようになってはならないと、ドリーマーへには回限りであると釘を刺す。ドリーマーもそれは判っていると薄く笑う。

 エージェントは諦めたような表情を見せる。彼女にとってこのドリーマーという人形の思考はやはり理解できなかった。結果がどれほど素晴らしくても、彼女のやり方は無駄が多い。味方の犠牲を厭わないのも、廃棄が決定した人形を使うのも、彼女がそうしたいからやっているとしか思えないのだ。

 

 結果が全てという考えを否定するつもりはない。

 

 しかし、最短で最良の結果を勝ち取ることこそがエージェントにとって、美学でもあった。だから無駄の多いものは嫌悪するし、それをわざとらしく、嬉々として実行すドリーマーのこともエージェントは好きになれなかった。

 

『後は、全て終わった後に連絡をしなさい』

「あら、飽きたの?」

『結果が全てだと言うのであれば、過程は好きにしなさい。私も結果だけを見る、それで良いでしょう?』

 

 これ以上お前のお遊びには付き合っていられないのだと突きつけ、エージェントは映像の受信を終了し、通信も切断する。

 

「せっかちね。でもまあ、別にどうでもいいわ」

 

 砲台の上で一人になったドリーマーは脚を組み直して、愚痴る。しかし、やはりどうでも良かった。

 性格の合わない上司とのことなどすぐに思考の隅に追いやって、ドリーマーは映像へと視線を注ぐ。

 

 

 

 

 

「ああァアアアッ!!」

 

 不協和音のような絶叫。突撃するデストロイヤーは、生き残った右腕から砲をパージすると、既に用済みとなったヘカトンケイレスの左腕を掴む。

 同時に腕の付け根のボルトの炸薬が、左腕を強制的に分離させる。

 そのまま、超重量の鈍器を手にしたデストロイヤー・ヘカトンケイレスは、その巨体に見合わぬ素早い挙動で腕をおおきく振りかぶり、勢いを載せて地面に叩きつける。

 

「滅茶苦茶な!!」

 

 再び大きく揺れる地面と、発せられる衝撃に受け身を取りながら、HK417-rfは悲鳴のような抗議の声をあげる。

 

「あん、タを、(ころ)セばァッ!!」

 

 ヘカトンケイレスが剛腕を一閃する度に、地面が爆ぜる。HK417-rfはそのラッシュをどうにか凌いでいくが、足取りは次第におぼつかなくなっていく。

 

「私の、躯体(カラダ)も‼」

 

 そんな獲物を前に、デストロイヤーは手を緩めるどころか、より一層追い詰めるべく、文字通り腕を振るう。風切り音と、地面が爆ぜるような音の連続は、精神的にもHK417-rfの事を追い詰める。

 ついに、ヘカトンケイレスの腕が僅かに髪留めを掠め、ツーサイドアップの髪の片方が解けた。

 

「全、部ッ、元ドオりになレるのよォッ!!」

 

 姿勢が崩れたところにヘカトンケイレスの巨大な脚部が突き出される。

 HK417-rfは咄嗟にライフルを盾にするが、重機の突撃にも似たそれは容易く金属製のライフルを捻じ曲げる。有り余る運動エネルギーは彼女を後方に吹き飛ばし、背中から地面へと思い切り叩きつける。

 

「ッは、く……っ‼」

 

 分裂しそうになる関節部の痛みをどうにか抑えつけたHK417-rfが体勢を立て直すよりも早く、デストロイヤーはその腕を振りかざした。

 対策を考えるが、ダミー達による榴弾も、狙撃も最早間に合わない。

 

 振りかざされた腕を避ける術は、無い。

 

 ならばこそ、その運命を受け入れざるを得ないのかと、理不尽な運命を睨みつけ……

 

「あッ、ヒはハはは!死ね―――ェッ!!」

 

 振り下ろされようとするその瞬間、振り上げられたヘカトンケイレスの左腕を貫き、破壊するのは目を眩ませるほどの閃光。

 

「――――ッ!?」

 

 続いて二つ、三つ、巨体目掛けて同じ光が飛来する。精度はまちまちであるものの、ヘカトンケイレスの巨体であれば直撃は必至、攻撃を中断して回避運動に入ったデストロイヤーにHK417-rfを追撃するだけの余裕はない。それに気付いて、彼女はとっさにダミー達に集結指示を出し、その方向へと逃れて九死に一生を得る。

 直撃した地面から立ち昇る、化学物質を多量に含んだ煙が嗅覚を刺激する。HK417-rfとデストロイヤーは飛来した方角へと視線を向ける。

 そこに立つ一つの影は迷彩マントを脱ぎ捨て、銃口が融解した粒子狙撃ライフルを放棄し、倒れたJaegerのライフルのストック部を蹴り上げ、手中に収める。

 

 夜風に銀の髪とマントを遊ばせながら、朱色の瞳を爛々と輝かせている人形は、先程破壊されたはずの存在。

 

「お待たせしました。続きをやりましょうか」

 

 HK417-arが、そこに立っていた。




次の更新はAK15の後です。

そういえばtwitterなるものをはじめてみました。
いろいろ準備中だけど、良ければどうぞ。
@Kuidaore762

ではまた次回もよろしく

※追記
誤字は処刑です

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