東方頭文字D外伝 峠の白兎 --Rabbits dream of becoming HASHIRIYA-- 作:Atno108
・・・やってやろうじゃねえかこの野郎!まあ寅丸さんは天才ですから!?!? 8秒で全員ブッチぎってやりますよ!!!特にあの煽ってきたヤツ!!ぜってえ許さねえからなあ!!!!峠の果てまで追いつめて 5000兆回後悔させてやりますよ!!!! ね!?!?!?そう思うでしょ!?!?!?ナズーリン!!!!」
ナズ 「 あ ほ く さ 」
東方頭文字D外伝 峠の白兎 --Rabbits dream of becoming HASHIRIYA--
この作品は東方二次創作作品です。
キャラ崩壊、設定崩壊等にご注意願います。
この作品は作者の妄想で出来ています。
素人並みのクルマの知識、誤った情報等にご注意願います。
この物語はフィクションであり、
登場する人物・地名・団体名はすべて架空のものです。
車の運転は交通ルールを守り、
ゆっくり安全運転を心がけましょう。
清蘭 「えっと・・・・初めまして。これから皆さんと一緒にお仕事することになりました、青蘭 と申します。 よろしくお願い致します。」
鈴瑚 「同じく。こちらでお世話になります、鈴瑚 と申します。宜しくお願いしまーす。」
てゐ 「・・・・・・・」
永琳 「と、いうわけで新入社員よ。あとはよろしくね。」
鈴仙 「私は 鈴仙 優曇華院 イナバ っていいます。よろしくね。」
てゐ 「お、おう。 因幡 てゐって言うんだ。 よろしくな。」
清蘭 「は、はい!よろしくお願いします。」
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第五話 「 PLAY MY GAME 」
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鈴瑚 「えっ じゃあ二人とも走り屋やってるんですか!?」
てゐ 「別に走り屋 って訳じゃないんだけどね。たまたま車の趣味が合って。いろいろなトコ走りに行ってるだけだよ。」
鈴瑚 「ヘ~~。何に乗ってるんですか?」
てゐ 「私のはただのカローラだけどね。鈴仙はすごいよ。シルビア乗ってるの。S15の。」
鈴仙 「私なんて全然大したことないわよ。あんたのはただのカローラで片付けられるヤツじゃないでしょ。」
てゐ 「鈴仙のシルビアには全然敵わないウサ。」
鈴仙 「ほら写真あるわ。『D坂道 カローラフィールダー』でググれば画像で一番上にでてくる時点でマトモじゃないでしょ。見てごらんなさいこの醜悪なカオを。」
清蘭 「 え 」
鈴瑚 「うわ。これはガチだわ。」
てゐ 「鈴仙のシルビアには全然敵わないウサ。」
鈴仙 「私なんかより全然速いからね。峠じゃ。訳わかんないくらい。」
鈴瑚 「いいなあ~。私なんて親のムーブしか運転してないしなぁ。自分の車ほしいなあ。・・・青蘭のほうがこういう話題ついてけるんじゃない?」
清蘭 「 ・・・・え!? いや、私は・・・」
鈴瑚 「こいつもイイの乗ってるんですよ。インプレッサのGC8。あれ確かWRX STIのバージョンVだっけ?ガンメタのセダンのやつ。」
鈴仙 「へえ。すごいじゃない。どっか走りに行くの?」
清蘭 「い いや。私は街乗りばっかなんです。運転も そううまい訳でもないし。」
てゐ 「ふ~ん。宮ノ内湖のまわりとか D坂道とか行ってみるといいよ。そういう車ならきっと峠走るのとか楽しいと思うし。」
清蘭 「あ、いや、いちおD坂道とかも行ったことはあるんですけどね。あは。あはは・・・・」
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寅丸 「え~。そこまで会話しといて、その子連れてこなかったんですかー?」
夜のD坂道。いつものコンビニ。鈴仙とてゐは寅丸たちのチームと合流し、談笑している。
鈴仙 「ええ。そうなんですよ。その子、自分には腕がないから 峠で走るのは無理だ って言っちゃって。」
てゐ 「・・・・・・・・・・・」
寅丸 「そういうこと言う子に限って滅茶苦茶速かったりするんですよ。一度でいいから誘ってD坂道連れてきてくださいよ。個人的にはGC8も見てみたいですし。」
鈴仙 「できるかなあ・・・ その子、もう車の維持費が高いから車手放したい、って言ってたし。」
寅丸 「え~~ そんな~~ モッタイナイ。」
村紗 「ん~?GC8?前もGC8について何か話してたような?」
響子 「てゐさん、どうしたんですか?さっきから顔が引きつってますよ?」
てゐ 「あ、いや、思い過ごしだと思うんだけどね・・・・ ・・・・ガンメタ・・・ セダンの、GC8?・・・・・・うっ、頭が・・・・ 」
そこへ 西のほうから車が三台走ってきて 駐車場にゴトゴトと入ってきた。レティのR33GTS4ドア、チルノのSW20、橙のRX-8だ。
寅丸 「おかえり~。どうでした? 走り込みの方は?」
三台は レティ、チルノ、橙の順番でD坂道を途中まで練習がてら走りに行っていたのだ。
チルノ「全然おいつけなかった~~ レティ、ホント速いの!ど~して33Rをあんな風に操れるかな~ 幅とかデカイから走るの大変なハズなのに~~」
レティ「他の峠ならまだしもD坂道はうまく走れば幅は別に気にならないわよ? 割りと2車線ばっかだし、ま、対向車気にすればいいだけね。」
チルノ「橙も意外とやるよね!あたいにちゃんとついてきてたもん!」
橙 「いえいえ~。ついていくだけでも大変でしたよ~~。」
橙 「(ずっとウシロ張り付いていたんですよ!コイツ後ろ見れないんじゃねーの?)」
レティ「ま、私も重い33Rを思い通り走らせられる訳じゃないし、ちゃんと腕を磨いておかなきゃ。この先何があるかわからないし。」
寅丸 「 ・・・・・・ あの走り屋達の話 ですか。」
響子 「 ? 何の話です? 」
レティ「まあ・・・・ 今に始まった話じゃないんだけどね。やっぱり『走り屋』たるもの、自分らの速さを見せつけることで頭がいっぱいなわけよ。そしてそれを効果的に行えるのが『遠征』・・・ 他のチームのコースに踏み込んでいって、バトルして、勝利する・・・・ ここら辺は平和なモンだけど、どうもそんな動きが最近活発になっててね。」
