Fate/Apocrypha Revival in the Interstice   作:梨央

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第18節a 聖杯談論

「いい加減に起きんか、フリーダ。いつまでも老人を待たせるな」

 

固い地面から身体を起こす。節々が痛い。ここは……?

土と紙のにおい。窓もないのに、幻想的な明かりが差し込む空間。

びっしりと詰まった本棚が、部屋のずっと奥まで並んでいる。

 

「雷帝の失われた書庫へようこそ。ゲルマニアの後輩よ」

 

ディオゲネス……!

埃の積もった閲覧台。ジョッキを傾けながら、気だるげに椅子に腰かけて、私を見ている。

とっさにホルダーに手を伸ばすが空だった。私の銃が、無い?

 

「安心せい。汝の銃ならわしが預かっておる。汝のお仲間に渡されてな。

何とかに刃物と言うことわざもある。どれだけ怖がられたことだか察せようぞ。

さて、それよりも。せっかく来たのだ。始めるとしよう」

 

ディオゲネスは立ち上がって続けた。

 

「我が名はディオゲネス。"白"のライダー。

犬儒派(キュニコス)の体現者にして、アテナイの賢者なり。

問おう、イレギュラーのサーヴァント。我が知恵を求め、尋ねし者よ。汝は何者なるや?」

 

決まっている。その答えは既に得た。

 

「我が真名は、フリードリヒ・ニーチェ!

ふざけた呪いを押し付けられた、世界を憎悪せしアヴェンジャー!

ああ、神は死んだ!神を嘲る者どもと死んだ!我はそれらすべてを嗤わんと――」

 

ライダーはすぐに遮った。

 

「もう良い。己に足りないものを見極めろとは言ったが、

狂(・)っ(・)た(・)ふ(・)り(・)を(・)し(・)ろ(・)などとは言っておらん。愚か者め」

 

違う!私は自由(フリーダ)だ!これが本来のサーヴァント・ニーチェの姿だ!

私はなおも叫ぶが、それを上回るディオゲネスの大声に封じられる。

 

「もう良いと言った。それ以上くだらん演説を垂れ流すなら、その細首、捩じ切るぞ」

 

……………………。

 

「ふん、大根役者が。狂人を演るならせめて仮面(ペルソナ)でも付けんか。

貴(・)様(・)で(・)は(・)優(・)し(・)す(・)ぎ(・)る(・)。そんな体ではメナンドロスにも失笑を買おう。

護衛の女を騙した程度で、わしをも騙せると本気で思ったのか」

 

――ああ、そうだ。

名前を取り戻したところで、私にはわからなかったんだから。

 

私は、ニーチェだ。だがそれが、何だと言う。

私はただの哲学者。アメリアや啄木と同じ非戦闘員だ。英雄なんかじゃない。

シオンも言っていたことだし、最初からわかってた。私の名に意味などないと。

それでも皆は私に期待していた。だが私にはそれに答えるだけの名なんてなかった。

ならどうすればよかったのだ!いっその事、狂ったふりでもするしかないじゃないか!

 

「汝の名に意味を見出すのは汝ではない。落ち着いたなら続けよう。

黒蝶の少女。アヴェンジャーよ。汝がこの地に招かれた目的は何だ?」

 

――最初から変わっていない。

聖(・)杯(・)大(・)戦(・)の(・)観(・)測(・)。第三の陣営として勝利するでもなく、事態の解決でもなく、観測。

それがサーヴァント・ニーチェを呼び出した、シオンの意思だ。

 

「マスターの意思とな。汝の名を奪われたのもか?」

 

……そうだ。

 

「良かろう。ではその目的を果たすため、汝は如何せんとした?」

 

私の旅は、機動聖都に送られたところから始まった。

 

二人の王に出会い、三人目の王を求め、二人の王を失った。

三人目と四人目の王と力を合わせ、さらに三人の協力者を得た。

五人目と六人目の王を制し、自らの陣営に加えた。

 

