「少女がね、ここにいたんだよ」
唐突にそう話す父親の顔は大真面目だった。
「嘘じゃあない。そこにいたんだ」
ついカチャカチャと今まで食器を片付けていた手を止めてしまった。
「何言ってるだよ。誰もいないじゃないか。ついにボケたか」
「違うんだ。ボケてない…はずだ。そこで俺と一緒に飯を食ってたんだよ」
「父さんと食ってたのは俺だけだろ?何を言ってんだよ」
定年を迎えて十数年の父親に呆れながらチマチマと片付けを再開する。
そこで気づく。今まで私は3人分の食器を片付けていたことに。
「ああ。食ってたんだな」
目の前の少女に微笑みかけ、私は食器を洗うのであった。
三番目だったか、最近増えすぎて顔が覚えられない。
この子は手が小さいな。
社会に出て、人の恐ろしさというものが身にしみてわかってきた頃くらいからだろうか、私は完全に女性不信となっていた。
近寄ってくる女性は皆、心の中に黒い一面を抱えており、男が隙を見せたところに食らいつく恐ろしい生物だと思いこんでいた。
というのも、女性が原因の金銭トラブルが数回あったからである。
女はダメだ。超個人主義過ぎて合わせることができないし合わせてもくれない。
心身ともにボロボロだった私の癒しは、通学・帰宅の小学生を眺めることだった。
決してやましい想いを抱いているわけではない。
ただ単純に、無邪気に笑いながら友達と歩いている姿が微笑ましいだけなのだ。
建前や怨嗟にまみれたくだらない社会を否定する姿がその瞬間あるのだ。
ある時である。
子供達を眺めながら夢うつつとなる中で、ある違和感に気がついた。
笑顔のない子供がちょくちょくと現れるのである。
背格好は他の子供よりも小さく、服装が少しばかりボロボロで、顔には涙の跡があった。
子供達の笑顔が見たくて眺めているのに、これでは興ざめである。
他の子たちはその子に気づいていないようだ。まるでそこに居ないかのように振舞っている。
はてさて、これはイジメというやつなのだろうか。
そういうのを呑気に思っていると、そのボロボロの子供と目が合った。
気まずい。
まずはそれだった。
そして気づく。
何かがおかしい。
あんなに生気のない顔を見たのは初めてだった。
精神的にまいっていた時の私より酷い。
というより、生きているようには見えない。
なるほど、こういうのが幽霊というものか。
変に納得した私は、何を思ったか、その幽霊と思わしき子供に対して手招きしてみた。
それ以降これである。
時々やってくる子供に飯を作ってやるのだ。
何故そうなったのかまでは覚えていない。
ただ、
「君たちは嬉しそうに食べるから私は好きだよ」
彼らの笑顔が見れる行幸が訪れたというのは間違いはない。