Fate/Apocrypha Revival in the Interstice   作:梨央

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第18節c 地へと駆ける

「あああーっ!くそっ!」

 

機動聖都。皇帝(スルタン)の部屋。

俺は暇つぶしに続けていた、加工中の宝石のピアスを放り投げる。

七組目だ。こんなに作ってどうする。口説く女もいないのに。

 

始皇帝の改造した昇降装置で、マダガスカルから本隊に追い着いたのが一時間前。

気絶したフリーダを、スガたちが雷帝の書庫に連れていったのが二時間前。

かなりの時間が経った。一体ライダーと何を話しているのか、気になって仕方がない。

 

"白"のライダーは、自分の要求した"青"のバーサーカーを見るとひどく驚いていたらしい。

自分で呼び出しておいて驚くとは、どう言うことだ。

終わったら知らせるから、適当に時間を潰していろとフリーダ以外は締め出されたそうだ。

 

スガにはもう会ったが、とても別れて以降の話を聞けそうな様子ではなかった。

代わりと言ったら何だが、バーサーカーの面を拝みにいくとするか。

 

俺は外からそーっと、聖都庭園の様子を眺める。

俺の猫が、一際デカい狼の近くに寝転んでじゃれている。狼は目を細めて猫を眺めている。

イヴァンの黒犬たちもフェンリルの側で待機中だ。

まさか"犬"の英霊って、あいつのことなのか。完全に庭園のボス気取りじゃないか。

 

『なんだ、人間。ここは我の領域。用がないなら疾く失せよ』

 

狼が俺に向かって何か言った気がする。確実に歓迎の雰囲気でないことはわかる。

 

『ふん。やはり貴様もか。結局、我の言葉を解するのが老いぼれと狂った娘だけとはな』

 

皇帝特権は万能ではない。よって、生前に全く素養のないスキルは取得できない。

ハトゥン先生に動物会話の術も習っておくべきだったか。

いや、いくらあの爺さんでもそんなことはできなかっただろうな……。

 

庭園を後にして、あてもなく聖都の回廊を歩く。

――トプカプ宮殿(サライ・ジェディード)を思い出すな。

色んな国の人間がいて、色んな国の言語が飛び交い、色んな国の文化を教えてくれる。

まあ、今のここは成り行きでそうなってるだけで。

基本的にはこの城を作った大帝の意匠なんだろうが……。

 

広間で、始皇帝がスガにお茶を用意させている。

何か話しかけているようだが、聞き取れない。

俺も混ざろうかと思ったが、やめた。

敵が急に味方になるなど、よくあることだ。

だから奴を信用していない訳じゃない。それでもあいつはロイを……。

 

そうだ、ロイの部屋。この城はとにかく部屋が多い。

退去したサーヴァントの部屋もわざわざ残しているほどだ。

彼女が持ち込んだ物は少ないだろうが、

戦況を有利にする戦利品や、遺品の類があれば回収しておくべきだろう。

城主サマ代理の大局的判断ってヤツだ。俺が今そう決めた。

 

――驚くほど、物がなかった。机の上に分厚い本が一冊あっただけだ。

あいつも一応、女の子のはずなんだが。

別にそういうのを期待していたわけじゃないが、拍子抜けだ。

 

本の中身は普通の史書のようだが、こちらは重要ではなかった。

ぱらぱらとめくってみると、いくつもの押し花が出てきた。

悪くない趣味だ。俺も花は好きだからな。バラとか。

彼女の故国の花、例えばハス以外にも、この地で摘んだと思しき花もあった。

デイジー、プロテア、ショウブ、エリカ……おっ、ユリもあるな。

 

これがロイがこの地に召喚された証、か。

黄色のデイジーの挟まれたページには、無骨な象牙飾りと豪華なしおりもついていた。

しおりには何かが漢字で書かれていて、読めはしないが意味はわかる。

 

"歴史は勝者のもの"

 

――そうだな。確かに、そうかもしれねえ。

これが本来の聖杯大戦なら、こんな風に陣営の仲間と語らうことも……。

 

俺はおもむろに、スガに押し付けられた貝を取り出す。

フリーダが持っていたものだ。銃と一緒に取り上げたスガにはこれも武器に見えたらしい。

書庫でライダーに銃を預けるまで気付かなったほどだ。狂ったフリーダはよほど怖かったんだろう。

これは夜行貝だ。確かに薄く研げば刃物の代わりにはなるだろうが、武器としては弱すぎる。

 

