Fate/Apocrypha Revival in the Interstice   作:梨央

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第21節? 偶像の黄昏

「"怪物と闘う者は、その過程で自らが怪物と化さぬよう心せねばならない。

お前が長く深淵を覗くならば、深淵もまた等しくお前を覗き返すのだ"」

 

誰かが、私の本を朗読している。『善悪の彼岸』の一節だ。

私は……そうだ、短時間休息を取ろうと、ベッドに横になったんだった。

 

そこで初めて、空間の異常に気付く。こ(・)こ(・)は(・)私(・)の(・)部(・)屋(・)じ(・)ゃ(・)な(・)い(・)。

雷帝の書庫とは違う、宮殿図書館のような神秘的な場所。

煌びやかな天窓に、広々とした閲覧台。無数の書架。

 

「あら、城主サマもようやくお目覚め?

いるのよねぇ。ちょっとだけ寝ようって言って、そのまま朝まで寝ちゃう人」

 

そんな……!まさか。レ(・)オ(・)だ(・)。しかも英霊兵じゃない。本物だ。

レオだけじゃない。さっき私の本を読み上げていたのはディオゲネスだし、

近くの椅子に腰かけて分厚い史書を読みふけっているのはロイだ。

退去したはずのサーヴァントたち。これは、一体……?

 

「そうさな。その質問に答えるのは、わしでもいささか難しい。

ゲルマニアの賢者よ、こう言えば理解できるかの?ここは、汝(・)の(・)夢(・)の(・)中(・)だ(・)」

 

ここは、私の夢……?

 

「応とも。そしてわしらは、汝がこの旅で出会ったわしら本人ではない。

わしらの姿をしているが、汝の無意識によって定義された水(・)先(・)案(・)内(・)人(・)のようなものだ。

ゆえに汝が知らぬことはわしらも知らぬし、逆も然りと言えるわけじゃな。

今はそのように思っておればよい」

 

夢(・)か……。まあ、そういうこともあるのかもしれないな。

実際このところ、辛いことが起きすぎた。休息の中で、このような幻覚を見ることも……。

 

「さて、刹那の一時とは言え、こうして出会えたのも何かの縁だ。

言い残したこと、聞き残したことがあればこの間に済ませようぞ。

誰からにする?美しい娘たちよ」

 

ディオゲネスが、レオとロイの二人を見遣る。

 

「そうね。じゃあ城主サマが一(・)番(・)気(・)に(・)し(・)て(・)そ(・)う(・)な(・)私から言うわ」

 

教皇が口を開く。レオは、もしかして……。

 

「別れは済ませたつもりだったけど。フリーダは優しすぎるのよねぇ。

自分でも言ってたはずよ。私たちは既に死を経験している。

サーヴァントは人間じゃない。現世に少し顔を出しただけの霊魂。いつか消える定めだって。

なのに、どうしてそんなに悲しむの?」

 

それは、レオが私にとって、大切な仲間だったから……。

 

「私も同じよ、フリーダ。だから、あなたにはあの場で折れてほしくなかった。

そのためなら、シャルル(カロリス)みたいに自分を投げ出すのも怖くなかったの。

そこのおじいさんが言うように、私たちはあなたの中にいる幻影よ。本人じゃない。

だからあなたが期待してることしか言えない。でもあえて、こう言うわ。

私の可愛いマスター(イレギュラー)さん。どうか最後まで、諦めないでね」

 

レオが、天使のように微笑む。

ぱたりと本を閉じたロイが、私に話しかけてくる。

 

「では私も。フリーダ、あなたはこの城の主として十分に役目を果たしています。

生前の振る舞いがどうであれ、今のあなたは立派な英霊(にんげん)だ。

"王"をまとめるのにふさわしい器を持っている。

私はあなたの騎士としてバーサーカーを倒し、最後は私の意思でライダーにも挑みました。

軽率な行動だったかもしれませんが、後悔はしていません。

いえ、最後まであなたに仕えられなかったのは、申し訳ないですが……」

 

ロイらしいな。負けず嫌いで、素直じゃなくて、それでいてどこか……。

 

「ええと、とにかくです。軍の頭なら自分にもっと自信を持ちなさい、フリーダ。

そして敵を決して侮らないように。ランサーだけが敵ではないのでしょう。

そもそも敵とは何なのか、あなたの役割が終わるまで気を抜かずに。

直接の助力は叶わなくとも、私はあなたの役割が果たされることを祈っています」

 

クカカカと笑い、ディオゲネスも続けた。

 

