Fate/Apocrypha Revival in the Interstice   作:梨央

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第20節 黒蝶の帰還

「言ったはずだよなぁ?爺さん。あんたは黙って見てるだけでいいって。

それなのにさぁ、若い女のサーヴァント連れ込んで、何様のつもり?」

 

腕を引き抜き、支えを失ったディオゲネスが地面に倒れ伏す。

青年……プラトンは私の方を見もしないで、続けた。

 

「こっちはただでさえ思い通りにいかなくてイラついてるってのにさぁ。

"王"どもは戦わないし。"敵"もバカばっかり。頼みの綱のランサーは優雅に沐浴中と来た!

そ(・)ん(・)な(・)に(・)世(・)界(・)が(・)滅(・)ぼ(・)さ(・)れ(・)る(・)の(・)を(・)見(・)た(・)い(・)の(・)か(・)ね(・)ぇ(・)?(・)」

 

――狂ってる。

私に言われたくはないだろうが、バーサーカー的な意味ではなく。

魂レベルで狂っている。何をどうすれば、大哲学者が、ああも成り果てるのだ。

 

ディオゲネスを助けたいが、下手なことをすれば私も殺されるだろう。

手元に銃があるのに、彼へ向けることができない。

プラトンは何か愚痴りながらディオゲネスを蹴り続け、

蹴られているディオゲネスは、息も絶え絶えにプラトンに話しかける。

 

「わしの方こそ、言ったはずじゃぞ。汝の役目は、既に果たされていると。

本当は、理解しているのだろう?なぜ、"大戦"にこだわる……?」

「なぜ、だって?」

 

青年は血まみれの両腕を振り上げ、叫ぶ。

 

「決まってる!僕の役目は、まだ終わってなんかいないからだ!

時間もないのに、どうしてあんたは、いつも僕の邪魔ばっかりするんだ、よ!」

 

プラトンが一際強く蹴りを入れ、ディオゲネスが呻き声を漏らす。

もう見ていられず、思わず彼を庇うため間に入ろうと駆け寄る。

 

「何だ、アテナイの学堂でもない、"王"でもない余り物が。どけ」

 

腹を殴られる。物凄い力で吹き飛ばされて、背後の書架に激突する。ばらばらと本が落ちる。

どこかの骨が折れた気がする。立とうとしたが立てず、よろけて棚に寄り掛かる。

猛烈な痛みが体中に広がる。一発食らっただけで、こんなに……。

 

こいつ。英霊に見た目の年齢は関係ないとは言え、女性の腹をグーで、ぐっ、ごほっ。

――血だ。軽口を叩く余裕もない。もう一発食らえば、望み通り"座"に帰れそうだ。

 

「はっ。その娘こそ、貴様の計算外のイレギュラーのサーヴァントだと言うに。

女子相手にいきなり拳とは、ずいぶんな歓迎じゃのう」

「あぁ、こいつがそうだったのか。なら、爺さんと一緒にここで殺しておくかね」

 

プラトンがポキポキと首を鳴らしながら私の方へ歩いてくる。

ディオゲネスめ、せっかく助けようとしたのに、余計なことを。

 

……このままじゃ、本当に殺される。

恐怖に耐えて、ホルダーに手を伸ばしたところで、爆音と共に天井が破られる。

 

書庫の入口って、あんな所にあったんだ。

スガには眠らされたまま連れてこられたので、気付かなかった。

飛び込み、着地し、プラトンの腕に噛みつこうとしたフェンリルが、

プラトンに蹴飛ばされて私の近くに吹き飛んでくる。

 

「バーサーカー、私を、助けに来てくれたのですか?」

『うるさい黙れ。貴様はそこで気絶でもしていろ。奴は、我が殺す』

 

穴の開いた天井から、次々と仲間たちが入ってくる。

スガ。メフメト。イヴァン。残る一人は、知らない顔だ。

つまり彼が、"青"のライダー……。

 

「おや、役立たずで愉快な"王"とその侍従の皆々様、ついにお揃いのようで?」

 

複数の英霊に囲まれたと言うのに、何が面白いのか、プラトンは笑っている。

 

「どこの英霊かは存じませんが、多勢に無勢ですよ。フリーダ様から離れなさい」

 

スガが黒鍵を構えて、今にも投擲しようとしている。

 

「暗殺者もどきに用は無い。お前の方こそ失せろ」

 

プラトンが指を鳴らすと、風の刃がスガを吹き飛ばす。

私の見えないところで、スガの悲鳴と、別の書架が崩れる音がした。

 

「てめぇ!本当に殺されたいようだな!」

「余の書庫を荒らすだけでは飽き足らぬか、汚物めが」

 

メフメトとイヴァンがプラトンに殺気を向けている。

もう一人のライダーも無言で弓を引き絞っている。

 

「わーお。血気盛んなのはいいことだ。

だけどさぁ、聖杯大戦の本分を忘れてもらっちゃ、困るなぁ?」

 

プラトンが布をめくり肩を見せると、いくつもの赤い紋様が見えた。

――あれは、令呪?

 

「ルーラー、プラトンの名において、

この領域に集った全サーヴァントに二画の令呪を重ねて命じる!

そ(・)の(・)場(・)に(・)跪(・)け(・)!(・)そして、白(・)の(・)ラ(・)ン(・)サ(・)ー(・)を(・)打(・)倒(・)せ(・)よ(・)!(・)」

 

メフメトたちが一斉に膝を衝く。フェンリルでさえも唸り声をあげ、抗おうとしている。

私には、何も起こらない。なぜかはわからないが、チャンスだ、今なら彼を――

 

「あっはははは!いいねぇ!"王"をも黙らせる!やっぱり令呪は最高だ!

