Fate/Apocrypha Revival in the Interstice 作:梨央
朕は、どうしても死にたくなかった。
幾度も暗殺されかかったから。然り。
後継者に不安があったから。然り。
唯一手に入れていないものだったから。それも然り。
だが、本当にそれだけの理由だったのか。
いや、違う。朕は、死と言う概念を超えてみたかっただけなのだ。
不老不死の探究はいつからか、
永遠の支配のためという手段から、それ自体が目的になっていた。
勧められたものは何でも試した。
ある男は不死の妙薬だと言って、朕に怪しげなものを飲ませた。
医官の一人が後になって、それは水銀と言う毒だと教えた。
朕はその男と、飲む前に教えなかった医官を殺した。
別の男には練丹術を司ると言う神仙の捜索を命じた。
男は大金を要求してきたので、朕は望むままに与え、男は東へ旅立った。
しかし一度だけ、においのきつい変な草を送って寄越しただけで、
ついに仙人その人を連れ帰ってくることはなかった。
朕は見せしめに、男の一族郎党を殺した。
さらに別の女は、不老の珍味だと言って妙な肉片を朕に献上した。
今思い返せば、妲己の如き妖しげな雰囲気を宿した女だった。
それを食べた朕は、確かに歳を取らなくなった。
朕は褒美だと言って、秘密を守るために女を殺そうとしたが、
女はいつの間にかその姿を消していた。
代わりに朕は、朕は天子の象徴たる光を失ったと書き記した不遜な史家を殺した。
もう名前も忘れたが、かつて朕を殺そうとした一人の女がいた。
燕の国の白い着物を着ていて、眼光鋭き風貌だったのは覚えている。
女は周到に計画を練り、朕にさまざまな手土産を持って謁見し、
一瞬の隙を衝いて、毒を塗った刃で朕を斬り付けた。
朕はそれ以降、再び年を取るようになった。
なぜかは、今だにわからぬ。
朕は大した傷を負わず、毒は癒えたのに。刺客は皆殺しにしたのに。
側近どもの中には、朕は再びかつての姿に戻ったと喜んだ者もいた。
結局朕は、再び不死を手に入れることなく、諸国の巡遊中に死んだ。
そして朕があれだけ心血を注いで作り上げた国は、あっという間に滅びた。
――だが。
英霊などと言う身に成り果ててから、思うことがある。
全てはこれで良かったのではないか、と。
確かに朕の国が続くことなく滅びたのは、とても悲しいことだと思う。
だが朕には、確かに中国と言う国の未来を築いた自負がある。
例え国の名前が変わっても、いくつの国に分かれようとも、一時異国に支配されんとも。
朕が中原に興した理想と文明の火が失われることはないのだから。
もし仮に、朕があのまま支配し続けたならば。
朕の国はどうなっていたであろう。
朕の国は、発展を続けただろうか。朕の人民は、より幸せになっただろうか。
朕には、いくつもの預言があった。
唾棄すべきもの、承服しがたきものも、もちろんたくさんあったが。
一つだけ、強烈な印象を朕に残したものがある。
真の意味で朕が不老不死を手に入れ、千年帝国を成就させたとき。
朕の国は
それがどう言う意味なのかも、未だによくわからぬ。
預言とは往々にして難解なものだ。必ず意味や答えがある訳でもなかろう。
ただ、決して良い意味ではないと言う直感がある。
朕は紛れもなく暴君だ。否定はせぬ。
朕を罵る者もいよう。嘲る者もいよう。
嫌う者もいよう。殺したいと思う者もたくさんいよう。
――構わぬ。全て、全て認めよう。
生前ならいざ知らず、朕は既に英霊だ。人類史と言う織物を眺めるだけの霊魂だ。
ゆえに。もし願いを叶える杯なるものが実在するならば。
朕が問うてみたいことは一つだけだ。
第二の生を望む者もいよう。
かつての朕のように、不老不死を望む者もいよう。
あるいは、朕のように不老不死を手に入れながらも手放し、その返還を望む者もいるやもしれぬ。
朕は、真の不老不死と言うものが本当に存在するのか。
朕は、ただそれだけを知りたい。
それを求める刻限は過ぎ去った。朕は、智慧のみを得たいのだ。
どうやら朕は強い。世界の王の中でも、朕の知名度は引けを取らぬと言う。
ならば欲深き魔術師どもが、己が願いを叶えるための手駒にしようとするも術なきことだろう。
実際、朕は新大陸の聖杯戦争で呼ばれかけたような気がする。
本当に呼ばれたのかもしれぬが、"座"は召喚の度に記憶を調節するのだったな。
よって定かな記録ではない。朕が覚えていないだけで、他にも呼ばれたかもしれぬ。
今回の聖杯大戦とやらもそうだ。
朕は"青"のライダーの霊基を与えられ、カルナックの大聖杯とやらを賞品に呼ばれた。
ここは旧大陸と海を隔てた島の、アンタナナリボと言う都市だった。
――朕は、かつての手痛い経験から。
正直に言おう。朕は大聖杯とやらの存在も疑っている。
なぜなら、聖杯の知識と朕の置かれている状況とでは、説明がつかないことが多い。
聖杯大戦。"白"と"青"の陣営に分かれて戦う。それは良い。
では、なぜ朕の周囲には友軍たる"青"のサーヴァントどもがおらぬ?