寅丸 「そんな中、G県で、すごい走り屋二人組がのし上がってる って話です。『遠征』に来たチームを返り討ちにしたのを皮切りに 連戦連勝、今ではG県はもちろん他県のチームにも挑んで勝ち続けているんだとか。
ーーーヒルクライムエース「FDの魔女」、ダウンヒルスペシャリスト「紅い流星」。今や彼女らは無敵と云われています。」
レティ「おかげで関東の主要なチームはピリピリしてるわ。K県でも防衛体制をとろう とか動いてるみたいだし。」
響子 「・・・・・ その人達、ここにも来るんでしょうか・・・・・」
レティ「ま、D坂道はそんな知名度もないしね。もしかしたらスルーされるんじゃないかしら?」
寅丸 「そうですね。K県でも函根地方の方がターゲットとして大きいですし・・・」
鈴仙 「 それはそれで、 シャクじゃないですか? 」
寅丸 「 !! 」
レティ「 ! 」
鈴仙 「あっ・・・いや・・・・・ 別にそんな、バトルしたい、とかそんなんじゃないんです。ただ、せっかくここで走り屋やってるのに、そんな、見逃してもらえてホッとする なんて どうかな~って思っちゃって。」
橙 「・・・・・・・・・・」
チルノ「わかる・・・わかるぞ!あたいもムキーッってなるもん!最強のあたい達をシカトとは何様だーっ!」
響子 「 はあ。 」
寅丸 「フフッ。レティさん・・・・」
レティ「何も負けるともスルーされるかもわからないでしょうー。ハイハイ。また練習でるから出れる人は一緒に走りましょう。」
また練習しに、車を出すレティとチルノ。続いて鈴仙。 てゐは自分の車にもたれて佇んでいる。
橙 「てゐさんは出ないんですか?」
てゐの真横から声をかける橙。
てゐ 「あ・・・うん。今は疲れてるから。えっと、橙、って言ったっけ?その・・・」
橙 「私も休憩です。お近くいいですか?」
近くの柵にもたれ掛かる橙。視線を落とし、てゐの白いカローラフィールダーをねっとりと眺める。
橙 「てゐさん、あまり走りませんよね・・・」
てゐ 「まあね。ここ来てるのは半分付き合いみたいなトコあるし。そもそもこの車 オートマのワゴンだし。」
橙 「・・・昔はもっと別の車乗ってたんですか?」
てゐ 「スポーツカーってこと?それが全然なんだ。コイツの前に乗ってたのもカローラセダンだし。 バネも変えてないひどいヤツだよ? まあコイツだって全然速い車じゃないしね。」
橙 「え・・・あ・・・ あはは・・・。」
橙 「(コイツ皮肉でも言ってんのかな?いやいや。この前T山峠でバトルしてることすらコイツわかってないんだろうな。)」
寅丸 「橙さ~ん、ちょっとこっちきてくれませんか~~?」
橙 「あっ は~い」
呼ばれて立ち上がる橙。改めて てゐの方へ顔を向ける。
橙 「てゐさん、もしよかったら 来週の土曜の夜、宮の内湖でまた会いませんか?」
てゐ 「ん?」
橙 「あ、えっと、なんていうか、てゐさんのこともっと知りたいんです。もっとてゐさんと話せたらな、って思って。」
てゐ 「え、あ、とりあえずいいけど・・・」
橙 「それじゃ約束ですよ。ちゃんと来て下さいね。」
それじゃ、と手を振り、離れた寅丸星たちのところへ向かう橙。暗闇の中、その口元が怪しく笑うのを 見たものは誰一人いなかった。
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大清水峠。尾高山の麓、K県から隣県T県にまたがる峠道で、昔から有名な峠である。今でこそ走り屋の数は減ったが、それでも深夜になれば腕に覚えのある走り屋がちらほら現れる。
そのT県側の入口近く、コーナーのところで道幅が広がり、車を道脇に止めて休憩できる所がある。
深夜、その休憩スペースに 二台の車が停まっている。
一台は黒いクーペスタイルの車。全体的に丸みを帯びてはいるが、筋肉質なデザインが不気味な力強さを醸しだしている。ST205型セリカGT-FOUR。姫街道はたての車だ。
はたて「何のつもりなのよ。急に呼び出したりして。」
椛 「すいません。今後の方針などについて 少し話し合う必要がありまして。」
もう一台は角ばった、白い車だ。一見一昔前のハッチバックにも見えるが リアエンドのルーフが斜めに下っており、3ドアクーペになっている。EF8型CR-X。犬走椛の愛車だ。
椛 「すでに聞いているかとは思いますが、最近の峠の情勢は芳しくありません。虎視眈々と峠で一旗上げようとしてる連中が、あっちこっちで動き出してます。もうここも、昔話を懐かしく語ってるだけでは済まされないんですよ。」
はたて「何を言いたいのかしら?まさか私がこの峠でポッと出の雑魚に負けるとでもいいたいの?」
椛 「いえいえ。とんでもない。誰かがはたてさんに 上りで このコースで勝つことなんて出来ないでしょう。しかし、この峠には『最速』の名がかかっています。有名すぎるんですよ。今はこんなに寂れた峠なのにね。」
はたてがますます顔をしかめた。
はたて「まるで私が役不足だっていいたいようね。みてなさい。どんなヤツが来ようが 私が返り討ちにしてやるんだから。」
椛 「ところが、事はそう簡単じゃないんですよ。」
ため息をつく椛。
椛 「先日、『函根』から使者がきました。これがどういうことかわかりますか?」
はたて「 ・・・・・・・・・・ 」
椛 「もちろん、丁重にお断りさせていただきましたけどね。とんでもない話でしたよ。彼らは結託して動き始めてます。周囲の弱小チームも支配下に置こうと動き始めてる。」
はたて「 それってつまり また来るってことじゃないの? それも今度は・・・・ 」
椛 「おそらくそうでしょうね。だから あの人に来てもらうことにしました。」
はたて「 ・・・・!? 」
その時 はたては気が付いた。麓のほうから 一台の車がその重厚なエンジンサウンドを奏でながら上がってくるのを。流すように走っているにも関わらす、そのエンジン音には不思議な存在感があった。
「 グガアアアアアアアアアアアアア 」
はたては そのエンジン音を聞いたことがあった。かつて何度も何度も聞いていた。
はたて「椛!何考えてるの! あいつは・・・アイツを呼ぶ必要なんてない!」
