なんだか長い夢を見ていた気がする……。ずっと望んでいたことが現実に起きたような、それでいて現実だと認めたくないようなそんな……
「起きるか。夢は夢。現実は現実だ。思い出せない夢よりも現実の仕事の方が何倍も大切だからな!」
自分に言い聞かせながら、仕方なしにベッドから起き上がる
「お気づきになられたのですね!直ぐに担当のものを呼んで参りますので、少々お待ちください!」
夢だけど、夢じゃなかった……。
そもそもナースコール押せばそれで良くない?
暫くすると廊下を走る足音がいくつも聞こえ、白衣を纏ったNPCを先頭に看護師や部下達が10人程病室へと入ってきた
NPC医師の診断によると軽い貧血だそうで、働きすぎが原因だという
「暫くは会社のことは我々に任せてゆっくりと休養なさって下さい!」
「いや……そうは言ってもな。この非常事態だし」
「既に周辺の探索には隠密に長けたモンスターを向かわせました」
「会社の警備体制も紋STARの皆さんとの協力体制により強固なものとなっております」
私がいなくても社会は回っていくという、この不甲斐ない現実よ……
そもそもNPCが意思を持って喋り、命令なしに的確な行動を取っていることが私には最大の緊急事態なんだけど、そこに関してはノータッチなのか……
「分かった。今日一日はベッドの上から指示を出させて貰うよ。先ずは偵察部隊から入ってきている最新の情報を教えて欲しい」
「はい。先ず我々の紋STARの拠点は消滅し、配下及びこのBI財閥本部それに付随する工場、倉庫、社宅、附属病院、総合運動場が未開の地に転移したものと見られます」
「転移?」
「今まで周辺に存在していた平原とは全く異なる生態系の平原へと転移したと見られます」
「周辺のモンスター及び文明を持つ種族は?」
「現在報告されているモンスターはLv32以下しかおらず周辺に脅威となるモンスターは発見されていません。また低レベルな文明を持つゴブリンが発見されています。しかし彼らの所持している物資は他の高度な文明を持つ種族から強奪したものが多数発見されているため、我々と同等の文明を持つ種族が存在している可能性は極めて高いと思われます」
これは現地人がいるかもしれないな……
「極力現地のモンスター及び人間との接触は避け、間違えても戦闘に発展しないように通達。但し自衛の場合はこの限りではない」
「了解しました」
「緊急事態につき、空白の役員の臨時人事移動を行う」
「副社長にレニ。彼女には私の不在、及び連絡がつかなくなった場合の全権を委任する。人事部長はガリウス。新しく我社に入社する紋STARの部下達を頼む。最後に統合幕僚長には紋STARからジルコ。陸海空軍を編成し、それぞれから精鋭を揃え、特殊部隊、隠密部隊、警備隊、警護隊を編成してもらいたい。残りの経理、財務、総務、物流だとかは追って通達する」
「了解しました!」
◇
かつての現実とは全く異なった、今の現実の世界。空も空気も綺麗で、病院食も栄養補給剤とは比べ物にならない美味しさ。愛するNPC達。嘗ての劣悪な環境で唯一楽しみのVRのためだけに生きていたあの世界とは比べるべくもなく、今の現実の方が素晴らしかった。これでこの世界に敵がいなければ、友好な関係を結べれば言うことの無い素晴らしい世界を手に入れることが出来るだろう。元の世界に戻りたいかと言われれば戻りたい。元の世界にも友人は少なからずいる。だがどちらの世界を取るかと言われれば現状はこちらの世界のが遥かに魅力的だ。つまり……
「リ・エスティーゼ王国との友好的な関係を気づくことが目下第一の目標となりそうだな……」
「最初はカルサナス都市国家連合の系譜を引くBI財閥として商人ギルドに登録。王国内での地盤を固めつつ、この世界の常識に始まる情報を集め、王家やその他貴族との距離を縮めるのが良いかと」
「先立つものはやはり常識になるな。私はこれから王国で自ら情報を集めようと思う。幸いこの世界で確認されている人間、モンスター、アイテム。全て低レベルのものばかりだ、危険は少ないだろう」
「ですが得られるものも少ないかと。ここは部下に一任していただければと」
「それは尤もな意見だろう。だが社長なんて役職はひな壇に据えられたお飾りみたいなものだ。それに取引先とのお食事や接待を受けるのが仕事だからね、やっぱりギルドとかに顔出さないと部下が優秀だから暇で暇で」
「分かりました。それでは軍部の方で警護隊を派遣させて頂きます」
「では後ほど同行させる秘書を三人ほど人事の方で協議させて頂きます」
「現地の金貨、荷馬車、商品を調達しておきます」
「では準備が出来たら知らせてくれ。出発の日時を決める。直接会いたい場合は宝物庫に来てくれ、以上解散」
会議室を出て地下の宝物庫へと向かう。普段はテレポートを使っていたが、今回はエレベーターを利用してみる。どうやらそれまでは機能など存在していなかった飾りが実用的な機能を持って稼働しだしたらしい。備え付けられた家電も動くし、単なるオブジェクトであった車まで動くのだから意味不明だ。
銀行もかくやという、重厚な金庫室の扉を何重ものセキュリティを解除してようやく開くと、中には端から端までビッシリと扉が並んでおりその一つ一つにロックが掛かっているという厳重っぷりだ。手元のタブレットで片っ端からアイテムを確認しなくてはならない。ゲームでは意味のなかった説明文が、今この現実では非常に大きな意味を持って実装されているのだ。今までとは価値が大きく異なるアイテムが多く収納されているだろう。
ようやく20分の1が終わったかというところで、メッセージが届く。副社長に就任したレニからだ。
『出発の準備が整いましたのでご確認の程よろしくお願い致します』
今度はテレポーテーションを使って直ぐに正面玄関へと転移する。
「お疲れ様でございます。お待ちしておりました」
「ご苦労。随分と早かったな」
「社長がワクワクとしていた様でしたので、全力で準備させて頂きました」
どうやら感情が表に出過ぎていたらしい。
「こちらが今回利用する荷馬車になります」
「1台で精々が軽トラの最大積載量ってところか」
「はい。20台用意いたしましたので内何台かを周辺の村に派遣し、知名度の獲得を図るのがよろしいかと」
「では人事に言って商人スキルを持った部下を何人か選抜させておこう。それから王国内での拠点に丁度いい空き家を探しておいてくれ」
さて、BI財閥の名をこの世界でも轟かせようじゃないか!
◇
「次の方どうぞー」
「はい」
「商人の方ですね。後ろの4台もこちらの商店の荷馬車でお間違いないでしょうか?」
「間違いありません」
「では通行証のご提示をお願いします」
「申し訳ありません。カルサナス都市国家連合から初めてこちらに来たので通行証を持っていないのですが」
すると門兵は少し驚いた様子を見せたが直ぐに長旅を労わる言葉をかけながら仮通行証を発行してくれた。パスポートも存在しないこの世界は高飛びし放題な気がしなくもないが。
そのあとは既に話を通しておいた不動産会社へと向かい、新しい拠点へと荷物を運び込んだ
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