そして、戦った後はどうなるのだ。聖杯を得られるのは1騎だけではなかったのか。
そもそもの前提として、マスターはどこだ。
朕がすでに人ならざる身なのはわかっている。
その朕を現世に呼び戻し、繋ぎ止めるはずの依代は不要になったとでも言うのか。
だとすれば、逆説的に神仙の錬丹術は既に成就しているとも言えるが。
朕の問いに対して、聖杯の知識はいずれも答えを持っていないようだ。
知りたいことがあるとき、朕はどうすべきか。
決まっている。調べに行けば良いのだ。
朕は空飛ぶ愛馬に跨り、大陸中を駆けた。
戦うことに全く疑問を持たないサーヴァントどももいたが、
そうでないものも多かったようだ。
朕が調べた範囲だけでも、戦わずに戦場を離脱するサーヴァントが増え始めた。
どうやら、英霊どもの誰かが先頭に立って仲間を集めているらしい。
そやつの見てくれは年端も行かぬ少女だと言うから、実に面白い。
その娘の陣営に加わっても良かったが、朕はもう少し独自に調べたいことがあった。
カルナックの杯と名乗るからには、その名前のついた都市にあるのだろう。
そこは、エジプトと言う国のテーベと言う街にあると調べた。
カルナックは、この時代では都市の名ではなく遺跡の名前だった。
外観はぼろぼろに崩れ去っているのに、周囲には強固な結界が張られている。
中に入ることは叶わなかったが、なるほど確かに膨大な魔力を感じた。
これが、大聖杯なのか。にしては言い表せぬ違和感があるが……。
感じると言えば、朕が最初に呼ばれた街に築いた朕の拠点。
即ち朕の当代における
街の愛称から取って、
まあ、その朕の城と、周囲の長城が攻撃を受けているようだ。
所詮は急造の城だ。別に捨て置いても良かったが、様子を見に行くことにした。
朕の城も長城も徹底的に破壊されていた。むう、少しばかり落ち込むぞ。
壊したのは、どうやらあの妙ちくりんな姿をしたバーサーカーのようだ。
朕の城跡で、バーサーカーと三騎のサーヴァントが戦っている。
バーサーカーが斃れた。複数でかかれば、まあ当然であろうな。
……む。あのセイバーが纏っているのは、
そうか、彼の国の王も呼ばれていたのだな。ここは一つ、話しかけてみるとしよう。
そして朕は、玄武が如き輝きを見た。
儚く、健気で、それゆえに美しき光だった。
完結してから書くつもりでしたが、念のために。
サーヴァント・始皇帝の描写は、英霊伝承荊軻と人智統合真国の事前情報から想像したものです。
実装時の姿とあまりに乖離していた場合は改稿するかもしれませんが、
物語の本筋には影響ありません。
……3章告知よりもアビーちゃんピックアップが先になるとは思ってなかった。
次話投稿予定:9日6時