Fate/Apocrypha Revival in the Interstice 作:梨央
私は正しい選択をしていると信じていた。
イヴァン雷帝は確かに計算外の能力を持っていたが、銘を取り戻した私の銃の敵ではない。
メフメトと私で動きを止め、レオの洗礼詠唱で混沌に振られていた属性を切り替える。
とっさの思い付きにしては、上手くいったはずだ。
「落ち着かれましたか、"青"のアーチャー。
私はフリーダ。聖杯大戦の観測のため、英霊たちの力を集めている者です。
よろしければ、少しお話を――」
これでいい。私は戦闘意識を解除して、イヴァンとの交渉に全力を注ぐ。
幸いにも、今の彼はすっかり消沈している。こちらの話にも耳を傾けてくれそうだ。
もう、最初のような失敗は繰り返さない。私は迷わない。
そう思っていたのに。それは空から現れた。
狂気に囚われた人の顔のついている、巨大な車輪を持った樽?ドラム缶?
アメリアのミシンについていたボビンにも似ている。
"白"のバーサーカーは上空から遮蔽術式を貫通して、私たちの近くに着陸する。
何か叫びながら、狂乱の怪物は私に車輪の銃口を向ける。
思考が、追い付いていなかった。考察すべきは敵の風貌ではなかった。
もっと早く一時散開か撤退の指示を出さなければならなかったのに。私は、また間違えていた。
瞬く間に銃弾が装填され、私目掛けて掃射される。
ここまでか。
私の役目も存外に呆気なく終わって――
「そんなわけないでしょ、バカね」
私を庇うように飛び出したレオが、撃たれた。
吹き出す血をものともせず、彼女はバーサーカーの弾丸を浴び続けている。
メフメトは怒り狂って、バーサーカーに突撃していった。
弾幕が止む。私は錯乱し、必死に声をかけながらレオを揺すった。
護布の治癒は効いていないのか。それとも足りないのか。私では彼女の治療はできない。
一刻も早く聖都へ帰還し、彼女の手当てをしなければ。早く、早く、早く!
レオが私に手を差し出す。思わず握るとイメージが送られてきた。
これは、機動聖都へのアクセス権?
今なら思いのままにシャルルの城を操れる自信があった。
いやいやいや。そんなことはどうでもいい。
まずは彼女を――
「いーい?よく聞きなさい、フリーダ。
私は
南東に無人の島があるでしょ。一時的にそこに閉じ込めるぐらいならできると思うから。
その間に何とかしなさい。後は、任せたわよ」
レオの姿が薄らいでいく。
まさか、魔力の代わりに自身の霊核を……。
「頭首サマなんだから、そんな顔をしない。
せっかくのドレスが台無しよ?あなたは、あなたらしくあればいいの」
ものすごく痛いはずなのに。息も絶え絶えに、私を励ます。
もう喋らなくていい。すぐにあなたを助ける。だから……!
「それじゃあね、フリーダ。私の可愛い
シャルルのこと、ごめんなさい。でも、これで借りは返せた、わよね?」
レオは杖を振るい、メフメトと戦っていたバーサーカーともどもどこかへ消えた。
今度は私が絶叫する番だった。
機動聖都の庭園で、私はメフメトの使い魔の猫を撫でる。
行われるはずだった戦闘への介入は成功し、
"白"のセイバーと"青"のアーチャーが陣営に加わった。
戦果だけを見れば上々だと言えるだろう。その代わり――。
庭園に一羽の白い鳥が飛んできた。レオのカモメだ。
地図を見る。マダガスカル島に先程まで確認されていた2騎の反応が、1騎になった。
更新もこれで終わり。使い魔は、最後の己が役目を果たしに来たわけだ。
暗示は切れているだろうに、カモメは飛んでいこうとしない。
おまえの主はもういないんだよ、と話しかけると、心なしか悲しそうな顔をした気がする。
カモメはやがて、庭園の木陰で眠り始めた。別に構わないが、ここに留まる気のようだ。
「ここにいましたか、フリーダ」
呼ばれて振り向くと、"白"のセイバーが立っていた。
真名は、私の推測通り。
黎朝の開祖。明軍への叛乱者。そして、湖の精霊に水の魔剣を賜ったベトナムの英雄。
彼女もまた、大聖杯に招かれた"王"の一人だ。
「事情は概ね理解しました。改めて誓いましょう。
お互いにサーヴァントなので、正式なマスター契約を結べるわけではありませんが。
これより私はあなたの剣だ。あなたの戦いに騎士として仕えます」
結局彼女は約束通りスガとその場に留まり、作戦終了後は一緒に帰還してきた。
レオを失って動揺している私の話も、彼女はちゃんと聞いてくれた。
最初から話せばわかる英霊だったのだ。
――奇襲など、初めからしなければよかった。
「フリーダ。仲間を失い悲しみにくれる気持ちもわかります。
ですがあなたはこの城の主だ。
ここで足を止めてはいけない。どうか皆に次の指示を」
……そう、だ。まったくその通りだ。
私は最初にシャルルにもらって持ち歩いてたライムの瓶を取り出し、一口だけ食べる。
以前より酸っぱく、塩辛い気がした。きっと、気のせいだ。
城にいるサーヴァントたちを広間に集め、次の行動目標を伝える。
一つ目は、南に逗留している"白"のライダーのもとを訪れること。
私と護衛のスガだけで向かうつもりだったが、念のため啄木とアメリアにも同行してもらう。
魔術式を貫通でき、空を飛べるバーサーカーがいると思い知った以上、
もはや機動聖都も絶対安全な拠点ではなくなってしまったからだ。
二つ目は、その"白"のバーサーカーを迅速に排除すること。
以前から彼の機動性を脅威と認識していたのに、放置していたツケが回った。
恐らく敵はレオの魔術によってしばらくは拘束されているものと思われるが。
いつまで持つかはわからない。今この間にも脱出して再び暴れ始めるかもしれない。
そうなってからでは命を賭して時間を稼いでくれたレオの遺志が無駄になる。
私たちの持つ全戦力を投じて、バーサーカーには退去願う。
レオの仇の指揮はメフメトに託す。ロイが前衛、イヴァンが後衛だ。
本来の目的である"白"のランサーがどんどん後回しになっているのは痛いが、やむを得ない。
目前の脅威を一通り排除してからでも遅くはないはずだ。
――だが、本当にこれで正しいか?自分はまた間違えていないか?
もう私は自分の計算に自信が持てない。
機動聖都はひとまず南西のモザンビークを目指す。そこからは別行動だ。
マダガスカル島へ向かう昇降機には自律航行機能と通信機能をつけた。
啄木はどうやらこの手の改良は得意らしい。ジブチの基地で同様のものを見たからだと言う。
彼が初めて役に立った。暗殺者のスキルではないと思うのに変わりはないが。
私たちは南アフリカへ向かう。ロイとイヴァンによれば"白"のライダーはケープタウンにいる。
これは最後に更新された"地図"で見た情報とも一致する。
彼に会えば、私の知らない視点からの情報を得られることだろう。
今は、それに賭けるしかない。
予定より早いですが、1日1話を目標にします
次話投稿予定:1日18時