妄想フロントライン   作:杭打折

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はい、謝罪。
遅くなって大変申し訳ないです。


episode.17

「……そう、デストロイヤーは破壊されたのね」

 

 長距離狙撃砲の砲身に腰掛けるハイエンド――ドリーマーは、前線へと送り出した機動兵器からのシグナル途絶を感じ取り、そう判断していた。

 もともと、損傷したデストロイヤーのボディを廃棄する前に有効活用しておこう程度の考えであったが故に、デストロイヤーの敗北を知ったところでドリーマーは僅かにも揺らがない。

 むしろ既定路線であると言うかのように、平然とその事実を認識していた。

 彼女の立てていた想定から外れたのは、想定よりも遥かに早くデストロイヤーが撃破された事ぐらいのものだ。稼働限界まで動いてくれるだろうと少しは期待していたのだが、その期待は裏切られた。

 とはいっても、最低限の時間は稼いでいる。いつもよりは役に立ってはいるのだろう。そういう意味では、これ以上の成果を期待するのは過度な期待としか言いようがないのかもしれなかった。

 

「あら……」

 

 ドリーマーは残る手札を頭の中に並べ、現状をどう動かすかに思いを馳せる。電磁投射砲(レールカノン)による狙撃は最終手段であるが、航空兵器を飛ばしてもいいかもしれない。狙うべきは連中が脱出の為の機に乗ったタイミングがベストか。想像は止まらない。

 

 だが、そんな楽しい時間は強制的に開かれた回線によって打ち切られた。

 生憎とドリーマーの手元にディスプレイは存在していない。仕方ないと、回線の主を無視するわけにも行かないまま彼女は目を閉じ、意識の一部を電脳空間へとダイブさせる。

 

 電脳世界。無機質な黒い壁とリノリウムのような床に囲われた部屋の中にドリーマーは立っていた。子守唄のような歌声を聞きながら見渡せば、部屋の中央にぽつんと小さな机が置かれている。それを照らすよう天井に埋め込まれた照明が、この部屋唯一の光源だった。

 机の向こう側には己を呼び出したものが、置物のように静かに座っていた。ドリーマーは自分に気付いているだろうにも関わらず、微動だにしないその相手――すなわちエージェントの様子から視線をそらすことなく歩み寄る。そして自分の側の椅子を引き、その上へと腰掛けると前屈みの姿勢で頬杖を付いて問いかけた。

 

「何の用かしら?」

「遊びすぎですと、まずは忠告を一つ」

 

 向かい側に座るもの――エージェントは、開口一番に静かながらも存在感の込めて叱責の言葉を口にする。エージェントの瞳はドリーマーを真っ直ぐに捉えていた。

 ドリーマーの相方であるデストロイヤーでたれば、いや大抵のハイエンドはエージェントからそのように見られることに萎縮するだろう。だが、ドリーマーはわずかにも気にした様子はなく、クスクスと笑い声を漏らしていた。 

 エージェントの目が不快感を示すように細められる。ゆっくりと時間を掛けて笑いを落ち着かせたドリーマーに、その表情のまま苦言を呈する。

 

「治まりましたか?何か可笑しいのか、理解に苦しみますわね」

「ごめんなさいね、エージェント……でも、仕方ないじゃない。たかだかグリフィンの人形を排除しろってありきたりな命令に、代理人(エージェント)と呼ばれるあなたが、こう何度もせっついて来るものだから……可笑しくってつい」

 

 まるで何かに怯えてるみたい――更に笑みを深くしたドリーマーの発した言葉に、代理人の端々まで整った目元が鋭くなる。

 何を聞きたいのだと、エージェントは視線で問う。ドリーマーはニンマリと笑いながらも、何も知らないのだと言うように芝居がかった口調で並べ立てていく。

 

「そもそも、本社施設防衛が私の主任務の筈よ。なのに此処はそれとはほぼ無関係。戦略的に見てもそれは明らかなのに、何故私が配備されているのかしら?」

 

 予てより、ドリーマーにとって廃棄都市の防衛というのは理解しがたい任務であった。人間にも鉄血にとっても、ここは戦略的に重要な土地ではない。汚染の少ないという意味で言えば人類の生存戦略にとって価値はあるのだが、軍事的な要地とはならないというのが総合的な判断である。

 同様に、鉄血にとっても然程の価値があるわけではない。わざわざこうして、過剰なまでの防衛戦力を配置すること自体が普通ではないと考えていた。

 

「何か大事なものでも隠しているの?」

 