椛 「・・・・・・・・・・」
その車は コーナーを超えてはたて達の前に姿を現した。漆黒のR32GTRスカイライン。躊躇なく、かつゆっくりと二台の後ろに車を停めると、運転手が降り立った。
はたて「 文・・・・・・!! 」
射命丸 文は 不気味な笑みを称えながら 二人の方へ近づいてきた。
文 「これはこれは。わざわざ私を待ってなくてもよかったんですよ?」
椛 「こんばんは文さん。どうですか?マシンの調子は?」
はたて「あんたっ・・・あんた大丈夫なの!?別の車で事故やって、腕やっちゃったんでしょ!?もう走れないって・・・!」
文 「ええ。ボッキリとやってしまいましてね。それを機に走り屋も引退しようと思ってたんですが。どうも眠ってる訳にもいかなくなりましてね。 腕もホラ、治したんですよ? 伝説の幻走ブン屋のやっとくっついた右腕が腐ってしまう前にもう一回遊ぶのも悪くないと思いましてね。」
はたて「そんな・・・・」
椛 「文さんが走る気になって下さったのはうれしいことです。私としては『お客様』をお迎えする際の対策と練習プランを練りたいと・・・」
文 「対策?練習プラン? 椛、私はこの峠でやる以上、誰にも負けはしませんよ。それよりも やるべきことがあるでしょう?」
椛 「・・・・失礼しました。文さんもブランクがあるからとつい。」
はたて「そうよ。練習する以外どうしろって・・・」
文 「ーーー早い話が、私は連中が勝手に勢力を広めてるのが気にくわない訳ですよ。じっとしてたら我々も嘗められてしまう訳ですしね。ここは我々も『宣伝』をした方がよいでしょう。」
はたて「・・・・・・!!」
椛 「・・・・・・・」
文 「まずは『宮の内地区』『T山峠』『D坂道』・・・・ここらから侵攻を開始しましょう。 かつて『黒翼の怪鳥』とよばれた射命丸 文。 この私がどれほどのものなのか、知らしめないといけませんね。」
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次の週の土曜日。
宮の内湖の東岸、T山峠への道が始まる地点。崖沿いの道と、湖対岸から橋で渡ってくる道が交わるT字路がある。
そのT字路の付近、道路を塞ぐように 一台の車が停まっていた。
銀色の3ドアのコンパクトカー。丸っこく小さくまとまったその機体では、ハンドルを切って目いっぱい横に向けてやっと道路を塞げてるように見える。NCP13型ヴィッツ RS。その車は、小さき車体に似合わぬアイドリング音を響かせながら、怪しく佇んでいた。
その車の脇、ネズミ耳で銀髪の少女は佇んでいた。北側を見据え、耳を立てて 何か来るのを待っている。
? 「・・・・・・・!! 来た・・・!!」
彼女の耳は 近づいてくる車の音を捉えた。やがてその車はトンネルの緩やかなコーナーを超えゆっくりと姿を現した。
白いカローラフィールダー。 因幡てゐの愛車が ゆっくりと減速して 銀色のヴィッツの前に停まった。
てゐ 「おいおい・・・・ こんな所に車停めてたら邪魔だろうが・・・・・」
困惑顔で車から降りるてゐ。しかし、車で道を塞いでいた銀髪の少女は まるで憶することなく、てゐに語りかけた。
? 「別に大した問題はないよ。こんな時間にここ通るのは君ぐらいだろうからね。」
てゐ 「・・・なに?私を待ってたって言うのか?だがそいつは人違いじゃないかな?」
? 「いいや。君だよ。君を待ってた。」
てゐは改めて 相手の車と相手の姿に目を走らせた。おそらく、見せかけではなく本物のカーボンボンネットなのであろう、空気孔がある黒いボンネット。リアの上に、しつらえたように後付けされているGTウイング。アイドリング状態のヴィッツはフィールダーのライトに照らされ 車高もボイールも変更されかなり手が入ってることがわかる。
銀髪のネズミ耳の少女は 不敵な笑みを浮かべ、真紅に光るその瞳をこちらに向けている。
てゐ 「見たところ レースをご所望のようだけど・・・ 私の車はこれカローラフィールダーだよ? ワゴンだしオートマだし、バトルの相手を間違えてるんじゃないかな?」
? 「私にとっては そんなの大したことじゃないんだ。車の速さはウデで決まるってのが私の信条でね。できれば、覚悟を決めて 今君に挑んでほしい。それに、君だってしたきりに従うべきだ。」
てゐ 「したきり?」
ナズ 「『走り屋は バトルを挑まれたら 受けなくてはならない。』」
てゐ 「・・・・・・・・・・・」
ナズ 「挨拶が遅れたね。私の名はナズーリン。ここはT山峠というコースのスタート地点になっているそうだね。なに、ちょっと二人で麓まで走ってもらいたいだけさ。」
てゐ 「・・・・私は てゐって言うんだ。だが言っとくけど私は走り屋じゃないし、バトルでのしたきりなんて知らない。それでもやり合おうって言うなら、走ってやろうじゃないか。」
橙 「カウントは・・・・ 私がやります。」
後ろから 橙の声がかかった。物陰から現れる橙。 特に驚くという風でもなく、ちらりと橙の顔を見るてゐ。
てゐ 「そうかい。なるほど。初めから準備は万端ってわけかい。」
ナズ 「橙を悪く思わないでくれたまえ。私が土曜の夜に呼ぶよう頼んだんだ。宮の内に来るのにこの道を使うのは・・・ 『走り屋の性』ってヤツだろうな。絶対ここに来るって確信してたよ。」
宮の内湖の湖のたもと 橋の上に 2台の車が横に並べられた。
湖側にナズーリンの銀色のヴィッツ。山側にてゐの白いカローラフィールダー。鼻先をそろえると、ワゴンのフィールダーの方が二回りは全長が長いことがわかる。
両車の前に立つ橙。黙って片手をあげ、カウントを取るホーズを取る。
「ヴアアアアアアウン ヴォオオオオオオ・・・」
「ブゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・」
ナズ 「いいか? いくぞ。」
てゐ 「ああ。」
頷いてみせるてゐ。
T字路脇のスタート地点からは 長い平坦なストレートになっている。遥か先に見えるのは右コーナーになっているトンネル。二人の目はそのトンネルの先を見据える。
橙 「それでは、カウント始めます。」
