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キリトはユージオと同棲中、つまり愛の巣(withユージオの家族)
アリスside
(かーさんがーよなべーをしてーラララーラランランラララー…なんだっけ?)
確か今の俺のように、手袋を編んでいた気がする。そうじゃなきゃ頭の中に浮かんでこないもん。
ガリッタさんに贈るものは、バスケ部の人に見せてもらった指ぬきグローブ、手の甲だけのやつだ。…ぶっちゃけあんなんで温まるのか不明なので、ちょっと細工するつもりだけど…
実は、俺はこういう作業が好きである。無心でやれるし、だんだんと出来上がっていくのがはっきりわかるのが楽しい。いわゆる整地厨である。…社畜の素質があるともいう。たーのしー!
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「よし、できた!」
編み上げた手袋を朝日に掲げる。そう、朝ソルスだ。今日も一日、頑張リス!…これもう訳分かんないな。あっ、
(そろそろ行かなきゃ…)
俺は着替え、作った手袋を適当な布で包む。…紙は貴重なのだ。俺がたまによだれをこぼすあの神聖術の本たちも、実は貴重な資料なのである。…よだれはバレないように素因分解している。それをすれば乾かしたときのカピカピがなくなるのだ。かつて教科書をよだれまみれにした俺には、その悲惨さがよくわかるのである。
「フード…」
俺の動きがクマさんフードを手に取ったところで止まる。…どうしよ。なくてもいいけど外はとっても寒そうだ。それに俺の金髪はとっても目立つ。夜でも輝くとか光素入ってんじゃね?とか思うぐらいであり、ひっそりと移動するときにはフードがあると便利。それに…
(似合ってるって…いやいや、嬉しくなんてないし!男にナンパされても気持ち悪いだけ…うん…)
結局俺はフードを被り、プレゼントを持ってアーちゃんの教会に出発する。火照った頬に、冬の風が気持ちよかった。
「あはよう、ございます…あざりあしぇんしぇ…」
「ええ、おはよ…どうしました?」
「ちょっと、と、と、ふぁ〜ぁ、寝ずに作業を…」
ここに来る道中に、頬の照りと一緒に深夜テンションも切れたみたいで、急激に眠気が襲ってくる。そもそも俺はまだ7歳、適正睡眠時間は確か9時間…オールしているやつなんて俺しかいないと思う。ほら、アッちゃんも呆れてる。
「…はぁ、なんで朝まで起きてたんですか?」
「クリスマスなので…プレゼント、を…作ってたん…」
まずい、落ちる。そう思った瞬間、俺の意識は途絶えた。
…温かい。それは物理的じゃなくて、こう、なんていうのだろう、心が、暖かくなる。そんな感じだ。人の温かみというのは、久しぶりだ。かつての母を思い出す。父がいない中、仕事を頑張ってくれていた、母。その母の代わりをしてくれた、姉。困ったら、すぐに助けてくれた、祖母。みんな、温かい、幸せな……
「おや、起きましたかね?」
「え…あざりあさん…?」
アザリア先生の顔が、とても近くで見える。彼女は、慈しむように微笑んでいた。
「全く、そんなになるまで起きてちゃダメですよ」
「はい、ごめんなさい。アザリア先生…」
アザリア先生が、俺の頭を撫でてくれる。布団に包まれているのとは別に、とても心地よかった。
「この子は、まだ7歳なのよね…しっかりしすぎて忘れてたけど、外で遊んでいてもいい年なのに…」
「…アザリア先生、その…」
「なんですか?」
「もう少し、こうしててもらえますか…?」
「ふふ。ええ、構いませんよ。おやすみなさい、アリス…」
俺は、久しぶりに、安心して眠ることができた。それは、とても、幸せな、懐かしい時間だった。
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NO side
「アザリア先生、忘れて下さい!」
