黄金少女の英雄譚   作:Raina-lι

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束の間のほのぼの回

本編最後の日常回


黄金少女の原点回帰

人間界から、そしてダークテリトリー全体から見ても北西に位置するオークの村から大きく西に外れたところに、一つの集団が歩いていた。弓矢や斧で武装し、動物から剥いだ毛皮を使った服で身を包むその光景は、どこか物々しいものを感じさせる。それもそのはず、彼らは村の食料を得るための狩りをするために村の外にいるのだ。今はまだ8月に入ったばかりであり、夏真っ盛りである。しかしダークテリトリーは、空は暗く、気温もあまり上がらない。そのため、木はほとんど育たず、低身長の草しか生えない大地なのである。これが暗黒界たる所以であり、人間界との大きな違いでもある。この厳しい環境を生き抜くためにも、食材の確保は重要なのだ。村では、この狩猟部隊に選ばれるための選考がある。つまり、この者たちはエリートと捉えてよい。その人数は、アリスを保護したランダパル含め3人。…少なく感じるだろうが、あまり人数を割き過ぎると、農作業に支障が出るため、このぐらいがちょうどいいのである。

 

しかしこの日、その部隊にある客が紛れ込んでいた。周りのオークが皆武装している中、手には小さいバッグを持ち、体を守るにはいささか頼りなさそうに見える黒の半袖シャツ、長ズボンを着こなす隻眼少女、アリスである。

 

(狩る動物ってどんな大きさなんだろ。ランさんが持ってきたやつだって俺よりデカかったし、踏まれたら即死じゃないか?神聖術が効けばいいけど…)

 

いつもはネットスラングで脳内を染められてるアリスであるが、今回は割と真面目であった。今までランダパルの家と店を往復する生活をしていた彼女には、村の外に出ることに不安を感じてしまったのである。そんな彼女に、ランダパルが話しかけた。

 

「アリス、やっぱり怖いだか?」

「う、うん。ちょっとね。…襲ってくるの?」

「いや、基本は逃げるだよ」

「…基本?」

「だまに挑んでくるやつもいるだ」

「Oh…」

「まあ、大丈夫だ。おで達が守るだよ」

「あ、ありがと…」

 

2人の会話を周りのオーク達は聞いていた。それぞれでアリスへの考えは色々あった。例えばこの中でも一番のベテランである寡黙な狩人、ウォンドは、金髪が目立つから動物が逃げてしまうのではないかと考え、一番若く、試験にちょうど半年ほど前に合格したオーク、ニルヴは、何も試験等を受けずにここにいるアリスに複雑な感情を持っていた。しかし、彼らにはある共通した想いもあった。それは、

 

(かわいい…)

 

魂はもともと人間であっただけあって、彼らの思考や価値観は、我々人類とそう大差ないものであった。

しかし、アリスはそのことにはつゆとも気がついてはいなかったのである。

 

「そういえば、アリスの動物を見づけるだめの秘策っでなんだ?」

「あっ、ごめん。忘れてた…」

 

そう言い、アリスはズボンのポケットから銀に輝く髪留めを取り出す。鋼素と晶素でできているため、光を反射するのだ。もちろんダークテリトリーでの輝きは薄いものではあるが…

彼女は神聖術を唱え始めた。オーク達には何を言い出したのか分からず、身構えてしまう。アリスはそれを悲しげに横目で見つつ、術式を完成させた。

 

「なんだ、それ…」

「望遠鏡だけど…知ってる?」

 

アリスはそう尋ねたが、ランダパルは首を横に振る。周りのオークの顔を見回したが、目が合ったときに全員が首を横に振った。アリスはそれを見て、ドヤ顔を決めて解説を始めた。

 

「望遠鏡っていうのはね、遠くのものが大きく見えるようになるんだよ」

 

ちょっと見てみる?とアリスは言い、ランダパルに望遠鏡を渡す。丁寧に使ってね、と前置きをしながら、使い方を説明した。

 

