Fate/Apocrypha Revival in the Interstice   作:梨央

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第11節a 偽・黒い銃身

熱帯雨林の炎上する罠の中で。剣士と銃士が向かい合う。

 

「問おう。黒衣の女よ。なぜ我らの戦いの邪魔をする?」

 

三度笠にアジア風の装束を纏った剣士。銀髪に緑の瞳の少女。

セイバーはこちらを真っ直ぐ見つめて、私に訊ねる。

……アメリアによれば、あれはアオザイと言うベトナムの正装だそうだが。

 

「――さあ、聞きたいなら答えますが。その前に剣を下ろしていただけますか?」

 

慎重に、相手を刺激しないように。言葉を選んで剣の英霊に返す。

ひりひりと、胸の奥がざわつく。

これがサーヴァントと戦場で対峙する感覚……。

 

「私が素直に応じると思っての放言か。その対価は高くつくぞ、女」

 

セイバーが周囲に剣を振るうと、罠を構成している炎が消える。

遮蔽術式本体は機能しているから混戦になる危険はないが、水の魔剣か。

これで真名にも見当がついた。私も銃を構える。

大丈夫だ。すでに戦う覚悟はできている。

 

「まずは貴様の驕傲のツケを払ってもらおう。

私は私の願いのため、聖杯大戦を、カルナックの杯を、――ッ!!」

 

セイバーの話を遮るように彼女に向かって暗器が飛んでいく。

……私はもう一人じゃない。

 

「闇打ちとはどこまでも卑怯な。姿を見せろ、外道!」

 

気配を遮断しているスガからの黒鍵の投擲を、難なく叩き落している。

ここまでは計算通り。何しろ相手は最優のセイバーだ。

近接戦闘ではこちらが圧倒的に不利なのはわかりきっている。

 

メフメトやレオ、そしてシャルルの残した機動聖都の訓練施設。

皆のおかげで、私は伏せられた記憶の一部、銃の銘を思い出した。

 

アトラス院の作り出した世界を滅ぼせる兵器の一つ。黒い銃身(ブラックバレル)

もちろん私が貸与されたのは本物ではない。それはアトラスの契約にも反する。

これはシオンが使っていた模造品、偽・黒い銃身(バレルレプリカ)だ。

 

この銃の概念武装としての真価は、弾丸ではなく銃身にある。

エーテルで編まれたものなら問答無用で傷をつけられる魔術世界においても埒外の武器。

サーヴァントの肉体も、魔力で構成された宝具でも例外はない。

生前に銃など扱った記憶のない私でも問題なく扱えるのは、

シオンが私を召喚する際に特殊な詠唱を追加したからだろう。

 

命中精度など私の力量による部分には改善の余地があるが、対象の戦意を削ぐだけなら問題ない。

スガが投擲と刺突で時間を稼いでくれているうちに。

彼女の動きは完璧だ。誤射の心配はない。

 

――眼を閉じて、私は狙うべき場所を絞る。

まずは両脚。それから腕の腱。

立て続けに4発射撃する。1発は回避されたが、両足と右腕の腱を切った。

 

「計算通りです。まだ続けますか?」

 

セイバーが剣を落とし、片膝を屈する。

スガがセイバーの背後に回り、黒鍵を首筋に当てる。降伏勧告だ。

私もセイバーの頭に狙いを定めたまま、ゆっくり歩み寄っていく。

 

「――油断を認めよう。だが、なぜトドメを刺さない?貴様は一体、何者だ?」

 

私は、私に与えられた名前を告げる。

 

「ご安心を。あなたを害するつもりは最初からありません。"白"のセイバー。

私はフリーダ。この聖杯大戦を観測し、今少しだけあなたの自由を奪う者です」

 

セイバーは長い溜息を吐き、呟いた。

 

「殺せず制圧したのにも理があるという訳か。――聞こう」

 

戦闘終了。

私の初めての計算は、どうやら解に辿り着けたようだ。

 

スガに刃を下ろさせる。話のわかる英霊で助かった。

私のつけられる傷は治癒不能のものではない。

時間が経てば回復するし、固有のスキルによっては反撃も可能だろう。

そうしないと言うことは、セイバーは己の立場を理解しているのだ。

 

私はできるだけ簡潔に、私たちの目的を告げる。

マスターなき召喚の意味、聖杯大戦の目的、元凶と思わしき"白"のランサーの存在。

私の話を、セイバーは黙って聞いていた。

協力の対価には傷の治療と真名の開帳、その他可能な限りの支援を約束することも話した。

 

「いいだろう、フリーダ。この場では剣を収めよう。

()()に言われては認めざるを得ん」

 

……二人?

一緒にいるスガのことでないのはわかっている。

なぜなら、彼女は私の護衛に徹して一言も喋っていないのだから。

 

「おや。初めて予想外のことが起きたという顔をしたな。

私は召喚されてからここに来るまで、もう一人サーヴァントに会っている」

 

迂闊だった。

2騎の経路のパターンの予測にばかり気を取られ、

他の()()()()()()()サーヴァントと接触した可能性を失念していた。

 

「南に"白"のライダーがいるのは知っているな。

私は聖杯戦争の趣旨に則って、出会った奴に戦いを挑んだ。

だが奴にはキズ一つ負わせられなかっただけでなく、奴は反撃の姿勢すら見せなかった。

北へ行けばわかるなどおかしなことばかり呟いていて、私はその場で奴を倒すことを諦めた。

奴のことは放っておいて、他のサーヴァントと戦おうと思ったんだ」

 

その結果私は奇襲によって敗れた訳だが、

と自嘲気味に呟くセイバーの言葉よりも気になることがあった。

"白"のライダーが北に行けと言っていた、だと?

 

私は2騎が別々の方角から北を目指していることに気付いて今回の作戦を立てた。

それが彼らの意志でなく、ライダーの誘導によるものだったなら、

ライダーは私たちの奇襲も予想していたと言うのか。そんな、まさか。

 

「気になるなら直接ライダーに質せばいい。

もっとも、お仲間が戦っているアーチャーをどうにかできたらの話だがな。

奴も素直に軍門に降るとは思わない方が――」

 

セイバーの後半の言葉は、雷鳴によってかき消された。

巨大な稲妻。

レオとメフメトがアーチャーと戦っている方角だ。

 

どうする、救援に行くか。

セイバーは手負いとは言え、スガ一人では逃げられてしまうかもしれない。

逃げられるだけならまだいいが、正面から戦ったらアサシンでは絶対に敵わない。

スガを信じるか、レオたちを信じるか……。

 

「遅い!指揮官の判断の遅れは軍の破滅を招くとなぜわからない?

貴様には知りたいことがあるんだろう。ならば迅速に仲間の救援へ向かえ!

私に一度でも膝を衝かせたなら、勝者の役目を果たすがいい!私は逃げも隠れもしない!」

 

セイバーに怒鳴りつけられたことで、もう一度覚悟を決める。

ここは彼女の騎士道精神と、スガの病弱が発動しないことを信じよう。

 

アーチャーを囲った地点とここはそう離れていない。

私は全力で走った。




次話投稿予定:28日0時
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