スタートダッシュでクラッチミートを合わせるべく、その場でエンジンを回し、吼えるヴィッツ。一方、てゐのフィールダーは不気味に静かにアイドリングし、スタートの合図を待っている。
橙 「5!、4!、3!、2!、1!」
「ヴァアアアン ヴァアアアアン ヴァアアアアアン」
ナズ 「・・・・・・・・・」
てゐ 「・・・・・・・・・」
橙 「 GOォゥッ!!! 」
スタートの合図の瞬間、軽いナズーリンのヴィッツの方が弾けるように前に出た。一歩遅れるフィールダー。もっさりとした走りだしの直後、CVTのギアが変わって急加速が始まる。ナズーリンのヴィッツが変速する瞬間、フィールダーが頭一つ前に出る。ギアが繋がったヴィッツが 再び猛烈に加速する。
「グアアアアアアッ ファガアアアアアアアアア!!」
「ガアアアアアアアア!!!!」
ヴィッツが頭を取り、高速右コーナーのトンネルへと突っ込んでいく。
ナズ 「(なるほど。CVTの恩恵は容赦なく使うようだな。だが、加速でも運動性能でも 私の方が一歩上だ。)」
トンネル内の右コーナーをIN側で駆け抜け、完全にフィールダーの前へ出るヴィッツ。トンネルから出た所のストレートで フィールダーはヴィッツの後ろにつける。続く高速右コーナーへと侵入する二台。
ナズ 「(悪いが先行は取らせてもらったよ。その車で 君が 一体どれだけついてこれるか楽しみだな。)」
その先には左コーナー。二台は縦に並んだまま、切り立った断崖すれすれを猛スピードで駆け抜け、暗闇の中へと消えていった・・・。
スタート地点の交差点。橙は 二台が走り去った方向を眺め、ボンヤリと佇んでいた。
やがて、橙の耳が 別の方向から向かってくるエンジン音を捉えた。湖の対岸側から橋を渡って向かってくる白いランエボV。寅丸星の愛車だ。
寅丸 「くっ・・・ 間に合わなかったか・・・!?」
寅丸星は交差点近くで車を停めると 慌てた様子で周囲を見回した。 一方で困惑した表情で助手席から顔を出したのは鈴仙である。
鈴仙 「星さんどうしたっていうんですか?一体何がなにやら・・・・」
寅丸 「 !? 橙さんどうしてここに・・・!? あの、ここらへんでヴィッツ見ませんでしたか? 銀色のヴィッツを・・・!」
橙は横眼で寅丸星をちらっと見た。そして 視線を戻すと こともなげに告げた。
橙 「ナズーリンさんのヴィッツなら さっきまでここにいましたよ。つい今しがたバトルで猛スピートで発車していきましたけどね。」
寅丸 「え・・・なんで橙さんナズのこと知って・・・ て バトルって誰と!? まさか・・・・ 」
橙 「てゐさんとですよ。」
絶句する寅丸星。
鈴仙 「え・・・えっと、その、誰なんですか そのなずーりんさんって? 星さんったら、今日私が来るときここらで銀色のヴィッツを見たって言ったら血相変えて車出して・・・・」
寅丸 「ナズーリンは・・・・私が自分の地元で走り屋を始めた頃の仲間なんです。まさか、こんな勝手にバトルを始めるだなんて・・・・」
鈴仙 「何か問題でもあるんですか?」
寅丸 「・・・・・・・・・・」
顔をしかめる寅丸星。一瞬脳裏に、過去のバトルのイメージが映る。
星のランエボⅤを突き放して右コーナーを立ち上がっていく銀色のヴィッツ。素早く次のヘアピンへと突っ込み、軽やかにコーナーを抜けていく。ランエボを置き去りにして、コーナーの先へ 暗闇の先へと消えていく・・・・
寅丸 「ナズは・・・・ 速すぎたんです。私たちのチームでも とび抜けて速くて、それ故に孤立して、やがて他の走り屋にバトルを吹っ掛けて回る子になってしまった・・・・ ここへ来るのならば、皆さんと仲良くしてもらいたいと思ってたのに・・・・・・ 」
橙 「 ・・・・・・・・ 」
鈴仙 「・・・・その子、てゐよりも速いと思いますか? 」
寅丸 「・・・わかりません。でも、探していたのは確かです。」
T山峠の先の方角を眺める寅丸星。
寅丸 「 戦い相手を 自分と 本気で 戦える相手を・・・・! 」
「ファガアアアアアアアアアアア!!!」
ナズ 「(意外とついてきてるな・・・・ そういやホイールアーチは向こうの方が長いんだっけ?案外高速コーナーでの安定性はむこうの方が上だったりするのかな?)」
橋の上の高速左コーナーを抜け、アース橋のストレートへ入るナズーリンのヴィッツ。アクセルを踏み込み、ターボによる強力な加速で弾けるように加速する。てゐのフィールダーとの差が開く。
ナズ 「(・・・・私は 車の速さとは ドライバーの技量と車の性能の総和だと考えている。よい性能の車に乗り換えれば速くなるのは当然だが、技量が伴わなければ遅くなるのも然り。逆に卓越したドラテクがあれば、遅い車でも格上の車と勝負することは十分可能なんだ。)」
「ガアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
てゐ 「あちゃー。あれには敵わナイナー。」
ナズ 「(・・・・いちお ヤツの車の基本データーは把握している。1.8リッターのエンジンで140馬力。こっちは1.5リッターの後付けターボ仕立てで150馬力。それだけなら大した差はなさそうだが、重さがまるで違う。)」
その先の右の高速コーナーを抜けていくヴィッツ。
ナズ 「こっちのヴィッツは950kgしかないが フィールダーは1400kgもあるんだ。イヤでも差が出るさ。だか私はだからといって手加減するなんてバカな真似はしない。チギれるならちぎってやる。この先のテクニカル セクションでな。」
湖の南端へ向け、ストレートを加速していくヴィッツ。左右に見える尾根が一気に狭まってくる。
ナズ 「この先の 下りのタイトコーナーが続く区間からがホントの勝負だ。ヴィッツの 本物の『素早さ』ってヤツを教えてやるよ。」
先行するヴィッツが超高速セクションを超え、急な下りへと突っ込んでいく。
スピードを落とし切らない程度のブレーキングで 初めの緩い左コーナーをパス。続く右のタイトコーナーを 蹴るような加速で曲がっていく。
「キャキャキャキイアアアアアアアア!!!」
すぐに来る左のU字コーナーのようなヘアピン。ヴィッツはそのままのスピードで突っ込むと、アクセルを踏みたしながら曲がっていく。
「グガアアアアアアアアアアア!!」
