Fate/Apocrypha Revival in the Interstice   作:梨央

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第16節b 恐慌招く還湖の剣

私の祖国は、いつの時代も中国にその地位を脅かされていました。

秦、漢、唐、宋、元、そして明。

私の時代の彼の国の皇帝は、朱棣(チューディー)と言う男でした。

永楽帝、と言った方が通りは良いのでしょうか。

 

"座"に召されてから、理解できたことがあります。

我ら英霊は、霊長の歴史があったからこそ生まれたモノ。

私の国から見れば彼は侵略軍の頭領でしたが、

彼の国から見れば私は叛乱軍の首魁だったように。

人類史と言う織物の上では、我らは等しく皇帝であり、一人の人間だったのです。

 

それゆえに、悲しくもあります。

どれだけ私が未来の時代で聖杯戦争に招かれ戦おうとも、

聖杯に願おうとも、私の祖国の運命は変わりません。

仮に今回の大聖杯を手に入れたとしても、

私のかつての戦いや歴史をなかったことにはきっとできないのでしょう。

流された同胞の血は、決して戻ることはないのです。

 

私は今回の聖杯大戦において、"白"の陣営のセイバーと定義され、

南アフリカのキンバリーと言う街に召喚されました。

マスターはいませんでした。

私はただ、カルナックの杯と言う大聖杯の招きに応じただけですから。

 

これは今回の大戦における最大の異常だったそうですね。

私はどうも、これまでの聖杯戦争に関する記録が曖昧なのです。

どこかの国で眼鏡をかけた少女をマスターとして、

あの"白"のバーサーカーとも戦ったような気はします。

彼の弱点が車軸だと知っていたのも、以前に戦ったことがあったからかもしれません。

 

私はキンバリーから一人西へ行軍し、美しい花畑に辿り着きました。

我が故国、昇竜(ハノイ)の地にも見事な蓮の池がありますが、

それとは全く趣きの異なる、どこまでも続くオレンジ色の絨毯。

この地のカメに聞いたことですが、この花園は一年に一度、今の時期しか見られないそうです。

まさに刹那の絶景。これを見られただけでも、私はこの地に召喚された意義を見出します。

 

無論、サーヴァントの本分を忘れた訳ではありません。

更に南のケープタウンと言う街で、ようやく私は敵のサーヴァントを見つけました。

彼は"白"のライダーでした。

今思えば、このときも私は異常に気付く機会が与えられていました。

"白"と"青"と言う二つの陣営に振り分けられて戦うはずなのに、

私たちは皆がみんな大陸中バラバラに召喚されていたのですから。

少しでも立ち止まって考えていれば、目的もなく彷徨わずに済んだのかもしれません。

 

結局私は彼にまともに戦ってもらえず、彼の言うままに北西の熱帯雨林を目指しました。

その後は知っての通りです。

私はフリーダと"青"のアサシンの奇襲に敗れ、彼女たちに同行を決めました。

 

負けたから渋々従っているのではない、と言ったのはもちろん本心です。

フリーダの理念が正しいことも理解しています。

そもそもサーヴァントに国籍は関係ありません。

過去にどんな遺恨があろうとも、大戦の異常の観測という大義のためならば、

どんな仇敵とでも手を取り合って戦うべきなのでしょう。

 

――それでも。それでも!

私は、目の前の男だけは、どうしても。

己の感情を律することができませんでした。

 

 

 

 

 

「ほう。朕の城をこうも丁寧に破壊して回るとは。

もっとも、これをやったのはそなたらではなさそうだが。

話ぐらいは聞かせてくれるのだろう?越南(ユエナン)の皇帝よ」

 

私の身長の倍はあろうかと言う大男。

威風堂々たる風貌。流しの付いた大冠。豪奢な装束。

 

私は、彼を知っている。

もちろん生前の面識はない。だが私の霊基が告げている。

中原の覇者。支配欲の権化。不老不死の探究者。

 

秦の始皇帝。趙政(チャオチュン)

 

私の国の人間なら誰でも知っている。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

私は、私は、私は!