「こっちの穴から覗くの。そうしたら…」

 

そこでアリスは気がついた。

 

(見るものがない…)

 

そう、ダークテリトリーでは、目標となるものがないのだ。辺り一帯低い草、これではいくら遠くのものが見えるとしても分かりづらい。

 

(うーん…おっ、いいこと考えた)

 

アリスはまた神聖術を唱える。それから手持ちのバッグから木のスプーンを取り出し、投げた。

 

「ちょ、アリス、何してんだ…あれ?」

「大丈夫。のーぷろぶれむだよ」

 

伝わらない英語を話しながら、アリスは神聖術を使い、スプーンを空中で静止させた。かつてキリトにも使った術である。これを応用すると空も飛べ、実際にやったこともある。それがキリト達と出会うきっかけでもあったのだが…

 

「とりあえず望遠鏡を覗いてスプーンを見てみて。自分の目で見るのと大きさが違うでしょ」

「おう、どれど…ほんどだ。おっきく見えるど。でも…これ上どしだが逆じゃないだか?」

「うん、それは突っ込まないで…」

 

ランダパルは驚き、2人にも貸して回る。みんながその道具の効果に驚き、アリスに感心した。

 

「そうだ、これでソルスも…」

「だめ!」

アリスはウォンドに飛び付く。

 

「目が焼けちゃう!見ちゃだめだよ!」

「お、おう。そうだっだのか。すまんな」

 

いや、私が言わなかったのが悪いんだよ、とアリスは返す。そのあとすぐに、スプーンが地面に墜落していることに気づき、走って取りにいく。これまでの一連の動き、一生懸命働く姿を見ていた彼らは、いつのまにか肩の力が抜けていた。

 

(白イウム、いや、人間もおで達ど変わらないだ。しかもこんな幼い子供になんで警戒する必要があるだ。それに…

 

 

 

差別してだのは、おで達の方かもしれないだ)

 

 

「うーん。全然いないよ…」

 

悲しげにランダパルの肩の上で呟くアリスをニルヴは慰める。

 

「まあこの時期でも見づからないどきはあんだ。心配するこどはないだ」

「ありがとう、ニルブさ、いや違う、ニルウ、ニル…」

 

ニルヴが言えずに悪戦苦闘するアリスを見てられず、ニルヴは助け舟を出す。

 

「その、言いづらいならニルでいいだよ。家族どかにもそう呼ばれでるだ」

「えっ、じゃあ…ニルさん?」

「そ、それでいいだよ」

 

ニルヴは思わず顔を逸らした。小首を傾げ、こちらを不安そうに伺うその表情は、まだ若いニルヴの母性本能ならぬ父性本能を大いにくすぐったのである。彼らが一度も見たことがない蒼天をイメージさせる、美しいスカイブルーの瞳に見つめられることは、若々しいオークにとって毒であった。

 

「ニルさん?」

「な、なんでもないだよ。…そうだ。そろそろ昼の時間だよ。アリスはお腹減っでないだか?」

「私は別に…いや、お腹すいた!ウォンドさん、休憩しませんか?」

 

 

アリスは昼食を広げる。お得意のサンドイッチ、だがかつてのごった煮サンドイッチと違い、今朝本気で作ったものである。それと別に小さい鍋にスープを入れて持ってきている。皆に集めてもらった草に火をつけ、アリスはその鍋を温め直していた。

 

(にひひ、サンドイッチは絶対驚くだろうな…)

 

アリスはほくそ笑みながら鍋をかき混ぜる。しかし傍から見るオークらには、ただ楽しそうに料理をしているようにしか見えない。彼らは渡された木の器とスプーンも持って待っていた。その時間で、彼らはアリスに聞こえないようにひっそりと話す。

 

「あんなかわいい子、どこで手に入れだんだよ」

「いや、祖母が拾ってきだだよ」

「…お前さん、辛くないだか」

「…問題ないだよ」

「えっど、その質問はおかしいんじゃないか。どう言う意味でそれを…」

「それは…」

 

