主人公ってここまで一度も戦ってなかったことに気がついてしまった
リージー氏によればこの時期にしか採取が出来ない貴重な薬草がトブの大森林に生息しているらしい。その調達を頼まれたので、折角だからリージー氏を連れて私自らがカルネ村を訪れることにした。あの村はンフィーレア氏の勧誘の都合上、部下がよく訪れているので情報は豊富に入ってくるが、ゴブリンと共存しているというこの世界の常識では考えられない形態を取っているらしい。さらに訪れる度に村は堅牢に成長しているという。エンリ・エモットというなんの変哲もない村娘がゴブリンを使役しているとのことだが……どう考えても怪しいよな
「見えました!間もなくカルネ村に到着致します!」
馬車から身を乗り出すと、村とは思えない大門と、物見矢倉、そして警備をしている……ゴブリンが見えた
門に近づくとゴブリンが止まるよう指示してきた
「失礼ですがどちら様ですかい?」
凄く人間味のあるゴブリンが部下に話しかけてきた……
「王都から来ました、スター商会の者です」
「おや?今回は随分と人数が多いですね?ンフィーレア勧誘に本腰を入れて来たってことですかい?申し訳ありませんがンフィーレアの兄貴はこの村を離れる訳にはいかねぇんですよ。いい加減諦めてくれませんかね?」
何やら御者と揉めているようだな……
「本腰を入れたというのは間違っていませんが間違えてもいますよ?」
「誰ですかい?あんた」
「スター商会会長のホースです、宜しく」
「あっしはゴブリンリーダーやらせてもらってますジュゲムっていいます。それで間違ってるとか間違ってないとかってのはどういう意味なんです?」
「今回の我々のカルネ村訪問には二つ目的があります。一つは薬草採取、もう一つはあなたの言う通りンフィーレアくんの勧誘です。しかし、今回断られたら私は引くつもりでいます」
なにせこの村は異常だ。何よりもトブの大森林の奥にかなり強いモンスターの気配がある。恐らくは階層守護者かそれに匹敵する力を持つ配下と考えて間違いないだろう。今の我々の脅威では無いが、遭遇しないのが一番であることは間違いないだろう。となればこの村の異変はアインズ・ウール・ゴウンによるものである可能性が高い。正直今日一晩泊まるだけでもこちらの素性が相手に知れる可能性もある。アイテムを使用して私を含む部下全員のレベルを偽装しているとはいえ、相手もマジックアイテムや偽装看破のスキルを使ってくれば一発で正体がバレてしまうだろう。ンフィーレア氏が彼らに籠絡されている可能性も高い。そんな彼を無理やり勧誘するのは自殺行為にも等しいだろう。ここは自ら確認し、少しでも怪しいと感じたら速やかに手を引くべきだろう
ジュゲムさんにンフィーレア氏の元へと案内してもらう
「着きましたぜ。ここがンフィーレアの兄貴が研究してる家です。ンフィーレアさん!お客さんですよ!」
「はーい」
暫くして扉が開く
「どちら様ですか?」
「ンフィーレア!」
「おばあちゃん!?」
久しぶりの再会の儀式を眺めてから、頃合を見計らって本題を振る
「考え得る最高の条件を揃えているつもりです、今よりも遥かに研究は捗ることでしょう」
「彼の用意する環境は完璧じゃ、わしが保証しよう。わしもそろそろ新しいポーションが完成しそうなんじゃよ!」
「本当!?おめでとうおばあちゃん!……でも僕も新しいポーションが完成しそうだし、何より今の環境も僕は好きなんだ」
「エンリのことなら心配いらんぞ?彼女は悲しいことに身寄りがおらんからの。一緒に越してはどうじゃろうか?商会が彼女も面倒を見てくれるそうじゃよ?」
「ダメだよ。エンリはゴブリン達をまとめる大事な役を担っているんだ。これは彼女にしか出来ないことなんだ」
「なんと!かのゴブリン達は彼女が操っておったのか!?」
報告にあった通りだな
「ではゴブリン共々連れて行けば問題ないな」
「そんな……!」
「村のことは私が新たに召喚するゴブリン達に面倒を見てもらうことにしてはどうかな?」
「そんなことが出来るんですか!?」
「一応な。ここだけの話、彼らよりも役に立つだろう。知恵も戦闘力も高く、何よりも忠誠は村人全員に向けられるだろう。今のゴブリン達はエンリ・エモットという主人が何よりも重要なようだけどな」
「それは……」
「どうだい?これでもまだ問題があるのかな?別にこの地が好きだからとかそういう非合理的な内容で断ってくれても構わない。私も無理に連れていきたいわけではないからね」
「……ごめんなさい。僕はこの地に残って恩を返さなくてはならないんです」
「誰にだい?」
「それは……」
彼には閉口令が敷かれているな。恐らくはアインズ・ウール・ゴウンと深い関係があるのだろう。これ以上の詮索は危険だ。私も、そして彼自身も……
「分かった。もし気が変わったらいつでも言ってくれ。力になろう」
「ありがとうございます!」
「うん。それでもう一つの本題、薬草回収の件だが、確かエンカシでしたっけ?」
「あぁ、それならエンリと採取に行く予定がありますよ」
「我社はその薬草を栽培したいと考えています」
「栽培?」
「えぇ。ですから土ごと丸々採取したいんです」
「土地ごと……ですか」
「えぇ。この森の大体の生体や土壌は研究済みですから、そう苦労せずとも一年中収穫可能になるでしょう」
「凄い……」
「どうです?我社で雇われる気になりましたか?」
「あははは……」
「冗談ですよ。では我々は採取に向かう準備をして参りますので、この辺で」
◇
