Fate/Apocrypha Revival in the Interstice   作:梨央

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第14節 樽の中の英雄

南アフリカ、ケープタウン。

大陸有数の商都。ヨーロッパとアジアの中継地。数多の国からの差別と抑圧を越えた街。

もちろん今は無人だが、美しい街並みは人間の繁栄の在り方の一端を見せてくれる。

 

ここに、"白"のライダーがいるはずだ。

 

聖都の昇降装置で街はずれに降りていく途中。広間での激励を思い出す。

私はシオンに送り出されて以来、本当はずっと孤独だと思っていたが。

まるで違った。真名を覚えていなくても、彼らは私を一人の英霊として尊重してくれた。

 

大切な仲間、レオを失ってとてつもなく悲しい気持ちに変わりはない。

だが、人間は必ず死ぬものだ。それは霊魂であるサーヴァントも同じ。いつか消える定め。

究極的には二度目の死のために私たちはここに再定義されたとも言える。

だからこそ。私は私の役目を、聖杯大戦の観測を、何があっても続けなければならない。

そうでないと、私は私を信じてくれた英霊たちに不誠実になってしまう。

 

それにしても、ドイツ語圏の英霊か。

改めて自分の正体についてゆっくり考えてみたいが、まずは目前の謎を解いてからにしよう。

 

近くにサーヴァントの気配を感じるが、どうも()()

この街のどこにいるのか探すところから始めなければ――

 

「何じゃ、(うぬ)ら。犬みたいにぞろぞろ集まってきよってからに。

せっかくの天気だと言うのに陽が当たらんじゃろうが。

もしや汝らも遊興の参加者か。だがあいにくとわしに乗る気はない。戦いたいなら他を当たれ」

 

()()()()()()()()()()

海にほど近い市の中心部、シーポイント地区の高級住宅街の路上。

あからさまに怪しげな樽が転がっていたので、恐る恐る近づいてみたらこれだ。

立ち去らないことに苛立ったのか、やがて中から人が出てきた。

 

「む、む、む……!」

 

ぼろ布を纏った白髪に白髭の老人が、私たちを凝視している。

何から突っ込めばよいかもわからず、4人で固まってしまった。

 

「ほう、ほう、ほーう。

7騎に属さぬエクストラクラスのサーヴァント。わしの同類。雄弁家。そして、おや」

 

ライダーはスガに目を止め、嫌らしい笑みを浮かべる。

 

「汝はどことなくネサレテに似ておるな。どうじゃ、わしと今夜?」

 

当然のようにスガの身体を触ろうとするライダー。

私はあわてて止めようとするが、スガがキレる方が先だった。

 

「――ッ!」

 

彼女は瞬時に後ずさって腕を振り、黒鍵を3本別々の方向からライダーへ向けて投擲する。

だが黒鍵はライダーに刺さることなく、()()()

 

「ろ、老人虐待じゃあああ!」

 

おどけてみせるライダーの反応よりも気になったことがある。

なぜ、黒鍵で傷を受けない?飛び道具に対する何らかの加護か?

 

「んー。それは違うぞ。黒蝶の少女よ」

 

口に出していないのに。

このジジイ、まさか私の心を……!

 

「それも違う。わしは人の心を読んでいるのではない。見ているのだ」

 

意味が、わからない。

いや、わかるような気もする。この感覚は、一体……。

 

「さて、先ほどの話は撤回しよう。少しだけ興味が湧いた。

汝ら、わしに聞きたいことがあってこの街へ来たのだろう?いいとも、答えてやろう。

わしが飽きるまでだかな。クカカカカ」

 

念のためスガの方をちらりと見ると、いかにも嫌そうに頷いた。

 

「わ、私はフリーダ。聖杯大戦の異常の観測のため、英霊たちの力を集めている者。

ここにいるのは両陣営のアサシンと、"青"のキャスター。他にも3騎。

"白"のライダーよ。私たちに戦闘の意思はなく、真名を開示した上で協力する用意が……」

「あー、あー。前口上はいらん。聞きたいことだけ話せ」

 

最後まで話す前に遮られてしまった。

 

「では……。なぜ"白"のセイバーと"青"のアーチャーを戦闘させるよう仕向けたのですか?」

「仕向けたとは人聞きの悪い。わしはあの狂える哀れな皇帝に引導を渡しただけじゃ。

どうせセイバーが勝ったのだろう?言わなくてもわかる。本当に()は趣味が悪い」

 

……セイバーが勝った?奴?

 

「お言葉ですが、ライダー。私たちは彼らの戦闘に介入し、2騎とも我らの陣営に加わりました」

 

初めてライダーが驚いた顔を見せる。

この反応を見るに、私たちの奇襲までは予想していなかったのか?

なら北へ行けばわかると言ったのは、別の意図があったのか?

 

「なんと!つまりあの暴君は暴君のまま少女の手下になったと言うのか」

 

どうせ黙っていても見透かされてしまうなら、話してしまおう。

 

「正確には……"青"のアーチャー、イヴァン雷帝は、

秩序、混沌ランダムに属性を変化させるスキルを有していました。

召喚時の事故か何らかの原因で、混沌側に固定されていたものと思われます。

私の仲間が治療を施した結果、秩序側に再固定し、彼は一緒に戦うことに同意してくれたのです」

 

嘘は言っていない。

その治療を施した仲間はもういないが……。

 

「そうか。それは惜しい人材を亡くしたのう。彼女なら奴も治せたかもしれんと思うたが……」

 

やはり、ライダーに隠し事はできないようだ。

口にしていないことまで知られてしまう。

 

「よし。イレギュラーのサーヴァントよ。汝が只者ではないことはようわかった。

汝にはわしがもう少し助言をしてやってもいいだろう。

わしの名は、ディオゲネスじゃ。キリキアの方ではないぞ。汝なら当然知っていよう?

さあ次は汝の番だ。教えてくれ。汝は、誰だ?」

 

ディオゲネス。古代ギリシャの哲学者。犬儒派(キュニコス)の体現者。

哲学者……哲学者……。何か、あと少しで……。

 

「私は、フリーダ――」

 

ヴラドに与えられた名前を、ディオゲネスは即座に否定する。

 

()()

 

眼光鋭く、彼は続けた。

 

「その名前は聞いた。当世風に言えばペンネームというやつだろう。

イスカンダル(アレキサンダー)ヘウレーカ(アルキメデス)フリュネ(ネサレテ)

賢いやつはみんな持っておる。異名。通名。俗名。だがそれらではない。

わしが知りたいのは、汝の真名だ。汝の口から聞きたい。

真名を開示した上で協力する用意があるのだろう。

フリーダ(平和)を名乗る者よ。汝は、誰なのだ?」

 

よもや覚えていないとは言うまい?と言った彼は、

恐らく私が答えられないことを知っていて、聞いている。

私は黙って、立ち尽くしていた。

 

私……は……。




次話投稿予定:3日0時
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