U字コーナーを出たところでまた急な右コーナー。弾き飛ばされそうなGの変化を感じながら、ナズーリンは思いっきりハンドルを切る。コーナーを一気に抜けるヴィッツ。
「ファガアアアアアアアアアアアアア!!!」
ナズ 「・・・っフッ、どうだ、ヤツは・・・・ 何っ!?」
後ろが気になり、ミラーをチラ見したナズーリンは 思ったより近い位置、いや、むしろすぐ後ろにフィールダーが後ろにいるのを認めた。しかし、考える余裕はない。すぐ先にシケインのような下りのクネクネ道が待っているのだ。
右に 左に舵を切りながら下っていくヴィッツ。その後を ガードレールを掠めるように フィールダーが追う。
ナズ 「そんなバカな・・・ あいつヘアピン一つで、この私に追いついたっていうのか・・・!?何がマズかった!?ツッコミか!?立ち上がりか!?」
ウネウネ続きの道は もう一度大きくうねって タイトコーナーになっている所がある。左タイトコーナーに備え減速するヴィッツにフィールダーが張り付く。
ナズ 「・・・・くうっ!?」
思わずアウト側に膨らみながらも 全開で駆け抜けるヴィッツ。フィールダーはINキリギリ、最も高低差が出るラインを 突き抜けるように加速していく。
「ファガガガガガガアアアアアアア」
「ギアアアアアアァァアアアアアアアア!!!」
続くウネウネ道。やや膨らみ気味になるヴィッツに対し、ゆるやかな右カーブでもINギリギリを抜けるフィールダー。ヴィッツのサイドミラーに チラリ チラリとフィールダーのライトが写る。
ナズ 「あいつ・・・ どこでIN寄せればいいか分かって ギリギリ攻めてやがる・・・ ラインがまるで違う! あいつ、ここ滅茶苦茶走り込んでるだろ!?」
少しストレートがあって その先にはなだらかな3連続のS字コーナー。大したコーナーではないのに、下りで、緩いコーナーとストレートを飛ばしてきた車は、どんな車でもここでオーバースピード気味になる。
一つ目のゆるい左コーナーをそのまま一気に抜けたヴィッツは、次の右コーナーで大きく外側へと膨らんだ。
「キイアアアアアアァァァアアアアアアア!!」
「バガアアアアアアアアアアアアア!!!」
すかさずINを指す後続のフィールダー。ツッコミ勝負で頭一つ分ヴィッツに並ぶ。
ナズ 「・・・・・・・!!」
そのまま並んで立ち上がる二台。その次は緩やかな左コーナー。ヴィッツの方がIN側になるコーナーであったが、ナズーリンはアクセルを踏み込まなかった。
「ファガアアアアアアアアアア!!」
じんわりと前へ出る 白いカローラフィールダー。もう一つ緩やかなS字コーナーを超え、2台は長いストレートへと入っていく。
ナズ 「やるじゃないか・・・ 癪だがここは作戦変更だ。後ろからコイツの走りを見ながら追いかけ、隙あらば後半でブチ抜くーー!!」
ナズの目の前に映るのはフィールダーのリア。半端に怪しく光るテールランプが揺れる。
ナズ 「私にはわかる。この走りーーー! お前が何の為にこの道を、このコースを走り込んできたのかーーー! さあ、見せてみろ!!お前が見てきたモノ、お前が見せられるモノ、お前の走り すべてを!!」
寅丸 「ナズは・・・ 自分の車にコンプレックスを持ってたんです。自分のヴィッツがバカにされるのが嫌で、自分の腕を磨くのと同時に 車にも相当手をいれていったんです・・・ 後付けのターボをいれたり、ドンガラ2シーターにしたり・・・ 」
鈴仙 「そう言えばてゐも言ってたわ。ヴィッツはいろいろとレース用のパーツが出てるって。」
寅丸 「ヴィッツはワンメイクレースが行われていたので、今でもいろんなトコがパーツ作ってるんですよ。RSグレードならば後輪もディスクブレーキになっていたりと レース用としての基本的な装備はもってますからね。」
鈴仙 「そいえばてゐのフィールダーって後ろドラムブレーキだったっけ・・・」
寅丸 「・・・・正直言って車の性能だけで見たらてゐさんのフィールダーに勝ち目はありませんよ。ナズのヴィッツは軽い上にボディ補強パーツまで加えて足回りもしっかりしている。後付けターボで馬力も上がってますし。 てゐさんのフィールダーは足回り少し変えてるだけですからね。正直ライトチューンとさえも呼べないぐらい・・・ 何よりも重さですよ。レース界では100kg違うだけでも十分な差になるのにフィールダーじゃあ・・・・」
橙 「・・・・そんなに重さの差って響くんですか?」
寅丸 「馬力があっても重い車が 軽くて馬力もない車に軽々と抜かれるなんてことはもはやテンプレですからね。軽い車は加速力もいいし、何よりコーナーでの遠心力が小さくなる。車がコーナーで曲がる上で最大の障害といえる遠心力を元から小さくできてるんですから、コーナーで速くなるのは当たり前なんですよ。」
鈴仙 「てゐのフィールダーは重い上に馬力もない・・・・ それだけ聞けば負け確定のように聞こえるけど・・・」
橙 「あのフィールダーは、そんな常識すら通じない、得も言えぬ走り方をする・・・・」
こくりと頷く寅丸星。
寅丸 「ナズーリンも おそらくてゐさんも 格上のスポーツカーを追いかけ、そして我々では説明できない速さを身に着けたんでしょう・・・ 似てるんですよ。ハンデキャップを逆手にとって相手を追いつめ 快感を得ているという点で。 それだけに私は怖いんですよ、このバトルの結果、何が起こるのか。」
橙 「・・・・・・・・・・・・・・・」
鈴仙 「(・・・・・あれ?橙ってこの子、てゐの走り見たことあったっけ?)」
「ガアアアアアアアアアアア!!!」
「ファガアアアアアアアアアア!!!」
ナズ 「なんてヤツだ・・・・ だんだんわかってきた、コイツが、速い理由・・・!!!」
ナズーリンの目の前で 機体を躍らせ 迷いなく左の狭いコーナーへと飛び込んでいくフィールダー。
ナズ 「ワゴンの重い機体は ヤツにとってはハンデじゃない。むしろ車体後ろに膨らんだ『重し』の分をうまくコーナーで振って、曲げる力を作りだしているんだ・・・・ミッドシップ車みたいに!」
次の右コーナーの入り口で 軽いブレーキを掛け リアの荷重を抜くフィールダー。 その瞬間コーナーの為にリアタイヤは半グリップ状態になり、リアはその重さの為 左側へと引っ張られ、フィールダーは一気に右を向いてコーナーを抜けていく。
