妄想フロントライン   作:杭打折

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事前に警告をしておきます。
この話から独自要素、独自設定、独自解釈が多々でてきます。
この小説の基本は「ついてこれるやつだけついてこい!」なので、ご理解願います。ではどうぞ。


episode.15

 いったい何が起きている?

 

 まず最初にデストロイヤーの思考を満たすのはその疑問だった。

 情報を整理すれば、それはひどく単純な話でもある。

 自分の腕に与えられたのは、鉄血の兵器に多く見られる粒子兵器による破壊。ドリーマーの砲撃により、辺りには鉄血兵の残した武装が数多散らばっている。

 眼の前の敵が所持しているのは、その中から拾い上げた、鉄血の狙撃兵が使用する標準的な粒子ライフル。

 それを、銃身が自壊する程の出力にまで暴走させて運用している。

 

 鹵獲した鉄血の武装システムの掌握というのは、理論的には不可能な話ではない。

 人形と異なり、個々でネットワークに接続されていない武装は、それぞれが備えるセキュリティさえ突破してしまえば、どんな人形でも武器として扱うことが出来るようにはなる。

 

「っ――!!」

「以外に素早いですね、非烙印武装ではこんなものですか」

 

 しかし、限界を超える出力で暴走させるとなると、話は変わる。

 射出する粒子を加速するための加速器。その動力源となるのは、使用する戦術人形のエネルギーに他ならない。

 少なくとも、粒子ライフル自体は、本来の持ち主であるJaegerが最大駆動をしても耐えきれる様に設計をされている。

 

 銃身が自壊するほどの出力ともなれば、それは現在運用されている、人間大の身体に搭載可能なあらゆる動力源で賄えるものではない。

 

 最低でも、発電所規模の出力は必要。

 

 だとすれば、目の前の人形の出力は発電所とでもいうべきエネルギー生成能力を内に秘めているという事実に他ならず――

 

「お前、まさカ……」

 

 その事実に行き着いた時、デストロイヤーは眼前の存在を最大の脅威として認識した。

 

「お前、崩壊技術を動りょクに……っ!?」

 

 デストロイヤーの電脳が至った結論にHK417-arは――

 

「私のことなんて、どうでもいでしょう」

 

 敵手の驚愕を、僅かにも意に介すことのない回答を返していた。

 

「重要なのは、貴女が命令の障害となっていること」

 

 お前は邪魔なのだと、デストロイヤーに布告する。

 

「貴女を排除しなければ我々は進めない」

 

 お前は排除すべき敵なのだと、デストロイヤーに対して宣言した。

 

「だというのならば、排除するのみです」

 

 戦闘再開を告げる閃光が、暁光に染まりつつある廃墟に迸った。

 

 

 

 

 

「ロマーシカ、について?」

 

 IOP本社直轄最重要機密研究所――16Labと呼ばれるその研究施設の中心部。主任研究室の主であるペルシカは、眠気覚ましの合成コーヒーの中に注いだミルクをかき混ぜながら、唐突に訪れた通信相手からの問いかけを反復した。

 

「元はそちらの人間だ。なにか知っているのだろう?」

「うーん……」

 

 ペルシカは曖昧に返答をぼかすようにしてマグカップに口をつける。馥郁と表現するには程遠い味だが、眠気を覚ますには十分だった。眠たげな瞳は僅かな活力を取り戻す。明瞭になったペルシカの頭の中を満たすのは、教えるか悩むというより、何故知りたいのかという疑問だった。

 

「教える前に、理由を聞いてもいい?」

 

 ペルシカは、故人であるロマーシカとヘリアンの間に繋がりを見いだせなかった。ヘリアンをグリフィンという組織に置き換えても、彼女が統括していたプロジェクト故に存在していた繋がりも、企業同士の正当な手続きの上で完全に絶たれていたのだ。ロマーシカはその後暫くしてすぐに故人となったから、その後に何らかのやり取りが行われていたとも思えない。

 結局、考えてもわからなかった。

 

「現在、我々の実施している作戦行動に関与している可能性がある」

「彼女はもう死んでいる……というのは、もちろん知っているのよね?」

 

