Fate/Apocrypha Revival in the Interstice 作:梨央
「フリーダ様?フリーダ様!」
起きてください、と私を揺する女性の声がする。
ベッドの傍らにスガがいた。
「うなされていましたが、大丈夫ですか?もうじき夜も明けてしまいますよ。
お休みになる前にフリーダ様に城を上げていただいたので、
夜の間は英霊兵どもも散発的な攻撃に留まり、特に問題はありませんでしたが。
それよりも今後のことを……。あら、フリーダ様、お顔が濡れて……」
スガが、私の頬を拭いてくれる。
やはりあれは、夢だったんだ……。
「私は、大丈夫です。それより、皆さんを集めましょう。
私一人だけ休息に時間をかけてしまったことを謝って、今後の方針を伝えなければなりません」
聖都広間に移動した。間の良いことに、この1時間ほどは攻撃も止んでいる。
書庫での敗走以来、防御装置に任せきりにせず、ずっと誰かが戦ってくれていたので、
こうして全員で集まれるのは久しぶりだ。
「おはようございます、皆さん。何よりも、まずは謝罪をさせてください。
皆さんに戦ってもらってる間に、私だけが長時間休んでしまい、申し訳ありません」
私は立ち上がって、仲間たちに頭を下げる。
「面を上げよ、フリーダ。我らが聞きたいのは汝の懺悔ではない。
休息の時間が終わったと言うことは、次は戦いの時間だ。そうであろう?」
他の仲間たちも頷く。
はい、と私もイヴァンに力強く答える。
「おっしゃる通りです。要件は他でもありません。今回の作戦をお伝えします。
ある程度は事前に伝えた通りではありますが、行動目標の理解は何よりも重要です」
敵の脅威は、大きく分けて三つ。
優先すべき順に、"白"のランサー、"泥"、そして英霊兵。
今回はこれまでとは軍勢の規模が違う。間違いなく総力戦になるだろう。
こちらの全戦力を効率的に投入するためにも、作戦段階を分ける。
まずは、英霊兵の陽動。
と言っても、遮蔽術式はもう使えない。そこで、フェンリルとスガ、私の3騎が囮になる。
幸いにも英霊兵はゾンビのように、私たちサーヴァントを見つけたら一直線に向かってくる。
動きは非常に読みやすい。ある程度引き付けたところを、フェンリルと私の宝具で仕留める。
「あれ。フリーダたちは聖都に残って支援じゃなかったのか?」
「最初はそのつもりでしたが。それでも敵はランサーです。私だって戦います。
軍の指揮官が後方にいては、前線で戦っている皆さんに示しがつかないでしょう」
「そ、そうか。なんか、本物の将校と話してるみたいだぜ。お前も変わったな。
ま、普通の参謀は前線には出ねえけど。聖杯大戦だし、何しろお前は
ふっと笑い、話を続ける。
次に、"泥"越えだ。
最新の無人偵察機による報告によれば、ランサーは非常にゆっくりとした速度ではあるが、
それでも数時間前より確実に湖岸に近付いている。
もちろん泥による陸地の浸食も進んでいるが、今のところはランサーの移動の方が早い。
主力となる王たちは昇降装置に分乗してもらい、最短距離で空からランサーに接近する。
そして、無人偵察機と昇降装置の残基もデコイとして全て投入だ。
囮から零れた英霊兵と、ランサー本体から放たれる攻撃は各自で対処してもらいつつ、
無人の聖都からも自動防御と自立砲撃で最大限の支援を行う。
「……昇降装置は何基残っているのだ?」
「お答えします。ツァーリ、6基です。
その内の1基は啄木が長距離の移動用に改造した大型の物なので、これは囮に使います。
残りの5基にも十分な広さと移動速度があるので、御身の戦闘には支障ないかと思います」
「昇降装置は戦場の移動だけでなく、地上へ降りるための戦馬でもある。
使うのは我ら3騎が乗る分と最低限でよい。1基ずつは確実に残しておけ」
「……御意に」
無人偵察機や昇降装置の新造に魔力は必要ないが、城の資材組み換えのために時間がかかる。
総力戦とは言え、限りある移動・偵察手段の使い所には気を付けろと言うことなのだろう。
私も少し焦っていたかもしれない。ここはツァーリの言う通りにしよう。
最後に、ランサー本体の討伐だ。
始皇帝、ツァーリ、スルタンの宝具を組み合わせて、周囲の"泥"ごと霊核を消し飛ばす。
相手がどんなに巨大な怪物でも、対城級以上の宝具が3種。普通の敵ならオーバーキルだ。
それに……計算に入れたくない要素ではあるが、プラトンの令呪は今も有効だ。
"ランサーの打倒"と言う目的がはっきりしている以上、
通常よりも威力の高い状態で宝具を使えると推測できる。
彼らは皆、単騎でも世界を救える力を持っている大英雄だ。
楽観している訳ではないが、彼らの全力の王威がどれほどなのか楽しみですらある。