「はいはい、忘れますよ。アリスの寝顔がとっても可愛かったなんて、すぐに忘れますよ〜」
「わーー!わーー!忘れて下さい!お願いしますから〜!!」
アリスは両手をブンブン大きく振る。顔が茹で蛸のように真っ赤に染まり、湯気が出るようである。シスターアザリアは、笑っていた。彼女の態度は、確実に軟化していた。
「はっ!今何時ですか!?」
「大丈夫、彼らのお昼は別の人に行かせましたから」
「あっ、そうなんですか!ありがとうございます」
「ふふ、あの2人のことが好きなんですよね?」
「なな、そそそんな、恋愛感情があるとかじゃなくて…」
「わかってますよ。友人として、でしょう?…今はね」
「はい!…最後なんとおっしゃいました?」
「仲良くするんですよ。友達はお互いに助け合える、つまり、無償の奉仕ができる仲、なのですからね」
「えっと…シスターがそんなこと言っていいんですか?」
「ふふっ、今の私は、先生ですよ」
「えっ…あっ、はい!アザリア先生!」
彼女らは、話を続ける。お互いを、よく知るために。主に、アリスの話が多かった。村長、村の長の娘として生まれ、幼少期から本を読み漁る天才少女、そして次期村長の天職に選ばれた、まさしくエリート少女、それがアリスである。その偏見で塗り固められたアザリアにとって、アリスとの出会いの場は、とても緊張したことを覚えている。しかし、アリスと過ごす内に、だんだんとアリスの人となりに気付いていった。そして今日、アザリアは完全に理解する。
(アリスは、ちゃんと年相応の感性、心を持っている子。むしろ年不相応に明るく、素直な、いい子、それがアリス)
しかし、アザリアはある考えに至る、いや、至ってしまう。
(あそこまで明るい理由、それは…彼女自身の性格もあるでしょうけど、やっぱり環境、よね…
なんて———
残酷なのかしら)
「そうだ、先生。そろそろ行かなきゃ…」
「何かあるのですか?」
「プレゼ…贈り物をお届けしないといけないので…」
「そうですか。…いってらっしゃい。仲直りできるといいですね」
「えっ、どうしてそれを…」
「話から丸わかりでしたよ。頑張って隠そうとしていたの、とても面白かったです」
「…うぅ〜、勝手に心を読まないでください!」
はいはい、と言いつつ、アザリアはアリスの服を整えてあげる。きちんと耳を立ててあげるのを忘れずに行い、
「これで大丈夫。どこからどう見ても、立派な淑女ですよ」
「うっ…はい!いってきます!」
アリスは教会を飛び出す。駆け出していくアリスの背中に、アザリアは伝え忘れていたことを思い出し、声をかける。
「アリス〜、明日は休みにしましょう。クリスマス、ですしね〜!」
アリスは即座に振り返る。そして、満面の笑みで、手を振りながら、叫ぶ。
「分かりました!ありがとうございます、アザリア先生!…メリークリスマス!」
アリスは空を飛んでいた。比喩ではない。空からギガスシダーの根元を観察する。アリスは、木の下に向かう道中で、やっぱり恥ずかしくなったのである。小さい子供みたいにイジワルして、諭されたら逃げ出すなんて、アリスにとってみれば人生の汚点であった。ゆえにどうしても顔を合わせづらくなって、確認することにしたのである。
そこにはキリトやユージオはおらず、ガリッタだけが働いていた。
(よっしゃチャンス。サクッと渡しちゃおう)
地上に降り立ち急いで木の下へ向かう。空を飛べるというのは3人の秘密となっている。流石にバレたらシンセサイズだろう、というアリスの考えによるものであるが…割と自由に使っているのが現状である。
「ガリッタさ〜ん!」
「おお、アリスか。風邪は大丈夫か?」
「風邪?」
首をかしげるアリスに、ガリッタは至って真面目に答える。
「アリスの代わりに来てくれた人が、アリスは寝ているって言っててな。2人がお見舞いに行ったのだが…見なかったか?」
「ぎくっ」
アリスはすぐさま理由を察した。バレるとまずいので、アリスは慌ててごまかす。
