二人の執筆部屋ははっきり言うと、かなり散らかっていた。
参考資料らしい本や用途不明の機材が山のように積まれており、足の踏み場がほとんどなかった。
恐る恐るそういったものを踏まないように少しずつ私が進んでいく一方で、アンデルセンは気にせず足で踏みつけて進んでいった。図太いというか、勝手気ままというか。
奥のほうまで来ると、ついぞ姿が見えなかったシェイクスピアが安楽椅子に座って爆睡している姿が見えた。
アンデルセンはその近くの本の山の上に乗ると懐からタブレットを出し、ヒョヒョイと慣れた手つきで操作をして、彼の周りにSF映画にでも出てきそうな見た目の青色のデスクトップを出現させた。
「…うむ。よくよく考えてみたが、やはり面倒だ。QPを貰えるから引き受けてやったが、そもそも今は休憩時間だ。仕事はしたくない。そこでマスター、一つ提案があるのだがいいか?」
「提案?うん、とりあえず聞かせて」
「先日、匿名のサーヴァントからの執筆依頼を果たしてやったお礼に、QPと共にこの薬品が送られてきた」
そう言ってアンデルセンは自分の座る本の山の中をガサゴソ漁り、青色の薬品が入った試験管を取り出した。
「これはその匿名のサーヴァント曰く、”これをお好みの本のページに一滴振りかけると、そのページから周囲五メートル圏内の人間がそのページの世界に侵入できる”という…まぁ、一種の幻覚作用がある薬らしい。これを貸してやるから、シェイクスピアの…”夏の夜の夢”とか”ヴェニスの商人”にでも振りかけてみたらどうだ?」
うーん。本音を言えば、アンデルセンに執筆をしてもらいたかったが、先程から彼の目は半分閉じかけている。
…仕方ない、これはこれで楽しそうだし妥協しよう。
「分かった。面白そうだしいいよ」
「おぉ、助かるぞマスター。それじゃあこの薬を渡しておいてやるから、気が済むまでそれを使って喜劇を見ていてくれ。ただし、絶対に悲劇には振りかけるなよ。絶対だぞ」
「うん、分かった」
それだけ言うと、アンデルセンは本の山の上で寝息を立てて眠り始めた。
可愛いとか言ったら殺されそうだから言わないが、可愛い。
「さて…シェイクスピアの本はどこに…あった!」
シェイクスピアの本棚らしい所に、普通に”シェイクスピア全集”と書かれた本があった。
新品らしかったので薬品を垂らすのに抵抗があったが、試験管の裏に”なお、垂らしたページは濡れないように特殊な調合をしております”と書かれていたのを発見して、抵抗はなくなった。
「ヴェニスの商人…ヴェニスの商人…あった!」
薬品の入った試験管のコルクの蓋を取ろうとした。が、中々抜けなかった。
「うーん…うーん…あっ!」
コルクの取れた試験管は綺麗にグルグル回転しながら、アンデルセンの方へと飛んで行った。
「危ない!」
そう言って、アンデルセンが不機嫌そうな顔で起きた時にはもう遅かった。
薬品は私と彼を巻き込んで発動した。
そのまま、私の意識はレイシフトでもしたかのような感覚に襲われて微睡んだ。
いつも思っているのですが、この程度の文章量で二時間かかっている私遅筆過ぎる。