ナズ 「その上、アクセルオンにすれば、リアにすぐ荷重が乗って 後輪のグリップが回復する・・・ 吹っ飛んでいく心配なくコーナーを攻められるんだ・・・・」
続く左コーナーを 後半からアクセルオンにして 立ち上がりでスライドを収束させ 加速しながら抜けるフィールダー。
ナズ 「それだけじゃない。リアのドラムブレーキ・・・前後で違うブレーキ力は、コーナーの瞬間に踏み込めば、それだけでリアが滑り出すきっかけになりうる・・・! タイヤもそんなに太く出来ないから 滑り出しには好都合なんだ・・・・!」
高速区間に縦に並んで入る二台。なだらかな右コーナーを攻める。
ナズ 「早い段階で踏み込める分、パワーがなくとも十分スピードが乗る・・・ むしろノンターボの分加速が速い! 信じられないよ。まるで欠点を欠点どうしで無理やり補って 一つの速い形を作り出してやがる・・・・!!」
急に来る左コーナー。スピードが乗り切った状態であるにも関わらす、ナズーリンの目の前でクイックに曲がっていくフィールダー。
ナズ 「FF車にとって 後輪はただ後ろで転がっているだけだから、荷重など懸けても意味がないと思ってた。軽いハッチバックの方が有利だと・・・軽さこそが正義だと! ところがどうだ。後ろから見てるとヤツ一人で気持ちよさそうに踊っているように見える・・・・!!」
てゐ 「・・・・・ついてきてる。やはりさっき抜けたのは譲られたからだ。何か、仕掛けてくる・・・・!」
ナズ 「しかし これは 君だけのゲームじゃない。そう。君のただの暇つぶしなんかじゃないんだ。」
なだらかな下りのS字カーブへと差し掛かる二台。出口の左カーブで、ナズーリンのヴィッツのエンジン音が 一段階大きくなる。
ナズ 「 私の ゲームで 遊べ。 」
ストレートで一気に加速するヴィッツ。手前の左コーナーで本能的にIN側を攻めていたフィールダーは右側に空間を開けていた。そこへ突っ込むヴィッツ。
てゐ 「くっ・・・!!入れられる・・・・・!!!」
ナズ 「この車でストレートで勝負を挑む日が来るとはな・・・ さあ、勝負だ!」
横に並ぶフィールダーとヴィッツ。2台の目の前に迫るのはタイトな右のブラインドコーナー。入口からは見えないが 途中から急な下り勾配が付く。
てゐ 「(INを刺されたとしても 次のコーナーではこっちがIN側だ。ここで引くわけにはいかない!!)」
「キュカカアアアアアアアアアア!!!」
「ガアアアアアアアアアアアアアア!!!」
2台並んだまま右コーナーを抜けると 急な下りのままでストレート。その奥には左のタイトコーナー。落ちるように加速しながら、2台に聳え立つ崖が迫る。
てゐ 「せまい! 2台並んでIN攻めだとタイトなコーナーがさらにタイトになる!!キツイか!?」
ナズ 「引かないか・・・! くっ、次のコーナーはアウト側じゃラインが凄く限定される!だが一歩引いて後追いに移る余裕はもうない!!」
「ギアアアアアアアアアアアア!!!」
「ファガアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
ナズ 「・・・コーナーに追いつめて 逃げ道を塞いだつもりだろうけど 私が何をするか見せてやる 見くびるなよ。」
てゐ 「コーナーに追いつめて 逃げ道を塞いだつもりだろうけど 私が何をするか見せてやる 私を見くびりすぎなんだよーー!」
「 ガッ ガコッ ガアアアアアア!!!」
「ギャギャギャギャギャギャキイアアアアアアアアアアア!!!」
「ギュイイイイイイッキァアァアアアアアアアアアアアアアア!!!」
ヒールアンドトゥを決め、外側を一気に回り込むナズーリン。IN側を綺麗に回るフィールダー。
ナズ 「 !!!!! 」
てゐ 「 !!!!! 」
コーナーから飛び出したのはほぼ同時。弾けるように飛び出したヴィッツと 安定した立ち上がりで確実に加速しているフィールダーが横一列に並ぶ。遅れてやってくるちょっとした左の曲がりを超え、ストレートへ入る二台。
「ファガアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
ストレートの先の右コーナー。2台横に並んだまま突っ込み、互いに譲ることなく駆け抜ける。
「キイアアアアアアアアアアアアア!!!」
「キュイキキキアガアアアアアアアアアアアア!!!」
コーナーを抜けるとストレートの下り。そして上り。その先には、再び崖が迫る左タイトコーナー。
ナズ 「!・・・・・!!!」
てゐ 「 !!! 」
ストレートの上りで頭一つ分ヴィッツが先行していたが、フィールダーの鋭いツッコミにより今度はフィールダーが頭一つ前へ出る。続く緩い右コーナーを立ち上がると長いストレート。今度はヴィッツが頭一つ分 前へ出る。
ナズ 「(だめだっ・・・・!! こう常に並ばれてちゃ、ラインを拾えない!!)」
サイドバイサイドのまま きつい右コーナーを駆け抜ける2台。続くのはダウン・アップの高低差があるS字。上りの右コーナーを 両車互いに譲らず駆け上がる。
「ファガアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
モブ 「うわっ!?二台同時に飛び出してきた!!!」
モブ 「並走の時のドライバーへのプレッシャーはかなりデカイ・・・ いつすっ飛ぶか、すっ飛んでくるかわからない状態でずっと並ばれちゃ、いつ事故るかわかんねーぜ!?」
モブ 「この先のタイトコーナーも並んで突っ込んでく!?心中する気かよ!?」
「「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」」
ナズ 「(この長いストレートを抜けたら、きついS字コーナーが2回現れる・・・・それを超えたらもうゴールなんだ!! アクセルを抜くわけにはいかない!! もう後の事は考えない!!並んで突っ込む!!!)」
迫る左のタイトコーナー。2台が同時にブレーキングを掛ける。途中から ふっとブレーキを抜き、左へ、左へとクイックに曲がってくフィールダー。頭一つ出遅れるヴィッツ。
「キアアアアアアアアアアアア!!!」
