妄想フロントライン   作:杭打折

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本編
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各関節駆動系統ーーーー異常なし。

 

神経伝達速度ーーーーーー異常なし。

 

外部環境適合性確認ーーーー全て適正値。

 

起動に対する障害はなし。AIを起動します。

 

躯体名「HK417」

 

世界にようこそ。あなたの誕生を祝福します。

 

 

 

 

「あ、ぐ……っ!?」

 

 とある廃墟、かつては住居として使用されていた建物の奥深く。隠されていた研究施設。一つのカプセルから一人の少女が吐き出されていた。

 無造作に地面へと放り出された痛みに苦悶の声を上げた彼女は、自らの発した声にギョッとした様子で周囲を見回し始める。そして見つけた鏡へと飛びつくと、その中を覗き込んでいた。

 

「どういうことだ……なんで、私は生きているんだ!?」

 

 見つめ始めてから十数分経って、少女はようやく声を発する。自分がこうしてこの場所にいることに驚愕を隠さず、自らの死亡を信じてやまない彼女は、自らの権限により許容された範囲の自傷行為を行う。

 つまりは、頬をつねった。

 

「……痛い。正常」

 

 五感の一つ、触覚は正常に動作していることを確認。視覚聴覚は言わずもがな、嗅覚についてもの埃っぽい匂いを感じていたら正常と判断。周囲の環境データを計測し、五感として伝えてくる戦術人形としての機能すべてが、今目の前にあるのは夢ではなく現実であると少女に伝えていた。

 

「やっぱり解らない。私は既に廃棄されたはず。だというのに何故ここに」

 

 自分は正常な状態という結論に至り、少女は自分が何故ここに居るのかという疑問へと立ち戻っていた。

 

「私のAIには欠陥がある。だから廃棄するのだと、研究所の人達はそう言っていたはず」

 

 彼女の記憶領域に残された最後の記憶。自らの欠陥を説明され、全機能停止を言い渡された記憶。てっきりそのまま廃棄されるものとばかり思っていたが、現実は異なっていた。

 

「だとすれば、何故?」

 

 何もわからない状況で、疑問だけが強く浮かぶ。再度記憶データを漁ってみるが、AIが停止した以降のデータは彼女の中に存在していなかった。

 致命的なまでの情報不足。少なくとも、どうにかして自分の身が置かれている状況くらいは把握しなくてはならない。彼女のAIはそのように判断し、自分が眠っていたカプセルを介し、施設のデータバンクへの接続を試みた。

 

「駄目、か。重要なデータは何も残ってない」

 

 しかし、結果は芳しくない。殆どのデータが破棄され読み取りは不可能。簡単な日記データのサルベージは出来たが、わかったのはこの施設が廃棄されたということと、この場所は鉄血の勢力圏内だということ。どちらの情報もある程度予想していたことではあったが、後者については当たってほしくないと願っていただけに、少女の口からは大きなため息が零れ落ちる。

 

「どうしたらいい?」

 

 いわば敵陣のど真ん中。周囲に味方は存在せず、コンタクトを取る方法は存在しない。ちゃんとした戦術人形であるならば非常時の手段が一つくらいは用意されてるのだろうが、生憎と、彼女は廃棄された存在。なので非常回線や、その他の連絡手段など知るはずもない。

 

「この施設に籠もったところで先は短い。なら、外に出るべきか」

 

 かといって、この施設に籠もって居た所で何かが変わるわけでもないことも理解していた。寧ろそれは悪手である、とも。

 少女のAIはそう結論付けて、独自の行動指針を取ることを決める。

 

 第一目標は味方との合流。これは少女にとって直近の急務である。何をするにも、自分一人のこの状況から抜け出さなくてはならない。

 

 第二目標は、自らが起動した理由の究明。完全停止していた己が再起動した理由はわからない。しかし、起動させられたからには何らかの意味がある筈。それが自分に与えられた役目ならば果たす事も目標に含む。

 

 そして最後の目標。自らの処理を適切な存在に実行してもらうこと。

 

 この三つを果たすため、戦術人形「HK417」は行動を開始する

 

 417はまず最初に始めたのは、自分の銃を探すことからだった。しかし戦術人形にとって自身の銃を探すことなど呼吸をするようなものである。事実、417は特別何かをするわけでもなく最初からそこにある事を知っているよう別室へと向かっていた。そこに保管されていた自らの銃と、そのついでに幾つかのマガジンと弾薬、使えそうなオプションパーツに、メンテナンスで使う道具や気持ちが悪くなるくらいご丁寧に用意されていた装備を確保できた。

 また、自らのものと理解できる服をはじめとする装備一式も一緒に用意されている。試しに着てみたところスリーサイズから丈に至るまでぴったりに仕立てられていたことが、彼女の電脳に不気味という回答を吐き出させた。

 

「やはり、私が起動したのは偶然ではない? なら、誰が何の為に?」

 

 目覚める事を前提として、自分のために用意しておいたと言わんばかりの光景に417の疑念は強くなる。廃棄されるはずの自分のために、なんのために?