象牙と、貝か。こいつは良い組み合わせかもしれねえな。

俺は自室に戻り、城主サマの帰還を待つ間に、ちょっとした贈り物を作り上げる。

フリーダは、女としては全く好みじゃねえ。見た目が十年経っても評価は変わらないだろう。

どっちかって言うと、庇護対象か、守るべき民草か……。

 

仕上げにかかった頃、獣の遠吠えを聞いた。

バーサーカーだ。そう言えばあいつの真名、なんだったっけ。

……鳴き止まない。どうやら、フリーダのしつけの問題ではなさそうだ。

 

庭園にはいなかった。なら広間か。

イヴァンと始皇帝……政が、バーサーカーを前に何やら話し合っている。

おろおろしていたスガが、俺を見つけて駆け寄ってくる。

 

「ああ、メフメト陛下。ご覧の通り先程からフェンリル殿のご様子が……」

 

フェンリルって言うのか、こいつ。その名は確か、ノルドの獣だったか。

狼は時折遠吠えをあげながら、低い声で唸っている。

こちらに対する敵意ではなさそうだが、強い警戒心を露わにしている。

 

『ええぃ!貴様ら、それでも国を戴く皇帝か!

奴だ、我を縛った()の気配だ!なぜ事態を理解できぬ!

何か良からぬことが起きようとしている。貴様らが動かぬなら、我が……!』

 

フェンリルは何かを思いついたかのように、ワンと一言鳴いた。

イヴァンの黒犬の一匹と、俺の猫が広間に入ってくる。

こいつ、いつの間に俺たちの使い魔を手懐けやがって――

 

"これなら通じるか、人間ども。そこな雷帝の書庫に危機が迫っている。

我は約定を果たすため、哀れな娘の救援に行く。手伝う気があるなら我に続け"

 

フェンリルはテーブルを一息に飛び越えて、猛然と外へ駆けて行った。

()()だと?まさか、もう一人のランサーの襲撃か?

 

「……余の杖、余の書庫の危機とは、すなわち余の危機に等しいな。

いかなる賊が相手でも、恐れはせぬ。我らも出陣だ、スルタン」

「副官はそなただと聞いている。太祖の代わりだ。朕はそなたの指示に従おう」

「行きましょう、陛下!ライダーはともかく、今のフリーダ様では危険です!」

 

そうだな。誰が相手でも、迷っている暇はない。

せっかくフリーダがまとめてくれたのに、ここで何かあったらまた殺し合いに逆戻りだ。

いや、聖杯大戦としてはそれで正しいんだろうし、今の状態は間違っているんだろうが。

 

「よし、四人なら一基でも乗れるな。

ちょうど政の改造した装置があるから、すぐに追い着ける。皆で乗り込むぞ!」

 

それでも、この状況が変わるのは嫌だ。

ヴラドの野郎に言われたからでも、フリーダの用心棒を買って出たからでもない。

()()()()()()()()()()。なら俺らは勝利して、歴史を作らなければならない。

 

進入口から見下ろす。だだっ広い平原に、一際目立つ大木があった。

あれの地下に、イヴァンの書庫があるのか。

にわかには信じがたいが、今重要なのはそこではないな。

 

フェンリルの姿は……見えない。

まさか、飛び降りたのか。この高さを。獣って(すげ)え。

 

こちらの戦力は十分のはずだ。

フリーダと"白"のライダーを除いても、都合5騎のサーヴァントが揃っている。

得体の知れないランサーが相手でも、普通なら戦えると思う。

 

だが、なぜだ。妙に嫌な予感がする。

くそっ、あのポンコツ兵器の爆発を受けてからどうも調子が狂う。

ダメージが残ってるわけではないのに。

 

俺は曲がりなりにもフリーダに別動隊を任された副将だ。

知名度補正がなくても、新兵(イェニチェリ)を呼ばなくても。

俺は歴史に名だたるスルタンだ。そのはずなのに。

 

どうして俺の心はざわつくんだ。

一体何者が、フェンリルに警戒を促すほどの脅威を発せられると言うのだ。

 

もう大木は目の前だ。さすがに近くに待機していただけあってすぐに着いた。

早くフリーダたちを保護しなければ、手遅れになる。そんな気がした。




次話投稿予定:14日6時

11/14 フリーダの銃に関する矛盾を修正
スガがフリーダを眠らせた後、スガ視点で武器になりそうなものは回収
書庫でディオゲネスに銃は預けるが、
貝は武器じゃないと気付いて渡さなかったと言うことにします
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