「ファガアアアアアアアアアアアアアア!!!」
しかしその先は短いながらもストレート。ヴィッツがその差をもう広げないとばかりに加速する。
次の右コーナー。IN側のヴィッツが小回りを利かし、カーブ出口で二台が並ぶ。
「ギャキギャキギャキガアアアアアアアアアアアアア!!!」
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
すぐ迫る次の左コーナー。うまく切り返し、IN側を滑るように加速し始めるフィールダー。一方のヴィッツ。手前のコーナーでギリギリまで踏ん張った分、次のコーナーへの対処が遅れる。
「アアアアアガアアアアアアアアアアアア!!」
「ファガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
頭一つ飛び出るフィールダー。半歩引いても追いすがるヴィッツ。ラストコーナーへと飛び込む。
右のタイトコーナー。
「ファガアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
コーナーから一気に立ち上がったフィールダー。IN側の分、内側で踏みとどまろうと失速するヴィッツ。
「ガッ グガガガガッ ガアアアアアアッ!!!」
「キアアアアアアガアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
コーナー出口から一気に飛び出した白いフィールダー。遅れて追いすがるヴィッツ。しかしそこの短いストレートの終わりが このコースのゴール地点であった。
「ガアアアアアアアアア ア ア ア ア ア 」
ナズ 「(負け・・・・・た・・・・・・・・・。)」
その時のナズーリンには、痺れる頭の中で、そう思うだけで限界であった。
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T坂道のゴール地点の 少し近くにあるコンビニ。失速した二台が、ゆっくりと車を停めた。
ナズ 「・・・・・・・見事だったよ。さすがだね。私の負けだよ。」
てゐ 「・・・・・・・・・・・・・」
車から降り、てゐの方へ向かいながら話しかけるナズーリン。声こそはっきりだしているが、その足取りはややふらふらとしている。一方で 車から降りた所で立ちすくんでいるてゐ。まだ荒ぶる呼吸を正そうと深呼吸している。
てゐ 「・・・・・まぐれだよ。ゴール直前までほぼ並んでたんだし、もうちょっとで負けてた。」
ナズ 「違う。まぐれなんかじゃない。 技術力の差だ。」
てゐ 「え?」
ナズ 「後半のセクションで君に無理やり並んだのは、半分以上 意地だったんだ。このコースと君の走らせ方はよほどよく合うらしい。私では敵わないと分かってたけど、だからこそ挑んだ。そして負けた。君からみたら僅差かもしれないけど、私にとっては初めての完敗だよ。」
目をつぶり、両手とあげて降参のポーズを取るナズーリン。
てゐ 「そこまで言われて悪い気はしないけど・・・ それにしてもすごい速いよねそのヴィッツ。あの加速。ヴィッツターボっていうヤツ?」
ナズ 「いいや。コイツは買った時からターボが付いてるヴィッツターボじゃなくて、後付けでターボつけてるんだ。 お店でただキット組んでもらっただけなんだけどね。」
てゐ 「ちょっと中覗いてみてもいいかい?」
ナズ 「・・・そんな大層なことはやってないよ。あとこんな暗いとよく見えないじゃないかな。」
てゐ 「大丈夫。ライトはある。ほら。」
ナズ 「・・・・君、準備いいな。」
渋々ボンネットを開けるナズーリン。
ナズ 「・・・・あまり人に自分の車見せたことないから なんか恥ずかしいな。ヴィッツだなんてあんまいい車じゃないし、そう見せてくれと頼まれるような車でもないしな。」
てゐ 「そうか? 私は羨ましんだけどな ヴィッツ。」
ナズ 「 え 」
てゐ 「ホントはさ、自分のフィールダーにもターボ付けたいなー とか思ってさ、いろいろ調べてみたんだ。 適合するターボキットがないし、今ドキこんな車にターボ付ける人なんていないしさ。」
ライトで照らしながらエンジンルームを覗き込むてゐ。
てゐ 「このフィールダーのプラットフォームってヴィッツのプラットフォームと同じだからさ、ヴィッツのパーツとかも使えるんじゃないかと調べたりしたんだ。ヴィッツはターボキット出てるんだよなー。イロイロとレース用のパーツも出てるし いいなー やっぱ羨ましいよ。」
ナズ 「 そ、そうか? 」
てゐ 「結局、フィールダーのターボ化はお金も何も大変そうだ ってことで今は諦めてるけどな、 でも乗ってみたいってのはあるよ。速いターボ車に。」
てゐの横顔を眺めるナズーリン。
ナズ 「・・・・・・てゐ」
てゐ 「ん?」
ナズ 「それじゃ・・・・ 乗ってみないか?」
てゐ 「 え・・・・え? 」
振り返るてゐ。ナズーリンは ぼーっとした顔でてゐを見つめて 車のキーを差し出していた。
てゐ 「なっ・・・ だっ、ダメだよ!! いきなり人の車運転するだなんてっ・・・!」
ナズ 「あ・・・ そか、そうだよな。でもさ、すぐそこに車あまり来なくて、試乗するにはいい所があるからさ、とりあえずそこまで横に乗っていかないか?」
てゐ 「う・・・・ 助手席乗る分にはいいけど・・・」
てゐを助手席に乗せ、ヴィッツを発車させるナズーリン。
てゐ 「うおっ。やっぱすごいな。」
ナズ 「フフ。そうだろそうだろ? この軽さはクセになるよ。」
駐車場を出る時点で その加速力を体感しはしゃぐてゐ。
ナズ 「でもハンドルフィーリングとか、実際踏んでどうとか・・・そういうのは運転手じゃないとわからないからな。てゐ。運転してみなよ。」
てゐ 「ホントにだめなんだよ。人の車運転するのは。」
ナズ 「そういうなって。私そんな気にしないしさ。」
てゐ 「私・・・・ダメなんだ。マニュアル車 運転できないんだ。」
ナズ 「 え? 」
てゐ 「ダメだよな・・・・ 粋がってあのカローラ全開で転がしてるけど、私は走り屋なんかじゃないどころか、まったくマニュアル操作なんてやってないんだ。あの車でいくら速く走れたって、なんの意味もない。」
ナズ 「な・・・ あ、あれか、免許がオートマ限定なのか?」