 此処に何かあるのだと言っているようものだ。そしてそれが、突如として都市に現れた未知の戦術人形にあるのだと、ドリーマーは確信していた。

 ドリーマーは瞳に剣呑な光をチラつかせながら、エージェントに答えを求める。エージェントは黙して語らず、肯定もしないが否定もない。

 そうしてしばらく、ドリーマーとエージェントは無言のまま互いに見つめ合う。

 

「良いでしょう……そこまで言うのなら、これを」

 

 先に口を開いたのはエージェントだった。エージェントは諦めたような様子を見せつつ口を開き、一つの記録データを送付する。

 どうやら映像記録であるらしい。そしてもう一つ、閲覧すれば第三者への伝達に関する一部権限がロックされるものであることがわかった。

 

「随分な厳重さね……」

 

 知らされていなかった情報。しかも他言無用であるときた。どれだけ好意的に受け止めたとしても、厄介な類の情報だ。

 デストロイヤーならば、受け取った途端半泣きになってドリーマーに泣きついていただろう。しかし、ドリーマーにとってはこれは千載一遇の好機でとあった。

 この廃棄都市で味わっている、身を滅ぼしかねないほどの退屈な日々から逃れられるのであれば、それがどれほど厄ネタであろうとも彼女は笑顔で歓迎するだろう。

 

「それで、私に何をさせたいの?」

 

 僅かに喜色を交えながら、ドリーマーは薄笑いで表情を歪ませた。

 

 

 

 

 

「無事?」

 

 HK417-rfは倒れ伏したヘカトンケイレスの掌へと、落ち着かない足取りで歩み寄る。覗き込むように身をかがめながら掌に握られたままのHK417-arへと声を掛けた。

 

「無事ですが、抜けるのにはもう少し」

 

 返答は早かった。HK417-arは意外というべきかはわからないが、平然とした様子で身をよじっている。最後の抵抗とでも言うように固く握り込められたままのヘカトンケイレスの手から抜け出ようとしているのだが、体勢が悪いらしく苦戦していた。

 

「なにか手伝う?」

「私の事は後で構いません。埋まっている他の方を……」

「だいじょーぶ。ダミー達に今掘らせてるから……此処で良い?」

「……助かります」

 

 スオミ、SIG-510、IDW達を優先しろと言うHK417-arに大丈夫と笑って、HK417-rfはヘカトンケイレスの指の一つに手をかけた。

 

「せーのっ!」

「っ……!」

 

 合図とともに思いっきり引っ張る。掴まれている側のHK417-arも内側から思い切り力を込めて、肘で押し広げようとする。

 ヘカトンケイレスのフレームが軋む音が響いた。それと共に、拘束が僅かに緩んで抜け出せる程度の隙間が生まれる。そこで身体をくねらせて、なんとか抜け出した事でHK417-arは自由を取り戻す。

 

「具合は?」

「問題ありません、良好です」

「そう……なら良かった」

 

 ぐるりと肩と腕を回しえ身体の具合を確かめるHK417-arの動きは軽い。ヘカトンケイレスの腕に掴まれたのだから、多少なりとも不具合の一つは出そうなものなのだが。HK417-rfは疑問に思ったが、言われた所で今の自分にはどうしようも無い事ではある。応急修理しようにも、現地には鉄血の部品しかないし工具もないのだ。

 

「あと……はい、これも拾っておいたよ」

「助かります」

 

 HK417-rfは予め拾っておいた外骨格を渡す。感謝の言葉と共に受け取ったHK417-arは再度装着し、手のひらを握ったりして動作を確かめていた。その動きはとても滑らかで、不具合の一つさえ見受けられない。

 そこに再び先程と同様の違和感は抱いたが、それ自体は喜ぶべき事だとHK417-rfは片付けた。戦力が低下していないというのは、唯でさえ少数戦力で構成されている彼女達にとっては吉報ではある。

 小難しいことは自分ではない誰か――具体的に言えば指揮官やヘリアン達――に任せよう。

 HK417-rfはそう決めて、借りていたままのライフルも本来の持ち主へと返却する。

 

「っあー……!楽になった!」

 

 ライフルを手放すと同時、HK417-rfは思わず声に出してしまうほどの解放感に全身が満たされ、カ体をぐっと伸ばした。

 HK417-arはそんな彼女に労るような目を向ける。

 

「お疲れ様でした。やはり負荷が掛かっていましたか?」

「かなり、ね。ASSTの共有だなんて、もう一度やれって言われても暫くはやりたくないよ……ああ、甘いもの食べたい……」

 

 何がそれほどまでにHK417-rfへと負荷をかけたのか。それは、先程まで彼女たちがASSTを並列に繋げていたことが原因である。

 HK417-arをホストサーバとし、HK417-rfがクライアントという構成のネットワークを即席で構築していた。結果、HK417-rfは自らの銃と同様に他人の銃を扱うことができた。