ウォンドはランダパルを見る。ランダパルは頷き、ウォンドはまた話し始めた。

 

「こいつは妻に先立だれだんだ」

「えっ…」

「だから大丈夫かど聞いだんだよ」

 

驚愕するニルヴ。それを横目に、ランダパルは語る。

 

「アリスはな、娘みだいなもんだ。あいつどの子供みだいに感じるんだ…」

「…そうか」

「皆さーん、出来たから並んでくださーい」

 

アリスに呼ばれて、彼らは話を中断した。

大の大人のオークが並んで少女によそってもらうのを待つ光景はシュールなものであった。全員によそった後、サンドイッチを配って回り、円になって腰を下ろす。

 

「それじゃあご一緒に、いただきまーす」

「…いだだきますってなんだ?」

「…えっと、にほ、おほん。村では命を頂く、みたいな感じを伝える?というより忘れないために言ってる感じなんだ」

 

へぇー、と感心したように頷くニルヴ。ウォンドも食べずに話を聞いていた。

 

「ほら、ウォンドさんも。いただきます」

「「「いだだきます」」」

 

彼らは食事を始めるが、すぐにその手が止まる。

 

「なんだ、この美味いもんわ…」

「ふふん、それはね、ハンバーグ!」

 

頭に疑問符を浮かべるオーク達の前で、再度ドヤ顔を放つ。

 

「まあ色々妥協もあるけど…ビーフとかじゃないし。だけどどう?これが新しいお肉の調理法だ!」

 

片手を前に突き出し、ポーズを決めるアリス。その格好は到底精神年齢11+17歳の人間には見えないものであった。

 

 

食事を終えてから数時間後、彼らは帰路についていた。その背中は哀愁が漂い、ダークテリトリーの暗さと相成って、彼らの上で暗雲が立ち込めているようである。それは、暗黒界における唯一の光と称されるアリスも例外ではない。

 

「結局見つからなかったね…」

 

悔しそうに呟くアリスをランダパルは慰める。

 

「そういうこどもあるだ。運がなかっだだけだよ」

「でも肩車してもらって、それに荷物も持ってもらったのに成果なしじゃ、私がただのお荷物じゃん…」

 

若干頰を膨らませて自虐するアリス。しかし、それにニルヴは反論した。

 

「そんなこどないだよ!今まで冷だい昼飯しかだべでなかっだから、すごい嬉しかっだだ」

「…美味かっだ」

 

アリスは顔を上げる。そこには、みんなの笑顔があった。

 

「アリス、これで分かっだろう。みんな感謝しでるだよ。もちろんおでもだ」

「…うん!」

 

アリスも笑顔になる。

その笑顔は褒められたためだけでも、認めてもらったからだけでもない。

 

彼女は、彼女自身がこの地下世界(アンダーワールド)に生まれたときからの願いであり、心に誓った信念を、ルミダに諭され思い出したのだ。それは、()()()()()()()()()こと。彼女、いや、()がソードアート・オンラインを読んだおかげで根付いたもの。それは、人は生まれたこと自体に意味はなく、生きる中で、自分で意味を生み出すものであるという人生への解釈である。彼女が彼だったころ、その志は持ってはいたものの、実践できていなかった。大人になったら意味が見つかるだろうと先延ばしにしてきたのである。彼は後悔した。ゆえにこの世界に来たときに、後悔しない人生にしたいと思ったのである。それを、彼は今まで忘れていた。死なないことだけに執着する彼、いや彼女は、彼女自身にとって、生きているとは言えなかったのである。

彼女は猛省した。そして、もう一度考え直したのだ。彼がアリスになった意味を。アリスとしてできることを。

 

 

それは、かつて友として共にいた少女の遺言によるものであった。




今回の話は真面目だなー
なんでだろ(すっとぼけ)
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