Fate/Apocrypha Revival in the Interstice   作:梨央

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第13節 自由の翼

機動聖都。教皇の部屋。

さすがに室内はきれいに整頓されている。

机の上には聖書と、木彫りのロザリオと、二枚貝のオブジェ。

 

セネガルで最初にレオが工房にしていた"貝の教会"を思い出す。

彼女もデザインが気に入っていると言っていた。懐かしんで似せたものを作ったのかもしれない。

英霊の形見というのも変かもしれないが、置物は持っていくことにした。

 

そのまま何となくレオのベッドで横になっていると、

開けたままにしていた扉の外から話しかけられる。

 

「なんと、フリーダ殿とは。ここは法王殿の部屋ではなかったか?

どうもお疲れの様子だ。(われ)が茶でも淹れよう。さぁさぁ」

 

またも啄木か。メフメトとの話は適当に切り上げたのだと言う。

私はもう少しここにいたい。断ろうとしたが、結局連れ出されてしまった。

 

広間にはアメリアとスガがいた。おしゃべりでもしていたのだろう。

啄木がスガに声をかけて、二人は厨房へ行った。

 

「城主さん、教皇様のことは……」

 

隣のアメリアが私の気持ちを慮ったのか、声をかけてくれる。

大丈夫だから何も言わなくていいと答え、席に座る。

アメリアは黙ってじっと私を見ていた。

 

「お待たせしたな、フリーダ殿。アメリアも予の茶を飲むのは久しぶりではないか?」

「うぇっ。あなたの茶って真緑の日本茶(グリーンティー)でしょ。あたしはあんまり好きじゃないんだけど……」

「まあそう言わずに、アメリア。茶請けは(わたくし)が用意しました。

この男が陸軍の基地からくすねてきたものですが、せっかくなので日の本の味をご賞味ください。

この身に食事は不要と存じておりますが、それもあまりに味気ないというものです」

 

目の前に緑色の茶と茶色の直方体を出される。

ようかんと言う菓子らしい。聖杯の知識にはなかった。

 

茶を一口飲んでみる。に、苦い……。

とっさに切り分けられた分のようかんを食べる。あ、甘い……。

極東の味付けは、こんなにも極端なのか。

隣のアメリアを見ると、何とも言えない表情をしていた。

 

向かい合う啄木とスガは、これぞ故国の味と言わんばかりに満足気だ。

なんだか、自分たちとのギャップにおかしくなって少しだけ笑ってしまう。

 

「さて、フリーダ殿」

 

啄木が改まって口を開く。

 

「我々は非戦闘員だ。あ、そこの病弱(エセ)女丈夫は別だが。

そんな我らでもよければ、主殿についての話を聞いていただきたい」

 

スガは啄木のことを睨みつけているが、本人は全く気にしていなさそうだ。

私の話?

 

「昨今の戦闘の折に、出陣中の方々の部屋を掃除させてもらった。

アメリアが自分たちだけ何もせずじっとしてはいられないと言うのでな。

予はそれをほんの少しだけ手伝わされた。そのときに、主殿の部屋でこれを見つけた」

 

啄木が一冊の本を机の上に出す。

それは、私の日記――!

 

「ごめんなさい、城主さん。悪いとは思ったけど、つい読んでしまったの。

あなた、自分の本当の名前を覚えていないんですって?」

 

ヴラドに与えられたフリーダの名前で通していたから、言ってなかったかもしれない。

――別に、いいじゃないか。武器は思い出せたし、何より私が困っていないんだから。

現時点での緊急の課題ではない、と思う。

 

「日記というのは恐ろしいものよな。

本人は日々のことを書き留めているだけのつもりでも、それ自体に意味が生じることがある。

予も生前書いていたものを死の間際に燃やすよう女房に言いつけたのだが、節子め。

予の女遊びを相当恨んでいたと見える。予の親友の言語学者だけでなく帝国中にバラしおった」

 

世界中では、とスガが口にした。

最低、とアメリアも本人に聞こえるように呟く。

 

勝手に読まれたことは別に怒ってない。

もともと人に読ませることを想定して現在の状況を書いたものだ。

啄木のように、読まれて困るような恥ずかしいことは何一つ書いていないと断言できる。

 

「本題に入ろう。アメリアは主殿が己の名前を覚えていないことを気にしたようだが。

予は別のところに着目した。日記の文体だ。

これが戦の記録だと言うのは予でもわかる。だがそれにしては不必要な情景描写が多すぎる。

単刀直入に言おう。主殿は、予のご同業なのではないか?」

 

私が、盗み見野郎と同じ職業の英霊?

