妄想フロントライン   作:杭打折

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カカオの錬金術師氏作の「元はぐれ・現D08基地のHK417ちゃん」とのコラボ回。
すまねえ、いつもの遅刻組なんだ。

前後編の二本立て予定の全編。

今回のはHK417ちゃんとうちの417の区別をするために、うちの417の一人称視点となっております。

あと、時系列的には本編からだいぶ外れてるので、そのつもりでよろしゅうたのんます。



EX2.D08の結婚式(前)

「結婚式ですか」

「そうだ、先方は君をご指名らしい」

「それは有り難い話ですが」

 

 作戦から帰還した私は、急遽呼び出しを受けていた。作戦内容に不備があったかと多少身構えていたのだが、告げられた言葉は私の予想からは大きく外れていた。

 しかも、クライアントから自分を指名しての依頼ということである。非常に有り難い話だが、しかし、結婚式である。

 何故人形である私に――いや、なるほど、そういう事か。私は完全に理解した。

 

「なるほど、周辺地区の敵を掃討して式の安全確保が任務ですか」

「違う」

 

 違っていた。私はこれ正解に違いないと思っていたのだが。

 

「では、会場内の警備でしょうか?」

「違う」

 

 では、と考え得る可能性の中で2位に来るものを問う。また、これも違うらしい。だがそうなるとお手上げだ。

 作戦内容を考え込む私に、呆れたような口調の言葉が続く。

 

「普通に出席しろ。お前宛の招待状だ」

「……なるほど、これはめでたいですね」

 

 差出人の名前を見た私の口からは自然と祝福する言葉が出ていた。

 

 

 

 さて、そんなやり取りをした次の日。2日間の特別休暇を与えられた私は今、D08司令部行のヘリで移動している。

 普段のスーツとは異なり、今はグリフィンの制服だ。別の座席にベルトで固定されているケースの中身は用意してもらった披露宴用の正装だ。 

 正式な場所であるということで、グリフィンの制服で行こうとしたのだが、猛反対を食らった。結果、昨日は一日かけて衣装合わせが行われた。前線勤務よりも疲労感を感じたのは此処だけの話だ。

 

「着陸します。少し揺れますよ」

 

 パイロットからの言葉で思考を断ち切り、丸窓から外を見る。

 窓から見える基地は何処か慌ただしい雰囲気だ。結婚式が始まるのだから、それも当然だろう。しかし、これほどの人員を動かしているとなれば思った以上に大掛かりな式になりそうだった。

 浮ついてる。電脳の演算処理に対する影響――平時と比較して、戦闘状態への移行まで0.1msの遅延が生じる可能性あり。

 どうやら、自分も思った以上に浮かれているのかもしれない。

 

 

 

「あなたもHK417なのね♪」

「はい、紛れもなく私も417です」

 

 受付を務める豊満な胸を揺らす戦術人形からの問いかけに答える。彼女が名前を口にしたことで周囲から集まる視線が何割増しになった気がするが、気にしない。新婦と同じ名前の人間が居れば多少なりとも視線が注がれるのは当然だろう。隣の受付を務める男性からの視線も強く注がれている。知的好奇心を感じさせる目だろうか。

 

「面白い人形だな……どんな仕組みだあ゛ぁ゛い゛だい゛い゛い゛い゛い゛い゛っ!?」

「ふふふ……ダーリン、お客さんに色目使っちゃぁだめよー♪」

 

 と、そう思ったら、豊満な胸を揺らす戦術人形が男性のわきばらをつねっていた。手首の角度から察するに割と皮を広くつまんでいる。痛覚は……考えるのをやめておこう。

 

「わかってるって、別にそんなつもりじゃあ、い゛っ゛て゛ぇ゛!?」

「ふふ、わかってるわよー♪ これは嫉妬だから」

「んな理不尽な! 俺はイサカ以外には興味ないってわかってんだろ!?」

「あん、うれしいわ、ダーリン♪」

 

 喧嘩したと思ったらいつの間にかいちゃつき始めた。この二人はそういう関係なのだろうか。だとすればD08では割と人形と人間での関係が深いと考えるべきなのかもしれない。