所詮、八つ当たりにすぎない。そんなことはわかっている。

それでも、私はサーヴァントである前に。自我(エゴ)を持った人間(こうてい)だ!

 

これは聖杯大戦。

彼が敵として立ちはだかるなら、私にはそれを撃滅する権利がある。

我ら別動隊の行動目標は"白"のバーサーカーの討伐。

それが既に果たされた以上、私は新たな敵を事前に排除するだけだ。

 

皇帝(スルタン)は負傷した。

皇帝(ツァーリ)は遠く離れた昇降装置だ。

今なら私は、この男と対等に戦える。

 

「ああ、貴様の骸にいくらでも聞かせてやるとも。"青"のライダー。始皇帝!

我は"白"のセイバー、黎利!黎朝が祖。貴様の後継の支配から故国を奪還せし平定王(ビンディンウォン)なり。

ここに縁は結ばれた。いざ尋常に仕合わん!」

 

始皇帝は私の瞳を真っ直ぐに見つめて言った。

 

「朕と戦いたいと言うならそれも構わんが。

そなたは、大戦の異常を観測するとか言う少女の陣営に加わったのではなかったのか?

今ここで朕と戦うことに、どんな意味がある?」

 

この男は、我らの事情を知っている。

私と戦う気など、端からないのだ。

それに私は、この男よりも英霊としての格は遥かに劣る。

 

当然だ。

敵は()()という存在そのものの始祖。

一方の私は、同じ皇帝でも小国に一時君臨しただけの王に過ぎない。

 

だが、それが何だと言う。

その程度の差、乗り越えられずして何が英雄か。

黎太祖(レ・タイト)の名に懸けて、私は必ず奴を倒す。

 

「意味など初めからない。あるとすれば、ここで我らが出会ったことこそが意味だ!

さあ、弓を構えろ、ライダー。貴様は私が討つ!」

 

始皇帝は豪快に笑い、答えた。

 

「面白い!越南の皇帝、龍昇る都の主、湖の剣士よ。

貴様がそうまでして朕の前に立ち塞がると言うなら、朕はそれに応えよう。

"青"のライダー、趙政。推して参る!」

 

彼は弩を天に向け、六本の矢を放つ。

……宝具か!

 

矢はやがて無数に分裂し、兵士の形となった。

歩兵、騎兵、弓兵、槍兵……。

将軍や楽士の姿も見える。これが奴の軍勢、兵馬俑か。

 

笑止!

我が剣は、湖の精霊に授けられしもの。

すなわち、敵軍の戦意を奪う魔剣なり。

 

馬型の人形に跨った始皇帝が、私目掛けて駆けてくる。

大陸の覇者よ。覇軍の主よ。我が永劫の敵よ。

湖水の煌めきを、その目に焼き付けるがいい。

 

「束ねるは水龍の息吹。湖の魔剣よ。今再び、その輝きを解き放て!

恐慌招く還湖の剣(タン・キエム)――!!」

 

降り下ろされた蒼の光芒が、兵馬俑の全てを飲み込み、彼方に消し去る。

 

これで残るは奴だけ。

後は私の剣で、馬ごと斬り捨てようと構えたが。

光の彼方から飛来した巨大な矢が、私を抉る。

 

「か……はっ……」

 

いつの間にかライダーは、弩から大弓に持ち替えていた。

あれは、神魚を滅ぼしたという、伝説の……。

そうか……私は……最初から……。

 

始皇帝のどこか憐れむような顔が、心底憎たらしいが。

まったく……奴には……敵わないな……。

 

 

 

 

 

***

フリーダ記録。

皇帝だった少女は、大陸最強の伝説に己が雄姿を刻んで退去した。

私はこれを後に、"白"のサーヴァント四人目の脱落と定義する。




次話投稿予定:8日6時
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