いや、待ってほしい。啄木は日本語しか読めないのではなかったか。

私はそんな言語で書いてる覚えはない。

そう訊ねたら、アメリアに聖杯の知識の使い方を教わった、としれっと言ってのける。

 

「正直あたしも同意見。自分でも上手く言えないんだけど……。

サーヴァントに言語の壁はないから、無意識な行動にこそヒントは出るの。

あなたの日記は英語じゃないし、もちろん日本語でもない。これは()()()()で書かれている。

聖杯の知識にも含まれる程度に著名なドイツ語圏の作家。それがあたしたちの推測」

 

情報量に思考が追い付かない。

私が考えもしなかった視点から、次々と。

私の真名に関する情報が広げられていく。

 

「そこの浮気男に倣うのは悔しいけど。筋は通さないとね。

勝手に読んだお詫びと言うほどでもないけど、あたしも秘密を一つ打ち明ける。

あたしは、デザイナーなんかじゃない。ただの新聞記者。

私が"座"に召し上げられた功績なんて、服と節約を広めただけのちっぽけなもの。

みんなは驚いてくれたけど、あの宝具だって後付けに過ぎないの」

 

淡々と話すアメリアの言葉が、ほとんど耳に入ってこない。

スガも私も、二人の話を黙って聞いていた。

 

「我らのしたことが褒められたものではないのは理解している。

それでも法王殿が名誉を遂げられてから、主殿は危なげで仕方がなかった。

……一人で泣いている少女を、放ってはおけなかったのだ。

我らが推測できる情報はここまでだ。後はフリーダ殿自身が取り戻してほしい。

それから、我らの余計なお節介を許してくれとも言わん。

だから、この先も主殿は主殿の思うままに振る舞ってほしい。

それが、ジブチで主殿に同行を決めた我ら3人の変わらない願いだ」

 

――キミは、キミの思うがままに行動しろ。

――あなたは、あなたらしくあればいいの。

 

3人だけじゃないぜ、と通信機から声がする。

 

「フリーダの様子がおかしいって話をしたら、タクボクも同意見でな。

こうして一芝居打ったってわけだ。水くさいぞー、フリーダ!

悲しいとき、悔しいときは思いっ切り吐き出しちまえよ!俺たち、今は仲間だろ?」

「私たちはあなたに敗北したから、渋々従っているのではありません。

あなたの行動目標が正しいと理解したから、進んでその力になろうと思ったのです」

皇帝(ツァーリ)でも間違えることはある。ゆえに完璧な人間など存在せぬ。

余は余を見つけてくれた聖者のため、そして導きを示した汝のため杖を振るうのみ」

 

言葉が出ない。

比較的長く行動を共にしているメフメトはともかく、なぜそこまで私を信用できる?

 

「言わねばわからぬか?汝が我らと同じ英霊であり、人間だからだ。

例え名を失っていても、その魂の在り方は決して変わらぬ。

これは他の英霊どもも同じであろう。彼らもまた、汝の中に光を見たのだ」

 

私が、英霊だから?

 

――良かろう。余がそなたの槍となろう。

――少女を助ける騎士ってのは、カッコいいもんだろ?

 

「バーサーカーを倒したらすぐ戻るからな!

レオの分もヴラドの野郎の分も、みんなでお前の話をしようじゃないか。

俺たちが力を貸したのは、一体どんな奴だったのかもっと教えてくれよ」

「"白"のニコライに会ったなら、よろしく伝えてくれ。

それでは戦場まで余は再び暫しの眠りにつくとしよう……zzz」

「あーっ!良い雰囲気だったのに。これだから象男は……」

 

静かに肩を震わせる私を、アメリアは静かに抱きしめてくれた。




次話投稿予定:2日0時
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