 ペルシカは確認をするように問う。ヘリアンが口にしたロマーシカという名前には、確かに覚えがあった。

 しかし、彼女は既に故人である。最早この世界のどこにも存在しない、遠くに行ってしまった存在。それが、関与していると本気で言っているのかとペルシカは問う。

 

「無論だ。その上で、聞いている」

 

 肯定。知っているとヘリアンはペルシカに情報提供を強く求めた。

 

「そう、なら何から話しましょうか……」

 

 ペルシカは最後まで躊躇うように口元を、やがて、口を開く。

 

「彼女が研究していた中の1つは、コーラップスの存在を基底にした、ナノマシン技術」

「やはり、コーラップスなのか」

「そうよ」

 

 そこでペルシカは言葉を一旦区切って、呼吸を挟む。ゆったりと椅子に背を預け、昔の出来事を思い出すよう天井を見上げながら、ぽつりぽつりと記憶の中から引き出した言葉をそのまま出力していく。

 

「崩壊技術は物質を最小単位近くまでで分解し、原子と電子の域までわけてしまう。逆崩壊はその逆で、原子と電子を制御し既知の物質の構成に作り変え、再構築を行う技術……分解し、理解した物質に再構築する。崩壊技術の本質は、電子の運動制御……」

 

 ペルシカは淡々と語り続ける。

 

「崩壊と同時に自由になった電子の運動を制御し、原子に対して再配置を行う。それさえ可能ならば、崩壊と逆崩壊という現象は理論上制御可能だと言った科学者が居た」

「それがロマーシカ、か?」

 

 ペルシカは首肯し、認める。

 

「彼女は、それを分子で構成されたナノマシンで実現していた」

「実現していた、だと?」

 

 ヘリアンは目を見開き、僅かな時間、言葉を失った。

 

「大した技術だな。もし、その技術が本当に存在するのなら、我々人類を取り巻くあらゆる問題が解決する。私に知らせていい情報とは思えないが」

「再現不可能だからね。ロマーシカはその存在を最後まで公表しなかったし、論文も研究資料も廃棄されてしまっていた。唯一残されていた彼女の頭脳も、彼女の死によって葬り去られてしまった」

「なるほどな……」

 

 ヘリアンはその技術を、組織としての立場を抜きにしても惜しいと思った。間違いなく、誰もがそう思うだろう。崩壊液は今の人類の手に余る技術だが、その技術が一つあれば崩壊液は人類にとって福音に転じる事もできる。

 しかし、既に失われてしまった技術だというのならば、考えるだけ無駄でしか無い。そう思い、ヘリアンは情報の優先度を下げた。

 

「何故彼女は公表しなかった?もし公表すれば、さぞ名声を得られただろうに」

「嫌だったんだろうね、きっと。ロマーシカは自分の技術を、自分の望む形以外に使われることを殊更嫌っていたから」

「兵器として運用されることを拒んだ、と?」

 

 AK47を生み出したカラシニコフ、ダイナマイトを発明したノーベルなど、歴史に名を残す技術者達も抱えたジレンマか。そう思い、ヘリアンはペルシカに尋ねる。

 

「いいや」

 

 しかし、そうではないと、ペルシカは否定する。

 

「彼女は自分の技術の使い方を自分で既に決めていた。それがもう一つの研究で、ロマーシカにとっての本命だった」

 

 悼ましげに目を伏せ、瞼の裏側でその時の光景を思い返すような仕草の後にゆっくりと吐き出す。

 

「ロマーシカが最後まで求めていたのは、新たな人類の製造。崩壊液に晒されて壊れてしまう人間のような脆弱さの存在しない、あらゆる環境に適合可能な新基軸の生物を産み(つくり)出すこと。それが彼女の命題」

 

 

 

 

 

「っ……こ、のォ……ッ!」

 

 攻めるものと逃げるもの、その立場は完全に逆転していた。

 417から放たれる粒子ビームの直撃を避けるために、地面を跳ね、時に転がって、回避していく。

 

「援護射撃、足を止めさせて!」

 

 HK417-rfは集結しつつあるダミーリンクに支援射撃の指示を繰り出す。

 殺傷榴弾と関節部を狙った狙撃は、装甲を掠める熱戦により本来の強度を失いつつある装甲に少しずつ、ダメージを蓄積させていく。

 