 しかし、行ってもいいものなのだろうか。あーでもないこうでもないと言い合いながらいちゃついてる二人を眺めながら、受付に視線を通す。狛犬のように鎮座しているデータ共有用の個体と目が合った。

 

―――イッテモイイヨ

 

 無言でコクリと首を縦に振るその仕草に意思のようなものを感じ取り、受付を通り抜けた私はその場を後にして更衣室へと向かうことにした。

 

 

 

 更衣室で着替えを済ませた私は、会場へと向かいながら基地の中を歩く。通路の突き当りを左に曲がってさらに直進。二つ目を今度は右に曲がって――ナビゲートは自分で行いながら、会場までの通路を向かう。

 こうしてみていると、参列者の多くは何人かでやってきている場合が多いのが分かる。一人で来ている私は結構珍しい部類のようで、すれ違うのは二人連れであったりと、皆楽しそうである。

 D08基地を見学して、思ったのは活気にあふれているという一言に尽きる。最前線でない事もあるのかもしれないが、私にとっては新鮮味にあふれる光景だ。人間と人形が皆幸せそうなのだ、それだけでも処理不可能な感情が電脳を満たすのだ。

 

「……ん?」

 

 そうして目的地に向かおうと思って曲がり角を曲がったところで、一体のDinergateが私の脚と接触事故を起こして転がった。咄嗟に回避行動を取ろうとしたのだろう、姿勢制御プログラムにない姿勢で仰向けになって四足歩行の脚をじたばたともがく様子は見るに堪えない。屈んで抱き上げると、メインカメラの単眼レンズで私をじっと見つめている。この基地に来て驚いたことなのだが、ところどころに姿が見られる鉄血の兵器Dinergateはどうやら鹵獲されたものなど、無害化されているものであるらしい。IFFで識別を行った私は悪くない。

 元は鉄血の作った敵性兵器なのだが、IFFが彼らを味方だと認識している以上は咄嗟に攻撃するような醜態を見せない。しかし、その姿にはむずむずするというか、気持ちが落ち着かないのはある。

 きっとこれが職業病というものなのだろう。

 

「そんなに急いでどうしたのですか」

 

 私は問いかけてみる。じたばたと訴えかけるように四足を動かすDinergate。音声出力機能付与などの改造はされていないと見える。ワイヤレスでローカルネットワークを構築――失敗。外部スイッチでネットワークが切られている? 仕方がないので接触部を介してネットを構築する。プロトコル方式と言語識別はDinergateに合わせて―――

 

「……ふむ、なるほど。枝を付けられそうになって、急いで逃げてきたと」

 

 Dinergateと会話をして、彼?の置かれている状況と事情は概ね把握した。確認のため問いかけると両手をばんざいするように挙げる。正解であるらしい。さてどうしたものか、D08の戦術人形ネットワークに接続すれば―――却下、認証コードを知らない。共通ネットワークでもよいのだが、それでは参列している他の地区の人形にも知れ渡ることになる。さて、どうしよう。いや、そう言えば以前救出された際に一緒に行動したスオミとは個別回線ログがあったから、回線リクエストを送ることができるのではないだろうか。

 

「お、いたいた。ダメじゃないか急に逃げ出すなんて―――」

 

 私が考えにふけっていると、後ろから男性の声がかかった。振り向くと、D08の印章の入ったつなぎを身に着けた、整備兵らしき人間が歩み寄ってきて、私を見て固まっていた。

 

「お、おぉ――――」

「あの?」

 

 目を見開いて、私を爪先からなめ上げるように視線を動かして何やら感極まったような声を漏らし―――

 

「銀の月を写す清らかなる湖、夜の闇を映して深いその漆黒は貴方の心の深奥を隠す。故、誰もがその深淵を解き明かさんと、そこに飛び込まずにはいられない……」

「……?」

 

 そして、目にもとまらぬ速度でひざまずいて、私の手を取りながら奇怪な文章を口にした。

 

「揺らぐ瞳もはそよ風に波立つあなたの心なのか……そのそよ風に私はなりたい。おお可憐なりし魔性の月よ、古来より人を狂わすその魅惑、我が身は抗うことを知らない愛の奴隷」

 

