Fate/Apocrypha Revival in the Interstice 作:梨央
私は一人、主のいなくなった聖都を歩く。
二騎を失い、二騎が加わった。
数だけで言えば、状況は最初と変わらないとも言える。
私は戦術家や軍師のサーヴァントでもないのだろう。
この状況に、信頼してくれた仲間を失って悲しい以外の感情を見い出せない。
もし、参謀のように振る舞えたとすれば。
戦争なのだから自軍に犠牲が出るのは当然だ。
単に今日のそれが私ではなかっただけに過ぎない。
そうでないと、私は毎日誰かを弔わなければならなくなる。
私の送り出された本来の役割と、それはきっと違う。
もっとも、通常の聖杯戦争で考えた場合。
ある意味事故とも言える展開だったキャスターはともかく。
アーチャーは自らの意志でヴラドを倒した。
私が彼の臣下なら、主の仇を討つべきなのだろう。
教会から聖都へ戻るまでの道すがらで。
シャルルとヴラドにした話を、もう一度二人にしたときのことを振り返る。
「わかってたさ。あの野郎が正しいことぐらい。
マスターのいない聖杯戦争なんて破綻してるって言いたいんだろ」
私の話を、黙って聞いていた二人。
アーチャーの最初の敵対的な態度はすっかり鳴りを潜め、
穏やかな顔をしていた、と思う。
協力の約束に、改めて彼は自分の真名を明かした。
"白"のアーチャー。メフメト二世。オスマン帝国の
彼もまた、紛れもない"王"だ。
ヴラドは空を移動する機動聖都を自らの領土と定めていた。
護国の鬼将の効果も大陸全土とまで行かなくても、付近の地上には及んでいただろう。
その状態の彼に宝具の真名解放ではなく、正面から戦いを挑んで打ち勝ったという。
メフメトの方も何らかのスキルを使用することで、戦況を拮抗させていたのかもしれないが。
「ふん。これが俺の撃った城か。近くに来てみると大したものだとは思うが、
やっぱり俺の宝具の敵じゃねえ」
「あらアーチャー。あなた城攻めの宝具を持っているの?
ならちょうど良かった。後で私が結界を張り直すから、
強度の確認に付き合ってちょうだい。実戦には慣れてないの」
へいへい、と空返事をするメフメト。
彼を完全に信用したわけじゃないが、彼が戦いを継続する気ならこんな申し出はしないだろう。
私たちが戦力不足なのには変わりない。
ならば真名を明かして協力的な態度を取る以上、前は敵だったとしても信じるしかない。
聖都の高度を地上からの直接視認が難しい距離に引き上げ、
レオに魔術迷彩や認識阻害をかけてもらう。
方針が決まったら呼ぶのでしばらく待機していてほしいと頼むと、
二人は了承し聖都の探索に行った。
私が最初に目を覚ました場所。
シャルルに保護された部屋に戻り、ベッドに体を投げ出して、とりとめもなく考える。
サーヴァントは、所詮霊魂だ。
もちろん私も例外ではなく、人間じゃない。
大聖杯に招かれて、ちょっと現身に顔を出しただけのよそ者だ。
仮に大聖杯が異常を来たしていたとしても、私が介入するのは正しいことなのだろうか。
シオンはこうも言っていた。
最初は私を含めた15騎を指すと思っていたが、これも実は違うんじゃないか。
元々14騎で行われる予定だったものに、変化が起きることを祈って投じられただけで、
私はシオンが求めた役割とはまったく違うことをしているのではないだろうか。
では観測の定義とは何だ。
字義通りに使い魔や偵察機を放ち、聖杯大戦の行く末をただただ傍観していればよいのか。
血気盛んなサーヴァントが勝ち残り、異常の来たした大聖杯を手に入れたとして。
いかにして願いが叶えられたかを見届ければ、それで私の役割は終わるのか。
いや、そもそもこの事態の原因は、本当にもう一人のランサーなのか?それとも大聖杯か?
……考えが散らかりすぎてまとまらない。
人生は、前に進むだけじゃない。満ち潮があり、引き潮がある。
私は、傍観者としてではなく。ヴラドの言うイレギュラーとして――
「フリーダ?フリーダ!」
すぐそばにレオが来ていたことに気付く。
ああ、そう言えばヴラドにもこんな風に呼びかけられたことがあったような……。
「大丈夫?顔真っ青よ。薬湯でも作ろっか?」
平気だと答え、何の用だったのか尋ねる。
「別に大したことじゃないんだけど。地上との昇降装置って元から六機だったかしら?
格納庫を見て回ってたとき、配置に微妙な違和感があって……」
昇降装置の数?
私だって使ったのは初めてだし、あのときはシャルルが用意したから総数はわからない。
「そ。まあ気にしなくてもいいでしょう。邪魔したわね。
何か必要があったらいつでも呼びなさい。私にできることは何でもするから」
教会での出来事からすれば、同一人物とは信じられない変わりようだ。
優しいのか、お節介なのか、厳粛な教皇のイメージとは違うが……。
彼女が聖職者たる所以、とでも形容すべきか。
あるいはもっと単純に、彼女も彼女なりに責任を感じているだけかもしれない。
レオは、魔術の才能は他の英霊に劣ると言っていたが、私の見立ては違う。
魔術に別段の知識がある訳ではないが、シャルルはあれでも高ランクの対魔力を持つセイバーだ。
宝具の真名解放級とは言え、霊核を一撃で消し飛ばす威力の大魔術を行使できる魔術師が、
果たして凡庸だと言えるだろうか。
……待てよ、ローマ教皇もある意味領土の統治者と言う意味では"王"か。
私は、アレも王だとは正直認めたくない。
待った。
何かが、引っかかる。
機動聖都には個室が無数にある。
敵かもしれない保護したばかりのサーヴァントにも部屋を与えるほどだ。
あの二人も、当然自室を持っていただろう。
王の使いそうな部屋。
聖都の広間を中心に歩き回り、目的の部屋をさほど苦労することなく見つけた。
机の上には飲みかけの赤ワインの瓶と洋裁道具が置かれている。
裁断済みの花柄の黒と白のクロス。刺繍用と思われる何色もの糸もある。
――間違いない。
「私はどうも記憶力が弱いようだ。部屋で日記をつけることにしよう。
これまでの経過を忘れないためにも、これからの事態に備えるためにも」
最初に二人の王と朝食を摂った広間。
レオとメフメトに呼びかけると、すぐに来てくれた。
「ようやくお声がけか。訓練用のゴーレムに穴を開けるのも飽きてきたから助かったぜ」
「それで?フリーダ。戦略を聞かせてもらおうかしら?」