三人目の王を失った。王を殺した狂戦士を排除した。

五人目の王を失った。七人目の王が加わったらしい。

もう一人の狂戦士が協力者になった。代わりに二人の同盟者を失った。

 

そして私は今、それらを語り聞かせるまでもなく。

全てを見通しているであろう賢者の前に立っている。

 

「悪くない分析だ。さすがは超人(ユーバーメンシュ)。だがいくつか間違えているぞ。

一つ。三人目は王ではない。二つ。わしは全てを知っている訳ではない」

 

……だから何だ。どうでもいい。些末なことじゃないか。

 

「どうして汝はそう悲観的なのか……。まあ良い。さて次だ。

汝はわしの問いに答え、見事、己が真名を取り戻した。

汝の名を讃えよう。フリーダ(ニーチェ)。哀れで、か弱きディオニュソス。

認めよう。汝はわしと談論を交わすにふさわしき賢者だと。

それで汝は、これからどうするつもりなのだ?」

 

それは……。

戦力は整った。目前にあった脅威も排除できた。敵の具体的な場所も把握済みだ。

今こそ"白"のランサーを打倒するべきだろう。それで異常は解決し、私の役目も終わる。

 

「はて。なぜそう言い切れる?汝も疑問に思ったことが一度や二度あるはずだが。

本(・)当(・)に(・)こ(・)の(・)事(・)態(・)の(・)元(・)凶(・)は(・)も(・)う(・)一(・)人(・)の(・)ラ(・)ン(・)サ(・)ー(・)な(・)の(・)か(・)、とな」

 

――確かに、そうだ。"白"のランサーは。レオが地図を作ってから、

詳細な位置こそこちらに掴ませなかったものの。

このタンザニア領から一歩たりとも動いていない。

 

同盟を組んだサーヴァントたちと話したことがある。

大(・)戦(・)を(・)戦(・)う(・)気(・)の(・)あ(・)る(・)サ(・)ー(・)ヴ(・)ァ(・)ン(・)ト(・)は(・)、初(・)め(・)か(・)ら(・)そ(・)う(・)し(・)て(・)い(・)る(・)と。

つまり、ランサーにも戦う気はない?そもそも、大戦の異常とはなんだったか……?

 

「たまにはわしが答えよう。大戦の異常とは、この地に人間が一人もいないことだ。

我らは等しく霊魂だ。亡霊だ。とうにこの世の住人ではない。

そしてサーヴァントは、マスターという依代をなくしては成り立たぬ存在だ。

無論、土地の断末魔だの、霊長(アラヤ)の抑止力だの、は(・)ぐ(・)れ(・)などの例外もあろう。

だがしかし、我らは全員がそうなのか?もちろん、否だとも。

我らは大聖杯とやらの魔力を常に受けていなければ、こうして話をすることもできぬ。

そんな我らが、どうしてその大聖杯を手に入れるために殺し合わねばならぬ?

聖(・)杯(・)に(・)願(・)う(・)ほ(・)ど(・)大(・)し(・)た(・)望(・)み(・)の(・)な(・)い(・)者(・)も(・)多(・)い(・)の(・)に(・)」

 

何も反論できない。その通りだと、私も思った。

 

「続けよう。では、その原因はランサーにあるのか?

それも否だ。確かに彼(・)女(・)は、それだけの力を持っている。

その気になれば、わしらをまとめて滅ぼすことも容易かろう。

だが黒幕はランサーではない。この大戦の調停役たる裁定者(ルーラー)。すなわち奴(・)だ。

そして彼女は、恐らくわし同様にある程度理解した上で、湖に身を隠すことを決めた」

 

ランサーはヴィクトリア湖にいると、ライダーが言っていたのを思い出す。

裁定者の奴とは、一体、誰だ?