てゐ 「いや、免許はマニュアルで取ったんだけどさ、教習所で乗って以来マニュアル車乗ってないんだよ。七年くらい。今更マニュアル車運転なんて無理だよ。」
ナズ 「大丈夫だって。一度運転できるようになってるんだったら、案外体は覚えてるモンだよ。」
スピードを落とし、路肩にヴィッツを停めるナズーリン。
ナズ 「なあ・・・ 自信ないんだったら尚更 今 挑戦してみたらいいんじゃないか?そうすれば・・・ そうすればお前だってちゃんと走り屋として走れるんじゃないか?」
てゐ 「 ・・・・・・ 」
ナズ 「なんかおかしいと思ってたんだ・・・ お前がバトルに消極的だったり、卑屈になってたりしてたのって、結局そのことが原因なんだろ? そんなのおかしいよ・・・ だって、お前、速いんだよ? マニュアル車もちゃんと運転できるんだぞ、ってなれば、なんの問題もないだろ。」
てゐ 「な・・・ なんでまた・・・ 」
ナズ 「あ・・・ ちょっと言い過ぎたかな・・・ ちょっと熱くなりすぎてたかな、さっきのバトルのせいで。ただ・・・もっと見たいと思ったんだ。『走り屋』としての お前を。」
てゐ 「・・・・・・・・・・・」
俯き、考えこむてゐ。おもむろに口を開く。
てゐ 「本当にダメかもしれないぞ・・・ 車キズつけちゃうかもしれない。それでもいいのか?」
ナズ 「もちろんさ。今更。私が言い出したことじゃないか。」
ドアを開け、運転席を立つナズーリン。遅れて助手席から降りるてゐ。二人は席を入れ替え、てゐがヴィッツの運転席に収まった。
ナズ 「どうだ? 意外とできそうだろ? ヴィッツならシフトもクラッチペダルも変な位置にないし、簡単に操作できると思うよ?」
クラッチペダルを踏み、シフトノブを動かすてゐ。ニュートラルから 1速 2速 3速。ガチャガチャと動かしてフィーリングを確かめる。
てゐ 「(そうだ。ここままじゃきっと変われない。すこしだけでいい。もし運転できればーーー。)」
てゐ 「ちょ・・・ちょっとだけだからな?本当に・・・ 」
ナズ 「なに、できるならそのままコース走ったっていいよ。」
ウインカーを出し、ヴィッツを発車させようとするてゐ。
てゐ 「(一速に入れて、クラッチ繋いで、それからーーー。)」
次の瞬間、ヴィッツが吼えた。クラッチが繋がる感覚が分からず、てゐがアクセルを踏み込んでしまったのだ。
「ファガアアアアアアアア!」
てゐ 「うがっ!!」
ナズ 「うなっ!?」
あわてて2速へ入れようとするてゐ。当然うまくつながらない。一速全開のスピードでアクセルオフで2速でクラッチを繋いだヴィッツは、激しく前後に揺れた。
「グアッ グアッ グアッ!!」
今度はてゐはクラッチとブレーキを目いっぱい踏み込んだ。
「ギュキイイィィィィッ・・・・・・」
ナズ 「あ・・・・・・・」
てゐの表情を見るナズーリン。ハンドルから手を放さず、うなだれるてゐ。俯いた顔は見えない。
てゐ 「ごめんな、ホントこんななんだ。いや、本当にごめん。こんなだと知ってたら、ちゃんと運転しなかったのに。クラッチ大丈夫かな・・・」
ナズ 「これぐらい、クラッチなら大丈夫だよ・・・ それよりほら、大丈夫か? 運転変わろう。」
再び助手席と運転席と交代し、元居たコンビニの駐車場へと車を戻すナズーリン。
ナズ 「あ、あのさ、ホントあんま気にすんなよ?私も悪かったよ。きっとマニュアル乗らないとみんな運転忘れるもんなんだよきっと。私もついーーー。」
てゐ 「違うよ。私が下手なのが悪いんだし。そう。きっとーーー」
てゐ 「私は騙していたんだ。君も。みんなも。私も。 私なんて これっぽっちも運転うまい訳ないのにね。」
ナズ 「 え? 」
てゐ 「ありがとう。実は前々から気付いていたんだ。私は自分で描いた嘘にただ振り回されていただけ。あんな車で、いくら速く走れたって、ドラテクだとか、能力だとかある訳ないのにね。 なのに・・・バカみたいに夢中になって。やっと、本当に気づけた。」
ナズ 「てゐ、何 言って・・・?」
てゐ 「 私は走り屋になれない。なる資格もないんだ。 」
ナズ 「!・・・・!!」
車を降り、自分の車の車の方へ歩きだすてゐ。
てゐ 「ごめんな。引き際はもっとあったはずなんだ。車買い替える時、アテンザワゴンとか買って、ゆったり走るのもイイナーって思ってたしな・・・ 楽しかったよ。これからは頭冷やして」
ナズ 「ってえええゐっ!!!」
てゐが歩みを止める。ナズーリンは車から降り、拳を握り、仁王立ちになっていた。
ナズ 「君はっ・・・君は本当にバカだな!!! マニュアルを扱えたって、コーナー攻められないヤツなんていくらでもいるんだ!! 練習すればいいだけじゃんか!! 貴様はっ・・・君はもう伝説なんだ!! 自分が速いと想い、走りにかけてきた私を負かした、私の伝説なんだ!!! それは、私だけじゃないだろ!!!」
しばらく固まるてゐ。しかし、また歩きだす。
てゐ 「悪い。やっぱ無理だわ。練習するったって。アレ手放す気もないし。」
ナズ 「・・・・てゐ。」
ナズ 「 伝説は 終わらないぞ 」
再び立ち止まるてゐ。振り返らない。おもむろに右手をあげ、こう呟いて歩きだした。
てゐ 「ありがとう。」
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てゐ 「西暦202Y年ーー 車の自動運転が普及した日本。しかし、たった一つのコンピューターウイルスにより、全自動車がエンストし、国民の半分が帰宅困難者となる事件が発生してしまう。事態を重く見た政府は自動運転車オンリー公道走行許可法を撤廃。絶滅危惧種であった運転技能保持者を養成すべく、モータースポーツを健全な全高校生が嗜む国技と位置づけ推奨し、各高校が学園艦存亡を懸けドラテクを競い勝者は晒しウイニングライブを強要されるという全国大会を開くことになる。ここに、全日本高校女子峠ヒルクライム・ダウンヒルカーバトル 全国大会が開催されるーー!!」
村紗 「さあ、レースを始めよう。」
チルノ 「盟約に誓って、アルテッツァ!!!」
てゐ 「次回 「 COSMIC MAGIC SHOOTER 」」
鈴仙 「ノーブレーキ、ノーライフ。」