イレギュラーだっけ?お前を殺すのはやめだ。爺さんの代わりにお前が見届けろ。

さぁ、聖杯大戦を続けようじゃないか!兵器や狼じゃ話にならなかったが、今度は別だ。

本(・)物(・)の(・)バ(・)ケ(・)モ(・)ノ(・)を用意してやった。情けない王ども、名誉を回復するチャンスだと思え?」

 

不愉快な笑い声をあげながら、

プラトンは動けないメフメトたちの前を悠々と通って書庫の外へ出て行く。

 

「待ちやがれ!く……そ……」

「貴様……朕に令呪を……使ったな……」

 

スガは無事だろうか。ここからでは見えない。無事だと信じよう。

ディオゲネスは肩で息をしている。さすが老害、しぶとい。

イヴァンは……彼も令呪に抗おうとしている。目に力を入れて踏ん張っているのがわかる。

 

これだけの強制力とは。いずれにしても、すぐに動けるのは私しかいないようだ。

ルーラーを追いかけて、私は外へ出る。眩しい。草原の強い日差しに思わず目が眩む。

辺りを見回すが、もうプラトンの姿はどこにもなかった。

 

代わりに、見知った顔を見つけた。

白の司教冠(ミトラ)と司祭服(ストラ)。橙色の長く美しい髪。私が一番頼りにしていたキャスター。

――レオ。

 

レオはけたけたと笑い、杖をこちらに向けた。

炎の光弾が飛んでくる。目に光がない。服もボロボロだ。

わかってた。もうレオはいない。これはシャドウサーヴァントと言うやつだろう。

 

単調な攻撃を避けて、レオの紛い物の頭を撃ち抜く。

そいつは血も出さずに、さらさらと紫色の塵になって消えていった。

ああ、地獄はまだ終わっていなかったのだ。

 

何十、何百もの人影が草原の向こうからこちらに歩いてくるのが見えた。

知っている顔もあるが、知らない顔の方が多い。

戦車に乗っている者や、空を飛んでいる者もいる。

これが、ランサーの軍勢か。悪趣味だ。悪趣味にすぎる。

 

気付いたときには。アオザイと三度笠の少女。ロイの紛い物が、私に剣を振り上げていた。

……もう無理だ。こんなの、私にはどうしようもない。諦めよう。

何もなせなくてもいいと、シオンだって言っていたではないか。私はもう十分に働いた。

 

 

 

 

 

杭が、ロイの紛い物を刺し砕く。

 

 

 

 

 

つくづく、私は仲間に恵まれているようだ。

弱気な考えを振り払い、目に見える範囲の紛い物を撃ち殺す。

急いで書庫に駆け戻って、仲間を起こして回った。

 

「なんだ……ありゃ……。あんなの、アリかよ……」

「アナスタシア……アナスタシアではないか……!」

「おい待て!イヴァン!」

 

無限とも思える軍勢に囲まれ、声も出ない仲間たち。

メフメトの制止も聞かずに、イヴァンが白髪の少女の下に歩いて行こうとする。

私はイヴァンを氷漬けにしようとしているサーヴァントを撃った。

 

「余は……余は一体……これは……」

「お気を確かに持ってください!敵のランサーは、我々の精神にも干渉できるようです」

 

それでも。観(・)測(・)は続行だ。行動目標は何も変わっちゃいない。

"白"のバーサーカーは排除した。"白"のライダーの助言も受けた。

ルーラーの言いなりになるのは癪だが、次は"白"のランサーだ。

 

「それでこそ超人(ユーバーメンシュ)。

いや、絹の国(セリカン)の王の前では真(・)人(・)と言った方が良いか?

本当は誰よりも怖いくせに、皆を導くために勇気と知恵を振り絞らんとする。

ヒトの身には、いや汝(・)の(・)身(・)に(・)は(・)いささか重い業だが、それでもわしは汝を讃えよう」

 

"青"のライダー、始皇帝も私を見ている。

喋らなくていい。犬みたいに生き汚い変態め。もう黙って休め。

ディオゲネスは私の手に先程の三冊の本を押し付け、割れた樽に話しかける。

 

「アピロ、オフィスや。今一度力を貸してくれ。

――さて、この辺りの敵はわしが引き受けよう。

敵の軍勢はシャドウサーヴァントではない。あれは英(・)霊(・)兵(・)だ。

今は使えんようだが、そのうち宝具を使えるようになる。そうなる前に本体を叩け。

場所は教えたな?ヴィクトリア湖はそう遠くない、汝の城ならすぐに追い着けよう。

では、後は頼んだぞ、ゲルマニアの賢者よ」

 

宝具任せか。なるほど、自身が負傷した今は正しい選択だろう。

 

「請け負いました。樽の賢者よ、ご武運を。

……あなたに会えて、よかったです」

 

これだけの敵数だ。誰かが囮になって時間を稼がなければならない。

断腸の思いで、私は昇降装置を呼び寄せる。

城へと上昇する途中。接近してくる英霊兵を撃ち落としながら。

草原で二頭の竜が敵を焼いていく姿を、少なくなってしまった仲間と見つめていた。

 

 

 

 

 

***

フリーダ記録。

数時間後。樽の賢者は、新たな敵を後進に示して退去した。

私はこれを、"白"のサーヴァント五人目の脱落と定義する。




間が空きました

次話投稿予定:17日18時
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