森に入り実際に生息場所を確認させてもらう。どういった場所に生息しているのかなどを実地調査に近い形でデータ収集していく。そうやって新たな薬草を土ごと掘り起こしている所に、横槍が入った。モンスターが二体こちらに向かって来ている。一匹は相当弱いが、もう一匹はこの場にいるゴブリン達で対処するのがギリギリのレベルのモンスターだ。どうやら狩りの最中らしい。
ここで逃げ出すのが最善なのだろうが、それでは折角発見した薬草がダメになってしまうかもしれない。仕方がないがここは迎え撃つことにしよう。
「ん?なにかこっちに向かってますね」
「あー、いいよいいよ私たちで対処しますので。引き続き薬草採取の作業をお願いします」
「見たところお兄さん方は俺達より弱いみたいですが?」
「そんなことないと思うがね」
「どんな敵が来るか分かりません。とにかく隠れて下さい」
「やれやれ……」
通常ならば賢明な判断ではあるが、敵のレベルを把握している側からすると単なる作業の一時中断以外のなにものでもない。追い払うだけのつもりだったが……
隠れて直ぐに、森の奥から傷だらけのゴブリンの子供が走って逃げてきた。木の影に隠れたつもりのようだが、それでは直ぐに見つかってしまうだろうな。かといってああする以外に選択肢はないだろうが……
「どうしよう……」
「静かにして下さい」
ゴブリンに窘められるエンリさん。やはり普通の人間とは感覚がズレているな。ゴブリンに同情する人間などこの世界では居ないだろう。これもゴブリンと生活した結果なのだろうか。となればこの世界の人間種の抱く異型種への嫌悪感はそんなに高くないかもしれないな……
「バーゲスト……」
どうやら狩り主が現れたようだ。やはり大したことないモンスターだな。それはこの世界の冒険者の目線で見ても同じだろう
「薬草の強烈な臭いのせいで僕達の臭いに気が付かないみたいだ……」
「それじゃああのガキが生贄になってくれれば問題は解決ですね。姐さんの身の安全が最優先です」
同族の割には意外とドライだな……。まぁ優秀な判断能力を持っているようで安心だ
「ンフィー……」
「……分かった、助けよう」
おっと……バカ発見。格好付けて死んだら元も子もないんだよ?
「あのゴブリンが何故ここまで逃げてきたのか確認しないと、将来的に村に危険が及ぶかもしれない」
納得のいく理屈を上げたいのかもしれないが、命を賭ける価値のある内容だとは思えないけどね。賭かってる命は君だけじゃない。ゴブリンも道連れだ。つまり護衛対象であるエンリもということになる。彼らが負けることは村のゴブリンの使役者もいなくなるということだ。村の将来は今この瞬間から既に危機に晒されてるんですけど……
「危険は避けるべきでしょう。勝てない可能性だってあるんですぜ?」
ゴブリンのが冷静とか同じ人間種として悲しくなるよ……
「私は戦う力もないのに愚かな考えかもしれないけど……助けられるかもしれない人を見捨てるのは加害者の片棒を担ぐのに似ていると思います。私は弱者をいたぶるアイツらのようにはなりたくない。お願い」
「貴様はベシタリアンなのかな?」
「え……?」
「彼らは別にいたぶって遊んでいる訳では無い。狩りをしているのだよ。純粋に生きるために、糧を得るため殺生をしているんだ。今目の前の状況は家畜と人間そのものだ。君がどちら側かは言うまでもないな?」
「違います!」
「違わないとも!ゴブリンと共存しているから少しは期待したが、所詮は人間主体の傲慢主義以外の何物でもない。君たちには失望したよ」
「不味いですよ!敵がこちらに気づいちまったようです!」
「私はこれより本部に帰還する。護衛は不要だ君たちは引き続き薬草採取を任せたよ」
「了解しました」
「あぁそれと、賢い君たちから彼らに支配者としての立場というものを教えてあげなさい」
「了解しました」
あの歳で村を護るという大役を任されてしまっているのは気の毒としか言い様がない。あの村に彼女以上の適任者が居なかったのだろうか。そこまで無能の集まりなのか、それとも彼女にはそれだけの才能があるのか。少ししか交流のない私には分からないが、アインズ・ウール・ゴウンには才能を見出すことが出来る人材がいるのか……。羨ましい限りだ。彼女を選ぶ才能も、彼女の才能も。今の人事部も十分頑張ってくれているけどね。それをまとめる私に才がないのでは宝の持ち腐れだからな。ギルド長になれたのだって才能ではなく、ただ運が良かっただけだ。所詮はゲームの中だから、そこまでしてギルド長をやりたいと思う人も居なかっただろうし……。
……自分の才能を悲観しても仕方がないか。それに忘れていたが目の前には敵がいるのだ
「ホースさん、下がって下さい!」
「手出しは無用だ」
前に出た私に標的を定めたバーゲストが目にも止まっているかのような鈍さで駆け出す
「グレーターテレポーテーション!」
突如としてバーゲストは目の前からその姿を消す
「グレーターテレポーテーション!」
再度転移魔法を使い、次は自分自身を本部へと転移させる。あと数秒もすれば上空からバーゲストが為す術もなく落下してくるだろう。恐らくは即死だと思うが、もし仮に生きていたとしても瀕死のバーゲスト相手に負けるゴブリン達ではないだろう
アインズ様のダークヒーローっぷりが好きな読者も多いはず
逆に言うと僕は正義感とかが嫌いです(創作の中では)
正直エンリの考え方はイラッとしました。好きくない
まぁ現実の僕は学級委員とか生徒会とかやってた正義感の塊みたいなウザイ奴なんですけどね