23:50
現実での日付が変わる10分前。それは私が何年もの間情熱を注ぎ込んだVRゲーム「ユグドラシル」が終わる10分前であることも意味していた。
このゲームはとにかく自由度が異常に高かった。種族、職業、アイテム、魔法、スキルetcそれぞれが何千種類と用意されており、それらは何年間もの間アップデートの度に際限なくその数を増やしてきた。
運営がそこまで至れり尽くせりだったのは、儲かるからに他ならない。確かに一昔前までは一世を風靡した大人気ゲームソフトであった。しかし次々にリリースされる新ソフトにユーザーの数は徐々に奪われていった。
ログイン者数が激減したあとは毎月の使用料による収入は運営にとっては雀の涙ほどしかなく、9割方は課金という名のお布施によって成り立っていた。
どんなゲームにもヘビーユーザーというのはいるもので、特にこのゲームは課金すればくすほど強くなるというクソゲー仕様でもあることから、何年もプレイしているプレイヤーの課金額は相当なものである。
斯く言う私も相当な額を課金しており、運営の全収入の半分近くは私の課金が占めている。そこまで異常とも言える課金をしていたのは、このゲームのサービスが終了しないようにするにはお布施以外に方法がないからだった。幸いリアルでの私には家族はおらず、さらには代々続く同族経営中小企業の専務であったこともあり、この貧富の格差が極限まで拡大した社会において、ある程度の地位を確立していたので、通常ではありえない額を課金することが可能だったのだ。
そもそもが商人であるため純粋な戦闘力はあまり高くはないが、課金アイテムでガチガチに固めた私はまぁまぁ敵知らずだったと思う。後半は運営もネタ切れだったのだろうが、割かしぶっ飛び性能のアイテムを次々にガチャにしていたが、それすらもネタ切れとなり結果として今日という日を迎えてしまったのだ。
来るべくして来た日であることは間違いなかった。覚悟していたこととはいえ、今まで積み上げてきたものが崩れ去るのは中々に堪えるものがある。それは自分がギルドマスターであることも相まってより喪失感を俺に抱かせた。
ギルド:BI財閥
およそファンタジーに溢れた世界には似つかわしくない……というかギルドの意味を完全に履き間違えているギルドが俺の立ち上げた、そしてユグドラシルでトップ争いを繰り広げてきたギルドの名前だ。商人系のギルドではあるが、その実レアアイテムの確保のために、相当な実力を兼ね備えた攻略部隊も保有しており、資金力だけでなく戦闘力も高いギルドとして有名だった。有名どころとしてはアインズ・ウール・ゴウンという非公式ラスボスダンジョンギルドもあったが、これは異形種のみで構成された廃人ギルドであり畑違いであったので争いになることはなかった。
しかし切っても切れない関係であることには違いなく、ギルドとしてでは無くプレイヤーBIとしての関係は非常に強かった。
ギルド紋STAR☆
これはギルドとして設立されているものの、正式なシステム上のギルドではないため、ギルドに与えられる特別な恩恵は何一つ享受できない、いわゆる同好会のようなものである。名前からお察しの通り異形種ギルドだ。目的はアインズ・ウール・ゴウンと同じく、虐げられている異形種救済だ。だが一方が神格化されているギルドなのに対し、こちらの加入条件は異形種であること以外には何も無い。勿論学生の無課金プレイヤーも多く加入していたし、初心者も沢山いた。人間種でありながら、馬の骨をマスクに被り、死神ローブを装備して禍々しい風貌でギルドマスターを務める。まさにBIすなわちバイ(二面性)という名に恥じないロールプレイであったと自負している。
故にアインズ・ウール・ゴウンとは敵対まではいかずとも、同じ異形種ギルドとして勢を争っていたともいえる。じゃあ敵対じゃないかとも思えるが、紋STAR☆出身のベルリバーさんが至高の41人入りしていることを考えると、むしろ傘下だとか支部だとかのような立ち位置だった気もする。残念ながらベルリバーさんは現実世界で既に他界しており、今日の終焉パーティーで再び再会することは叶わなかった。
その終焉パーティーも明日への影響を考えて、ということで30分前には完全に撤収が終了した。
が、それは勿論建前に過ぎない。本当にやりたかったのは今目の前に広がる光景を作り出すためだけにあった。
今、BI財閥本社の社長室から見下ろす光景は壮観としかいえない素晴らしいものであった。1000体もの人型モンスターがその身をスーツに纏い、整列しているのだ。何年もの間ひた隠しにしてきたBI財閥の裏の顔。BIに隠された本来の意味。それが一目見れば理解できるであろうこの光景は何年もの間ロールプレイに没頭してきた俺にこれ以上ない高揚感をもたらした。
その光景を一頻り眺めてから、余韻に浸りつつも最後のロールプレイに戻る。壮観たる光景に後ろ髪を引かれつつも、窓へと背を向けて、社長室へと視線を戻す。整列しているのは秘書としての役割を与えられたNPC達だ。
「君たちには何年間もお世話になったな」
来る日も来る日も返事が返って来ないNPCに向かってロールプレイをしてきた痛々しい過去が走馬灯のように頭を過ぎ去っていく
「この世界が終焉を迎える今日まで、この世界をひっくり返す様な秘密を隠し通すことが出来たのは間違いなく君たちのお陰だ」
男の秘書をSPに見立てて、要人警護されながら車に乗ってみたり
「無茶をして迷惑をかけたことも数えきれない」
ほふく前進でスカートを穿いている秘書の周りをグルグル回ってみたり
「配慮のない言葉で傷付けてしまったこともあった」
雨の日に傘をさすという動作のできないNPCに対して「俺は傘さすけど君はささないの?笑」とか言って煽ってみたり
「それでも失望せずに、ここまで添い遂げてくれた君たちに最上級の感謝をここに示したい」
彼らは受け取ることはできないが、一人一人の足元に感謝状と盾を置いていく
あと5秒か……
再び窓の外に視線を落とす
楽しかったんだ……本当に。仲間と笑いあったり、秘密を隠す小さな罪悪感だったりが……。
「今まで本当にありがとう……」
00:00:00
00:00:01
00:00:02
………………あれ?最後の最後にバグかよ……。本当に最後の最後までクソゲーだったな。それすらも今となっては愛着が湧くのは末期かもしれないが。
「謝辞!秘書代表、レニ・タングステン」
「は……?」
「成績優秀社員として栄えある表彰を受けました一同を代表いたしまして、一言謝辞を述べさせていただきます」
なんかNPCが突然喋り始めたんだが……。一体なにが起きているんだ!ヤバい、人智を超えた事態に頭が真っ白に……
余りに突然な出来ごとに俺は気絶という、考えうる中で最も情けない反応で異世界転生を果たした
1話を読了頂き誠にありがとうございます。
既に筆者の考えるラストまで書き終えてしまいましたので、矛盾点等の指摘がございましても修正できない可能性がある点をご了承ください