「ずいぶん仲間に愛されているな、汝は。

だが、大事なことだからもう一度言っておくぞ。わしらはわしら本人ではない。

どんな言葉をかけられようと、所詮は気休めでしかないのを忘れるな。

つまりこれは汝による、汝自身に対する問いかけとも言える。

そして、汝がわしの姿を借りて問うのは書庫での第(・)二(・)の(・)問(・)い(・)だ。

さて、黒蝶の賢者よ。あのときわしが何を問うたのか覚えているか?」

 

第二の問い……。

そこで私は銃を渡されて、私と所縁のある女性たちと向き合った。

その中で誰に復讐したいのかを聞かれ、選べず、自分自身を殺そうとした……。

 

「そうとも。わしが問うたのは汝の忘(・)却(・)補(・)正(・)よ。

汝は真名とクラスを取り戻し、復讐者(アヴェンジャー)・ニーチェと名乗った。

アヴェンジャー。裁定者たるルーラーの対極に位置するエクストラクラス。

通常の聖杯戦争であれば、奴(・)のカウンターとしてはこれ以上無い適役なのじゃろうが。

汝は真名だけでなく、己のクラスも覚えていなかった。わしにはこれが解せん」

 

何度でも言うが、これはわしではなく汝自身の中にある疑問じゃぞ、と重ねた。

 

「アヴェンジャーには忘却補正がある。

その名が示す通り、復讐する対象を決して忘れないためのク(・)ラ(・)ス(・)ス(・)キ(・)ル(・)じゃ。

多少記憶を操作されようと、憎悪の対象を忘れることなど普通はあり得ぬ。

だが、最初に世界そのものを憎んでいると言ってみせたり、

ならばと、汝が恨んでいそうな人間を集めて問うたときも、汝は選べなかった。

言動と行動がまったく一貫しておらん。なぜじゃ?」

 

確かに私は、シオンによって真名やクラスだけでなく武器の詳細すらも隠されて、

ただ大戦の観測と言う役割だけを与えられて送り出されたが。

それは、今重要なことなのだろうか?

 

「そうじゃな。ランサーと言う目前の脅威がある以上、今(・)は(・)さして重要ではない。

だがこれは汝と言う不安定な霊基を確立するためにも、必ず取り戻さなくてはならぬ要素だ。

問いの中で汝は、選べないと銃を投げ捨てるのではなく、汝自身に向けてみせたな。

なあ、小娘よ。汝が復讐したい相手とは、本当は誰なのだ?」

 

ディオゲネスが言いたい続きは、何となくわかる。

彼は私の中にいるのだから。

つまり私の復讐対象は、私(・)自(・)身(・)だと……。

 

「おじいさん。あまりフリーダを追い詰めないであげて。

フリーダは、ああ見えて意外と繊細なのよ。ドレスを着せられただけで真っ赤になるぐらいね」

 

レオが私をからかう。

私の中にいる、偶像に過ぎないはずなのに。

仲間の姿で、仲間の声で語られるだけで、私の心はこんなにも揺さぶられ……。

 

「あなたが寝入ってから、ずいぶんと時間が経ちました。

皆、あなたの帰還を待っています。

そろそろ夢から醒めて歩き出してください。我らが主、フリーダ(ニーチェ)」

 

私は、この先が地獄だとわかっていても戻らないといけないのか。

この穏やかな夢を抜けて……。

 

「いいや?どうしても戻りたくないと言うなら、別にそれでもよかろうて。

汝が望むのなら、そのまま息を止めて自害すればよい。

汝は汝のマスターにも言われたのだからな。

これから向かう先で何もなせなくてもいい、と。

だが、その選択を汝が受け入れられるかは別の話じゃろうなあ」

 

本当に。この老害は。

夢であっても、本人でなくても、私の心を抉って離さない。

 

別れも告げずに、私はレオたちに背を向けて、天井の光へ向けて飛んでいく。

ああ、私にも自由の翼はあったんだ。

飛ぶための回り道をしていただけで……。

 

「それでこそ。それでこそ超人(ユーバーメンシュ)。今こそわしは真に汝を認めよう。

ゲルマニアの賢者。ザーレの哲人。黒蝶の少女よ。

届かぬ理想、叶えられぬ夢だと、誰でもない汝が理解しているのに。

それでも汝は美しい。そして汝の手元には、汝を導く品々がある。

怪物と闘え。深淵に落ちるな。征け、偶像の黄昏(グッツェンデメルング)を越えて」




次話投稿予定:19日18時
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