 だが、丸腰で危険な外へ出なくて済むことは有り難い。今は用意をしてくれていた誰かへの感謝をすることにした。

 

「初弾装填……問題なし」

 

 マガジンを装填。チャージングハンドルを引いて弾丸を薬室に送り込む。烙印システムの恩恵により、417は一連の動作に問題が無いことを感覚として理解する。

 

「準備完了。417、行動を開始します」

 

 ボイスログ機能を有効にする。これでもし自分が破壊されたとしても、誰かが残骸からログを回収してくれるかもしれない。

 417は施設の外へと向かう。

 

「――――――――」

 

 空から照りつけてくる太陽があまりにも眩しく、417は目元を掌で隠しながら各種フィルタを有効にする。これからは外に出る前にやっておこうと心に決めていた。

 施設の外は、瓦礫と朽ちたビルで構成された廃墟だった。今のご時世、どこへ行ってもこんな光景が広がっている。しかし417にとっては初めて見る景色でもあった。勿論知識として彼女の記憶装置に記録されてはいるが、それでも初めて見る光景には強く意識を向けていた。

 

「ああ、これが世界なのですか」

 

 僅か数秒、理由不明のフリーズにより停止していた彼女の電脳が零した第一声。精神状態を解析し、自己の内側に芽生えたのが喜びであることを認識する。

 我に返り、一歩を踏み出す。厚いブーツの底がコンクリートの破片やガラスを巻き込んでいくつもの高い音を立てる。417にはそれすらも新鮮で楽しさを感じるものだったが、何処に敵が潜んでいるかわからない状況が、彼女の心を落ち着かせていた。

 なるべく足音を立てず、トラップに配慮して、物陰に身を隠しながら進んでいく。

 まず探すのは荷物を置いておく場所だった。交換部品に予備弾薬、オプションパーツなどを一纏めにしたおかげで荷物は大きく膨れ上がり、持ち運びに向かなくなっている。戦術人形の身体能力なら容易に持ち運びできることが救いだろう。

 

 

 

 

 

「こんなところかな」

 

 数時間後、外は既に夜になっている。417は廃墟となった建物の中に荷物をまとめ終わり、一連の行動計画の完了に満足という結果を示す。

 比較的状態の良い部屋を仮設拠点とした417は、そこに探索行動には過剰な量の弾薬などの余剰資材を残して外部に探索へ出るという判断を下す。いざというときにはこの仮設拠点に戻らないことも考慮する。

 そうして探索に出ようかというときに、417の聴覚が散発的な複数の種類の発砲音を拾い上げる。

 

「銃声? しかも鉄血と、何種類かが混じってる……」

 

 鉄血の銃声の中に混じる複数種の銃声。発砲音の頻度から数を推測すると数的有利は鉄血側にあるようだ。果たして自分が加われば勝てるか。音はそれほど遠くない。戦っている相手の実力次第だが、悲観的に見積もった数字でも十分に間に合うという結果を417の電脳は状況予測の結果として算出する。

 

「間に合うのなら、救援に向かうべきでしょう」

 

 そうと決まれば行動は一つしか無い。愛銃をスリングで肩から提げ、手榴弾と予備弾倉を邪魔にならない数だけ、出来る限り多く携行し、仮設拠点を飛び出す。多少の足音は戦場の音がかき消してくれる事を期待しながら、銃声のする方へと駆けていった。

 

 

 

 

 

 

「まずいにゃ、このままじゃあ!」

「撃ってくださいIDW、喚いたってどうにもならないでしょう!?」

 

――――なんでこんなことになってしまったのか。

 

 グリフィン所属の戦術人形であるSIG-510は自分達の置かれている状況の理不尽さを思い、愛銃をフルオートでぶっ放したくなるのを堪えながら隣で混乱状態にある同僚を叱咤する。叱咤を受けた猫耳の戦術人形ことIDWは「に゛ゃぁ゛あ゛」と叫びながらフルオートで拳銃弾をばら撒いていた。

 しかし悲しいかな。敵は9mm拳銃弾では貫通できない装甲型。辛うじて脚を遅くすることには成功しているが、それ以上の効果は望めない。よってSIG-510が仕留めなければならない。

 

「っ……なんて硬さっ!」

 

 隠れている瓦礫から上半身を出して数発をフルオートで放つ。彼女の使用するGP11弾は装甲兵の外骨格を穿ち、よろめかせるが、足を止めるには至らない。決して射撃の狙いは悪くないし、弾薬の火力も弱くはない。しかし、装甲兵を相手にするにはどうあっても貫徹力が足りない。

 

