漆黒の髪を靡かせ、粉雪のように優しい君は(俺ガイル) 作:みうみん
「由比ヶ浜さん。話があるの」
「うん」
私たちが今いるのは、私たち三人を繋げてくれた奉仕部の部室。
でも、今ここに彼はいない。彼女と私の二人だけ。私は彼女と…いいえ。もう誰かに押し付けてはいけない。もうわかったから。だから、私自身と向き合わなければならないのだ。
「本当に心配かけてごめんなさい」
「全然!気にしないで!ていうか、あたし、なんもできてないし……」
「いいえ。あなたには……救われているわ」
「いやー、ほんとあたし、なにも……」
「助けて、もらったわ。気づけばずっと……」
「ゆきのん……」
ずっと微笑みを浮かべていた彼女の表情が、ふと翳る。
こんなことを言ってしまうのは、これから言おうとしていることは。きっと卑怯なのだと思う。けれど、こんな卑怯な私でさえも受け入れてしまうのだろう。彼女は。私の友達は。
ただ、楽になりたいだけなのかもしれない。
お互いに何となく察しているから、それを言葉にしてしまえば、きっと壊れてなくなってしまう。
そして、彼女は言葉にできてしまえる人だ。素直で明るい、優しくて素敵な人だから。私とは、違う。私はずっと言葉にすることができなかった。
だから、この話はこれでおしまい。告げずに済ませて、野に埋めて、私がハッピーエンドを見守って、それでおしまい。
そのはずだったのに……
「ねぇ、ゆきのん。あたしもね……、ずっと助けられてきたよ。最初からずっと、いっつも、……それに、最初に助けてもらったのはあたし」
「なんか、あたしたち助けられてばっかりだね」
「そうね…私はあなたにも比企谷くんにも甘えてばかり」
「うん」
「……いつの間にか、そんな風になっていた。自立しなければと、依存してはいけないと、戒めていた筈なのに」
「……それでいいんじゃないかなぁ。依存ていうかちょっとめんどくさいっていうか、なんか重いっていうか……」
「あたしも、ゆきのんも、……ヒッキーもさ。みんなお互いめんどくさいから。…… ……だから、気にしなくていいんだよ」
「由比ヶ浜さん……」
あなたは本当に優しい人。私が告げずに済ませて、野に埋めてしまえば、きっと彼女は悔やむのだろう。澱のように沈み込み、小さな棘となって、影を落とす。
だから、彼女に罪悪感を押し付けたくはない。例え、結果がどうなろうと。失うとしても。甘えて、縋ったりはしたくない。
「──欲しいものがあるから」
「由比ヶ浜さん」
「なぁに?」
「私、比企谷くんが好き……彼のような人とは、きっと二度と出会えないと思う」
「……うん」
「……由比ヶ浜さん、その……ごめ」
「ゆきのん、頑張って。あたし、ゆきのんが好き。二人が好き。……だから、頑張って」
「……ありがとう、由比ヶ浜さん」
「うん……」
「バイバイ。ゆきのんこれからもずっと友達だよ。よろしく」
彼女はそう言って頬を擦り付けながら私にしがみついてきた。
「私こそ、よろしく。ゆっ、結衣」
「え?今私のこと名前で呼んだ?ね、呼んだよね?」
驚きと嬉しさが混じった表情で私を見つめ、しがみついている腕の力を強めてくる彼女。
「えぇ。痛いわ。少し弱めて」
「あっ、ごめん」
「いいえ。大丈夫よ。それで…ダメ…かしら?その…名前で呼ぶのわ…私なりに頑張ってみたのだけれど。あなたは私の一番の友達だから。何か欲しいなと…」
「ううん。ありがとう。ゆきのん。嬉しいよ!全然そのまま名前で呼んで!」
「ゆっ、結衣」
「もう一度、ハッキリと」
「結衣」
「うーーん。最高だよ!ほんとゆきのんは欲張りさんだよね!って私もか。えへへっ」
「改めて、これからもずっとよろしくね。ゆきのん。それと、頑張って!じゃ、あたしは行くね」
「えぇ。よろしく結衣。そして、ありがとう」
「うん」
橙色に染まる空を背中に見せる彼女の微笑みは曇りも淀もなく、どこか晴れていて美しく映えていた。