Fate/Apocrypha Revival in the Interstice 作:梨央
目の前に用意された朝食を取りながら、二人の王の話を自分の中でまとめ情報の形にする。
それにしても…。
生ハム、オムレツ、パン、サラダ、チーズ、赤ワイン、カフェオレ、レモネード。
軍議とはまったく関係ない話題だが…正直美味しい…。
素直に感想を口にすると、シャルルは嬉しそうだった。
こほん。
シャルルの宝具である機動都市、
現在モロッコのマラケシュ上空1500mを飛行中。
ヴラド三世はエジプトのカイロで、シャルルはアレクサンドリアでそれぞれ召喚された。
単独行動スキルを持たない彼らだが、
宝具の常時展開を行ないながらも現界を続けられていることから、
魔力供給は大聖杯によって潤沢に行われているものと推定できる。
これはシオンの情報に基づく推測であるが、私を含む他のサーヴァントも同様ではないか。
召喚された目的は、与えられた知識にある一般的な聖杯戦争と同じ。
すなわち、他のサーヴァントと戦って最後まで勝ち残り、
万能の願望機――大聖杯を手に入れること。
しかし、本来英霊を現世に留めるために必須であるマスターが二人には存在しなかった。
以前にマスターを得て聖杯戦争を戦った記録がある二人は、これを最大の異常と認識する。
会敵後も戦闘には至らず、話し合いの末にシャルルがヴラドに領地として機能する聖都を提供し、
ヴラドは当面の間"青"の陣営の頭首として行動することで合意する。
その後、アトラス山脈付近を飛行中に謎のサーヴァントが聖都庭園に出現する。
――私のことだ。
気を失っていた私をシャルルは迷わず保護した上でヴラドに相談。
ヴラドはかつての経験から私を事態打開のためのキーパーソンではないかと推測し、
私の保護を陣営頭首として追認。敵対した場合に備え念のため武装解除させる。
今のところ他に接触したサーヴァントはいないものの、
これらの使い魔と思しき反応が大陸内には多数確認されている。
どれが"白"のランサーなのか。他のサーヴァントの真名は目下不明。
シオンは事態の把握から私を召喚するまでの短時間で
真名に見当がつけられたそうだから、追加調査を待つ。
残された都市の状態と聖杯に与えられた知識から、現在は2017年8月で間違いない。
ただし、奇妙なことにこの大陸に人間は一人も存在しない。
最悪、この世界そのものがテクスチャのみ緻密に再現された贋作の可能性を排除しない。
機動聖都の機能の一部である無人偵察によってわかったことがある。
大陸を囲む海は、どうやら
地中海、太平洋、大西洋、インド洋いずれの方面においても通信は途絶。
さらには、スエズ運河を挟んで地続きになっているはずのアラビア半島も、
ジブラルタル海峡を臨んだ先にあるイベリア半島も、
地中海のシチリア島やサルデーニャ島などの島しょ地域も存在しないようだ。
マダガスカル島のみ確認できるが、これの理由については情報不足のため推定困難。
結論。
この世界はアフリカ大陸とマダガスカル島のみで完結している。
切り離されている、隔絶していると言ってもいいのではないか。
「すっげー!フリーダって頭良いんだな!俺たちの思ってこと上手くまとめてくれたぜ」
「もしやそなた、探偵のサーヴァントなのではないか?
有名なのがキャスターやルーラーにいると聞いたことがあるが…」
裁定者。
なぜか…その単語を聞くと、ひどく頭痛がする。
「ふむ、違うか。では、話の続きだが――」
二人は大聖杯によって招かれた"青"の陣営のサーヴァントである。
もっとも、この二つの陣営の定義はひどく曖昧だ。
自分がどちらの陣営に振り分けられたかは認識しているものの、
陣営そのものに意味があるかすらわからない。
そもそもなぜ通常7騎で執り行われる聖杯戦争に倍の14騎もいるのだろう。
「それについては、余に幾ばくかの心当たりがある」
曰く、聖杯戦争ではなく、聖杯大戦。
大聖杯の持つカウンター機能によって、
大聖杯に何らかの危険が迫った状態で聖杯戦争が行われんとしたときには、
もう7騎が追加で召喚されることがあると言う。
「そして余は――聖杯大戦を戦ったことがある」
聞いていない情報だったのか、シャルルが呆気に取られる。
「マジかよ王様、そいつはさすがに…カッコよすぎるぜ…!」
「そなたの語彙力は何とかならぬのか…」
ヴラド三世は2000年前後にルーマニアにて行われた聖杯大戦において、
"黒"の陣営のランサーとして、ダーニック・プレストーン・ユグドミレニアによって召喚された。
彼は第二次世界大戦中にナチス軍と手を組んで、
大聖杯を極東から簒奪した黒幕であるユグドミレニア一族の頭首である。
大戦はヴラドの故国で行われたこともあり、
抜群の知名度補正とスキル:護国の鬼将による地脈の占有によって、
神話の大英雄に引けを取らぬ強さを発揮し、黒の陣営の圧勝で終わる――はずだった。
最優のはずのセイバーの早期脱落。アサシンの不在。
そしてマスターであるダーニックの勝利を焦った末の裏切り。
禁断の第2宝具を強要されて発動したヴラドは無銘の吸血鬼に成り果てる。
破壊的な力で戦場の全てを蹂躙し大聖杯に肉薄するも、
ルーラー権限で強化された両陣営のサーヴァントに袋叩きにされ、
最後は
結局のところ、その大戦において大聖杯は起動したものの、
陣営に属さないホムンクルスによって世界の裏側へと持ち出され、
二度と起動することはなかった。
正確には。
一度だけ大聖杯に残ったダーニックの残留思念によってクラッキングされ起動しかかった。
そのときは異なる世界から来訪したマスターと再現された大戦のサーヴァントたち、
そして大聖杯の管理者となっていたホムンクルスによって阻まれたそうだ。
ヴラド三世もその際自らの意志で顕現し、かつてのマスターに引導を渡したと言う。
「王よ、では世界の裏側にある大聖杯が三度目の危機に瀕している可能性は?」
「それはわからぬが…。少なくとも此度においても召喚されたのは余だけであろうな。
かつての勇者たちの気配は感じぬ。何度も戦って霊基に染み付いたゆえわかるのだよ」
「これは俺の直感だけど…大聖杯そのものが危険な訳じゃないと思うんだよね。
俺は召喚されたとき、勝ち残ったらカルナック神殿に来いって言われたからさ」
「待ってください、シャルル。言われたって、誰に?」
「さあ…そう言えば深く考えてなかった!あっはっは!」
「――余は大戦においてそなたの麾下である十二勇士の一人を従えたが、
なるほどさすが彼が仕えただけの王であると確信したぞ、シャルル」
声とは大聖杯そのものの意志なのだろうか?
かつての聖杯大戦の話を聞いた限りでは、違うような気がする。
大聖杯に介入して、任意の英霊を呼び寄せることができたなら…。
まだ、情報が不足している。
機動聖都の探査機が使えない以上、別の"眼"が必要だ。
「王よ、大聖杯の二度目の危機の際にはかつて敵同士だったサーヴァントも、
手を取り合って共通の敵に立ち向かったとおっしゃいましたね」
「うむ。そなたが考えることは余もわかる。
他の英霊どもを味方につけよう、と言いたいのであろう?」
「さっすがワラキア公!どっちにしろ三人で残り十二人と戦うのはきびしーしなー」
「だがフリーダ。それは少々難題かもしれぬぞ?」