ジャックとマスターの話   作:海沈生物

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全てが終わった後にて(5)

私たちは”記録”として覚えている”おかあさん”と今の”おかあさん”、どっちの方がいいかと聞かれたならば、どっちも選ぶことが出来ないと答える。なぜなら、どっちも私たちを愛してくれる”おかあさん”だからだ。

ただ、”記録”の中の”おかあさん”とは違い、今の”おかあさん”は私たちを愛してくれても、それは私たちだけに向けられている愛でないのは分かる。”記録”の中の”おかあさん”は私たちだけに、温かな慈愛をくれた。

それはとても気持ちよくて、落ち着いて、心がとても安らいだ。

まるでそれは、”おかあさん”の中にいるかのような、とても心地よい安らぎだった。

 

 

「ジャック、お待たせ」

 

あれから色々マシュと話し合って、互いに気持ちの整理をした私は急いで祝賀会会場に帰ってきた。

アンデルセンたちのおかげか、他のサーヴァントは変わらず楽しそうにはしゃいでおり、私はほっと胸を撫で下ろした。

 

「あ!おかあさん、おかえりなさい!」

 

そう言ってジャックは私にギュッと抱きついてきた。

そして私の服の中に顔を埋め、クンクンと私の匂いを嗅いだ。

 

「おかあさん、いい匂いがするね…」

 

「そう?柔軟剤とか使ってないんだけどな…」

 

「いい匂い…いい匂いだね…」

 

ジャックはそれから暫く、何度も何度も繰り返し、”いい匂い”と言い続けた。

まるで、”それをしっかり記憶しておきたい”みたいに。

 

「さぁ!祝賀会ももうお開き一分前だ!ということで、人理を救った人類最後…今となっては人類最後ではないが、そんな立香ちゃんに適当な締めの言葉を言ってもらおう!さぁ、立香ちゃん!早くこっちに!」

 

抱きついていたジャックの頭を軽くポンポンと撫でて引き離し、私はダヴィンチちゃんとアルトリアがいる方へと向かった。

 

「…………さて、立香ちゃん。いい感じの締めの言葉、頼むよ」

 

ダヴィンチちゃんはウィンクをして、マイクを私に手渡してきた。

軽く頷いて、それを受け取る。…それで、何を言おうか。全く思いつかない。

 

「それじゃあ行くよ!3…2…1…どうぞ!」

 

…そうだ。咄嗟に思いついた言葉を、私は口にした。

…ふと、お腹の辺りが少し濡れていることに気付いた。

 

 

”記録”の”おかあさん”は私たちに”おかあさんの中にいるような慈愛”をくれた。

でも、今の”おかあさん”だって形は違えども、私たちに”愛”をくれている。

今の”おかあさん”は私たちの”成長”を手助けしてくれている。

私たちは英霊だ、無論リリィなんかではない。

でも、今の”おかあさん”は”ともだち”という存在を私たちに与えてくれた。

ナーサリーやリリィなど、それ以外にも沢山の。

確かに愛の強さでは”記録”の”おかあさん”には負けているかもしれないが、今の”おかあさん”も私に色々なものをくれるから大好きだ。

…でも、もう少しで私たちは”ともだち”とも今の”おかあさん”とも会えなくなり、またあの”座”と呼ばれる寂しい場所に戻らないといけなくなる。

だからつい、私たちはあの”しゅくがかい”の途中、今の”おかあさん”の匂いを精一杯嗅いで、必死に今の”おかあさん”のことも”記録”として残るように頑張った。

でも、そんなことをしていると、なんだか目から涙があふれてきた。

例え”記録”に残ったとしても、それは所詮”記録”であり、”もう終わった事実をただ見られるだけ”であることに、気付いてしまったからだ。

もう、この楽しい時間も何もかも、この虚ろなる身で、肌で、唇で、感じることは出来ないのだ。

私たちはとても悲しい気持ちになった。

 

…でも。”おかあさん”が前に出て、この”かるであ”にいるみんなに向けて言った”一言”が私たちの心を救ってくれた。それは別段すごいことでもなかったし、本当に平凡な”一言”だった。

でもほんの少し、例えこの”かるであ”での思い出が”記録”になったとしても、この”一言”さえ覚えていたならば、いつかまた私たちがどこかで召喚されたときにこの”記録”を思い出しても、少しだけ胸は痛むけれど、辛いと思うことはない、そんな気がした。

…明日は今の”おかあさん”と会える最後の日だ。

私たちはきっと、今の”おかあさん”と笑顔でさよならをするだろう。




ここまでご覧いただき、本当にありがとうございました!
”なんかジャックの作品書きたい!”という思い付きから勢いで今まで書いてきましたが、ほんと感想やお気に入りなど、かなりモチベーションに繋がっていました。
本当にありがとうございます。
余談ですが、エレシュキガル追加で十三連分貯めて引きましたが、見事に爆死しました。
エレシュキガルに嫌われてるのかな。
あとジャックについてまだまだ書き切れていないことあるので、これとは別に短編としてちょこっと三連休終わった月曜日にでも出そうと思っています。よければご覧ください。
…さて。宴もたけなわですが、ここら辺で後書きを終わろうと思います。
度々しつこいと思いますが、本当にご覧いただきありがとうございました!
次回作はまだまだ先なので、気長にお待ちください。
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