 私の左腕に抱えあげられているDinergateの単眼レンズの形が半月状に変形しているのを錯覚するほどに、奇怪な光景だった。

 

「故に、どうぞこの哀れな整備兵にお情けを与えてください……そう具体的には、あなたの流麗なおみ足と、爪先から踵を覆い踝までを艶めかしく彩るヒールにて……」

 

 そんな私たちを前にして、しかし彼は止まらない。一体どこにため込んでいたと思うような言葉の羅列。恍惚とした表情で私を見上げながら語る声の端々に熱がこもっている。いや、なにこれ。

 

「ふみふみ、と」

「もしもしスオミ、変態が居ます」

 

 さすがに私でも、擁護できる人間とできない人間がいる。彼は後者であった。

 

 

 

 

「ご迷惑をお掛けしました」

「いえ、気にしていませんので」

 

 数分後、ガタイのいい警備員に連行されていく整備兵の姿を見送って、スオミが私に謝罪をしていた。いや、気にしていないので問題はないのだ。問題はないのだが、あれはいったい何だったのかは結局よくわからないままである。手に抱えたままのDinergateが頬をぺちぺちとはたいている。接触解析―――どうやら私を慰めているらしい。

 

 

「彼にはいろいろと罪状があります。警備用のDinergateを使用しての盗撮とその映像画像音声データ各種の販売計画。販売ルートも含めて、一斉摘発されるでしょう」

「はあ」

 

 淡々と語るスオミの口調に慈悲といったものは一切ない。盗撮魔死すべし慈悲はない、といったところだろうか。同意するようにDinergateが両手を挙げてもぞもぞしていた。それを見たスオミは優し気に微笑んだ。

 

「懐かれていますね」

「そうでしょうか?」

「そうですよ」

 

 そもそもDinergateに懐かれるという感覚がよくわからない。然程高度な電脳を持たない彼らが懐くものなのだろうかという疑問がまず生じる。

 そんなことを考えつつ、私の手におとなしく抱えられながらも時折ちょっかいを出してくるDinergateの頭部ユニットをむぎゅと抑えつけておとなしくさせる。

 

「それにしてもこんな日に警備ですか。ご苦労様です」

「ありがとうございます。皆さん此方の誘導に従ってくださってますし、それほど大変ではありませんよ」

「私に言ってくだされば警備に参加しましたのに」

 

 私としても警備の方が今日という目出度い日に、一帯の安全を提供することで貢献できるのではないか。しかし、招待状を受け取ったのは素直にうれしかったからというのもある。眉を寄せて考え込んでいると、スオミはくすくすと笑みをこぼしていた。

 

「あなたには素直に祝ってほしかったんですよ」

「そういうものでしょうか?」

「そういうものです」

 

 結婚というものは複雑怪奇であると結論付けた。そもそも恋愛感情というものが私の電脳に許容された経験領域に存在するのかもわからない。いやそもそも、戦術人形の恋愛とはプログラムとは異なるものなのだろうか。恋愛をするように最初から汲み上げられた電脳であるならば、それは機械としての機能を発揮しているにすぎず、純粋な恋愛といえるのだろうか――

 

「さて……私はそろそろ警備に戻りますね。今日は楽しんでいってください」

 

 思考のループに陥りかけていた私をスオミの言葉が引き上げる。確かに、彼女には警備という仕事があるのだ。ここでいつまでも時間をつぶさせるわけにはいくまい。

 

「あ、引き止めてしまいましたね。警備、頑張ってください」

 

 私はおとなしく見送り、そして手に抱えていたDinergateも彼女と同様に警備の任務を与えられているものだと思い返し、地面にそっと降ろす。Dinergateは数秒私のことを見つめた後、自分の役割を果たすために走り去っていった。

 接触解析が解けたことで、電脳の一部リソースが解放された感覚が起こる。空き領域を速やかに有効活用するにはキャッシュをクリアするべきなのだが、私は経験領域にキャッシュデータをを暫く残しておくことにした。

 




というか結婚式なのにHK417ちゃんが出てこないんですがいいんですかねぇクォレは……こ、今回のは導入というか前フリみたいなもんだから(震え声

次回から式本番。
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