「いや、お昼ぐらいには起きて動き始めたんですよ。たまたま、入れ違いになっちゃったんですかねぇ」
嘘は言っていない。アリスは
「風邪じゃないです。大丈夫ですよ、私は強いですから!」
力こぶを作るアリス。しかし、彼女のOC権限はどうあがいても7である。
「そうだ、…おほん。昨日は逃げ出しちゃってごめんなさい。それで…これ!」
アリスは頭を下げつつ布に包まれたものを渡す。ガリッタは少々困惑しながら、
「顔をあげなさい、アリス。謝るのは彼らに向けてじゃないか?」
「うっ、うん…でも、これは謝罪の品じゃなくって普通にあげるものです。受け取ってくれると、嬉しいな?なんて…」
「…ああ、ありがたくもらっておくよ」
ガリッタは受け取り、開けていいかをアリスに尋ねる。アリスがすぐに大きく頷くのを見て、彼は布を開いた。
「これは…?」
「手の甲の手袋です。こんな感じに…」
ガリッタの手を取り、アリスが手袋を着けていく。そのとき、アリスは微調整も行う。製作時にはぴったりサイズとはいかないため、着ける時に調整できるようにしていたのだ。
「はい、完成。どうですか?ちゃんと斧は持てます?」
ガリッタは斧を取り上げる。そのまま素振りをし、木に向かう。そして、斧を木に叩きつけた。
「うむ、問題ないぞ。充分、ないより温かい」
「えへへ、でもこれで終わりじゃないんです。手を出してください」
言われるがままにガリッタは手を出す。そこにアリスが神聖術を唱える。
「システムコール・ジェネレート・サーマルandエアリアル・エレメント」
神聖術。限られた者しか知らない術式である。and術式はアリスが作った句で、意味はそのまま同時に起動することができる。説明するだけなら簡単だが、一度に複数の神聖術を操ることはとても難しい。並列思考を行い、なおかつ思考の割当をちょうど半分ずつにしないと、神聖術式システムが作動しないためだ。だが、もし仮にそれができたとしても、普通の人は手袋に素因を集めるだけとなってしまう。しかし…
「おや、これは…なんだ?温かい…」
そう、手袋の周り、手の部分の空間が確実に暖かくなっているのである。アリスのイメージによって空気を操り空間を閉じ、そこに熱素も閉じ込めることで温度を保存するということをやってのけているのである。これがアリス、転生少女の持つ力、原作知識と地球における一般常識、そして妄想の力なのである。
「えっと、その機能は私が寝ると止まっちゃうんです。だから…」
「ああ、わかってるよ。アリスも忙しいだろう。昼からでも充分だよ。今までよりは格段にいい」
本当にごめんなさい、とアリスは謝る。その様子を見るガリッタには、一つの確信と、ある思いが生まれる。
(やはりこの子は、素直で優しい子だ。昨日もあくまで正義感でやったことであって、悪気があったわけじゃない。この子が村長になるなら、あるいは…)
「あの…実はお願いがあります」
「うむ、なんでもいってみなさい」
「その…
クリスマス、それはイエス・キリストの降誕祭の日。大切な人と、一緒に過ごす日。そして、いい子にしていた子供たちには、サンタクロースからプレゼントが送られる日。
その夜、ルーリッド村で暗躍する
「キリト、起きて!起きてってば!」
「ん〜なんだよユージオ。もう起きる時間か…?」
「ほら、こっち!これ、昨日なかったよね」
「ん、なんだ、これ…あっ」
アリスは外に出る。昨日の夜、雪が降ったことを知っているアリスは、外に見に来たのである。それなりに積もっていることを確認し、ニコニコと楽しそうだ。そのまま、雪を丸めて雪だるまを作ろうとして…
「「アリス〜〜〜!!」」
遠くから彼女は呼ばれる。彼女にとっては振り向かなくても、声で、気配で、感覚でわかる。アリスは、充分にその気配が近づくのを待ち、振り返る。
「メリークリスマス!!キリト!ユージオ!」
2人の手には、アリスの贈った手袋が、青春の光と共に、煌々と輝いていた。