Fate/Apocrypha Revival in the Interstice 作:梨央
第1節 我が儚き栄光よ
――目を覚ます。
どれくらいの時間眠っていたのだろう。
ここは…城だろうか?
豪奢な家具の数々。煌びやかな照明。手入れのされた絨毯。
私は…自分の名前を思い出せない。
天蓋付きのベッドから起き出し、鏡台の前に立つ。
黒く短い髪。
地味な灰色のブラウスを纏った、濃い緑の瞳の少女が、私を見つめている。
これが…私。
明らかに城の雰囲気には合っていない。
これまでのことを思い出そうとする。
あれは…確かアトラス院とか言う、砂漠の遺跡の中で――。
そうだ、思い出したことがある。
私は人間じゃない。英霊…とかいう存在らしい。
人類史に刻まれたモノ。過去・現在・未来。あらゆる時代の英雄、英傑。
自分がそんな崇高な存在とは思えないが…
頭の中にある知識も、私は英霊だと肯定している。
起きた気配に気付いたのか、コンコンとノックの音がした。
「お嬢ちゃん、まだ寝てるかい?」
快活そうな青年の声がする。
一瞬迷ったが、私は扉を開けた。
白の混じった黒髪に、優しそうな印象を受ける青の瞳。
水色のマントを纏った白鎧の騎士が立っていた。
ああ…英霊とはきっとこの人のような存在を言うのだろう。
「おっ良かった。起きてたみたいだな。朝飯作ったから一緒に食おうぜ。腹減ってるだろ」
「私は……」
いらない、と言おうとしたが、察せられたのか答える前に青年に腕を引っ張られた。
「遠慮しなくていいって!飯は皆で食べた方が上手いしな!」
青年に連れられるままに、城を進んでいく。
ふと窓に目を遣った所で信じられないことに気付く。
「この城…空を…」
「おっ。気付いたか!」
ふふん、と青年は得意気に続ける。
「こいつは俺の宝具の一つでな。機動聖都って言うんだ。カッコいいだろー?」
青年は目をキラキラさせて訴えてくる。
勢いに押され頷くと、子供のように喜んだ。
「だよなー!自分で言うのも何だけど、俺も超気に入ってるんだ!この城!
東欧の王も褒めてくれて…おっと」
青年は口に手をやり、手で部屋に入るよう促した。
食堂…だろうか。
「続きはその王の前でな。超カッコいい人だぜ!」
「戻ったか、聖騎士よ」
赤ワインを傾けながら、先程話に出た"王"と思しき男に声をかけられる。
銀の長髪に金色の瞳。黒の貴族服を纏った大柄な男。堂々たる風貌。
きっといずこの名の知れた王なのだろう。
彼の座っている上座と食堂の入り口は相当離れているにも関わらず、
思わず自身の立ち振る舞いにも気を付けねばならないような気がした。
「楽にせよ。まあ座れ。そなたの城なのだからな。そこの娘もだ」
勧められるままに、青年に向かい合って座る。
だだっ広いテーブルに、強面の王と、聖騎士と呼ばれた青年と、私。
ひどく場違いな気がする。とても居心地が悪い。
「それで、娘よ。どこまで事態を把握している?」
「私、は――」
王と青年に、私は知り得る限りの情報を話した。
英霊であること。真名もクラスも不明。
誰とも知らない"白"のランサーを敵と認識させられたこと。
事態の解決ではなく、観測を目的にアトラス院から送り出されたこと。
私の話の全てを、王と青年は黙って聞いていた。
「ふむ。砂漠の魔術棟か―」
王は目を細め、私を見つめる。
「良かろう。余がそなたの槍となろう。聖騎士もそれで構わぬか?」
「御意に!少女を助ける騎士、うーんカッコいいぜ!さすがは王!」
「聖騎士よ、貴様も王なのだからもっとそれらしく振る舞ってもよいのだぞ?
ここに座っている余の立場がないではないか」
王は苦笑いし、青年は慌ててフォローする。
「良いのです。東国の王。俺はもし次があるならば仕えるべき主に騎士として侍ると誓った身。
願いが叶った以上、俺は王を信じるのみです」
「そうか。まあ良い。―さて、では改めて自己紹介をしよう」
王は立ち上がり、自らの真名を私に告げる。
「我が名はヴラド三世。ヴラド二世が息子。”青”のランサーと定義された者である」
「そして俺はシャルルマーニュ!”青”のセイバーだ!シャルルって呼んでくれ!」
その名前なら与えられた知識から知っている。
ルーマニアと、フランク王国の王。
統べた時代も国も違うが、二人からは確かな王者の風格を感じる。
シオンの言う二人の王とは、きっと彼らのことだったのだろう。
続けて名乗ろうとして、名乗る名前を持ち合わせていないことに気付く。
「構わぬよ。そなたは…そうだな。『フリーダ』と名乗るが良い」
フリーダ。
不思議と自分に馴染む響きだ。
「ありがとうございます。王…ヴラド三世。ではそのようにお呼びください」
「よろしくな、フリーダ!あ、それと、一応これは返しておくぜ」
シャルルはそう言って、懐から拳銃を取り出す。
拳銃…と自分は認識したが、知識として与えられたそれとはいささか異なるような気がした。
見た目は焦げ茶色で、口径も小さい普通の銃に見えるが、
得体のしれない魔力をともなっているからだ。
明らかに近代に生産されたものではないと自分の知識が告げている。
「フリーダが俺の庭園に倒れていたときに持っていたものだ。
敵対するサーヴァントだった場合を考えて預かっていたが、その必要はなさそうだしな」
渡された銃の重みがずしりと手に響く。
これが、私の武器…?
「銃使いか。そなたはアーチャー、あるいはアサシンのクラスなのではないかね?」
弓兵、暗殺者。
どちらのクラスも、私の頭にある知識からはズレている気がする。
「まあそなたの真名もクラスも、今後の課題でよかろう。まずは当面の軍略を練ろうではないか」
次話投稿予定:20日0時