 姿勢制御を行うために足を地面につけると同時、その隙間に滑り込んできた榴弾が炸裂する。

 元々、左腕を失ったことで体のバランスは悪化していた。そこで無理な回避軌道を何度も重ね、不安定に不安定を重ねた姿勢制御はついに崩壊の瞬間を迎え、地響きを立てながら倒れ伏した。

 銃身の冷却のために、HK417-arは一旦攻撃を中断する。初撃のような出力を出してはいないが、それでも最大を上回る値を設定している。

 銃口付近の塗装は剥げているし、冷却口から立ち上る煙を見るに粒子の通り道のバレル内部は間違いなく焼けている。

 敵が再び立ち上がるまで、時間は限られている。反撃の機は此処に在りと見たHK417-arは、少しの時間も無駄にしないためにすぐさま、HK417-rfとダミーの集結している地点へと向かう。

 

「無事だったなら言ってほしかったんだけどっ!?」

「も、申し訳ありません……!」

 

 合流しての第一声。強い語気で放たれた言葉に、HK417-arは驚きつつも即座に謝罪する。

 反論はできない、する気もない。実際、HK417-rfには結構な迷惑をかけてしまっているという自覚があった。

 HK417-arが、鉄血を身代わりにして離脱し、奪った迷彩マントを駆動させて姿を隠した直後、HK417-rfが到着した。

 勿論、最初から窮地になったら助けに入るつもりではあったが、これ幸いにと、使える粒子ライフルを探しに行ったことに変わりはない。

 無事だと告げずに、囮として利用してしまったのは紛れもない事実なのだから。

 

 助けたのだから、無事だったから、彼女は許してくれるだろうというのはふてぶてしいだろうと考えていたHK417-arは、許してもらえるだろうかと様子をうかがう。

 HK417-rfも、あまり深く追求するつもりはなく、現状、最も解決すべき事の協議を求める。

 

「それで、どうするつもり?」

「立ち上がる前に距離を詰めて、そのまま私が前衛を務めます。417はダミーと一緒に射撃支援を」

 

 自分が前に出るという発言を受けて、HK417-rfは目の前の相手のことを慮るような色が強い。

 

「それはいいけど、貴女は前に出ても平気なの?」

 

 HK417-rfは可能なのかと問う。

 HK417-arの区分はAR、基本的には後衛だ。前衛を行うには、回避用の運動モジュールやプログラムをインストールしておく必要がある。言い方は悪いが、信じれるだけの要素がないのだ。

 

「問題ありません」

 

 その懸念を他所に、可能であると、HK417-arは一切の淀みの無い口調で答えた。

 

「なら、やってみよっか……私には武装がないから、ダミーとハンドガンの支援になるけど」

 

 だから、HK417-rfもその提案を受け入れる。しかし、彼女の武装は破壊されてしまっている。標的に与え得る火薬量と鉄量はハンドガンとダミーが保有するものを駆使したもの。本体が発揮可能な火力が著しく低下しているのは痛いが、何も出来ないということではない。HK417-rfは自分の残された戦力を最大限活用する方法を考え始める。

 

「それならこれを使ってください。残弾は15発、どうせ近接には向きませんから」

 

 それならば、とHK417-arはスリングに通す腕を抜き、自らのライフルのハンドガードを掴んで差し出す。

 元々、銃身長などの差異はあれども同型の銃を扱っている。基本的な操作は共通であるならば、訓練せずとも扱えるはず。惜しいことに烙印の共有機能は存在しないので、HK417-rf本来のものと比べれば制御能力は格段に落ちてしまうが、そこはある程度、本人の経験でカバーできるだろうというのが、HK417-arの結論だった。

 受け取ったHK417-rfは射撃姿勢を取り、重量のバランスの確認などを行い、構えを解いて軽く頷く。基本操作に問題はなく、使用感覚もすぐに掴めそうだった。

 

「なんとか使えそうかな。ただ、精密射撃は難しいかも」

「十分です」

 

 HK417-arは問題ないと満足げに、口元を笑みで歪めた。




あっちが先だと言ったね(´・ω・`)
すまん、こっちが先にできたんだ、すまん!

まあ今週末か来週には人形道の方もあげるから許して。



では、またお会いしましょう。
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