Fate/Apocrypha Revival in the Interstice 作:梨央
機動聖都の庭園。手が空くと、つい私はここに来てしまう。
シャルルの意匠のつまった庭。使い魔たちの休息地。平穏の楽園。
私の膝にはメフメトの猫。木にはレオの従えていた最後のカモメ。
池にはロイの亀。一番多いのはイヴァンの黒犬。
状況は全く好転していないのに。動物たちを見ていると不思議と心が安らぐ。
機械的な呼び出し音。別動隊からだ。別れてからまだ一日も経ってないのに。
こちら聖都、と我ながら覇気の無さを隠さずに応答する。
「あー、テストテスト。こちら"ロードス"。
マダガスカル島へ向けてモザンビーク海峡を順調に飛行中。どうぞ!」
「こちら聖都。ケープタウンへ向けドラケンスバーグ山脈付近を飛行中。
特に連絡事項はありません。通信終わります」
待て待て待て、とメフメトの焦った声が聞こえる。
何がロードスだ。改造しただけの昇降装置に勝手に名前までつけて。
通信機を持たせたのは失敗だった。念話で十分じゃないか。最新式装備を好む英霊はこれだから。
「いいじゃねーか!島に着くまでこっちは暇なんだ。話し相手になってくれよ。
あーあ。タクボクに頼んでチェスでも積んでもらえばよかったぜ」
「そちらには皇帝が3人も揃ってるんですから、己の王道でも議論されてはいかがですか?」
「え、嫌だよ。議論なんて柄じゃねえし。そもそも王道は比べられるものじゃねえからな」
オスマントルコ。黎朝ベトナム。ロシア・ツァーリ。
領土も、時代も、国民性も、何から何まで違うものを比べることはできないか。
確かにそうかもしれない。まあ、それはそれとして。
陛下の様子はよくわかったから、残りの二人は何をしているのか聞いてみた。
ロイは装置の隅で目をつぶって正座している。
瞑想と言うらしい。精神修練の一環だそうだ。
落ち着きの無いメフメトにぴったりじゃないか。私は真似を勧めたが拒否された。
イヴァンはなんとずっと寝ている。
大聖杯から十分な供給を受けられるとは言え、あの雷撃や砲塔は魔力効率が悪い。
万全の状態でバーサーカーと戦うためにはこれが一番だと言っていたらしい。
……庭園に来るたびに犬が増えているのはそういう訳か。
史実のイヴァン四世が専横貴族に対抗するため非常大権と共に導入した親衛隊。
黒衣と黒馬の兵団。ツァーリの手足として役割を果たし、民衆に大いに恐れられたと言う。
サーヴァント・イヴァン雷帝は、
この逸話を自身が寝ている間に無尽蔵の兵士を召喚する対人宝具へと昇華させた。
そう聞くと、血も涙もない無貌の兵士のような姿を想像したが……。
こうして間近で見ていると、
コンゴ盆地で敵対したときは確かに獰猛な軍用犬と言う印象を受けたが、
庭園にいるそれはシェパードやドーベルマンとは違う。
どちらかと言えばテリアやラブラドールのようなかわいらしい犬ばかり。
そのうちに1匹がメフメトの猫とじゃれ合って遊び始める。
史実の親衛隊はもちろん人間だったから、使い魔も人型のものとばかり思っていたが。
日本語の"雷帝"に由来する雷を扱える能力と言い、
逸話として昇華されたものならなんでもいいのかもしれない。
"座"とやらもいい加減なものだと思う。
あるいは、それこそが英雄を英霊たらしめる信仰の力の本質なのか。
人間でないと言えば、あの"白"のバーサーカー。
機械の身体に人の顔のついた怪物。私はあれの真名に心当たりがある。
聖杯に与えられた知識によれば。
20世紀、第二次世界大戦最中のイギリスで、あの形状をした戦略兵器が研究されていた。
対城壁用の自走式爆弾。その名をパンジャンドラム。
ノルマンディー上陸作戦に際し、ナチスの築いた
構造的な欠陥が多く、実際に使用されることはなかったそうだから。
敵の正体は恐らくその開発者。海軍将校にして小説家。ネビル・シュート。
なぜ彼が自身の開発した兵器と融合した姿で、
高ランクの狂化を伴うバーサーカーとして召喚されたのかは不明だが、正直どうでもいい。
浄化を通り越して変容した精神すら治療できるレオの洗礼詠唱なら、
もしかしたら狂化を解除することもできたかもしれないが。
そのレオは彼に殺されてしまった。それだけで彼は報復に値する。もはや和解はあり得ない。
この手で討ち果たせないのは残念だが、最大戦力を投入した以上彼らが必ずや――
「フリーダ?フリーダ!」
生返事がバレたのか、大きな声で話しかけられる。
いや、私は本当に聞いていなかったのか?
前にもこう言うことがあった気がするが、思い出せない。
「おいおい、しっかりしてくれ。それでな、俺はベリーニの奴にこう言ったんだ。
『俺はこんなにブサイクじゃない、なんだこのウシみたいな鼻は、描き直せ。
あともっとヒゲを豪華にしろ。それから手にはバラを持たせて……』」
メフメトの話を遮って、二人の声が聞こえてくる。
「あああーっ!アーチャー!うるさいです。
ただでさえ狭いんだから、もう少し小さい声でしゃべってください」
「む……。戦いの時間か。いかんな。余はどれくらい寝ていた?」
「いえ、あなたの方ではなく。到着はまだまだですから、ずっと寝ててくださって結構です。
あとこの際だから言いますが、イビキは控えめでお願いします。正直ゾウといるみたいです」
「ゾウ……?ああ、
「……本当に秩序は取り戻されたんですかね」
賑やかなことだ。名の知れた王が3人も集まって私のために戦ってくれているのだから。
私と喋るだけで気が紛れるなら、甘んじて協力すべきなのだろう。
……こんなとき、レオならどんな話をするのだろうか。
「おや、フリーダ殿。
汝が持ち出しておったのだな。見つかってよかったわ」
庭園に啄木が姿を見せる。別に持ち出したつもりはないのだが……。
私の城の設備をどこで使おうが、私の勝手ではないか。
何にせよちょうどいい。スルタンの話し相手は任せた。
「こちら聖都"啄木"。通信を交代した。西国の皇帝よ。予では不足かな?送れ」
「おっ!そういや、あんたは極東の詩人だったな。せっかくだから俺の歌でも――」
聖都の回廊を歩く。
自然と足がレオの部屋に向かっていた。
次話投稿予定:1日18時