 しかし当然ながら、ASSTは本来そういった用途を想定して設計されたものではない。処理しなければならないデータは単純な情報量として膨大である。幸いにも彼女らの扱う銃は、多少の仕様の違いはあれど元(ルーツ)は同じだ。他の人形がやるよりは負荷はだいぶ軽かったのだろうと。

 とはいっても、絶えず送りつけられるデータを処理しながらダミーも操作するというのだから、かなりの負荷がかかっていた事に変わりはない。

 だから労りの言葉を掛けたHK417-arだったのだが、返ってきたのは呆れたような声とジトっとした視線だった。

 

「なんだか、そっちは平気そうなのが釈然としないんだけど」

「私の躯体(ボディ)の演算能力は高いようなので」

「なんかずるい……!」

 

 むうと頬を膨らませてすねたような表情を見せられ、そう言われてもとHK417-arは苦笑する。

 

「……それより、早く他の皆さんを見つけましょう。別働隊とも合流しないといけませんし」

「あー、それなら大丈夫。私のダミーの一人がこっちに向かってきてるから、他のみんなもそれと一緒。けどそうなると問題は……」

「瓦礫の下の皆さん、ですね」

 

 別働隊のメンバーとはHK417-rfがダミー経由で連絡をとっていた。残る問題は瓦礫の下になっているSIG-510たち囮部隊のメンバーだ。掘り返すに瓦礫の数が多く、大きな破片もある。現時点でも対処出来るものではあったが、時間が掛かってしまう事は疑いようもない。

 

「安心してください、私に考えがあります」

 

 しかし、HK417-arは後ろを指差しながら大丈夫だと告げる。彼女の指先が示すものを見てHK417-rfはその表情を若干引きつらせた。

 

「もしかして……」

「その”もしかして”です」

 

 迷いなく頷く姿に果たしてそれが可能なのかという疑問を抱きつつ、しかし一方で選択肢としての有効性を認めもしたHK417-rfは残るダミー達を招集した。

 

 

 廃棄都市、鉄血司令部の屋上にて。

 エージェントからの呼び出しを終えたドリーマーは、腰掛けていた砲身から飛び降りる。そしてG&Kの部隊が居ると思われる方へと目を向けるが、背を向け、地上へと続く階段を下り始めた。 

 金属製のヒールが劣化した床材を削る音が響くのをこれまでは不快に思っていたが、最後だと思うとそれほど悪いとは思わなかった。

 

「直接お別れを告げられないから、私からの最後の贈り物よ」

 

ドリーマーは指揮権限を用いて即応可能な部隊を予想される経路上に集結させる。

 与えた指令は、当然のように殲滅のただ一つ。そしてドリーマーは指揮権限を放棄した。放棄された権限は、エージェントが別の誰かに引き継がせることになっている。気兼ねなく全てを手放したドリーマーは、最後に一度G&Kの部隊の居る方角を見る。

 

「生き残れたら、また会いましょう?」  

 

 再開は遠くないうちに訪れるだろう。理論的ではない感覚は、予感とでも言うべきなのだろうか。ドリーマーは薄く笑って、廃墟の闇へと姿を消していった。

 

 

 

 

 FALは急いでいた。

 それは、独り救援に向かったHK417-rfが残したダミーが支援を求めていたからだ。重大な危機の存在は想像に難くない。すぐに動けるものを連れ、残る弾薬をすべて引っ提げて。

 息を切らし、案内人(417のダミー)に先導されて行った先で、見た光景に絶句する。

 

「掘り進めます、離れててください」

「ゆっくりと、繊細に、優しくね。巻き込んだら大変だから」

「……そんなに、雑に見えるのでしょうか?」

 

 そこでは、装甲は罅割れ、一部が融解したヘカトンケイレスが残った隻腕で瓦礫を掘り進めていた。ヘカトンケイレスのコアとケーブルで接続しながら制御をしているのはHK417-ar。そして、その横でダミー達と一緒に安全確認をしつつ指示を出しているのがHK417-rfといった様子である。

 危険は既に過ぎ去った後。今は何処にも、それを感じさせる要素は無い。

 

「なんなのよもう!!」

 

 叫んだFALは地面を思い切り蹴っ飛ばす。勢いを持って宙を舞う小石が、明方の空に放物線を描いていた。




というわけで解説回。裏ではドリーマーが独自行動を取り始めた感じですかね。
筆のペースが遅いのはお絵かきやらなんやらに浮気してたからです。
申し訳ない(´・ω・`)

とりあえずマイペースでやっていきます。
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