「小さき城主よ。敵のランサーの真名はわかったのか?」
「畏れながら始皇帝陛下。実は未だわからないのです。獅子の怪物の伝承は世界中に存在します。キマイラ、ミルメコレオ、グリフォン、セクメト、ウガル、白虎など……。
ですがランサーの風貌は、どの逸話のそれとも一致しません。
そして樽の賢者の言葉と合わせて考えると、あれはランサー本来の姿ではない可能性が高く、
例えランサーの真名がわかったとしても、弱点の把握には繋がらないと判断しました」
「……成程、それも道理である」
他に、確認しておきたいことはありますか、と仲間たちの顔を見る。
特に声を上げる者はいなかった。
「作戦は夜が明けたら決行します。それでは皆さん、戦闘準備を」
英霊たちは各々の持ち場に戻り、広間に残っているのは私だけだ。
ルーラーを除けば、"青"と"白"のサーヴァント14騎はこれで全て明らかになった。
第二次聖杯大戦も、いよいよ大詰めなのかもしれない。
『人間。気が早いかもしれないが、訊ねておきたいことがある』
フェンリルだ。王たちの席には決して近付かず、私の話もずっと広間の入口で聞いていた。
話が終わった途端に姿を見せなくなったと思ったら、戻ってきたのか。
「私に答えられることであれば、なんなりと」
彼は、ただ一度のみ協力を認めると言っていたが。
ディオゲネスに門前払いされた後も、私の危機に駆け付け、今もこうして留まってくれている。
例え種族が違っても、英霊同士手を取り合うことはできるのだと、私は正直嬉しい。
『勘違いするなよ、人間。我に約定を違える気はない。
我を縛った奴に報復するまでは、貴様らといた方が我にとっても都合が良いだけだ。
我は我の理由で、貴様ら英霊どもを利用する。
……まあいい。訊ねたいことは別だ。怪物を倒した後、貴様はどうする?』
それは……。ランサーを倒せば、マスターの意向は一応果たされたことになるが。
シオンも言っていた通り、今回は敵を全て倒せば終わりと言う簡単な話ではない。
ルーラー、プラトンの存在が良い例だった。
そして、大聖杯。
これまで会った英霊たちの話では、カルナックの杯を求め集った"王"は6騎。
そして始皇帝は、実際にカルナック神殿を訪れてその存在を確認している。
つまり大聖杯は世界の裏側などではなく、確かにこの大陸に顕現し、
今も私たちサーヴァントに魔力を供給し続けている。
ランサーを倒したら、もう一度プラトンに会わなければならないだろう。
そして大聖杯を確保するか、破壊するか、そこから先はまだわからないが。
大戦の観測を終わらせるために、
きっとそれが、私の最後の役目だ。
『そうか。貴様も奴に会うのなら、我の協力はそこまでだな。
話は変わるが、人間。貴様は我が愚弟、ヨルムンガンドを知っているか?』
彼の方から話を振ってくるとは、珍しい。
もちろん知っている。ヨルムンガンド。フェンリルの兄弟の怪物。
北欧世界の第二層。巨人領域ヨトゥンヘイムで育てられた大蛇。世界を呑む蛇。
大神オーディンによって脅威とみなされ、フェンリル同様に神々と敵対した。
人間領域ミズガルズをも呑み込み、世界の大洋を一周し、己の頭をくわえて眠りについた。
雷神トールと死闘を繰り広げ、
だがヨルムンガンドも死の間際、トールに毒息を吹き掛け相討ちしたと言う。
まさに神話の終焉にふさわしい戦いだったのだろう。
一哲学者である私には、想像するしかできない世界の終末。
だが、今それは関係あるのだろうか。私たちが対峙しているのは獅子だ。蛇ではない。
『そんなことはわかっている。よく聞け、人間の娘。
英雄とは、確かに只人を超えた力を持つ者を指すのだろう。
そしてそれと対峙する我ら
敵の正体を知らぬままでも対峙すると言ったな。それはいい。将の判断としては正しい。
だがゆめ忘れるな。敵を知らぬまま戦いを挑む危険を、貴様は真には理解していない。
例えばの話だ。敵がもし
ネメアの獅子。ギリシャの大英雄ヘラクレスに与えられた十二の試練の一つ。
人理を否定し、人間の作る武器を無効化する毛皮を持つと言う神獣。
先程は触れなかったが、
『例えばの話だと言った。敵の毛皮は
ネメアの獅子もそんな色をしていると言う逸話を我は知らぬからな。
それに、あれはランサー本来の姿ではないと、貴様が自分で言ったのだぞ?
……ふん。将たる貴様がそれでは、ランサーどころか奴にはとても勝てぬだろうな』
動揺している私に呆れたのか、フェンリルはさっさと出て行ってしまった。
敵の、正体。
ロイに油断するなと言われたのに。私はまた、間違えているのか……?
次話投稿予定:20日18時
一か月じゃ完結しなかった…!