 

「少し補足するならば、汝のマスターが敵を見誤ったわけでもないぞ。

奴が己が正体を掴ませないため、ランサーをトロイアの木馬としたのだからな。

全てが奴の目論見通りにいっていれば、

彼女がこの大戦最大の脅威となったであろうこともまた明白だ。

さて……少しだけ話を戻そう。汝の最初の同盟者の一人は、前(・)回(・)の(・)聖(・)杯(・)大(・)戦(・)の参加者だったな。

その王に聞いたことはあるか。前回の戦いにおいても、これだけの"王"が集ったのかと」

 

いいや……。前回の"王"は両陣営合わせても二人だけ。

"黒"側にヴラド。"赤"側にアッシリアの女帝、セミラミス。

 

「聖杯戦争の認識については改めて共有するまでもなかろうが。

大戦と名前が変わったと言え、中身は変わらん。

何騎いたとしても、最終的には一人のサーヴァントを勝者として選ばねばならぬからだ。

ではここで新たな問いだ。"王"とは如何なる存在か?」

 

私は王じゃない。だがこうしてここに立っている私なら、その問いにも答えられる。

フランク王国。ワラキア公国。ローマ教皇領。オスマン帝国。

黎朝ベトナム。ロシア・ツァーリ。まだ会っていないが、秦……。

 

私は生前、王らしい王に出会わなかった。

プロイセン公(ヴィルヘルム一世)は……確かに皇帝だったかもしれないが。

時代が違いすぎる。この地で会った彼らとは方向性も違う。

 

王とは、誰よりも賢く、諸人を導く力を持った者のことだ。

英雄に王が多いのも頷ける。彼らは皆が皆、私にはないものを持っている。

ゆえに、強い。彼らを讃える歴史が彼らを強化するように。

彼らはいつ如何なる時代に召喚されても、彼らの偉業が霞むことはない。

 

「征服王(イスカンダル)みたいなことを言いよるな、汝は。

だが、然り。王とは強き者の代名詞。王権神授を認めぬわしでもそれは認めよう。

そして、ここからはわしの推測だが。

もしそうであるならば、前回の大戦の勝者は、

実際はどうであれ、あらかじめ決まっていたのではないか?」

 

確かに。元々は7騎で行う予定だった聖(・)杯(・)戦(・)争(・)だ。

大した触媒も用意されず、"黒"の陣営にはポンコツ騎士や詩人や人造人間など、

およそ戦闘向きとは思えない英霊ばかりが集ったと言うじゃないか。

もし"大戦"が"戦争"のままだったら、間違いなくヴラドが勝利していただろう。

 

実際、"大戦"となってもなお、ヴラドの力は圧倒的だった。

もちろん彼が最大の知名度補正を発揮できる戦場だったからだが、

それは彼が普通の英雄ではなく、王だったからに他ならない。

彼は"赤"側の神話の英雄相手にも、一歩も引けを取らなかったと言う。

知名度補正のないこの大陸でも、彼はメフメトの軍勢を蹴散らすだけの力があった。

 

"王"とは、それだけ強大な存在なのだ。

 

「だんだんわかってきたようじゃな。

そんな"王"が7騎も揃い、奴(・)の目論見通り争っていたらどうなると思う?」

 

実際にはそうならないよう私たちが介入したのだから、想像するしかないが。

規格外の力のぶつかり合いにただ畏怖し、観測などとてもできなかっただろう。

 

だが、私が介入する以前より戦わないことを決めてた者はいた。

シャルルを含む王も、啄木を始めそれ以外のサーヴァントたちもだ。

……なぜだ?

 

「そこが奴(・)の甘さよ。

サーヴァントはチェスの駒ではない。ヒトはそう思った通りには動いてくれぬ」

 

それとこの事態と、どんな関係が?

 

「それを説明するためにも。別の視点から実践的な問いを投げるとしよう。

以前、汝はわしがどうやってここまで移動するつもりか聞いたことがあったな。

その答えは、こうじゃ」

 

ディオゲネスがどこからかランプのようなものを取り出す。

それが目に入った瞬間、私の意識は何度目かの暗転をしていった。




次話投稿予定:13日6時

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11/14
フリーダの銃の矛盾に気付いたので修正
預かっていた対象をフリーダの仲間→ディオゲネスに変更

3章来るかな…!
来なかった…!
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