「覚悟を決めるべき、かもしれませんわ……」

「にゃー、私は死にたくないにゃー……」

「そんなの、私だって……」

 

 装甲兵の背後に控える装甲鉄血機械兵の砲撃が再開され、IDWとSIG-510は再び瓦礫に隠れてやり過ごしそうとする。重く響く着弾の震動に、悲観的な声音を出すIDWの言葉につられてSIG-510も弱音を吐きたい気持ちになるのをどうにか堪える。

 基地にバックアップを残しているから此処で破壊されても大丈夫――――などとはとても言えなかった。戦術人形として、兵士として考えるのならば正しい答えだ。一人前の兵士を目指しているSIG-510の電脳はそれを正答であると評価するが、組み込まれた疑似感情ソフトウェアは弱々しく否定する。基地にバックアップは残している。しかし、其処にいる自分は出撃直前の自分自身で、今此処にいる自分ではないのだと。

 誰だって、人形だって好き好んで死にたくなど無い。

 

「死にたくなんて、ありませんわ……っ」

 

 言葉をこぼすと同時、彼女の聴覚はこぶし大の大きさのものが落下するような、よく聞き慣れた音を拾い上げた。

 

「っ、伏せますわよ!」

「にゃっ!?」

 

 一瞬、反応の遅れたIDWの頭を抑え込むようにしながらSIG-510は地面に伏せる。

 その直後、自分達の隠れている瓦礫の向こう側で幾つもの手榴弾が爆ぜる音がした。

 

「っぅ……いきなり手榴弾なんて、どこの戦術人形?」

「うぅっ、頭がぐるぐるするにゃあ……」

 

 いきなりの出来事に二人は状況をつかめずに居た。しかし、今の攻撃が決して自分達を狙い損ねたことによる誤爆などではないことは明白な事実として認識していた。人と違い、戦術人形が投擲先を誤るなど、相当に致命的な欠陥が存在しない限り有り得ないからだ。

 相当な数の手榴弾が炸裂したことは先程の音で認識していた。音から割り出した爆発位置と敵の予測される位置は近く、先程の爆撃で多くの装甲兵が被害を受けたことは容易に想像ができた。

 そして、攻撃は未だに終わらない。再び動き出そうとする鉄血兵に対して狙撃が加えられる。ありえないことだが、狙撃手に標的と間違えられないように自分達は伏せたままじっと身を固める。夜の廃墟に反響する銃声に、装甲兵達が膝をつく音が続いていく。

 そうして、ものの一分も経たぬうちに辺りを静寂が満たしていた。

 

「なんとか、助かったようですわね……」

 

 辺りに敵の動く気配はない。自分達が助かった事を認識するとSIG-510はIDWを押さえつけていた手を離して身体を起こす。瓦礫を踏む音がして、そちらに顔を向ける。其処に居たのは銀髪に黒い衣装を身にまとった少女。身の丈に合わないライフル程の長さの銃を手にしている。SIG-510は、何よりも優先して確認しなければならないことを問いかけた。

 

「私達を助けてくださった……ということでよろしいのでしょうか?」

「そう受け取ってくれるなら嬉しいですね」

「でしたら、御礼を言わせてください。ありがとうございます、助かりましたわ」

 

 眼の前の少女―――-見たことのない容姿だが、自分達と同じ戦術人形であることに違いはないのだろう。自身の電脳が彼女を人間と認識していないことからも、SIG-510はそう判断した。

 

「自己紹介がまだでしたね……私はSIG-510。そしてこっちが……」

「IDWだにゃあ! 助けてくれてありがとうにゃー!」

 

 先程まで泣き出しそうな表情をしていたIDWが、助かったとわかるや否や元気を取り戻している切り替えの早さをSIG-510は少し羨ましく思っていた。感謝を告げられた戦術人形の方は特に何かを思った様子もない。短く儀礼的にどういたしましてと返し、自身の名を告げる。

 

「私はHK417。廃棄予定の戦術人形です」

 

 




Q.なんでHK417なの?
A.実銃含めて好きだから。


リハビリがてらに一筆認めようと、最近やっているソシャゲを題材にしてみる見切り発車の二次創作小説。

HK417はG28だろとか、G28は既に本国実装済みだろとかそう言うツッコミは無しの方向でお願いします。
G28はマークスマンライフルで、Hk417はバトルライフルという私の中でのカテゴリー分けをしてるので、私の中では別物扱い。
ちなみに、HK417の区分はAR。徹甲弾装備できて射速はちょっと低めというのが妄想性能。6P62とかぶってるね。


それとこの先、捏造設定、独自設定、妄想設定がたくさん出てくるのでそう言うのが苦手な方はそっ閉じ推奨です。
あんまり長くならないようにサクッとお話をまとめたい。まとめれたら良いなあ……

10/18 3:47 誤字修正
投稿してから誤字見つける習性治したい。IDW-20ッテダレヤネン

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